セラピーや薬に匹敵する効果が期待できる…うつの原因によらずメンタルが快方に向かう気軽な習慣

2024年2月21日(水)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

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つらい不安やうつに対処するにはどうすればよいか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「身体の中から脳が受け取るシグナルはメンタルを左右している。運動はうつを防ぐために出来る1番重要なことの1つだ」という——。(第4回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。


■「うつ」の反対語とは


あまりにも長い期間(数日ではなく何週間も何カ月も)強いストレスにさらされていると、うつになることがあります。うつという言葉には様々な定義がありますが、基本的には「長期にわたる気分の落ち込み」です。


うつの反対語は「喜び」ではなく、「バイタリティー(生きる活力)」だと言われます。うつになるとまさに失われるものがバイタリティーだからです。誰にも会いたくなくなりますし、何もしたくなくなります。あくまで症状の一例ですがよく眠れなくなり、食欲もなくなります。


後述しますがうつの原因は様々で、程度の差はあれどつらいものです。


なお、「悲しい」という気持ちはうつとは別です。悲しみはとても大事だった何かを失った時に感じる気持ちです。これもごく自然な感情で、他人に愛情を感じるためにもなくてはなりません。悲しみはたいてい時間とともに薄れ、傷痕が残るとはいえ最後には傷は癒えます。


しかし悲しみが薄れないままうつへと発展することもあります。トラウマになった経験にうまく対処できなかった場合もそうです。その場合もやはり自分の感情を言葉にし、安心な状況で信用できる相手とトラウマに向き合うことで和らぐことがあります。


写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■ひどい気分のときは誰かに話をきいてもらおう


つらい気持ちを乗り越えることはそうかんたんなことではありません。


脳というのはあきれるほど強力で、不安やうつが何なのか、どういう目的を果たしているのかを理解出来たとしてもひどい気分になることはあります。その場合は誰かに話を聞いてもらいましょう。両親や学校の先生や保健室の先生でも良いでしょう。


周りに助けを求めるのは弱いからではありません。勇気がある証拠なのです。


■身体の健康は脳の健康に繋がる


脳の島皮質で「知覚からの情報」と「身体の中の情報」が溶け合い、感情がつくられます。つまり、身体の中から脳が受け取るシグナルもメンタルを左右しているのです。


「身体と脳は別物だ」というイメージを持っているかもしれませんが、脳も身体の一部であり、脳だけ独立しているわけではありません。脳は脳脊髄液という液体に浸かっていますが、脳脊髄液の状態は血圧や血糖値、血中脂質などによって変化します。つまり身体が健康だと脳も良い環境で過ごせるのです。


運動すると、身体の器官や組織が強くなるだけでなく、脳脊髄液を安定させてくれます。また、肺が酸素を取り入れる能力も向上し、心臓や肝臓も強くなります。


そうやって脳が良いシグナルを受け取ると、受け取ったシグナルを基に感情がつくられるので、幸せな気分になる可能性が上がり、不快な感情がわくリスクも減るのです。


実際、運動はうつを防ぐために出来る1番重要なことの1つです。


写真=iStock.com/paylessimages
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■「脳をストレスから守る」運動の効果


うつの原因は数多くありますが、長期にわたるストレスが最も一般的です。脳があまりに長い時間「闘争か逃走か」の状態にあると、恐ろしい危険にずっとさらされているというシグナルが出てしまい、「それなら引きこもらせて本体を守った方が良い」となるのです。それが「気分の落ち込み」という感情になって届き、うつになっていきます。


1番良いのはストレスを取り除くことでしょう。そうすればうつになるのを防げます。ストレスを取り除くには環境を変える、時間の使い方をうまく計画するなど、生活を変える必要があるかもしれません。学校の勉強とプロを目指してスポーツに打ち込むのは両立が難しい場合もあるでしょう。あるいは家族や友人関係のストレスなどが原因かもしれません。


原因にかかわらず出来るのは、運動をすることです。運動は身体を強くするだけでなく、脳をストレスから守る力も強めてくれます。それだけではうつが治らない場合もありますが、状況が少しはましになることがほとんどです。


■脳は「作り話」をする


脳がどれほど身体から影響を受けるか、つい忘れがちです。しかも脳自身もそれを忘れてしまうようなのです……というか、いつものごとく脳は現実をすべてありのまま見せようとはしません。



アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)

体内で細菌による炎症がかすかに起きているとしましょう。病気だと感じるほどではなくても、脳はそのシグナルを受け取り、免疫系がわずかに活発になります。


脳はそこで感情の状態を「ちょっとだるい」としてまとめます。そしてまともそうな理由を探し始めます。その時には危険のシグナルがどこから来たのか忘れてしまっていて、気分が落ち込んでいる原因を身体の外に見つけようとします。例えば「この本はさっきまで面白かったのに複雑で退屈になってきた」(そうは思ってほしくないですが)というように。


しかし身体から「どこも問題ない」というシグナルが送られてくれば、「心地良い」というまとめをして、「読んでいてわくわくする良い本だ!」となるわけです(そう思ってもらえていますか?)。脳は良い気分にも理由を見つけたいのです。


まるで脳が常に「人生の物語」を自分に語って聞かせているようなものです。


うまく出来た物語では、1つの出来事がちゃんと次の出来事につながり、突拍子もないことが唐突に起きたりはしません。そう、私たちは脳から作り話を聞かせられながら生きているのです。そうでなければ人生が複雑になり過ぎてしまうからです。


写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■運動・薬・セラピーの組み合わせ


運動は不安やうつといった感情の浮き沈みにうまく対応する力を与えてくれますが、薬が役に立たないわけではありません。最近の薬は優秀で、多くの人が感情面で良い生活を送れるようになっています。また、自分の感情を言葉にして語るセラピーもよく効きます。新しい考え方が出来るようになり、害になるような感情や思考パターンから解放されるようになるのです。


1番効果を得られるのは、症状に応じて運動・薬・セラピーを組み合わせることです。


生物学的に、つまり人間の身体の仕組みから言うと、薬と運動は「扁桃体を抑える」効果があり、セラピーは脳の最も高度な部分の1つである前頭葉の、「考え方で不安や心配に対処する」トレーニングになります。


つまり運動しか効果がないわけではありません。ただ、運動には素晴らしい効果がある上に手軽なことが忘れられがちなので、あえて強調しておきたいのです。


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アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医
ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。
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(精神科医 アンデシュ・ハンセン)

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