元厚労相が叱る!国は新型インフルの教訓忘れたか

2月15日(土)6時0分 JBpress

1月30日、参議院予算委員会での安倍晋三首相(左)と麻生太郎財務相(写真:つのだよしお/アフロ)

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(舛添 要一:国際政治学者)

 新型肺炎は猛威を振るい続けている。2月14日12時現在で、中国国内の死者1380(+121)人、感染者6万3851(+5090)人となっている。感染者数が急増したのは、簡易臨床診断の結果も含むように変更したからである。

 中国国外では、27の国と地域で、570人が感染している。

 中国以外で最大の感染者を出しているのは、横浜沖に停泊中のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号である。14日17時30分現在で、218人もの乗客と乗務員が感染している。この船に乗り込んだ検疫官1人も感染した。

 日本では、これら以外にチャーター機で武漢から帰国した人たちの中から12人、それ以外の観光客ら23人が感染している。全体で254人である。

 200人もの乗客や乗務員が感染するクルーズ船を揶揄して、海外メデイアは「浮かぶ微生物培養シャーレ(ペトリ皿)」と評して批判している。まだ3500人が船内に残っているが、厚労省は、80歳以上の高齢者で持病のある人などは、14日以降、下船できるようにした。感染拡大と乗客の健康維持という二つの目的を最初から掲げておれば、ここまで対応が遅れることはなかったであろう。


戦力の逐次投入ではウイルスとの戦いに勝てない

 2009年に新型インフルエンザが発生したときに、私は厚労大臣として対応に当たったが、そのときに苦労した経験が、今回の事態に活用されていない。そのときの首相は、今の麻生財務相兼副首相であるが、10年前のことは忘却の彼方ということなのかもしれない。安倍首相は、腹痛で辞職し、政治の表舞台からは退いていた。

 これまでの今回の政府の対応を見ていると、いくつかの点で問題がある。

 第一に、緊急対応策が決まったのが2月13日であることに象徴されるように、とにかく遅すぎるし、一気に大きな網をかけるのではなく小出しである。英語で言えば、“too little, too late”である。戦力を逐次的に投入して敗北した大日本帝国陸軍のようなことを行っていれば、ウイルスとの「戦争」に負けてしまう。

 第二は、政府部内の調整が十分にできていないことである。武漢からチャーター機で日本人を帰国させることを決める前に、2週間、隔離収容できる施設の確保をしておかなければならない。それをせずに、官邸の命令だということで拙速に事を進めたために、ホテルで相部屋などという信じがたい対応をしてしまっている。アメリカ、フランスなど他の先進国でこのような杜撰な対応はない。


新型インフルと闘った教訓はどこへ

 さらに言えば、民間のホテルの好意に甘える前に、各省庁が使用権限を持つ施設が全国にあるはずである。省あって国なしという縦割り行政だ。それを調整するのが内閣総理大臣の役割であるが、全く機能していない。役人は、首相の意向を忖度するのは上手でも、それは自分の出世のためであり、他の省庁など関係ないのである。いわんや、危機管理など念頭にない。

 新型インフルエンザのときも、同様な各省庁のエゴイズムに悩まされた。たとえば、感染拡大の防止には、休校や学級閉鎖が有効なことを厚労大臣が理解していても、学校は文科大臣の領域である。文科大臣がノーと言えば、動けない。

 そこで、私が知恵を働かせたのは、権限を厚労大臣に集中させることであった。それは、官邸の対応があまりにも現場無視だったからである。たとえば、政府の専門家諮問委員会は、メンバーを教授以上の肩書きの者に限るなど官僚的、権威主義的だった。

 そのため、若手の専門家や既存の医療エスタブリッシュメントに反対する者の意見が入ってこない。そこで、セカンドオピニオンを取り入れる必要があると判断して、私は厚労相直属の専門家による検討会(アドバイザリーボード)を設置することにした。現場で戦っている医師や看護師の意見ほど貴重なものはないからである。

