「就活100社落ち、営業成績ビリ」から努力で社内トップに上り詰めた"話ベタ"な女性が手帳に書き続けたこと

2025年2月13日(木)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

トークが苦手な営業マンが成果を出すにはどうすればよいのか。強み発掘コンサルタントの土谷愛さんは「どんなに練習してもスムーズな営業トークは身につかず、自分は“聞くこと”のほうが得意と気づいた。強みを生かした営業スタイルでお客様と信頼関係を築いたことが大きな成果に繋がった」という——。

※本稿は、土谷愛『適職はどこにある? 夢なしOLの「転職・休職・副業・起業」実践ストーリー』(大和出版)の一部を再編集したものです。


■営業ビリからの再スタート


転職1年目、地方の会社へ車で通勤していた毎日から一変し、都心のオフィスビルへぎゅうぎゅうの満員電車に揉まれながら通勤する日々が始まりました。


「よぉし、ここで今度こそ絶対に成果を出して稼いで、20代で奨学金を返し切る!」


そう意気込んで入社したものの……1社目とはまったく違う営業スタイルに、わたしは早々に出鼻をくじかれてしまったのです。


前職は既存客へのルート営業だったので、新たに自社を知ってもらう努力は不要。


すでに取引があるので、ある程度「買ってもらえること」は決まっていて、あとは「例年よりも多く買ってもらえるかどうか」を考えて営業に向かっていました。


ところが2社目では、まったくの新規客への営業がミッションに。


それも、名もなきベンチャー企業のサービスですから、簡単に契約など取れません。


現実は厳しく、またしても成果ゼロ、営業ビリからのスタートとなりました。


それでも理想の未来のため、あきらめるわけにはいかないので、「なんとか自分のこと、自社のことをうまく伝えなければ」と考え、売れている営業の先輩の営業トークを録音。


何百回と聞きまくって頭に叩き込んで商談に出かけてはいくものの、見事なまでに撃沈して返ってくる日々が続きました。


写真=iStock.com/kieferpix
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■商談のロールプレイングを特訓するが……


しかし、ありがたいことに、こんなわたしを助けてくれる仲間がいました。


何件商談に行ってもなかなか売れないわたしの状況を察し、営業部の先輩たちが「商談のロールプレイング特訓」をしてくれることになったのです。


毎朝8時にチームの先輩方が2人ずつ交代で出社してくれて、わたしの商談を見てフィードバックをもらい、改善してまた翌日に活かす……という特訓の日々です。


先輩方への感謝もあり、なんとかして営業トークを身につけて一人前にならなくちゃ! といっそう気合が入りましたが、現実は思い通りにいきませんでした。


「ドアノックして入ってくるときの挨拶がちょっと暗すぎるかな……」
「話し方が淡々としすぎてて、ロボットが話してるみたい。もっと抑揚つけよっか」
「ちょっと話に間がありすぎ。お客さんは忙しいし、時間ばっか気になっちゃうよ」


お気づきでしょうか。まず「商談の内容」以前に「話し方」の指摘の嵐です。


■山積みの課題


先輩方が丁寧にフィードバックをしてくださるものの、1つ気をつけたら他のことが抜け、またそちらに気を取られて別の点が抜け……という状態で、わたしはいっこうにスムーズに話せるようにはなりませんでした。もう情けなくてたまりません。


なかなか進まないので、いったん話し方には目をつぶってもらっても、


「最初に用件を言わないと、こっち(お客側)も話を聞く姿勢がつくれないよ」
「話が長すぎて、なにを言いたいのか全然わからない」
「こちらの質問に対する答えがズレていて、よけい混乱しちゃうかも」
「そもそものサービス説明が間違ってる。商品のこと、覚え直そう」
「相手の反応も待たずに一方的に喋りすぎだから、まずは対話をするのを心がけよう」


こちらも、もはや書ききれないほど課題は山積み。


忙しい先輩方の時間をすでに何十時間も使わせているのに、同じことを何度も指摘させてしまい、まったく成長を見せられない自分に悔しさが募ります。


1つひとつできるようになっていこうね、と言ってくれる優しさに、逆に怒鳴られたほうがまだマシかもしれない……と苦しくなっていきました。


写真=iStock.com/baona
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■「君の強みはこれだよ」と言われた日


そんなある日のこと。


いつものように朝の特訓を終え、肩を落としてデスクに戻ると、隣の席の先輩が声をかけてきました。


先輩は社内一の売れっ子営業マンで、早朝の特訓にもなかなか来られない多忙な人でしたが、その日はたまたま遭遇したのです。


「お疲れ。その顔は、またうまくいかなかったん?」


暗い顔でわたしがうなずくと、わかりやすいな、と先輩はケラケラ笑いました。


そして次の瞬間、こう言ったのです。


「まあ、愛さんはマジで喋るの下手やもんね。ロープレで話し方中心に鍛えても、なかなかうまくならんやろなー。でもさ、愛さんは喋ることより“聞くこと”のほうが得意なんちゃう?俺はそっちの強みを活かせばいいと思うけどなあ」


ん? 先輩はなにを言ってるんだろう……?


