ほとんどの分譲マンションはやがて「粗大ごみ」となる運命

2月20日(水)7時0分 NEWSポストセブン

築40年超のマンションはすでに73万戸もある

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 滋賀県野洲市で築47年・3階建ての“廃墟マンション”が崩壊寸前のまま放置され問題となっている。かれこれ10年以上誰も住んでおらず、所有者の一部と連絡が取れないことから解体もできない状態だという。だが、こうした「空き家問題」は決して他人事ではない。近著に『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト新書)がある住宅ジャーナリストの榊淳司氏が、いよいよ現実味を帯びるマンション廃墟化について警鐘を鳴らす。


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 すべてのマンションは廃墟になる──これは私が最近刊行した拙著で訴えてきたことである。近未来に可視化されるであろうこの残酷極まりない現実が迫っていることが明らかになった。


 報道によれば、滋賀県野洲市野洲の老朽化した空き家マンションを巡り、市が対応に苦慮しているという。


 このマンションは、壁が崩れて瓦礫が散乱したり、鉄骨に吹き付けられたアスベストが露出したりと危険な状態だが、土地・建物の所有者の一部と連絡が取れず、自主解体の議論が進んでいない。「行政代執行」による解体も検討されているものの、解体予算の議会承認や解体業者の選定などに時間がかかりそうな雲行きで、周辺住民からは早急な対策を望む声が上がっているという。


 じつのところ、こうしたまさに廃墟化するマンションに対して、法的な制度はまったく不備な状態である。


 このマンションは全9戸。そのうち7戸の所有者とは連絡が取れて解体には同意しているらしい。ただ、今のままだと解体するには法的に困難である。


 そもそも、分譲マンションというのは民法で規定する共有財産である。1住戸ずつに区分所有という私有財産権が定められている。建物を解体処分するためには、基本的に区分所有者全員の同意が必要とされる。このマンションの場合なら9住戸の所有者全員だ。


 報道によれば、残り2住戸の区分所有者とは連絡が取れていない。したがってこの2戸については解体に同意するという意思が確認できないのだ。


 誰も住んでおらず周辺の住民に被害が生じそうなこのマンションを、行政である野洲市を含めた誰かが現状のまま解体すると、連絡のとれない2住戸の区分所有者の財産権を侵害することになる。解体後に、その2住戸の区分所有者が現れて違法性を問われたり、損害賠償の責任を問われたりする可能性だってあり得る。



 2013年に施行された「マンション建て替え円滑化法(マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律)」では、全区分所有者の「5分の4」以上が同意すれば、建物を解体して土地を売却、区分所有状態を解消することができるという定めがある。


 しかし、この野洲市のマンションの場合は全9戸である。「5分の4」は7.2戸となり、7戸だけの同意では足りない。あと1戸を加えた8戸の同意がなければ建て替え円滑化法が適用できないのだ。


 さらに、2015年には「空家等対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」が施行されている。これは周辺に何らかの被害を及ぼしそうな空き家に対して、行政が「助言・指導・勧告・命令」などを行ったうえで、なお是正が見られない場合は「特定空き家」に指定することができる。さらに、指定後は行政が強制的に解体できることを定めている。


 この場合、解体の費用は後ほど所有者に請求することになっている。これまで一部自治体でこの法律を使って解体された空き家の事例も見られるが、所有者がその後に解体費用を負担したという話は聞かない。つまりは、行政の持ち出しで解体されているケースがほとんどだと思われる。


 今回浮かび上がった滋賀県野洲市の全9戸のマンションも、解体費用は3000万円から4000万円と報道されている。地方都市にとっては右から左へ動かせる額ではない。


 だが、今回の野洲市の件は決して他人事ではない。すべての分譲マンションの未来の姿を表しているのだ。



 マンションは、基本構造が鉄筋コンクリートである。その寿命はまだ明解にはされていないが、もって100年、適切なメンテナンスをすれば200年に延ばせる可能性も指摘されている。だが、人が住まなくなった築47年のマンションは、すでに危険な状態である。


 総務省の調査によれば、現在、日本には820万戸の空き家があり、そのうち約6割がマンションなどの共同住宅だ。また、国土交通省によると2017年時点で築40年超のマンションは72.9万戸。その20年後には、これが351.9万戸まで増えるという。2017年時点で築20年以上のマンションがそれだけ存在するということだから、ほぼ確実な未来予想だ。


 海外に目を転じれば、パリやローマには何百年どころか千年以上前に建設された集合住宅に、今も人が住んでいたりする。だから、鉄筋コンクリート造の日本のマンションも、そういう可能性があるなどと考えてはいけない。パリやローマの長寿命な集合住宅は石造や煉瓦造である。ヨーロッパ大陸にはほぼ地震がないので、そういった脆弱な構造でも1000年以上の建物が存在し続けることができる。


 しかし、日本は地震大国である。2018年の大阪北部地震で小学校のブロック塀が崩れて女児が犠牲になった事件は記憶に新しいはずだ。


 日本では鉄筋コンクリート造という丈夫な構造でなければ、集合住宅を作ることはできない。鉄筋コンクリート造の建物の躯体にはコンクリートに包まれた鉄筋や鉄骨が使われている。だが、鉄筋や鉄骨は基本が鉄である。鉄は必ず錆びる。錆びると膨張してこれを包むコンクリートを破断させる。それによって、建築時の耐力を損なう。


 すなわち、すべてのマンションはいずれ廃墟になり、解体の運命は免れない。幸運なほんの一部のマンションは建て替えられて元の住民も軽い負担で住み替えられるかもしれない。しかし、そういうマンションは全体の1%か、多くて2%だ。ほとんどの分譲マンションは、今回の報道にあるような廃墟化、そして巨大な“粗大ゴミ”となる運命が待っている。



 では、どうすればよいのか? まず、法制度を変えるべきである。現行の、区分所有者の権利をあまりに尊重するような仕組みは改めるべきだ。


 次に、解体に備えた費用を積み立てるべきだろう。定期借地権といって50年から70年後には解体したうえで更地にして地主に土地を還す、という権利形態の分譲マンションがある。この定期借地権のマンションでは、管理組合が区分所有者から将来の解体費用を毎月徴収している。


 こういう「解体費用の積立」を通常のマンションでも行うべきだろう。そうすれば、何十年か先の解体もスムーズに行えるのではないか。


 多くの人は分譲マンションに幻想を抱いている。マンションが半永久的に存在して、自分たちの資産になるものだと考えているのだ。しかし、その考えは間違っている場合が多い。


 都心立地の一部のマンションは、敷地自体の資産価値が高いので建て替えや売却が容易だが、近郊や郊外に立地する分譲マンションの多くは、老朽化すれば資産価値がゼロどころかマイナスになってしまう。


 特に将来は立地の資産価値が危ぶまれている湾岸埋立地のタワーマンションは厄介だ。解体費用は1住戸あたり500万円以上と想定される。しかし、人口が減少した未来には解体後に敷地を売却しても、解体費用さえ賄えるかどうかが危ぶまれる。


 繰り返すが、すべてのマンションは廃墟になる。少なくとも、その危険をはらんでいる。我々は今からそういう近未来に備えるべきではないか。

NEWSポストセブン

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