大辻雄介の教育のIoT思議 第9回:“モノ化”するスマートデバイス

2月17日(金)6時0分 JBpress

ものすごいスピードで“モノ”のインターネット化が広がっていく時代。すでに完成形として成り立っていたはずのスマートデバイスを新たに“モノ”化する現象が目立ってきました。


IoTの逆を行く? スマートデバイスの“モノ化”

最近、新しいカメラを購入しました。PanasonicのLumixシリーズDMC-CM10という機種です。このカメラの特殊性はOSがAndroidであるということにあります。通信機能として高速LTEを搭載しているので、撮影した写真をSNSにアップロードしたり、クラウドへの保存が可能になっています。Googleアカウントと連動すれば、撮影後自動的にGoogleドライブに写真を保存することも可能です。

写真をご覧いただくとわかる通り、一見「スマートフォン」にしか見えません。筆者もさまざまなアプリをいれており、写真を撮るよりも「SNSにアクセスする」「動画を楽しむ」「地図アプリを見る」などスマートデバイスとしての活用のほうが頻繁です。感覚としてはスマホにLumixというカメラが付いたという印象のほうが強いです。

このインターネットへのアクセシビリティが高いカメラは「カメラにインターネットが付いた」と見るべきでしょうか。それとも「スマートデバイスに(高性能の)カメラが付いた」と見るべきでしょうか。

従来のIoTの意味である「モノにインターネットが付加される」という文脈ではなく、「スマートデバイスがモノ化する」という新たな文脈が表出しているように感じます。ほかに例を挙げればMotoloraが販売を開始したMoto Zという機種があります。

これはスマートフォンであるにもかかわらず、交換式カバー(Moto Mods)を付けることにより、ステレオスピーカーやデジタルカメラ、さらにはプロジェクターに早変わりします。「スマートデバイスのモノ化」がここにも表れています。


普段通りの学習スタイルでデータを抽出する仕組み創出「YOGA BOOK」

「モノのインターネット化」とは逆の流れになる「スマートデバイスのモノ化」は教育分野にも登場しました。LenovoのYOGA BOOKです。

このPCはキーボード部分が完全にフラットで、タイピングをしたいときはその真っ平な面に青くキーボードエリアが浮かび上がります。タイピング時に「押しごたえ」こそないものの、微かにバイブレーションしており、それなりの打刻感はあるように工夫されています。

タイピングには多少の慣れが必要なものの、それを超える大きなメリットがあります。それは付属のボールペンを使えば、フラットな面の上に置いた紙に書いたものが画面に反映されるというものです。

今までもスタイラスの書き味をリアルのペンに近づけるというアプローチはありましたが、ボールペンで書いたものがそのまま反映されるというアプローチはありませんでした。あったとしても専用の紙が必要か、あるいは赤外線位置感知センサーなど別のデバイスが必要でした。PCの上に紙を置きボールペンで書くことができる機能は目新しく、周囲に紹介すると皆驚いています。

この進化は教育分野において大きく2つの意義があります。
1つ目は「小さな文字も書ける」ということです。タブレットPCは指やスタイラスを用いて画面上に文字を書いていくことが可能でしたが、数や式の右肩に書かれる小さな記号である指数など、小さな文字は書くことができず不自由する場面が多くありました。

筆者のように数学を指導する者にとっては「小さな文字が書ける」ということは必須機能のため、これまでは困ることが多かったのですが、YOGA BOOKならボールペンの文字が反映されるので指数もきれいに書くことができます。つまりタブレットPCの対応できる教科を大幅に増やしたということが言えます。

2つ目は「書き込む紙はなんでもよい」ということです。用意したプリントでも書くことが可能なため、今まで利用してきたプリントがそのまま使えます。先生のたくさんの知見や工夫がつまったプリントを何の加工もなく再利用できることはうれしいことです。

