「やっぱり高校は出ておかないと」長らく登校拒否だった高2女子が自らそう言い、人生を好転できたキッカケ

2024年2月22日(木)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

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思春期で何を言っても反抗する子供への声掛けはどうすればよいのか。小児科医の成田奈緒子さんは「正論を押し付けないことが思春期においてはとくに重要だ。『親』という枠をいったん取り外し、自分の経験に即した等身大のメッセージが子供の心に響く」という——。

※本稿は、成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。


■反抗期の子供は親の正論が不快


「正論を押し付けないこと」、思春期においてはとくにその心がけが重要です。


「そんな調子じゃ将来、社会でやっていけないぞ」などの警告は正しいかもしれませんが、反抗期の子供の耳には不快に響くだけです。


「お母さんはあなたと同い年のころ、こんなことも、こんなこともできたのに」という上から目線の比較も、子供の神経を逆なでします。高学歴で知的な親ほど失敗しやすいポイントなので、気をつけたいところです。


写真=iStock.com/takasuu
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■少し年上の先輩の気持ちになってみる


「そうは言っても指をくわえて見ていたら、将来困るのは目に見えている」というときは、伝え方を変えましょう。


「親」や「大人」の視点で語るのではなく、「少し年上の先輩」の気持ちになってみるのです。子供が中学1年なら中2か中3のころに、しばしタイムスリップしてみてください。


この年頃の子供にとって、大人は反抗の対象になりがちですが、少しだけ年長の人は尊敬や憧れの対象になります。もし自分が、そんな先輩のような若者なら、この子にどういう言葉をかけるだろうか……と想像してみましょう。


すると「ゲームばかりしてちゃダメだ」「本を読まないと語彙(ごい)が増えないぞ」などとは決して言わない、とわかりますね。同じメッセージを伝えるにしても、「俺、けっこう行き詰まってたときにこの本を読んで、助けられたんだよね〜」という風に、自分の経験に即した等身大のメッセージが出てくるはずです。


不登校の子供に対しても「学校に行かないと社会に出てから不利だぞ」などという正論ではなく、「だよな〜、俺も学校行きたくないときあったわ〜」「でもさ、そのときにさ……」といった言葉かけになるでしょう。


この方法は、単なる「子供に響きやすいテクニック」にはとどまりません。


「親」という枠をいったん取り外すことで、日ごろつい陥りがちな「子供=自分の従属物」という発想からも抜け出せるのです。親ではなく「先輩」なら、目の前にいる後輩を自分のものだなどとは思わず、別個の人格として接するでしょう。


その意味で「先輩になる」ことは、子供を個人として客体化し、尊重することにもつながるのです。


■専門家の話には聞く耳を持つ


反抗の度合いが強くてそもそも会話できない、引きこもって部屋から出てこない、などの深刻な状態にあるときは、医師や心理士などの専門家の助けを借りましょう。


親には激しく反抗する子でも、よその大人に対しては比較的耳を傾けるものです。加えて、専門家ならではの科学的根拠のある説明は、10代の子に意外なほど強く響きます。


不登校、摂食障害、引きこもりなどの状態にある子は、自分でも現状に不安を覚えています。そこに医師が「今、あなたの脳にはセロトニンが分泌されてなくて、だから不安な気持ちになるんだよ」「セロトニン神経を育てるにはね……」と明確に説明し、解決策を示すと「やってみよう」という気持ちが起こりやすいのです。


過食が止まらなかったある中一の男の子に、血液検査の結果を見せながら「○○の数値は正常値の2倍、○○は1.5倍。このままじゃ重病になる可能性があるよ」と話したところ、はじめて危機感を覚え、食生活を変える努力を始めたこともありました。


通院しているうちに、親に言えない話を医師に話す子も多くいます。学校でイヤな目にあったこと、内心気にしていること、やめたいけれどやめられないことなど。出せなかった思いを外に出すことは、事態が好転する大きなきっかけになります。


■困ったときに「助けて」と言えるか


専門家のほかにも頼れる誰かがいれば、さらにベターです。小学校時代の先生や塾の先生など、これまで子供が信頼し、心を開いていた大人がいたら相談してみましょう。


写真=iStock.com/ben-bryant
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ben-bryant

一番良くないのは、家のなかだけで抱え込もうとすることです。


真面目な人ほど、自分たちだけでなんとかしようとしがちです。とくに母親が、夫にさえ相談できず、一人きりで追い詰められていくケースは多数あります。


困ったときに「助けて」と言えるかどうかは大事な分かれ道。助けを求め、実際に助けてもらって「良かったね、有難いね」と子供に言えば、子供もまた、「社会の中には助けてくれる人もたくさんいるんだ」という思い=ソーシャルサポートの認識を持てます。


それは、親子双方がレジリエンスを高めていく大きな一歩となるでしょう。


■不登校だった高2女子の変化


ここで、逆境のなかでレジリエンスを飛躍的に高めた女の子の話を一つ、紹介しましょう。


その子は高校二年生。といっても、長らく高校に通えていませんでした。彼女が私が主宰する親子支援事業「子育て科学アクシス」を訪れたときは、不安が強く、外に出るのもやっと、という状態でした。



成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)

ご両親と本人から話を聞いていく過程で、最初はほとんど口を開かなかった彼女が唯一、自分から話したのが「アニメのキャラクター」の話でした。


もともとお父さんが昭和のアニメファンで、小さいころはしょっちゅう二人でアニメのショーに行っていたそうです。学校に行けなくなった彼女は、そのことを思い出し、昭和アニメのキャラクターを模写することに燃えました。


ご両親は、「学校にも行かないで絵ばっかり描いて」と不安顔。しかし本人は次々模写を続けて、いつの間にか自分でストーリーを考え、スピンオフの物語を書いて、コミケに出店するようになりました。


なんとそこに「ファン」もつくようになり、そのことで彼女はどんどん自信がついてきました。それとともに、自律神経の活動量など、医学上の数値も急激に好転しました。さらには「やっぱり高校は出ておかないと」と自ら言いだし、通信制の学校に転校すべく準備を開始。この前進ぶりには、ご両親もただただ驚くばかりでした。


写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■彼女を変えた「好きなこと」と「人とのかかわり」


なぜ、ここまで劇的な変化が訪れたのでしょうか。やはり第一には「好きなこと」を思い出し、体験したこと。ほかの人にはない知識やスキルが自分にはあった、という再発見が、彼女に自信を取り戻させました。


もう一つは、コミケでの「人との関わり」でした。SNSで発信した彼女の絵に、すっかりファンになって、わざわざ地方からコミケに訪ねてきた方と、初対面なのにとても楽しく話ができたそうです。


「人とコミュニケーションがとれた」という達成感、そして「ありがとう」と言われた安心感と感謝。それは今後も、彼女と「外の世界」を結び付ける紐帯(ちゅうたい)となるでしょう。


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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2009年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。
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(文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子)

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