「光熱費ゼロ」が簡単に実現可能…これから家を買う人は次世代太陽光発電「ペロブスカイト」実用化を待つべきか
2025年2月19日(水)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anatoliy_gleb
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■太陽光発電を発電量の3割に高める
温暖化による気候変動によって北極海の氷が溶けだし、世界的に大規模な山火事や水害が頻発するなど、温室効果ガスの排出抑制が喫緊の課題となっている。わが国でも、化石燃料を原料とする火力発電から、温暖化ガスを排出しない再生可能エネルギーなどへの早期の転換が求められている。
政府としても「エネルギー基本計画」で、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーへのシフトを進めてきた。その最新の「第7次エネルギー基本計画」の原案が2024年12月に公表され、2025年以降その実施のための施策が展開されることになっている。
図表1にあるように、現在はエネルギー自給率が15%程度にとどまっているが、それを2040年度には3割から4割に高め、エネルギーの安定確保を目指すと同時に、再生可能エネルギーを4割から5割に高めるとしている。
そのための柱になるのが太陽光発電。現在は発電電力量の1割程度にとどまっているが、2040年度には2割から3割程度まで高める計画だ。
出典=資源エネルギー庁「エネルギー基本計画(原案)の概要」
■原料は日本が世界のシェアの3割を占める
その実現のために注目されているのが、“ペロブスカイト太陽電池”。現在、住宅の屋根などに載っている太陽光発電はシリコン太陽電池と呼ばれるもので、発電層がシリコンでできているのを、メチルアミンや鉛、ヨウ素などから成るペロブスカイト結晶に置き換えたもので、シリコン太陽電池にはないさまざまなメリットがあるため、その開発が世界中で進められている。ペロブスカイト太陽電池の主な特徴として次の点が挙げられる。
①低コスト
ペロブスカイト太陽電池は、材料をフィルムなどに塗布・印刷してつくることができるので、製造工程が少なく、大量生産が可能になり、低価格での供給が可能になる。
②軽くて柔軟
シリコン太陽電池は、重くて厚みがあるのに対して、ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜になっているので、折り曲げやゆがみに強く、軽量化が可能になる。
③主要材料が国内から
ペロブスカイト太陽電池の主な原料となるヨウ素は、日本が世界のシェアの3割を占めており、他国に頼らずに安定して原料を確保できるので、経済安全保障の面でメリットが大きい。
■日本のメーカーが世界をリード
そんなメリットがあり、かつ主要原料が国産であるため、わが国のメーカー各社が世界に先駆けて開発を進めており、政府も補助金などによって積極的な支援を行っていて、いち早い実用化が期待されている。
次世代型の技術としては、電気自動車や自動運転、AIなどさまざまな分野で世界に後れを取っているのがわが国の現実だが、このペロブスカイト太陽電池では、世界をリードする最先端技術を開発する企業が目白押しだ。たとえば、実用化に向けて世界初の実証実験をスタートさせているのが、パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)。「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」を開発し、神奈川県藤沢市のパナソニックの工場跡地に開発された大規模分譲地「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」内のモデルハウスに、「発電するガラス」を設置している。
パナソニックHD独自の材料技術、インクジェット塗布工法とレーザー加工技術を組み合わせることで、サイズ、透過度、デザインなどの自由度を高め、ニーズによってカスタマイズも可能になるとしている。
■パナソニックHDは藤沢市で発電する窓の実証実験
従来のシリコン太陽電池は、住宅に設置するためには、屋根や屋上に設置するしかなく、設置可能面積が限られる。それでも、図表2にあるように、わが国は世界でも最も設置量が多くなっていて、今後は屋根だけでは加速度的に増やすには限界がある。
東京都は2025年4月から原則的に新築戸建住宅への太陽光発電の設置を義務づけることになっているが、都内の住宅地では日当りのよくない密集地も多く、どこまで実効性があるのか疑問が残る。
