高知のスイーツ、“都会的洗練さ”で全国区に

2月18日(月)6時0分 JBpress

「まる弥カフェ」の外観

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 日本全国には、都道府県名を聞いただけで、特定の事物をイメージできるところがある一方、何ら具体的なイメージが浮かばないところもある。後者は存在感希薄ということで地域の創生という面からも苦戦しているケースが多い。

 では、前者はどうだろうか? イメージが明確なので、その知名度を活かして様々な取組みをしやすいようにも思える。

 ところが、実際には、イメージの固定化・硬直化が創生の足を引っ張っているケースも多いようだ。今回はそんな地域の小規模事業者が逆境を跳ね返して“全国区”へと駆け上がろうとする姿を追う。


硬直化した地域イメージを跳ね返す人気事業者

 “高知県”と聞いて多くの日本人がイメージするもの──それは、坂本龍馬と、“最後の清流”四万十川ではないだろうか? 

 そのため、龍馬に関する史跡の多い高知市など中部地域と、四万十川が流れる西部地域に県外の人々の関心は集中しがちだ。それに対して東部地域に関しては、何があるのかまったく知らない人が多い。

 しかし、東部地域とりわけ安芸市から芸西村にかけては、「冬春なす」と「ゆず」の生産量が全国1位であるなど、高知県を代表する農業地帯のひとつとなっている。

 そして、この地域の1次産品を使ったスイーツなど各種加工食品の開発・販売で、東京を中心とする都市生活者の心をつかんでいる事業者がいる。安芸市で「まる弥カフェ」を運営するまる弥企画・代表取締役の小松恵子氏だ。

「こんな人生になるとは全く想定外でしたが、やっと楽しくなってきました」と語る小松氏が、その苦難と躍進の日々を振り返ってくれた。


「龍馬伝」対応で起業するも・・・

「東京の短大を出た後、地元の銀行に21年間勤務し、その後は林業の経営計画に従事する夫の仕事を手伝っていました」

 そんな彼女の人生を変える出来事が突然起きる。

 2009年、NHKが大河ドラマ「龍馬伝」の制作を発表したのだ。このドラマは、安芸市出身の三菱グループ創始者・岩崎弥太郎の視点から坂本龍馬の生涯を描くもので、放映されれば安芸市の弥太郎生家には多くの観光客が訪れると県は予測した。

 ところが生家周辺はのどかな田園地帯で、飲食店や土産物屋の一軒もない。そこで、急遽、安芸市から関係者に店を開くよう要請がなされたのである。

「でも、やり手がいなかったようで、経営経験のない私に声がかかったのです」

 小松氏は、「この地域に“楽しみ”を増やしたい」との思いから市の要請を受け入れ起業を決意する。そして弥太郎生家前に自己資金で急ごしらえの店をオープンした。「まる弥カフェ」である。

 そして始まった「龍馬伝」。観光誘客効果は絶大だった。

「それまで年に1000人だった生家の訪問客がいきなり21万人になったのです」

 カフェも大盛況となった。

 ところが事態は急変する。放映が終了した途端、観光客の足は遠のいていったのである。「10万人となり、さらに5万人へと急減していきました」

 小松氏の苦悩に満ちた日々が始まった。


仲間との“出逢い”で躍進の機会つかむ

「2年目以降はずっと赤字で・・・地元の食材を使ってお菓子にしたりするとよいことはわかっていましたが、何をどう加工し、どう売ったらよいかもわからず途方に暮れていました」

 そんなとき出逢ったのが米国カリフォルニア在住のグラフィック&プロダクトデザイナーのYoko Ueno Lewis氏。Yoko氏は、ブランディングの大切さを教えてくれ、“シンプルでインパクトのある伝え方”を伝授してくれた。「私はこの方との出会いで今があると思っています」

