なぜ北海道は「セブンよりセコマ」なのか…道民に圧倒的支持されるコンビニの「3大すごい」

2024年2月22日(木)16時15分 プレジデント社

セイコーマート 浜頓別店(写真=松岡明芳/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

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日本最強のコンビニはセブン‐イレブンだが、北海道だけは地元のコンビニ「セイコーマート」にかなわない。物流コンサルタントの角井亮一さんは「セイコーマートと、大手コンビニとの間には、同じコンビニ業態でありながら、店舗展開や運営方法の考え方に大きな違いがある。だからこそ、北海道の人たちに支持されるのだろう」という——。

※本稿は、角井亮一『最先端の物流戦略』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。


セイコーマート 浜頓別店(写真=松岡明芳/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

■北海道は「コンビニの重要度」が違う


北海道は人口10万人あたりのCVS(コンビニエンスストア)店舗数が全国の都道府県でもっとも多いところです(図表1参照)。言い換えると、それだけコンビニに頼っている人が多い、ということにもなります。


出典=『最先端の物流戦略

ただし、1位の北海道、2位の山梨県と、3位の東京都ではそれぞれ事情が異なります。北海道は広大な面積の中でコンビニも人も点在し、山梨県は山地部分がほとんど(9割近くが山地面積)を占め、限られた生活圏にコンビニが集中しているのに対し、東京都の場合はほぼ平地ですから、どこに行っても少し歩けばコンビニは選び放題です。


生活の中でのコンビニの重要度(コンビニがないと生活に影響が出るところと、日常の利便性を高めているところ)が違うのです。


ご存じの方も多いと思いますが、北海道のコンビニと言えば、セコマグループが展開する「セイコーマート」です。老舗酒類卸丸ヨ西尾の社員だった赤尾昭彦氏が、規制職種として守られていた、得意先の酒店を近代化し存続させる支援策として立ち上げたもので、1971年8月に出店した「コンビニエンスストアはぎなか」がその1号店です。セブン‐イレブンの1号店、豊洲店の出店(1974年5月)より3年も早いことになります。


■大手他社とは違う店舗展開や運営の方法


このセイコーマートと、大手コンビニ3社とを比較したのが図表2です。


出典=『最先端の物流戦略

これを見れば、いかにセイコーマートが北海道に集中しているか、よくわかると思います。北海道内だけで見れば、もっとも店舗数の多いコンビニがセイコーマートであり、人口減少が急速に進む北海道にあっては、業界トップのセブン‐イレブンでさえ、店舗数を減少させているのに対し、セイコーマートは店舗数を増やしてきています。


このあたりを含め、セイコーマートと、大手コンビニとの間には、同じコンビニ業態でありながら、店舗展開や運営方法の考え方に大きな違いがあります。


■179市町村中175市町村で出店済み、カバー率は99.8%


まず、店に対する考え方ですが、大手は、出店エリアを全国に拡大することで成長を図ってきました。それに対し、セイコーマートの場合、一部、本州にも店舗がありますが、北海道内で店舗網の拡大を進めています。


セブン‐イレブンは、出店エリアへの商品供給体制を整えてから一気に店舗展開を図るドミナント出店を徹底していますから、出店開始までに時間がかかるものの、いったん出店を決めれば、店舗は面の状態で増えていきます。


一方、セイコーマートの場合は、北海道内をくまなく、という印象があります。


2023年8月、大手3社のなかで、北海道への進出がもっとも早かったローソンが、北海道の北端に近い稚内に2店舗を出店したことが話題になりました。実は、セイコーマートは、すでに、1993年の時点で稚内市に店舗を構えていました。


写真=iStock.com/Kimichan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kimichan

セイコーマートの場合、採算がとれなさそうな立地でも、自治体や地域からの要望に応じ出店することがあります。コミュニティバスの待合所の併設とその清掃業務を受託するという条件で出店したり、出店用地を地域住民が買い上げ、住民が用地を紋別市に寄附し、その用地を紋別市が無償でセイコーマートに提供するといったケースもあるそうです。


