嫌な予感がする…「ワークマン女子やめます」急成長を続けたワークマンがこれから直面する「二刀流のジレンマ」
2025年2月18日(火)10時45分 プレジデント社
画像=プレスリリースより
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■「ワークマン女子」が「カラーズ」に統合
急成長を続けてきたワークマンが、「ワークマン女子」の屋号を廃止して「ワークマンカラーズ」に統一することを発表しました。プレスリリースには「今後、本命だった郊外や地方のロードサイドへ出店を強化するにあたり、人口の少ない地方では幅広い客層を取り込むためには男性客も集客しやすいように店名をワークマン女子からワークマンカラーズに統一する」とあります。
また東京・銀座にある「イグジットメルサ銀座店」において「ワークマン女子からワークマンカラーズに改名しただけで、男性売場を拡大せずとも男性客が約10%増加したこと」もその理由として挙げています。
ワークマンは以前の決算会見で「ワークマン女子は男性客が増えにくい」と述べており、今回の一件はこれとリンクする施策だといえます。
私は昨年の9月の時点で、男性客不振の原因は商品企画内容ではなく「店名にある」と自身のブログで指摘していました。理由は至極簡単で、多くの男性は「ワークマン女子」という名の店にわざわざ足を運ぶことはしないためです。名は体を表すと昔から言いますが、「女子」と名付けている店を、男性客の多くはスルーします。入店するまでもなく店名だけで「女性向け」とわかっているのですから。
これは女性客も同様で「メンズショップ○○」という店名の店にわざわざ入店する人は少ないでしょう。ですから「男性客を増やしたいならワークマン女子という店名を廃止すべきである」とその時のブログで結論付けました。今回はまさにその通りになったといえ、至極まともな施策だと感じます。
■男性客の取りっぱぐれが続いていた
ワークマン女子が出店している地方都市の人口は3万〜7万人程度がほとんどです。単純に考えて男女比率が半々だとして、人口4万人なら女性は2万人となります。そのうち18歳以上の女性が5分の4の1万6000人と仮定すると、「ワークマン女子」という店名のままだと、いくら男性服を売っていてもこの1万6000人を取り込んだところで業績拡大はストップすることになります。男性客にもたくさん来てもらいたいなら「ワークマン女子」という店名を廃止するのは当たり前の決定です。
ワークマンHP、自治体HPなどを基にプレジデントオンライン編集部作成
今回は公式で発表されたこと以外に「ワークマン女子」という店名が廃止になった理由をいろいろと考えてみたいと思います。
■「女子」という名前の役割が終わった
まず考えられることは「ワークマン女子」という店名の役割が終わったという可能性です。もともと現場作業員のための作業服を販売する「ワークマン」は、男性客が90%以上を占めていたと考えられます。その「ワークマン」を一般カジュアル客にも販売するという発想の転換によって企業規模の拡大に成功したのですが、一般カジュアル用途となると、女性客の取り込みがカギになります。
女性の衣料品市場規模は男性よりも大きいというのが常識となっています。手っ取り早く「女性客」にアピールするためには、いかにも女性向けとわかる店名にするのが効率的です。ですから「ワークマン女子」という店名は当時のワークマンにはピッタリでした。
しかし、ワークマン女子の店舗数も増え、これだけ頻繁に報道されるとワークマンに女性向け商品が存在するということはほぼ周知されたと考えられます。その上、ワークマン自体が「ワークマン女子に男性客を取り込みたい」と考えるようになりました。
ワークマン女子という店名そのものが役割を終えたのです。
■実態は「ワークマンファミリー」になっている
次に「ワークマン女子」という店名が実態にそぐわなくなったという点です。
私は関西に住んでいて、大阪市内には都心店として「ワークマン女子」が2店舗あります。JRのターミナル駅の一つである天王寺と、繁華街として有名な難波です。買い物を兼ねて視察するたびに感じるのが、「ワークマン女子」という店名にもかかわらず、男性向け衣料品が店内面積の4割前後を常に占めている点です。
