「米国人も大学芋が好きなんだ」サンクゼール副社長が飛び込み営業で体得した、無名の企業が泥臭くやるべきこととは
2025年2月10日(月)4時0分 JBpress
日本食ブームが世界で広がる中、米国進出を目指す日本企業は商習慣や規制など多くの課題に直面する。本連載では『日本企業が成功するための米国食農ビジネスのすべて 商流の構築からブランディングまで』(石塚弘記、關優作、田中健太郎著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集。進出に成功した日本企業や参入を支援する企業へのインタビューを中心に、巨大市場攻略のポイントを明らかにする。
今回は、前回に引き続きサンクゼールの副社長・久世直樹氏が、米国市場での新商品開発や販路開拓のコツを詳しく語る。
いまや全売上の9割が米国向け——
自社セールスから始まった市場開拓
「ザ・ジャパニーズ・グルメ・ストア」を掲げるサンクゼール。いまや売上の9割を米国市場が占めます。
飛び込み営業と戦略的なM&A、そして危機下で得られた強い結びつきによって、市場を開拓していった道のりについて聞きました。
■ 顧客セグメントに合わせて戦略を立てる
米国の消費者と言っても、本当に多くの顧客セグメントがあります。
日本であれば、所得水準や性別、年齢などになりますが、米国には多様性溢れる、異なるルーツを持った人たちが世界中から集まっています。
なので、どのセグメントの顧客層にターゲットを定めるのかが重要だと考えています。
私たちは、白人やアジア系などメインストリームの米国人をターゲットに展開をしたいと思っています。当然そうなると、商品の味わい、パッケージデザイン、マーケティングのコンテンツもその顧客セグメントに合わせ、時間をかけて作り込んでいきます。
Kuze Fuku & Sonsの商品を見ていただくと分かりますが、中身の商品は一緒でも、久世福商店のパッケージデザインとは明らかに違うものがあります。
開発する中で、多くの試食会を開き、米国人の従業員やお客様の声に耳を傾けるようにしています。
一方、販売チャネルごとの攻め方については、そこまで意識したことがありません。
もちろん、私たちがターゲットにしているハイエンドやミドルエンドの小売店やスーパーマーケットに来るお客様の多くが、健康志向が高く、少し高価でも体に良いものを好む傾向があります。
そういう顧客層に届くように、添加物不使用でよりシンプルな原料で作った、いわゆるクリーンラベルの商品開発をし、またはグルテンフリーやNonGMOなどにも気を遣っています。多くのナチュラル系小売店は、これらの商品設計が前提の採用になっています。
前述の通り、私たちは初め、問屋を通した展開ができなかったことで、自社営業、自社物流を行ってきました。それも、コンベンショナル系やナチュラル系といったカテゴリをそこまで意識しなかった理由かもしれません。
目の前にある、流行っている米国スーパーに飛び込み営業をして、サンプルを渡して、試食会を開き、商品を置いていただく——これを繰り返してきたからです。
米国ではいわゆるナチュラル系問屋のツートップであるUNFIやKeHEと取引をすると、自然とナチュラル系スーパーに流れていくということもあると思います。そういった背景からも、あまり意識することはなかったのかもしれません。今では、販路が増えてきたこともあり、問屋の取り扱いも増えてきました。
■新商品は顧客との対話から生まれる
新商品開発の起点は、顧客との対話から生まれることが多いです。
大手スーパーマーケットのバイヤーとの会話で、「今、〇〇カテゴリの××味について商品を探している」とか、「旅行で日本に行った時にすごく美味しいデザートがあって、こんな商品が欲しいと思った」といった何気ない会話の中からヒントを得ます。
私たちのブランドコンセプトは、「Premium Japan Brand」であるため、どのチャネルに何を作るかというよりも、自分たちのコンセプトに沿った商品であれば何でもトライするようにしています。「ゆず胡椒ソースのようなものが欲しい」と要望があった際も、2週間後にはバイヤーにサンプルを送ってやりとりを進め、1アイテムだけで60パレットほどの採用が決まったこともあります。
これまで年間で15〜20アイテムほど開発していますが、新商品のお披露目は全米のスーパーマーケットのバイヤーが集結する、食品展示会で行います。Fancy Food ShowやNatural Products Expoなどが有名です。
JETROがJapanブースを押さえ、日本の食品メーカーを集結させ出展しています。また、直接それぞれの展示会の事務局に問い合わせをして出展することもできます。