現在、セコマグループの小売店は、道内179市町村中175の市町村に出店、道内総人口の99.8%をカバーしています(セブン‐イレブンの場合、120市町村)。


■FCを推奨せず、直轄店経営を軸


またチェーン展開を前提にしながら、現在、フランチャイズ(FC)の積極的な加盟店募集をせず、直轄店化を進めているというのもセイコーマートならでは、です。


いまのように、日本中どこにでもコンビニがあるような状態になってくると、大手といえども、出店するだけで儲かる時代ではありません。FC本部は出店が増えればそれだけ収益が増える構造ですが、FCオーナーの場合は違います。売上がしっかり見込め、手元に利益が残らなければ、それ以上の出店拡大は望めません。


特に最近は、どのコンビニチェーンでも、競争が厳しいうえ、店舗スタッフの人手確保の難しさもあり、FCオーナーの利益を削る状況が続いています。それに対し各チェーン本部では、既存のFCオーナーに複数店舗の運営を勧めたり(複数店舗を運営すれば、オーナーの利益額は増える傾向にある)、ネットコンビニやデリバリーサービスを利用した宅配サービスのように、店舗側の負担が比較的軽く、売上がオンされるような施策を増やしたり、店舗スタッフの採用をサポートする仕組みを採用するケースが多くなっています。


コンビニを取り巻く環境が、そうした状況に進んでいる中、セイコーマートでは直轄店を増やしています。しかも、コンビニの代名詞ともいえる、24時間営業にはこだわらない店舗です。


■大地震でも「インフラ」として役割を果たした


同社が「(40%台後半の)直轄店比率を7割に引き上げたい」と宣言をし、積極的にFC加盟店募集をしなくなったのは、2010年7月のことです。


当時は、加盟店と本部との関係性に変化が生まれてきた頃で、セブン‐イレブン・ジャパンにおいて賞味期限切れ間近の商品の値下げ販売の実施を巡り、公正取引委員会が独禁法違反(優越的地位の乱用)で本部に排除措置命令を出したこともありました(2009年6月)。


ではなぜ、セイコーマートは直轄店を目指すのか。


当時の丸谷智保社長(現会長)は、直轄店のメリットとして「本部の商品戦略が各店に行き届きやすくなり、商品配下率が圧倒的に高まる」と話していました。


もう1つ、直轄店には、臨機応変な対応ができるというメリットもあります。このメリットが大きく効果を発揮したのが、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震(地震の規模はマグニチュード6.7、最大震度7)のときです。


大規模な土砂崩れや地盤の液状化、「ブラックアウト(全域停電)」など、道内に大きな被害をもたらしたこの地震ですが、大手コンビニが生活のインフラ機能としての役割を果たせない状況にある中、セイコーマートでは、ブラックアウト翌朝から、ガス釡を設置していた店舗でおにぎりを販売。具材がなくなってしまった店では、店舗の判断で、通常メニューにはない“塩おにぎり”まで提供していました。


この日、丸谷社長(現会長)は東京にいたそうですが、各店舗での対応を知り、感激していたそうです。


写真=iStock.com/kuarmungadd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuarmungadd

■「セブンでもかなわない」顧客満足度


日常生活を支えるコンビニ商品の販売に加え、こうした地域に向き合うさまざまな取り組みなどにより、セイコーマートは“セブン‐イレブンもかなわないコンビニ”と評されることもあります。


その一例に、例年、サービス産業生産性協議会で実施している「顧客満足度調査」があります。その調査において、セコマは過去12年間中11回、コンビニ部門の1位の評価を獲得しています。


現在、セイコーマートは、現社長の赤尾洋昭氏が打ち出した“デイリーユース・ストア”をコンセプトに事業展開を進めています。デイリーユース・ストアとは


・日々必要な商品をリーズナブルな価格で販売する
・お客さんが買える値段で
・毎日値段を気にせず、美味しく食べられる
・EDRP(エブリデイ・リーズナブル・プライス)