また「ボールペンで紙に書く」という行為は学生にとっても普段と変わらない学習スタイルなのでストレスなく学べます。現在のところシャープペンシルや鉛筆での書き込みはませんが、ペン先を取り換えれば可能な構造になっていることも魅力的です(ただしこの場合、紙に書いた文字を消しゴムで消しても画面上のデータ化された文字は消せません)。

高校教員からの評判もよく「生徒同士で解答の添削をすることが可能になる」と新たな活用方法を見出されていました。実物のノートを交換することなく、クラウド上の他の生徒の解答を見ることによって学ぶことは多くあります。自分の解答を振り返ったり、あるいは友達の誤りを指摘してあげることができるようになります。


「中学3年生が1人だけ」を遠隔授業で解消・データ解析で教育を変える

子どもたちというのは大人から誤りを指摘されるよりも友達から教えてもらったほうが、素直に受け入れられることも多くありますし、なにより文科省が今後推進していきたい「主体的な学び」につながります。

教員が一方向的に生徒全員に講義をするのではなく、生徒同士が相互に学びあう環境を実現できるのがクラウド上のノートと言えます。そういった意味でもボールペンで書いたことがクラウドの協調学習アプリというものに残っていくことは非常に重要で、これは「実物ノートの交換」では大きな手間がかかるため実現できなかったことです。

筆者が頻繁に行っている遠隔授業においても有用と考えられます。今までチャットでしか見ることができなかった生徒たちの解答ですが、このPCと市販のアプリを使えば途中式まで見ることが可能になりますし、チャットでは答えづらい長い証明問題の解答も見ることが可能になります。

もちろん遠隔地から添削も可能になりますし、こちらから語り掛ける内容や個別のフィードバックにも深みがでてくるでしょう。遠隔授業というサービスにも生徒の粘着性が高まり、むしろ教室よりも好きであるという生徒が登場してもおかしくありません。

遠隔授業の拡大は離島中山間の教育にも重要です。最近は隠岐だけでなく瀬戸内の離島の実情の話も伺うのですが、中には全校生徒が「中学3年生がひとりだけ」という島もあり、そういった環境にいる学生にとっては「たとえ遠隔であっても同い年の友達と一緒に授業を受けたい」という気持ちがあります。そういった際に、上述の通り「ほかの生徒の内容が見ることができる。フィードバックできる、してもらえる」ということは非常に重要です。

このように教育のIoT化が進めば、より密接な遠隔授業を実現するほかにも、学習データを蓄積していくことで、テストの点数だけでなく生徒が問題に対してどのように答えを導き出したのか、考える過程まで可視化することが可能になります。これにより、教師側に対しては教育改善の必要性がフィードバックされ、生徒側はより個々に合わせた学びが提供されるということが実現していくでしょう。

教育分野という切り口で見ても多くの拡張性があるこのPCは、他分野においてもさまざまなシーンで活躍することが想像されます。「モノのインターネット化」という方向性だけでなく、「スマートデバイスのモノ化」という流れにも今後大いに期待したいですね。

<プロフィール>

大辻雄介

大手進学塾・予備校に勤務したのち、ベネッセコーポレーションでICTを活用した教育の事業開発を担当。日本初の無料インターネット生放送授業を行い、当時最大15,000人が同時に受講した。その後、隠岐にある海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。海士町から離島中山間に遠隔授業を配信しており、リクルート「スタディサプリ」数学講師、ベネッセ「受験算数ウェブ授業」算数講師もつとめる。2016年度、島根県情報化戦略会議委員。

テレビ東京系列「クロスロード」2016年10月8日(土) 出演

【連載】大辻雄介の「教育のIoT思議」


第8回:テクノロジーとリテラシー

第7回:教育のICT活用で浮かび上がる課題とは

第6回:汎用端末か専用端末か

第5回:タンジブルな遠隔授業を。

第4回:電子黒板は黒板のIoTではない。

第3回:電子黒板は黒板のIoTではない。

第2回:つながる教室

第1回:教育の未来はIoTにある。

筆者:大辻 雄介

JBpress

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