脳がフリーズし、困惑した表情を浮かべるわたしを見ながら、先輩は続けます。


「愛さんって、会社でみんなの話を最後まで邪魔せず、真剣に聞いてるイメージなんよね。人の表情とかもじっと見て、気持ちを読み取って動いてるように見える。俺もそういう共感力みたいなものがあったらって思わされる。愛さんは気づいてないかもしれんけど、それはきみの才能やと思うよ」


え……? わたしの……才能?


「話を聞くこと」「共感すること」って、こんなものが……?


ガツンと頭を殴られたような衝撃のあと、目の奥からジワっと涙があふれてきました。


「これがきみの才能だ」なんて言ってもらったのは、生まれて初めてだったからです。


「人よりできないこと」が圧倒的に多くて、ずっと「自分には才能なんてない」と思って生きてきたわたしにも、なにかの長所があるのかもしれない、と一瞬でも思えたことがすごくうれしかった。


「愛さんは喋ることより“聞くこと”のほうが得意なんちゃう?」


さっき先輩がくれたこの言葉の意味を、わたしは頭の中でずっと考えていました。


今はまだ全然信じられないけど、もしも先輩が言うとおり、「聞くこと」がわたしの強みなんだとしたら……、それをやってみろってこと?


■「強みの種」を育てるためにやったこと


わたしは自分の「聞く力」を伸ばすため、いろんなことをやってみました。


そのすべてを記録する「聞く力」特訓手帳を作ったのです。


まず、商談の前には見込み客ごとに「質問リスト」作りを徹底します。


商談が終わったら、1つひとつの質問への反応を忘れないうちに手帳にメモ。


朝起きてから寝る前まで隙あらば手帳を開き、反応が良かった質問はどれか、成約につながった話題はなにか、チェックして復習します。


移動中の電車の中では、スマホで片っ端から誰かのインタビュー記事を読みました。


プロの「聞き手」は一体どんな話の引き出し方をしているんだろう? と気になったからです。


ここで、いい切り口の質問だ! と思えたものは、これも手帳に書き込みます。


そして休日には本屋さん巡り。


書店で「営業」と名のつく本を探し回り、その中で「話の聞き方」に関する項目があれば、むさぼるように読みました。


気になる本は購入して帰り、もちろんいいフレーズは手帳に書き加えます。


と、誰にでもできることしか思いつかなかったけれど、それでも日々考え、調べ、実践していると、少しずつ「話を聞くコツ」のようなものがわかってきます。


たとえば、


・まだ話す気になっていない相手には、まず「話すメリットの提示」をする
・多くを語らない相手には「抽象的な質問」「具体的な質問」を織り交ぜて聞く
・じっくり考えたいタイプの相手には、こちらも焦らず「無言」で待つ
・忙しくて長くは話せない相手なら「これだけは!」の最重要質問だけに絞る
・一度しか会える機会がない相手なら「質問リスト」を事前に送付しておく

など、学んだことを片っ端から全部ためして、その結果をまた手帳にメモする。


これをひたすらに繰り返しました。


写真=iStock.com/sarayut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sarayut

■相手が少しずつ話してくれるようになった


平日も休日も、寝ても覚めても「どうしたら相手の話を引き出せるか」ばかり考えているのは、もちろん楽ではありませんでした。


でも、ふしぎなんですが、すごく楽しかったんですよね。


きっと「自分で自分の強みを育ててる!」的なゲーム感があったんだと思います。


数週間後、ようやく努力が実り始めました。


それまで何度通ってもダメだった方が、少しずつお話ししてくれるようになったんです……!