というお店のことです。


では、このデイリーユース・ストアが、どのように利用されているか。2000年からスタートしたセイコーマートのポイントカードのデータによれば、次のようになっています。


売上の約6割がポイントカード利用者によるものです。アプリ会員の場合、月7回の来店が平均です。なかには年間970回来店する(朝、昼、夜、晩酌での利用)熱心なファンもいると言います。


■売り上げの半分をPBが占める


セイコーマートが、そこまで顧客を惹きつけるのはなぜか。そのポイントについて考えていきたいと思います。


同社の魅力の1つに、自社ブランド「Secoma」として展開している商品群があります。同社ではリテールブランドと呼んでいますが、いわゆるプライベートブランド(PB)です。


同社のPBは、他コンビニと比べて古く、スタートは1995年。第1号商品はバニラアイスクリームでした。2006年には、北海道メロン果汁を使用したアイスを発売しています。


セブン‐イレブンのPB「セブンプレミアム」が立ち上がったのは2011年ですから、かなり早い段階でのPBスタートでした。現在、1000SKUを展開、タバコを除く、売上の50%以上をこのSecomaブランドが占めています。酒販店支援から生まれた業態ということもあり、直輸入のワイン(60SKU前後)は年間400万本を販売しているそうです。


セイコーマートの店舗展開はほぼ道内限定ですが、この「Secoma」の商品については、道外のチェーン店にも供給しています。


スポットでの提供を含めると、食品スーパーを中心に多数供給しています。グループ会社の豊富牛乳公社が生産する牛乳は、各社用の商品名で提供することもあります。


セイコーマートでの販売量(年間約2000万本)を大きく上回る2500万本。クレート(食品流通業界で通い箱として使われているプラスチック容器)を使わず、12本単位で包装し、パレットに積んで届けるため、容器の戻しは不要で、遠方からの依頼も多くなっています。


アイスクリームも年間2200万〜2300万個を生産していますが、そのうち外販が3分の1を占めています。


こうした本州向けの外販の売上は、年間77億円(2023年12月期)になっています。


■店内調理「ホットシェフ」は年間6000万食の大人気


あの北海道胆振東部地震の際、温かいおにぎりの提供を可能にした店内調理「ホットシェフ」も同社の魅力の1つです。


1994年にスタートし、現在、全店の8割で導入(21年1月末時点で、導入店舗約910店舗)。売上額No.1のカツ丼、売上数量No.1のフライドチキン、カレーライス、豚丼、おにぎり、クロワッサンなど常時30種類以上の作りたて商品を展開、年間販売量は6000万食に達しています。


最近では、本社の近くに、広々としたイートインスペースがあるタイプの店舗もありました。


■80億円を投資して物流センターを13拠点


セコマのここがすごい! ①都市部と遠隔地で配送を使い分け

広大な北海道は、札幌周辺のように人口が集中するエリアもあれば、人がまばらな地域もあります。しかし、セイコーマートはどのエリアにもくまなく店舗展開しています。


写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

そうすると、人口の多寡によって、エリアの物流効率には差がつきそうなものですが、セコマグループは全道をくまなくつなぐ物流ネットワークを構築しています。


いったい、どうやっているのでしょうか。


同社では、1997年から2003年にかけて、80億円の投資により、釧路、旭川、函館、稚内、札幌、帯広の順に、自前の物流センターを建設していきました。現在、13拠点まで拡大しています。


このうち、釧路は、冷凍、冷蔵、常温に対応するフルラインのセンターです。チルドについては全センターで扱い、保管、仕分け、出荷に対応しています。


配送は、都市部と遠隔地向けで、頻度も含め、使い分けています。


たとえば、都市部では、温度帯別に1日2〜3回の配送。遠隔地向けは、1台のトラックに各カテゴリーの商品を混載し、1日1回の配送です。


冷凍は週3回、チルドは毎日の配送。弁当については「ホットシェフ」を主にしています。


■バックヤードを大きくして納品頻度を下げる


在庫スペースをほとんど持たない、現在、コンビニの主流となっている店舗スタイルと違い、バックヤードを大きくとっています。北海道は他の地域に比べ、地代が安くすむということもあるからでしょう。バックヤードがある分、納品頻度を下げることができます。