 そして2012年、力強い仲間が加わる。大阪でパティシエとして修練を積んだ野村利花氏(高知県室戸市出身)だ。

「まる弥カフェ」は新たなフェーズへとシフトする。食品加工の許可を取得し、地元産品を使った新商品を小松氏が企画し、野村氏がカタチにするようになったのである。オリジナルの焼き菓子やギフトセットがカフェの人気商品となっていく。

 その評判が伝わったのか、早くもこの年、東京駅構内にビスコッティ等を出品する機会を得る。2014年になると、東京の東急フードショー二子玉川店内へ出店。この年、「まる弥カフェ」は「まる弥企画」として法人化。そこに広島県出身の浜口あずさ氏がデザイン・広報担当として参画する。

 とはいえ、収益的にはカフェへの来店客からの、言い換えると、減り続ける観光客からの売上がほとんどであり、赤字解消には遠い状況だった。

「観光振興に力を入れている地域であれば“お客さんを待つだけの商売”は成立しますが、そうでない地域では難しいですね」

 ところが、そうした重苦しい状況を一変させる出来事が起きる。

 2015年、まる弥企画の商品が、安芸市に隣接する芸西村の「ふるさと納税返礼品」に選ばれたのである。しかも、それが東京の人々を中心に人気を呼び、同社の売上構造はカフェ中心から“地産外商”中心へと急速にシフトしていく。


勝因は“都会的洗練”の追求

 日本各地で行われている6次産業化では、地域性を前面に出した“素朴さ”に特徴のある食品が多い。たしかに都市生活者が時として食べたくなる魅力にあふれている。しかし、都市生活者のライフスタイルに合致しているとは言い切れない。

 そこで小松氏は、彼らのライフスタイルにフィットした商品作りをすることで、日々の生活に自然に入り込み、ワンランク上の美味しさや喜びを提供したいと考えた。 

 すなわち、差異化のポイントを(全国的にもそれができている事業者の少ない)“都会的洗練”に置いたのである。

 具体的には、商品コンセプトの洗練はもとより、パッケージの機能性・デザイン性、都市の世帯形態に即した商品サイズ、余分な買い物の必要がないワンストップサービスなどを追求した。

 もちろん、“都会的洗練”を追求すると言っても、人生を通じて安芸市から出たことのない人々だと難しかったかもしれない。しかし、主要スタッフが全員“外部視点”を有し、マーケットインの発想ができたことが“都会的洗練”の追求を可能にし、まる弥企画のその後の躍進の原動力となった。


“オール高知”で全国に打って出る

 2017年、小松氏は地元の安芸桜ヶ丘高校から地元名産を使った商品作りの相談を受ける。安芸市と言えば「ゆず」と「冬春なす」の生産量が全国1位であるが、「ゆず」関連商品は、隣接する馬路村が多くの商品を開発・販売しており新鮮味に欠ける。そこで注目したのが「冬春なす」だった。

 昨今は若い世代の野菜離れが深刻化している。そこで、野菜嫌いな高校生でも美味しく食べることのできる商品を作ろうと「なすのプリン」を共同で企画・制作した。するとこの商品は「商業高校フードグランプリ2017」でグランプリと来場者賞をダブル受賞。「ふるさと納税返礼品」としてもヒットしたのである。

 苦悩に満ちた雌伏の期間を経て、ようやく陽の当たる場所へと躍り出た感のある小松氏。今、意欲的な新事業を推進している。

 高知県には良質な食資源が多いが、小規模な生産者や事業者が多く、自ら“地産外商”を行うのは難しい。

「そこで、小規模な生産者・事業者を入れた“オール高知”でチームを作り、東京のアッパーミドルクラスの生活者のライフスタイルにフィットした商品を開発販売するネットスーパーを作っているところです」

 成功すれば他の都道府県にも同様の動きが広がるだろう。民間の力による高知県の“地産外商”の挑戦。その成否が注目される。

◎「シリーズ『商いの原点』」の記事一覧はこちら
http://jbpress.ismedia.jp/search/author/嶋田 淑之

筆者:嶋田 淑之

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