最初は滞在時間が10分持つか持たないかくらいだったのに、1時間も2時間も話せるようになったことに気づいたときは「わたし、成長した!」と実感できました。


■「聞く営業」の欠点


“聞く営業”スタイルで、どうにか人並みに売れるようになってきたころのこと。


わたしの胸の中に、ある大きな目標が浮かび上がりました。


「一度でいいから営業でMVPを獲ってみたい!」


当時勤めていた会社は、社内表彰が盛んな文化。


3カ月ごとの営業成績でMVPが決まり、まとまったインセンティブがもらえます。


入社以来、ステージに立って表彰されている先輩たちを見るたびに、「もしいつか自分もあの舞台に立てたら、すごく自信がつくんだろうな」と憧れていました。


もちろん「20代で奨学金完済」という目標もあったので、高額インセンティブが強力な魅力を放っていたのは言うまでもありません。


年間でいちばん大きな金額が動く表彰式が、3カ月後に迫ってきました。


幸い、どうにか最低限の売上目標は達成できるようになっていたわたし。


とはいえ、社内にはツワモノだらけ。今のわたしの売上ペースでは、MVP争いにすら食い込めないレベルです。


過去データ的には、普段の1.5倍〜2倍ほどの営業成績を叩き出さなくては……。


こりゃあもう大変な数字です。


わたしのお決まりの営業スタイルは、「聞く力」を活かして見込み客のお悩みを引き出し、自社サービスを使った解決策を提案するというもの。


実はこのやり方、MVPを狙うには大きな欠点が1つありました。


それは、成約までの時間がかかること。


とにかく一人ひとりに時間を割き、じっくり深く話を聞くことで信頼を獲得していたので、短期戦には向かないのです。


まして3カ月で売上を2倍にするなど、無理難題。


かといって、また「話す力」の特訓でリベンジするのも、果たして間に合うか……。


写真=iStock.com/Yutthana Gaetgeaw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yutthana Gaetgeaw

■ふと思いついた勝ち筋


でも、どうにかして「時間がかからない成約」を生まなきゃ勝ち筋はゼロ。


どうしたものかと考えていたとき、ふと、机の上の手帳が目に留まりました。


今までに臨んだ商談のメモがぎっしり記録された、「聞く力」特訓手帳です。


なんとなく手に取ってパラパラと眺めていると、感慨深い思いになります。


数は多くないけど、じっくり話せたからこそ、自分を深く信頼してくれるお客様がこんなにできて、本当にありがたいな。


でも、成約済みのお客様にはもう営業できないし……。ん? 待てよ?


ここで妙案を思いつきました。


これまでのお客様から、新たなお客様を紹介していただくのはどうだろう? と。


というのも、ありがたいことに「じっくり話せたおかげで、深い信頼関係ができたな」と感じるお客様が多かったことが、わたしの唯一の誇りでもありました。


この「紹介いただける関係性」が1つの武器になるかもしれない、と思ったのです。


■5分とかからず成約へ


素性の知れない営業マンとして出会うより、「自分が信頼している人から紹介された営業マン」として出会えたら、よりスムーズに信頼関係が作れるはず。


その出会いが「時間がかからない成約」につながれば、きっとMVPに近づける。


そう考えたわたしは、さっそくこれまでのお客様一人ひとりに連絡します。


「もし身近にお困りの方がいたら、ぜひご紹介いただけませんか?」


そう伝えると、なんとたくさんのお客様が快く紹介をしてくれました。


それも「いいサービスだから」とか「信頼できる営業さんだよ」とのお墨付きまで。


予想通り、紹介経由でお会いした方とは、初回から和やかにお話が進みました。


さすがに驚いたのは、まだ5分と話していないのに、「契約する準備はできているので、さっそく御社のサービスについて聞かせてください」と言われたとき。


いつものように「傾聴」なんてする間もなく、すんなりと売れてしまいました。


中には「今はそんなに課題感はないんだけど、○○さんのご紹介ならお付き合いしますよ」と言ってくださった方もいたほどです。


「紹介の威力って、ものすごいんだな……」


そう体感するとともに、大切な人を紹介してくださったこれまでのお客様に対しても、あらためて感謝の思いがあふれてきました。


写真=iStock.com/hxyume
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxyume

■2倍近くの売上を叩き出しMVPを獲得


3カ月後、わたしはめでたく普段の2倍近くの売上を叩き出し、ついに、ついに念願だったMVPを獲得したのです。



土谷愛『適職はどこにある? 夢なしOLの「転職・休職・副業・起業」実践ストーリー』(大和出版)

お客様にも、社内のみなさんにも、本当にたくさん助けられました。


「もうこの会社で頑張るしかない」と覚悟を決めてもがき続けて2年間。


初めて登った表彰台からは、4年前、就活で100社に落ちて未来に絶望していたころにも、営業ビリになって怒鳴られていたころにも、まったく想像していなかった景色が目の前に広がっていました。


たかが社内表彰で大げさだね、と笑われちゃうかもしれません。


でも、ずっと劣等生として「選ばれない人生」を歩んできたと感じていたわたしにとっては、間違いなくこれが人生で初めての晴れ舞台でした。


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土谷 愛(つちたに・あい)
強み発掘コンサルタント
社会人向け自己分析講座「アドバンテージゲーム」主宰。売上ビリの落ちこぼれ営業時代、ひょんなことから「自分の強み」を見つけて社内1位、最年少管理職に。退職後、「誰にでも輝く強みがある」という信念のもと、自己分析・強みの収益化・SNS発信などをテーマにオンライン講座を続々と開講。自分探しに迷う20〜30代の会社員や主婦が口コミで集まり、総受講者500名超、公式メルマガの読者は累計7000名を突破。著書に『自分だけの強みが遊ぶように見つかる 適職の地図』(かんき出版)など。メディアにも多数出演。
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(強み発掘コンサルタント 土谷 愛)

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