“医療崩壊”が炙り出した日本の医療制度大問題

2月15日(月)6時0分 JBpress

 新型コロナウイルス感染症の第3波で感染者が急増し、2021年1月7日には11都府県に緊急事態宣言が発出され、現在(2月11日)も10都府県に出されたままである。

 日本の何十倍も多くの感染者や死者を出している米国やインド、ブラジル、その他のどの国でも医療崩壊は聞かれない。

 医療資源が世界一と言われ、感染者や死者も人口比では著しく少ない日本においてだけ「医療崩壊」の危機がなぜ起きるのか不思議であった。

 その回答がようやく医師や医療に詳しい評論家などから指摘され始めた。

 以下、主として評論家・八幡和郎氏「医療崩壊するのは医者がダメだから」、医師・元厚労省技官・木村盛世氏「厚労省と日本医師会の無為無策が危機作った」(以上『正論』令和3年3月号所収)、小西美術工藝社社長・デービッド・アトキンソン氏「コロナ感染者を見捨てる 日本医師会とご都合主義者たち」、文藝評論家・社団法人日本平和学研究所理事長・小川榮太郎氏「東京都医師会会長尾崎治夫の恐るべき『破壊洗脳活動』」(以上『Hanada』2021年3月号所収)を参照して論述する。


日本医師会会長らの言動と責務

 戦後日本の医療制度は、非常時対応ではなく団塊世代が平穏に高齢化を迎えるように、民間病院をなるべく多くするようにしてきたといわれる。

 したがって、今次のコロナ対処においては、政府などが強権力を発揮できない分、民間病院の医師を主な会員とする日本医師会や東京都医師会などの協力に依存するほかない。

 日本においては、首相や知事などが指示や命令を出せる公的病院は約20%でしかない。約80%の民間病院の協力を得るには、これを開設・経営する開業医を主体とする各レベルの医師会の「協力」が不可欠である。

 開業医の多くが日本医師会、その傘下にある都道府県医師会に加入しており、各会長の意向が協力の要であったが、コロナ感染者がどんどん増大していっても民間病院の多くはコロナ患者に関与する意思を見せなかった。

 日本医師会の中川敏男会長は「コロナ患者を診る医療機関と通常の医療機関が役割分担をした結果だ。民間病院は面として地域医療を支えている」と語り、また、「医療は逼迫しており、医療崩壊の危険性があること、民間病院は新型コロナウイルス以外の疾患で忙しい旨の発言」(木村氏)をして憚らなかった。

 年末が近づくと「コロナウイルスに年末年始はない。静かなクリスマス、サイレントナイトでお願いします」と呼びかけ、「師走が正念場」と語り「年末年始は医療機関も手薄になるので、帰省など自粛してほしい」(八幡氏)とも訴えた。

 中川会長は、公的医療機関の逼迫を少しでも緩和するために、民間病院をいかに活用して貢献するかを会員に訴えるのではなく、政治家然として国民に外出・移動自粛などを訴え続けたのだった。

 1月13日の会見で中川会長が「全国的に医療崩壊はすでに進行している。・・・このまま感染者の増加が続くと、医療崩壊から医療壊滅になってしまう虞れがある」と語ったことに対し、アトキンソン氏は「世界では日本と桁違いの流行が起こっているのに、医療崩壊が起きていない」から首を傾げたという。

 東京都医師会の尾崎治夫会長は2020年3月以降、講演やフェイスブックで「生きていることだけでも幸せと思い、欧米みたいになったら大変だと思い、密集、密閉、密接のところには絶対行かない様、約束してください」と語り、挙句に「オリンピックの中止を真剣に考えたほうがいいのではないか」(小川氏)と、政治家も言えないことまで口にし、都民の反発を買ったと言われる。

 また尾崎会長の、実兄が元連合赤軍のメンバーであったことを「週刊新潮」が報道したことにも関連し、小川氏は過去10か月間の発言を精査し、「状況によってぶれることなく、小池知事への度重なる助言と相俟って、経済活動を大きく破壊し、国民心理を恐怖させる結果を生んできた」と述べ、「何よりも私には、氏の一貫性が恐ろしい。社会の大きな破壊、流動化そのものを狙っているとしか思えないからである」と述べる。

