世界一の自動車メーカー・トヨタの原動力はこれだ…顧客が他社に乗り換えたときに営業マンが口にする言葉

2024年2月21日(水)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sjo

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多くの人から愛され、応援される人は何をしているか。精神科医の和田秀樹さんは「トヨタのセールスマンは『顧客に愛されること』を徹底している。私が『凄い』と思ったのは、お客さんが他社のクルマに乗り換えたときに、『やっぱりアチラのクルマの方が良かったですか?』といった挨拶を欠かさず、お客さんとの関係を継続させる点だ。一貫してお客さんに寄り添うというセールスマンの姿勢が、トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げた原動力である」という——。

※本稿は、和田秀樹『なぜか人生がうまくいく「優しい人」の科学』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Sjo
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■顧客に愛される努力をしたトヨタのセールスマン


損得勘定で人に優しくしても、相手から簡単に「下心」を見抜かれてしまうものですが、中途半端な親切ではなく、相手のことを考えて、心の底から優しく接すると、状況は大きく変わります。


私が「凄いな」と感心したのは、トヨタのセールスマンの「顧客に愛されることを大事にする」という徹底した姿勢です。


年配の方は覚えていると思いますが、現在ほどプライバシーの問題がうるさくなかった時代のトヨタのセールスマンは、「クルマを売ることだけが目的ではなく、お客さんが喜んでくれることを目指す」ことに徹していました。


一般的にクルマのセールスマンがお客さんに連絡をするのは、相当な高級車でも買わない限り、定期点検や車検などの際に限られますが、トヨタのセールスマンは、「クルマが故障した」と連絡を入れると、素早く駆けつけてくれるだけでなく、子供が進学するとお祝いの手紙を送るなど、何かにつけてお客さんに寄り添う姿勢を大切にしていました。


こうなると、自然とクルマを乗り換えるときにはトヨタ車を選ぶことになり、子供が運転免許を取れる年頃になれば、「トヨタにしないと悪いよな」という気持ちにさせられます。


■「こちらが劣っているところがあったら教えてください」


彼らを「凄い」と思ったのは、お客さんが他社のクルマに乗り換えたときです。


普通であれば、それを境に疎遠になるところを、それでも挨拶を欠かさず、「やっぱりアチラのクルマの方が良かったですか?」とか、「こちらが劣っているところがあったら教えてください。必ず会社の上に伝えますから」といって、お客さんとの関係を継続させることです。


こうしたつき合いが続いていくと、次にクルマを買い替える際には、ごく自然にトヨタ車を選択することになるのです。


トヨタのセールスマンが、自社のクルマを売るために営業活動をしていることはわかっていますが、困ったときに助けてくれたり、家族の記念日を一緒に祝ってくれたりすれば、お客さんは、「ここまでやってくれるのだから、買わなければ申し訳ない」という気持ちになります。


一貫してお客さんに寄り添うというセールスマンの姿勢が、トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げた原動力なのです。


写真=iStock.com/DragonImages
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■「石油王」と呼ばれた出光佐三の経営者としての優しさ


現在の日本では、出来の悪い人に厳しく当たる傾向があり、それがいいことのように受け取られる風潮があります。


年功序列や終身雇用が当たり前だった時代から、欧米流の成果主義や実力主義の時代になり、かつては非難の的だった社員に対する「リストラ」が、いつの間にか「仕方のないこと」と受け取られるような世相になっています。


日本の会社にも、「社員に優しい経営者」がいた時代があります。


石油元売り大手「出光興産」を創業した出光佐三(いでみつさぞう)は、その代表格といえます。


「石油王」と呼ばれた出光佐三は、お金や権力のためではなく、「人間尊重主義」「大家族主義」を掲げて、第二次世界大戦の混乱の中でも、会社を存続させるだけでなく、社員の生活と権利を守り抜きました。


彼が貫いたのは、「四無主義」という画期的で型破りな経営方針です。


・「タイムカード」なし
・「出勤簿」なし
・「クビ」なし
・「定年」なし

出光佐三は、「従業員は家族であり、モノではない。家族に定年はなく、時間を管理する必要もない」と公言して、従業員が数十人のときだけでなく、数千人規模になっても四無主義を貫いたといわれています。


100人の社員を雇ったとしたら、5人くらいは出来の悪い人もいますが、そうした人のクビを切らないことが、全社員の一体感を生み出しました。


出来の悪い社員がいたとしても、簡単にクビを切らなければ、安心して一生懸命に働いてくれる……という信念を貫いたのです。


こうした優しさは、現代の経営者に一番欠けているものだと思います。


■二世経営者が社員に優しくできない理由


政治の世界と同じように、最近は「二世」の経営者が増えています。


ボンボン育ちの二世経営者ほど、コスパ(費用対効果)やタイパ(時間対効果)に厳しいといわれていますが、その割には、労働の対価である給料は意外に上げない傾向があるようです。


仕事の生産性ばかりを気にして、会社が儲かっても、社員の給料をアップしないというのは、あまり健全な考え方とはいえません。


なぜ、二世経営者は社員に優しくないのでしょうか?


その原因は、彼らの多くが経済的に恵まれた環境で育ったため、一般庶民の生活を知らないことにあると思います。


親が普通のサラリーマンだったり、それほど裕福ではない家庭で育った人ならば、給料が上がって喜ぶ両親の姿を見たり、ボーナスが出たから家族全員で焼肉を食べに行くなど、一般庶民のささやかな楽しみを経験しているはずです。


二世経営者にそうした経験が一度でもあれば、「社員の給料を上げた方が消費が増えて、世の中の景気が良くなり、結果的に自分の会社も儲かる」という、ごく当たり前の発想ができるはずです。


彼らには、「会社の外に一歩出たら、社員は消費者になる」というイメージができないのかもしれません。



和田秀樹『なぜか人生がうまくいく「優しい人」の科学』(クロスメディア・パブリッシング)

アメリカの自動車メーカー・フォードを創業したヘンリー・フォードは、見習いの機械工から始めて、会社を起こしたことで知られています。


ライン生産方式によってクルマの大量生産を実現し、一般庶民の間にクルマを普及させたことばかりが注目されていますが、彼の一番の業績は給料を格段にアップさせて、社員や地域、世の中を豊かにしたことです。


クルマの値段を安くするだけでなく、クルマが買える人を増やすことによって、産業構造と社会を変革したから「自動車王」と呼ばれているのです。


会社が持つ技術が向上するから製品が売れるのではなく、人々がお金を持っているから製品が売れるのです。


■会社が社員を大事にするから、社員も会社を大事にする


社員の給料を増やすことが最優先の課題だということを理解していないことが、二世経営者が社員に優しくできない一番の原因のように思います。


昔の日本企業は、会社が社員を大事にするから、社員も会社を大事にすることで成り立っていましたが、現在はそうした考え方が根本的に崩れて、優しさのない会社になっています。


日本企業の国際競争力がすっかり弱くなり、海外企業に勝てなくなってしまったのは、こうしたことも少なからず関係しているのではないでしょうか。


こんな時代だからこそ、上に立つ人が、「優しさとは何か?」について、真剣に考えてほしいと思っています。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)

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