若手に「小さな行動」を促すのが上手いマネジャーの「口癖」とは?

2024年2月15日(木)4時0分 JBpress

「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」。これまでの育て方が通用せず、会社を離れようとする若手社員に、上司はどう向き合えばいいのか?本連載は、リクルートワークス研究所の主任研究員が、独自調査を通じてZ世代の実像に迫り、効果的な育成ポイントを解説した『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(古屋星斗著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。若手社員の定着・育成のヒントを探る。

 第5回は、若手が「小さな第一歩」を踏み出しやすくするためにマネジャーができる工夫について解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 超大手企業の花形部門で働く20代社員が発した「離れ小島」の意味とは?
■第2回 総合電機メーカー入社3年目の若手が、副業先の地方企業で得た手ごたえとは?
■第3回 調査で判明、育成上手のマネジャーになるための「黄金ルート」とは?
■第4回 マネジャー歴10年、大手企業社員が気づいた、若手育成の重要なヒントとは?
■第5回 若手に「小さな行動」を促すのが上手いマネジャーの「口癖」とは?(本稿)

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①“言い訳”の提供

 若手と向き合っていてこんなジレンマを感じたことがないだろうか。

 何らかの行動をすることにはコストとリスクが伴う。もちろん、行動にはリターンもあって、本書でも触れてきたとおり「やったもん勝ち」に近いような利益がキャリア形成における行動にはあるのだが、それを実感できるのは行動したことがある人だけなので、最初の一歩目を踏み出したことがない人には何と言っても伝わることはない。

 このジレンマだ。やればわかるし、まずはやってみようよと言うのだが伝わらない。なぜ伝わらないのか。それは行動したことがある人から見た視点に過ぎないからだ。

 ここで筆者の反省の話をしたい。筆者は若手社会人のキャリア形成の研究も専門にしており、若手に対して「スモールステップ」(小さな行動)の重要性を提唱している。

 現在耳目(じもく)を集めるような大きなアクションをしている社会人は、過去にスモールステップと呼ばれる小さな行動の頻度が高かったことがわかっているためだ。

 スモールステップとして観測されているのは、例えば「やりたいことを話す」「友達に誘われたイベント等に行く」「LINE等で目的に合わせたグループをつくる」など。

 その特徴は、行っても誰かに自慢できない(承認欲求は満たされない)が、特に自律的に行うことは求められず、リスクフリーで行え、目標が明確でないときでも目標が明確になった後に役に立つ準備運動のような行動であった。

 スモールステップを検証し提唱した背景には、まさに「『まずやってみようよ』のハードルが、やったことがない人には高い問題」があった。人の行動とはどう起こるのか。

 皆、マインドセットの話をするがマインドセットを変えることほど難しいことはないわけで、マインドセットを変えるような小さな行動が、第一歩なのではないかと考えたのだ。

 筆者の論文ではまさにこの小さな行動がマインドセット(専門用語だがポジティブ・フレーミングと呼ばれるもの)に影響を与えていることが示唆される。

 しかし、スモールステップの話をしていると、今度は次のような質問が若手からたくさん寄せられるようになった。

「スモールステップはどうやって起こせばいいのですか?」

 筆者は、スモールステップは起こすハードルは限界まで低いと考えており、どうやって起こせばいいのかという問い自体を想像していなかった。

 誰でもできること、だからこそ多くの人が「やろうと思えばいつでもできるし、そんなことしても意味がない」と馬鹿にして実施していないわけで、重要性を知りさえすれば若手は誰でも起こせるだろうと考えてしまったのだ。

 ここに筆者の反省点がある。自身のキャリアを変えるビッグアクションに至るためのスモールステップの頻度を上げる最後のピースが足りていなかったのだ。

 検証し直すなか、改めて浮上してきたピースはモヤモヤしている若手自身がどうこうするだけでは獲得できない要素だった。それは「行動するための言い訳」の存在だ。

 言い訳というと言い訳がましいとか失敗の正当化といった使われ方をするので悪いイメージがあるが、キャリア形成における言い訳の価値は決して悪いばかりではない。言い訳があることで人はどんな行動も格段にしやすくなるからだ。