 中川氏や尾崎氏は、それぞれの立場で得られる多くのエビデンスを分析し、国民や都民の感染拡大防止や重症者の治癒に貢献し、併せて世界が注視するオリンピック開催国・都市として、医療面から一刻も早く平穏になるよう、傘下の医師会員に協力を求めることが責務であろう。


暴かれ始めた医師会の実態

 強権力を発揮できない日本の法体系下で、コロナ感染者の治癒に当たる医療関係者が自己犠牲の精神で頑張っていることには敬意以外にない。

 それでもマスコミは「医療崩壊」という言葉で危機的状況にあると報道し続け、医師会長も同様に語る。

 首相や都道府県の首長は強制力でリーダーシップを発揮することができないため、もっぱら「自粛」と「協力」を訴え続ける以外にない。

 国民にとっては外出を控え、企業などでは通勤を減らし、飲食店などを含む接客業では営業時間を短縮するなどが最大の貢献であった。

 他方で、患者に対処する医師の世界では、患者を積極的に受け入れ、医療従事者や受け入れ態勢に不足があれば医療資源の増大や調整による有効活用に注力しなければならなかった。

 しかし、そのように動かなかったのが日本医師会や大都市の医師会であったようだ。

 医療崩壊が叫ばれ始めても、その実態をほとんどの国民は知る由もなく、医師会を批判する声も上がらず、医師会は基本的に動かなかったというのが、いま分かり始めたことである。

 アトキンソン氏は「国難にあって、国民の命にかかわる以上、従わなければ罰金、あるいは医師免許剥奪、最悪、病院の没収など、強制力のある罰則を設けるべきだ」と言い、結果は「日本的な性善説」で弱い勧告・公表となっただけ、「だから国策が決まっても、いつまで経っても現場が変わらない」と投げやる。

 言い過ぎのようにも聞こえるであろうが、父が医師で医療情勢に詳しい評論家・八幡和郎氏や医師で元厚労省技官も務めた木村盛世氏、さらには英国事情や中小企業にも詳しいデービッド・アトキンソン氏、そして自ら研究所を主宰し各種データーを分析批評する小川榮太郎氏の先述の論文、そして以下の論述で明確である。


東京・大阪や旭川が直面した医療崩壊の危機

 東京が医療崩壊の危機に直面したことについては、小池百合子知事が連日テレビのニュースで顔を出し、訴え続ける状況でおなじみになった。

 しかし、第1波の感染拡大が収まった2020年5月から、「感染拡大が減った夏から秋にかけて医療態勢を強化すれば、医療崩壊の閾値はいかようにも変わる」と主張していたのは慈恵医大学の大木隆生教授である(「週刊新潮」2021.1.21号)。

 教授は、都にはICUとHCU(準集中治療管理室)を合わせて2045床あるが、都が手挙げ方式で号令をかけて集めたのは250床でしかなかったし、ベッド数自体も10万6240床あるが、手挙げ方式では4000床でしかなかったという。

 小池知事が一般病床は9割、ICUベッドは5割超が埋まっていると、医療崩壊が迫っているかのように声を張り上げた。しかし、急がない手術予定や人間ドックなどは可能な限り延期し、補助金などを積み上げて重症者で快癒した患者を民間病院が受け入れやすい体制を構築すれば、数字上は一般病床の利用率は3.3%、ICUは6.5%程度でしかなかったことになる。

 大阪市では十三市民病院をコロナ専用にしたら10人の医師が〝敵前逃亡″して辞めてしまった。

 院長は「我々に相談なしに専用病院にされた」「専門分野の経験を積もうと思う若い医者にとってコロナ対応は将来の役に立たないから仕方ない」(八幡氏)と発言している。

 こうしたことも影響しているのであろうか、大阪市でコロナ感染者を受け入れている民間病院は0.6%でしかない(アトキンソン氏)。

 旭川市では旭川医科大学で内紛が起きた。

 重症者以外受け入れないとしていた大学病院であったが、市内の病院でクラスターが発生し、市と主だった病院(基幹病院)の院長が話し合い、クラスター発生病院からの感染者の受け入れを受諾した。