おまけに近年は子供服も1割程度あるので、「ワークマン女子」という店名ながら実態は「ワークマンファミリー」になっていました。そうなると「ワークマン女子」という店名を存続させる意味がありません。店名が廃止になるのは当たり前でしょう。
■収入の伸び率が明らかに鈍化している
ワークマンという企業は急成長期を過ぎて現在は成熟期・停滞期に入りつつあると感じられるので、今後はかなり難しい舵取りをしながら成長戦略に取り組むことになるでしょう。ここでワークマンの決算を振り返ってみましょう。
24年3月期の決算は、売上高にあたる営業総収入は1326億5100万円(対前年比3.4%増)、営業利益231億4200万円(同4.0%減)、経常利益236億6600万円(同4.0%減)、当期利益159億8600万円(同4.0%減)と増収減益に終わっています。
ちなみに23年3月期も約10%の減益だったので、2期連続の減益に終わったということになります。明らかに収益性が鈍化しています。
画像=プレスリリースより
また、売上高にあたる営業総収入は23年3月期が10.3%増だったのに対して、24年3月期は3.4%増ですから、増収とはいえその伸び率は著しく鈍化していることがわかります。
25年3月期第3四半期決算では、営業総収入1076億500万円(対前年同期比1.4%増)、営業利益206億7400万円(同0.0%減)、経常利益210億3700万円(同0.2%減)、四半期純利益130億1800万円(0.5%減)と増収幅の鈍化と減益基調が続いています。この様子では、今後も大幅な増収増益へのV字回復は見込めないのではないかと思います。
■カジュアル商品の評判はそこまで高くない
これはひとえに現在のワークマンのビジネスモデルの成長が国内市場ではほぼ限界点に達しつつあるためだと考えられます。作業服業界から一般カジュアル用途客も取り込むことで急成長を続けてきましたが、いまのワークマンの商品内容や販売体制では予想される国内客を全て取り切ったのではないでしょうか。
カジュアル向け・スポーツアウトドア向けの衣料品やグッズを強化してきたことが奏功しましたが、今以上に企業規模を拡大するとなると、もっとファッション寄りのお客を獲得することが必要不可欠になります。
残念ながら、カジュアルファッション需要としてのワークマン商品はそこまで評価が高くありません。中にはファッション的に評価されている商品もありますが、相変わらず作業服から抜け切れていないような商品も多く、ファッション好きな層からの評判はイマイチです。
■共通商品のせいで屋号ごとの区別がつきにくい
今回、ワークマン女子という屋号がなくなり、ワークマンカラーズという屋号に統一されることが決定したわけですが、現状の女子とカラーズでは少し商品のテイストが異なります。どちらかというとベーシックカジュアル寄りの女子と、もう少しハイセンスを目指した(目指してはいるが実現できているかは疑問)カラーズが統一するということは商品作りや店作りが混乱する可能性があります。
また、どちらかのテイストに寄せるのか、足して2で割るのか、その辺りの匙加減も難しいものがあります。
またこのほか、ワークマンにはまだまだ屋号の異なる業態があります。通常のワークマン、ワークマンプロ、ワークマンプラス、ワークマンプラス2がありますが、個人的にはこの4つの業態はどれも売り場の第一印象は似通っており、区別がつきにくいと感じます。
区別がつきにくい最大の理由は、全業態共通の商品が少なからずあるからだと考えています。
しかし、この全業態共通で同じ商品を売るということがワークマンの企業規模拡大の根幹施策であり、消費者が飛びついた妙味だったので、おいそれと変更するわけにはいきません。
ワークマンの成長の要因の一つとして「商品を変えずに売り方を変えたこと」が挙げられます。要は作業服を作業員だけではなく、一般消費者に機能性カジュアル用衣料としても販売したことが大幅な成長につながりました。一般消費者もそれを「面白味」として受け入れたのです。
■差別化しすぎるとコストが増えるというジレンマ