「業務上必要とのことで上司の指示で参加しましたが、自分が想像していた内容と全然違った視点が得られて刺激的でした。・・・」

 若手社会人向けの講演を実施した際に終了後のアンケートで、こういった趣旨の感想を目にする。参加した理由は上司や会社の指示と記載されているが、感想として長文の思いを記す参加者がいる。

 筆者は勉強会や講演、イベント等で最も得をしているのは、“自分の通常の行動的にはその場にいるはずがなかった人”だと感じている。普通にその場に来られるような習慣がある人はその場でなくても、いつか同様の場に参加しその場で得られるような知見やネットワークを獲得できていた可能性が高い。

 そうでない人、つまり参加理由が「上司に言われて来ました」とか「会社の都合で来ざるを得ませんでした」「代理で来ました」といった人は、自分の意思だけでは一生出合うことがなかった機会に飛び込んでいる。そのほうが得をしているだろう。

 これが「言い訳」の効果だ。キャリア自律が重要だからこそ、最初の一歩目は自律性に依拠しない方策が必要となるのだ。

「やりたいこと」や本人の希望を尊重しそれを過剰なほどに求める現代の学校教育に始まる状況は、それが“ある”若者にとっては最高の環境になりうるが、それが“ない”若者には辛く苦しく、“ある”若者との差が広がる一方である。抜き身の本人の意思だけを行動の動機にするのではなく、かつてはそこに本人の力のせいだけにしない仕掛けがあったのだ。それを筆者は「行動のための言い訳」と表現している。

 言い訳があることで、人は行動のハードルがぐっと下がる。何か意識が高そうな勉強会があるとして、そこに「自分の意思で行ってきました」と言うのは多くの若者にとって気恥ずかしいかもしれないが「上司に頼まれて行ってきました」と言えればどれだけ楽かわからないし、しかも行った結果得られる行動した事実には差異はない。

 言い訳を示すことが、モヤモヤした不安を抱えるが行動できていない若手を動かすための処方箋となりうる。言い訳で小さな行動を本人の自発性だけに依拠しない他律的なものにしてしまうのだ。また、それはもしかすると“他率”かもしれない。最初の一歩目は他者に率いられて実行することで、行動量を増やすのだ。

 かつてそういった一歩目を踏み出した記憶が蘇ってくる諸氏もいるのではないか。

 この「行動のための言い訳」を若手にうまくつくっているなと感じた、マネジャーの口癖をいくつか示しておこう。

——それはもう〇〇がやったことがあるよ。
——まだ社内で誰もやったことがないから、気楽にやってみて。
——自分もわからないので調べてきてくれない?
——こういうオンラインイベントがあるんだけど、誕生日が3の倍数の人いたら行ってみて。
——人事に提出する書類に付け加えるからこの半期で勉強していることがあれば教えてくださいね。

 若手の意思を尊重しようとするあまり、聞き分けの良いマネジャーにばかりなろうとしていないだろうか。わがままを聞くだけでは、若手のモヤモヤした不安は解消されない。小さな行動こそが大事だとすれば、マネジャーはそれを「行動のための言い訳」で促すことが可能なのだ。

<連載ラインアップ>
■第1回 超大手企業の花形部門で働く20代社員が発した「離れ小島」の意味とは?
■第2回 総合電機メーカー入社3年目の若手が、副業先の地方企業で得た手ごたえとは?
■第3回 調査で判明、育成上手のマネジャーになるための「黄金ルート」とは?
■第4回 マネジャー歴10年、大手企業社員が気づいた、若手育成の重要なヒントとは?
■第5回 若手に「小さな行動」を促すのが上手いマネジャーの「口癖」とは?(本稿)

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筆者:古屋 星斗

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