 旭川医大の学長からすれば、下僚の院長が越権したというわけである。

 当時(昨年12月16日時点)、北海道で重傷者用には182床を確保していたが入院者は34人(病床使用率19%)でしかなかった。うち旭川の重症者は15人程度とみられていた。

 旭川は病床数の多い地域で2100床以上がある。旭川市で対応できなくても北海道としては余裕をもって対応できたのではないか。

 しかし、現実には大阪府と北海道は医療崩壊に直面しているとして自衛隊に災害派遣要請をし、医官や看護官らが派遣された。

 任務が多様化した上に充足率不足で有給休暇も十分に消化できず、自殺率も他省庁より高い自衛隊である。八幡氏は「(災害派遣された)自衛隊の看護師さんにとっては、馬鹿にするなという話だ」と述べる。


医師や看護師に使命感はないのか

 コロナ患者に対処している病院と勤務医・看護師たちが十分な休養も取れないくらいに過酷な環境に追い込まれていることは十分に承知している。

 その〝現場″に限れば、人手が足りなかったり、医療器具が足りなかったり、あるいは両方の状態から「助かるべき患者を助けられない」という現実は医療崩壊の危機であろう。

 しかし、病院内において、あるいは同地域内の他の病院においては人手も医療器具も余っていることが分かってきた。医療崩壊という前に、経済を止めないためにも医療資源の活用に努力すべきではなかっただろうか。

 努力というのは中川会長のように民間病院は地域医療に限定するのではなく、非常時であるから民間病院も総動員する態勢構築と同時に、院内においては感染症科外の医師・看護師も感染症医療器具への習熟訓練をして協力することや、病院相互の協力を得る努力、退職看護師などの再活用、地域社会の医療関係者による市民の理解増進などで、民間病院の活用拡大など、いろいろなことが考えられる。

 第1波が終了した時点でも第2波、第3波などが予測されていたわけで、緊急対応できない医療態勢から少しでも対応できる体制にもっていくべきであった。

 欧米などでは強制力を以って行ったが、日本では「強制」が法律的にもないので、報酬かさ上げや使命感・倫理観に依存するしかない。

 発症直後からの民間病院等の対応が鈍かったのは医療倫理を持ち合わせない医師が増えていることにも一因があるようである。

 八幡氏は「ソウルの医者には、週末に保健所でコロナ中心に診察をしてくれと医師会から依頼され、日当2万5000円で大抵の医師は応じている」と韓国から報告が来たという。

 返す刀で、日本では「コロナ対応に従事する現場のお医者さんに1時間1万5000円、8時間なら日当12万円つけるそうだが、テレビである開業医が『そんな金額では行けない』とコメントしていた」と語り、「日本の医者に使命感がない理由は、医者という仕事がほかの知的な仕事に比べておいしくなりすぎて、医学に情熱がない若者が増えるからだ」と断ずる。


医の倫理綱領があるが

 現場に医療崩壊の危機をもたらしている一つには看護師不足があるとされる。

 看護師たちの使命は人の命を救うことであるならば、本来は困難な時だからこそ、使命感を発揮すべきなのではないだろうか。

 八幡氏は「少なくとも第1波から後には、コロナ対応研修を受けたりするべきだったし、専門医の下働き、病院代わりになっているホテルでの常駐など何でもすべきだった。看護師さんが特別手当をもらえ、コロナ現場に回ってもいいと言うなら、無条件に送り出してほしい」ともいう。

 看護師が退職したり、十三病院で見たように医師が逃げたりすることを留められない医師や上司たちは、どんな教育を受け、また部下たちに行ってきたのであろうか。

 12月22日のNHK・ニュースウォッチ9(NW9)によると、全国の病院の看護師の離職が15%、重傷患者指定病院での離職は21%に上るという。

 コロナの影響がもろに出て、自身が感染するのが怖いのと、以前には経験しなかった過重勤務に嫌気がさしての離職という。

 端的に言えば任務放棄である。

 人命を救うという医療の原点を忘れた自我丸出しというほかはない。不満は系統を通じた意見具申などで解消するほかないが、すぐにはなかなか改善されない。

 医療現場ばかりでなく、こうした任務放棄に対しても、「要請」で居残ってもらう以外にない日本である。

 上司の要請に強制力はないし、緊急事態が発令されてもあまり強制力はなかった。今次の法改正で「勧告」ができ、従わない場合は「公表」が可能となったが、どれほどの効果が上がるかは不明という。