配送トラックは240台(グループ会社および、協力会社所有を含む)。グループ会社、セイコーフレッシュフーズがその運用を任されており、走行距離は1日延べ7万キロ。配送ルート数は、札幌便が111ルート、旭川便が25ルート、釧路便が28ルートあります。


■納品後の帰り道でも「空荷」にしない


セコマのここがすごい! ②驚異の「積載率8割以上」を維持

同社の物流体制には、通常の物流視点からはとても信じられない状態が組み込まれています。常時、積載率8割以上を維持できているというのです。


広い北海道では、片道配送(帰りの便が空荷になる)こそが最大の非効率になります。そこで同社では、自前の物流機能とグループ会社の製造機能を組み合わせてコストを吸収し、北海道全域に散らばる店舗に配送する物流システムを構築しています。


たとえば、このようなイメージです(図表3)。


出典=『最先端の物流戦略

札幌物流センターから稚内物流センターに荷物を転送するとします。帰りの便で、その途中にある豊富町の牛乳工場(豊富牛乳公社)で牛乳の集荷を行い、次に北見市の野菜加工工場から漬物やカット野菜を集荷している旭川物流センターに立ち寄り、旭川物流センター旭川配送センターエリア分の牛乳を下ろし、空いたスペースに漬物・カット野菜を積み込み、札幌物流センターに戻ってきます。


また、帯広、稚内、旭川、函館について、ケース単位での出荷はそれぞれのセンターに保管してあるものを使用しますが、小口の出荷が必要になる場合は、そのピースを札幌と釧路の配送センターから移動させます。在庫を集中して持つ札幌が、その他センターでの端数の扱いをまとめて処理することで、センター業務の効率化にもつながっていると考えられます。


■魚は旬の時期に1年分競り落とし弁当へ


セコマのここがすごい! ③自社グループ食品工場の運営

そして、最後に商品の供給体制について話しておきます。


セコマでは、道内21カ所に自社グループの食品工場を運営しています。


道東・根室にある北嶺は、道内6漁港で仲買としてセリに参加することができ、サンマやサケなどを旬の時期に1年分買い付け、主に惣菜や弁当の具材への加工を担っています。


道北の豊富牛乳公社は、1996年に資本参加した株式会社で、自社ブランド用の飲用乳(年間約4500万本)および乳製品を生産するグループの基幹工場。牛乳はOEM【注】(Original Equipment Manufacturer)として道外のチェーンストアにも供給しています。


【注】メーカーが自社ではないブランドの製品を製造すること。


■少子高齢化でますます欠かせない存在に


規格外品のメロンを原料に、果汁入りアイスクリームをPBとして製造していることについては、先に述べていますが、そのほかにも、地元の農協と協力して規格外品を使った商品の製造を行っています。少量生産からスタートし、徐々に産地を広げていく方針のもとで開発を進めています。



角井亮一『最先端の物流戦略』(PHPビジネス新書)

生鮮食品については、同社によれば「収穫から店舗に届くまでのリードタイムを短縮し、鮮度を高め、食品スーパーに負けない価格にできれば、売れることがわかっている」とのこと。これから先、生鮮食品の品揃えの拡大にも手を広げていくことが十分に予想できます。


北海道に限ったことではありませんが、今後、少子高齢化が進むと、わずかな距離でも、荷物を抱えての移動が苦になる人が増えてきます。


そうした時代になればなるほど、“デイリーユース・ストア”をコンセプトとするセイコーマートは、地域の生活に欠かせない存在となっていくのでしょう。


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角井 亮一(かくい・りょういち)
イー・ロジット取締役会長
1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を3年で単位修了し、渡米。ゴールデンゲート大学でMBA取得。船井総合研究所、光輝物流などを経て、2000年、通販専門物流代行会社のイー・ロジットを設立。日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語でも書籍を累計20冊以上出版する。
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(イー・ロジット取締役会長 角井 亮一)

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