その点、パナソニックHDのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、建物の窓や壁面にも設置することができ、Fujisawaサスティナブル・スマートタウンでは、写真1にあるようにバルコニーに設置されている。
ペロブスカイト太陽電池には、先に触れたようなメリットがある反面、デメリットもある。現状では、大きな面積の太陽電池の運用が簡単ではなく、寿命が短い、耐久性が低いなどの難点があり、その課題の克服策を各社が競っている。
たとえば、寿命は5年といわれているが、メーカーのなかには10年の寿命を確保した太陽光発電の開発を行っており、シリコン太陽電池並みの寿命を確保するのには、そう時間がかからないのではないだろうか。
出典=資源エネルギー庁サイト
提供=パナソニック ホールディングス
【写真1】「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」内のモデルハウスのバルコニーに設置されたガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池。 - 提供=パナソニック ホールディングス
■薄くて曲げることも可能な太陽電池
事業部門としてセキスイハイムを展開する積水化学工業もペロブスカイト太陽電池の開発に力を入れており、専門の製造・販売会社を設立、旧シャープ堺工場に100MWの生産ラインの新設を決定、2030年までには1GW級の製造ラインの構築を目指している。先に触れたように大きな面積の太陽電池の製造が課題となってきたが、積水化学工業では1m幅の生産技術を確立するべく、外部企業との連携により、実証実験を進めつつある。
積水化学工業のペロブスカイト太陽電池はフィルム型で、発電層をフィルムに塗布して生産する。そのため、軽くて、薄く、曲げることもできるので、用途の拡大が期待できる。屋上や屋根だけではなく、建物の壁面などへの設置が可能になる。また、従来のシリコン型は重量が重くなるため、比較的堅固な屋根でないと載せることはできないが、ペロブスカイト太陽電池は軽いので耐荷重性の低い屋根にも設置できるようになる。
太陽光発電の変換効率もすでにシリコン型並みの15%を達成しており、現在は20%を目指して開発を進めており、耐久性能も10年相当を達成、今後はこれを20年とするための研究が進められている。さまざまな実証実験を経て、一般企業や家庭などへの浸透を図りたい方針だ。
■積水化学では2025年度から実用化目指す
積水化学工業では、脱炭素に貢献することを主目的としており、現在は三菱UFJ銀行と連携して実証実験を進めている。
三菱UFJ銀行は、2030年までに自らの温室効果ガス排出量ネットゼロを目指しており、その一環として東京都品川区の大井支店では、カーテンウォールの室内側にペロブスカイト太陽電池を固定して、室内窓際での発電効果、耐久性の検証などを行っている。また、横浜市西区みなとみらいのグローバルラーニングセンターでは、施設屋上の防水シートに設置して耐久性の検証を行っている。防水シートに直接設置するので、工期が短くてすみ、コストを大幅に低減できる。
こうした実証実験の結果を踏まえて、積水化学工業では2025年度から実用化に向けて動き始めることとしている。
提供=積水化学工業
実証実験のため三菱UFJ銀行の支店に設置されたフィルム型ペロブスカイト太陽電池。 - 提供=積水化学工業
■当面はシリコン型を利用、いずれペロブスカイトを追加
実用化が始まり、一般に浸透するのはまだしばらく先のことになりそうだが、実用化が進めば、太陽光発電は現在よりもっと身近なものになるのではないだろうか。
日当りのあまりよくない場所で、屋根だけではなく、壁や窓への設置も可能で、住居のあらゆる場所での発電が可能になる。それもコスト的には、現在のシリコン太陽電池より安くなりそうなので、さまざまな部位に設置して、発電量も多くなり、光熱費ゼロを実現できるようになるかもしれない。発電量によっては、余剰電力を売電することで、収入を得ることができるようにもなるだろう。
ただ、それはまだしばらく先のことなので、現状ではシリコン太陽電池を設置して、再生可能エネルギーによって地球環境に貢献しながら、光熱費の低減を図るようにしたい。その上で、ペロブスカイト太陽電池の本格的な普及が始まったら追加で窓や壁などにも設置する形で、発電量の拡大を図り、地球環境の維持に貢献することを考えるのがいいのではないだろうか。
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山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)