 ともあれ、日本医師会は「会員自らがその姿勢を正し、倫理の向上に努められんことを 願っています」として平成12年2月に「会員の倫理向上に関する答申」を行い、同年4月に確定・公表している。

 「医の倫理綱領」の前文には「医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持 もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである」と明記し、6項目の第4には「医師は医療関係者と協力して医療に尽くす」、第6には「医師は医業にあたって営利を目的としない」と謳っている。

 これまでのコロナ対処では、この倫理綱領に照らして如何であったか、しっかり反省が必要であろう。


コロナ患者に真摯に対処する病院と医師

「厚労省や医師会の体たらくをみて動き出した自治体がある」(木村氏)として、杉並区(東京都)の事例を挙げている。

 民間の4基幹病院をいわゆるみなし公的病院として活用してコロナ感染者の受け入れに特化し、感染疑いのある人が他の中小医療機関を受診することを防ぐようにいている。

 調布市(同)医師会でも普段より多くのクリニックを臨時に開けていたことを八幡氏は高く評価している。

 1月28日のNW9は、筆者が在住する八王子市(同)の〝10 daysルール″を詳しく報道した。

 筆者が保健所に確認したところ、ルールが機能し、また市医師会の協力で7つの内科・外科・小児科、1つの産婦人科・眼科が休日の救急診療を行えるようにしていて、医療崩壊などは起きていないということであった。

 市に公的病院は一つもなく、私立の大学病院をはじめとした民間病院ばかりである。

 昨年5月、東京医科大学付属八王子医療センター内の救急救命センター所属医師の呼びかけで、病院、医師会、介護施設、市の担当者約200人が毎週木曜日にWEB会議を開き、コロナについて知識の共有を図り、発症から10日で他への感染リスクが大幅に低減することを理解してもらい、転院先を見つけ、患者を早い段階でリハビリにつなげるようにしたという。

 そこで、10日以上経ち治療も終わり症状が落ち着いている患者は小規模の病院や介護施設などで引き受けてもらい、60人いた患者のうち12月からの1月27日までに15人が転院し、いつでも新規の感染者を受け入れられる態勢をとっている。

 ほかにも地域内で独自のシステムを構築し、いわゆる「自助」や「共助」をやっているところもあるに違いない。ただ、マスコミが入って来ないというだけかもしれないが、そうした努力には敬意を表したい。

 2月2日のNW9では、森田健作千葉県知事が「重症者を一日も早く回復させられるようマンパワーと病床の確保に努め、回復者の転院受け入れを民間の病院にお願いしている」と語った。

「なんで今頃?」という疑問が先だったが、これほど民間病院は「コロナに無関心」できたということでもあろう。

 民間病院は規模が小さい、感染症科がない、病床がないなどもあろうが、「医療崩壊」がずっと叫ばれてきたにもかかわらず、俺達には関係ないと高をくくっていたのだろうか。

 知事の発出効果はてき面で、翌日には多くの協力申し出が来たという。

 2月5日のNW9では、東京都の老人保健施設協会(平川博之会長)が、「医療職のパワーを使って介護職とコラボレーションで支える仕組みを作り、急性期の病院を空けることが大切。地域で身の丈に合った、地域の特性を生かした形で受け皿づくりができればと思っている」と語っている。

 遅きに失することは言うまでもないが、どうして第1波以降の余裕期間に各レベルの医師会が中心に立って動かなかったのか疑問ばかりだ。


終わりに: ワクチン接種で最善を

 医療従事者には、積極的に政府に協力するのが日本の生きる道だと考える人もいれば、この際、崩壊の危機を煽って医療関係者の処遇などの充実を図ろうという政治がらみとしか見られない言動も見られた。

 日本医師会会長や東京都医師会会長らの言動は政治がらみのように思える節が強かった。

 今後はワクチン接種が大きなテーマである。行政の計画を実際面で機能させるためには医療従事者が主体とならなければならないであろう。

 接種後のアフターケアも含め、各レベルの医師会を主体にした医療関係者のさらなる決意と協力を期待したい。

筆者:森 清勇

JBpress

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