 その上で、私は、政府の行動計画を弾力的な運用することにし、新たな基本的対処方針を決めた。その目標は、(1)国民生活や経済への影響を最小限に抑えつつ、感染拡大を防ぐ、(2)基礎疾患を持つ者を守るという2点である。そして、私は、感染症に関わる政策について、厚生労働大臣に権限を集中させることを政府全体で決めさせたのである。

 これで休校、企業の休業、薬・マスクなどの確保、電気・ガス・水道、食料品の確保など、すべて厚労相が指示できるようになったのである。つまり、役所の縄張り争いに邪魔されることなく、厚生労働大臣がリーダーシップを発揮できる態勢にしたのである。

 国内で感染者が拡大していくにつれて、水際対策を縮小し、医療資源を国内の現場に集中させることにした。水際作戦を始めてから、3週間後に、水際第一主義を変更したのである。

 以上のような10年前の具体例がありながら、その教訓が全く活かされていない。政治家に期待できなくても、厚生労働省は組織としてきちんと教訓を蓄積し(institutional memory)、それを活用すべきである。10年前の新型インフルエンザ発生のときに首相だった政治家が副首相として政権に参画していながら、この杜撰な危機管理は残念である。


新型コロナでは政府と自治体の連携が不十分

 第三の問題は、地方政府の意欲や能力を活用していないことであるが、これは中央集権の弊害である。また、民間の知恵と能力を弾き出すことができていないが、これは政府の官尊民卑体質のなせることである。

 新型インフルエンザのときには、厚労大臣の指揮下に運用方針を決め、時間の経過とともに、地域を(1)感染の初期、患者発生が少数であり、感染拡大防止に努めるべき地域と(2)急速な患者数の増加が見られ、重症化の防止に重点を置くべき地域とに分けて対応をすることにした。とくに、(2)の地域の対応を大幅に緩和し、患者急増地域では、学校単位で臨時休校できるようにしたり、一般病院での受診や軽症患者の自宅療養も認めることにしたりしたのである。

 この政策変更には、大阪や神戸からの現地報告が背景にある。この決定を受けて、神戸市と兵庫県は保育所、幼稚園、小中高校の休校・休園措置を解除した。また、大阪府は、「都市機能回復宣言」を行い、一斉休校、イベント自粛などの感染拡大防止措置を解除した。

 今回、各地方自治体と中央政府の連携が十分でないし、前者の自主性を認める措置もとっていない。

 さらに、PCR検査なども最初から民間への委託を最初から考えておけば、もっと迅速に、もっと大量に検査ができたはずである。

 医療については専門性が高いので、一般の人が口を差し挟む余地がない。そのために、厚労省の役人、とりわけ、医系技官や薬系技官が嘘をついても誰も反論できないことになってしまう。医師は厚労省に楯突くと不利を被ることを恐れて正論がはけない。

 私は、東大で医学部の学生を教えていたので、教え子には医者や第一線の研究者がたくさんいる。厚労大臣のときは、その教え子ネットワークを活用して、医系技官たちの嘘や隠蔽や捏造を潰していったのである。

 私のようにこのようなサポート体制を持つ政治家は例外である。マスコミは、信頼できる専門家の力を借りて、正しい情報を国民に提供する義務がある。


いつでも、どこでも、誰でも感染する可能性

 13日になって、新型肺炎で神奈川県の80代の女性が死亡し、その義理の息子の東京都の70代のタクシー運転手、和歌山県の50代の医師、千葉県の20代の男性の感染が明らかになった。これらは、海外渡航歴もなく、誰から感染したかがわからないケースである。つまり、いつでも、どこでも、誰でも感染する状態が生まれたということである。これは新しいフェーズである。

 医師の感染は深刻で、医師が勤務していた病院に受診歴のある70代の男性も感染していることが判明した。

 新型インフルエンザのときも全く同じ流れであったが、このフェーズになると、水際対策があまり意味を持たなくなってくる。今後、爆発的に感染者が増える可能性がある。政府は、これまでの方針を改め、新型コロナウイルスと戦う本格的な体制を整えねばならない。首相のくだらないヤジで国会を空転させる暇などないはずである。

筆者:舛添 要一

JBpress

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