出展料は安くありませんが、ここで得られたバイヤーリストに順番にフォローアップしていけば、大きなチャンスが生まれます。私たちも、こうした展示会で顧客開拓することができました。
■M&Aによって得られたもの
2021年にBokksu社に出資し、2023年にはPortlandia Foodsを買収しました。
Bokksuは、日本のお菓子の詰め合わせをサブスクリプション形式で米国白人層に届けるサービスを展開し、急成長していました。日本を含めたアジア食品をオンラインで購入できる「Bokksu Market6」をコロナ禍で立ち上げる時期に出資をしました。
お菓子やカップラーメンなど多くの商品の取り扱いがありますが、米国人がどのようなアジア食品を好んでいるのかというトレンドを知ることができ、私たちの商品開発に活かされています。
Portlandia Foodsは、特にワシントン州、オレゴン州、アイダホ州などで知る人ぞ知るオーガニックケチャップの食ブランドです。このエリアの小売店での占有率も高く、Kuze Fuku & Sonsとのクロスセルなどが可能になります。
また、我々だけでは会うことのできないような、米系チェーンスーパーのバイヤーなどへのアプローチもできます。さらに、当社は米国で食品工場を運営しているため、稼働率を高めることで収益性を高められるといった意図もあります。
6:https://www.bokksumarket.com
■まずは一歩を踏み出す
米国進出を検討している日本企業に向けて、あまり無責任なことは言えないのですが、少なくともサンクゼールにとって、「これをやって良かった」ということをお話ししたいと思います。
いろいろと考えたうえで、まずは米国や海外事業に一歩踏み出したこと。
言葉も文化も違う海外で、自分たちの商品を製造したり、販売したりするとなると、怖じ気づいてしまうかもしれません。しかし、いろいろありましたが、あとから振り返れば何でもないようなことも多かった気がします。
少なくとも私たちにとっては、たくさんの困難はありますが、米国に一歩踏み出したことで見えてきた新たな世界があったし、進出して良かったと思っています。
そのうえで、サンプルを持って自分自身で飛び込み営業してみることをおすすめします。これは、進出前でもできることかもしれません。 進出前、私たちはカリフォルニアのナパバレーなどを視察訪問する際、ワイナリーのスタッフにも自分たちの商品を食べてもらい、感想を聞いたりしていました。
当時、宿のキッチンを借りて、豆腐ドーナツや大学芋を作って配りましたが、とても好評で、「ああ、米国人も大学芋が好きなんだ」と日本人として誇らしく思い、やる気が湧いてきました。
飛び込み営業に行くと、多くの場合、店長が話を聞いてくれて、サンプルを手にとってくれます。
片言の英語でも一生懸命、身振り手振りで話をすると、バイヤーを紹介してくれたり、「こんな商品が売れているよ」とアドバイスをもらえたりします。そこでのヒアリングによって、新たな商品開発のアイデアが生まれることがあります。
最後に、プライドを捨てることを意識的にやっていたかもしれません。
どんなに日本で偉大な食品ブランドであっても、たいていの場合、米国では知名度が低い。泥臭く、一人でも多くの米国人に購入してもらうこと、そして日本の素晴らしさを米国人に伝えていくことに喜びやパッションを感じること。
そういった気持ちで努めていると、1店舗で商品採用が決まった時、お店で消費者が私たちの商品を手にとり買ってくれる姿を見た時、手を叩いて飛び上がるほどの喜びと感動が得られます。
<連載ラインアップ>
■第1回 オレゴン州政府も応援した「久世福商店」のサンクゼールは、いかに米国市場を開拓したか
■第2回 「米国人も大学芋が好きなんだ」サンクゼール副社長が飛び込み営業で体得した、無名の企業が泥臭くやるべきこととは(本稿)
■第3回 米国での成否を握るアウトソースセールス 日系企業が頼るべき相手は「ブローカー」「セールスレップ」のどちらか?
■第4回 伊藤園の北米法人CSOが明かす なぜ「お〜いお茶」ではなく新ブランドで米国市場に進出したのか?(3月3日公開)
■第5回 はくばくの乾麺はなぜ全米でヒットしたか? キーマンが明かす「ホワイトスペース」「パッケージデザイン」の重要性(3月10日公開)
■第6回 くら寿司、創味食品が米国で成功している秘訣とは? 海外進出支援のプロが語る日本企業に必要な3つのこと(3月17日公開)
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筆者:石塚 弘記,關 優作,田中 健太郎