近年の作業服は全体としてデザインも洗練され、デイリーカジュアル衣料としても活用できそうなものも増えていました。これを大々的に打ち出したことがワークマンの成長の原動力だったといえます。同じ商品を一般消費者にも売ることで、生産数量が増え、生産効率も上昇するために1枚当たりの製造コストの削減が可能になります。コスト削減によって収益性も高まりますから好循環が続いてきました。
しかし、この路線にも成長の限界が見え始めたため、ファッション向け業態やカジュアル向け業態を増やすことで成長路線を取り戻そうとしているのが今のワークマンだといえます。ファッション向け業態、カジュアル向け業態が増えて、商品を差別化しようとすると、業態ごとの独自商品がさらに必要となります。業態独自の商品が増えると、生産数量もまとまりませんし製造品番数が増えますから、生産効率は落ちます。
■9割超の「フランチャイズ店」が足かせに
さらにいえば、ワークマンでは売れ残った場合、他の業態に転用することはできません。ファッション用途で作った売れ残り品を職人向けのワークマンやワークマンプロでは販売できないためです。販売したところで客層が異なりますから売れ行きは知れています。
通常のアパレル小売業であれば、売れ残り品は直営アウトレット店か公式インターネット通販サイトで投げ売りしますが、ワークマンの店舗の95%前後はフランチャイズ店なので、本社直営の公式通販サイトで大々的に処分することはフランチャイズ店オーナーからの反発が予想されます。これほど著名なワークマンがネット通販で成長しにくいのはそのためです。業態ごとの独自商品を強化することは、かえって非効率化を招くばかりでなく、ワークマンのビジネスモデルの根幹を崩しかねないのです。
何よりもワークマンのフランチャイズ店制度は作業服という商材では上手く機能しますが、一般向けカジュアル衣料には向いていません。
作業服は本来デザインにトレンド性があまりありませんから、その年に売れ残ったものを次の年に販売しても構わなかったのです。しかし、トレンドが大きく売れ行きを左右する一般カジュアル衣料では今年売れ残った物を来年も売るということはできません。大幅値下げをして客寄せ商品として使うのが関の山です。
他のカジュアルチェーン店はほとんどが本社直営ですので、不振品番があれば、それが好調に動いている店に店舗間移動させて集中的に売りさばくことができるのです。カジュアル業態でこの店舗間移動が使えないというのは在庫処分の強力な手段の一つを封じられているのも同然なのです。
■カジュアル衣料は当たれば大きいが、リスクも高い
ワークマンは1月末に「ワーク強靭化宣言」を打ち出し、原点である作業服分野を強化するとともに、女子と統合するカラーズも出店攻勢をかける「二正面作戦」を取ると発表しました。カラーズは5月までに100店舗、2032年中に400店舗を達成するといいます。
原点であるワークマンと商品を共通化していないファッション業態であるワークマンカラーズを旧「女子」と統合して大々的に出店攻勢をかけるということは、それだけ非効率な独自商品の品番数と生産数量を増やすことになります。売れ残り在庫品の処分方法を緻密に考えていないと不良在庫に悩まされるというリスクが大きくなります。
ワークも強化してファッション業態も出店攻勢をかけるとなると、社内の人的リソースは限られているので下手をすると虻蜂取らずに終わる可能性もあります。
カジュアル衣料というのは、当たれば大きい反面、大きく落ち込むリスクも高く、ハイリスクハイリターンな分野です。これは98年のユニクロフリースブームの盛り上がりや、近年のライトオンの低迷などを考えれば理解できるでしょう。そのため、ワークマンのファッション強化には非常に懸念を持ちます。
ここまで急成長を遂げてきたワークマンですが、今後はかなり難しい舵取りが求められることとなるでしょう。一歩舵取りを間違えると、中長期視点ではライトオンのような大幅な凋落・失墜の可能性すら生まれるのではないでしょうか。
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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)