「友達のように接する上司」は嫌われる…1万人以上が答えたアンケート調査で見えた"理想の上司"の特徴

2024年2月22日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

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若手社員の「理想の上司」とはどんなものか。金沢大学の金間大介教授は「複数のアンケート調査によると、『自分の意見や考えに耳を傾けてくれる』や『仕事について丁寧な指導をする』といったことが上司に求められいる。逆に『仕事の成果にこだわる』や『仕事を任せて見守る』といったことは期待されていない」という——。(第3回)

※本稿は、金間大介『静かに退職する若者たち』(PHP)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/chachamal
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■若手社員は上司にどんなことを求めているのか


本稿では、「部下が上司に期待していること」をテーマにする。このテーマについては、多くの調査会社がデータを取得、公表している。よって、本稿もデータリッチに進めてみよう。そこへ僕の解釈を乗せて展開していく。ぜひ読者の皆さんもいろいろな解釈を巡らせながら読み進めてほしい。


まずは、コロナ前のデータから。図表1は、エン・ジャパンが2019年に実施した上司と部下に関する意識調査の結果だ。


上司に期待していること(出所=金間大介『静かに退職する若者たち』)

同社が運用する「エン転職」というサービスを利用するユーザー11,000人強を対象としている。同調査の結果でよく話題になるのは、「芸能人で例える理想の上司」だ。所ジョージさんや天海祐希(あまみゆうき)さんらがよく上位に名を連ねる。同調査は毎年行われているので、その変遷を追うだけでも、時代ごとにどんな上司像が理想とされているかがわかる。


ただこの「芸能人で例える理想の上司」に関する分析は、やりつくされた感があるので(それをあえて金間目線でやってほしいという人も増えていて、それはそれでありがたいことだが)、ここでは別の角度から、「上司に期待していることは何ですか?」という質問を取り上げよう。


このデータは、年代ごとに区切って公表している点が興味深い。そこで年代ごとのポイント差が大きいところに矢印を置いた。


図の最上位、20代から40代以上を通して票が集まっているのが、「自分の意見や考えに耳を傾けてくれる」上司だ。特に20代の支持者が多い。興味深いのはここからで、20代で次に多いのが「具体的なアドバイスをくれる」上司となる。これは、30代では第4位、40代では第5位だ。


同様に「いつでも相談に乗ってくれる」、「業務に一緒に取り組んでくれる」が20代では人気で、上の世代と大きな差がついている。逆に「公平・公正に評価してくれる」、「仕事を任せてくれる」は40代で比較的順位が高い。


■「結果にこだわる上司」は求められていない


ただし、その「仕事を任せてくれる」を含め、「的確なゴール設定をしてくれる」、「厳しいことも敢えて伝えてくれる」、「論理的に説明してくれる」など、仕事のパフォーマンスや成果に直結しそうな項目ほど、仕事を覚えた30代、40代以上に人気かと思えば、そうでもない。これらの項目よりも「具体的なアドバイスをくれる」、「気分に浮き沈みがない」といった項目の方が上だ。


成果に直結、という意味では、その言葉通り「仕事の成果にこだわる」という項目があるが、なんとこれが全世代で最下位だ。全体で100人に6人しかこれを選択していない(複数回答可という設定なのにもかかわらず!)。このデータには「いい子症候群」を分析している僕も、とても驚いた。


「そもそも成果にこだわらない仕事って何なんだ?」「それって仕事の意味あるのか?」と思ってしまう。しかしこれが現実だ。今の日本では、仕事の成果にこだわる上司こそ最も歓迎されないタイプ、となる。念押しで恐縮だが、この傾向は世代を問うていない。


写真=iStock.com/takasuu
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■とにかくリーダーになりたくない


通常、成果にこだわらなければならない立場といえばリーダーだが、今の若者は出世どころか係長にすらなりたがらない。僕の調査でも「最もつきたくない役割はリーダー」だった。リーダーになれば成果を意識せざるを得ず、それは同時に、最も歓迎されない存在となる。何をするにも周りの目を気にする日本人にとって、そんな役割は絶対やりたくない。


それでもリーダーが必要というなら、その心理的負荷に見合うだけのインセンティブを付与しているかどうかが問題となる。が、今の日本で、そんな充実したインセンティブを用意している組織をそう見たことがない。その実態を踏まえ、僕は今の日本社会を次のように揶揄(やゆ)している。


・じっとしている方が得
・「できないふり」「忙しいふり」の演技バトル
・「やらない」を選ぶ方が合理的/やった者負け・言った者負け
・ゼロメリット社会

このような状況について、太田肇(おおたはじめ)氏は『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)にまとめていて、実に興味深い(もう全くその通り)。


■「丁寧に指導する上司」が求められている


今の若者にとっての理想の上司像とは何か。引き続き別のデータから解きほぐしていこう。


次のデータ源は、日本能率協会の「2022年度新入社員意識調査」だ。このデータの最大の特徴は、やはり新入社員対象ということだろう。その中から、「あなたが理想的だと思うのはどのような上司や先輩ですか」(上位3つ選択)の集計結果を図表2に示す。


理想的だと思う上司や先輩 (出所=金間大介『静かに退職する若者たち』)

この図の興味深いところは、経年変化があることだ。ここ10年間、そのときの新入社員がどのように感じていたかが見て取れる。まず目に飛び込んでくるのは、どの時代においても「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」が1位ということ。しかもこの10年で、その割合はおよそ20ポイントも増加している。2022年に至っては、10人のうち7人がこれを理想とする状態だ。


このようなトレンドが、僕が「現在の若者こそ指示待ち傾向が顕著」と主張する一因だ。このほか、10ポイント以上の顕著な変化を示している項目に矢印をつけた。「仕事について丁寧な……」ともう1つ、急上昇しているのが「部下の意見・要望に対し、動いてくれる」だ。ご覧の通り、ほぼ倍増している。何と言うか、これを論じだすと、一悶着(ひともんちゃく)ありそうだ(だから今、このまま筆を進めるか、ちょっと迷ってます……)。


■「場合によって叱ってくれる上司」の需要は半減


「動いてくれる」って。「聞いてくれる」ならまだしも……。ちなみに「聞いてくれる上司・先輩」は、「動いてくれる上司・先輩」の2項目上にちゃんと存在している。こちらは10年間で微減の傾向にあって、もはや「動いてくれる」が逆転しそうだ。もう間もなく、上司や先輩は、聞くだけではなく、動かなければ部下の期待に応えられない時代となるかもしれない。


さて、(何とか)気を取り直して、逆に減少トレンドの項目も見てみよう。この10年で減少した筆頭格として、「場合によっては叱ってくれる」がある。10年でおよそ半減している。この点だけでも興味深いが、さらに急降下しているのが「仕事の結果に対する情熱を持っている」だ。


この項目、2012年には上から数えて3番目の支持を集めていたのだ。それが2022年には10番目。いったい何が起こっているのか。この結果、図表1の「仕事の成果にこだわる」が最下位だったことにも通ずるところがある。上司が仕事の結果に熱意を持つことが、なぜそれほどまでに現在の若者に敬遠されるのか。その解釈を助けるキーワードは「意識高い系(あっち系)」「圧」「安定」にある。


■最下位は「任せて見守る上司」


ご存じの通り、意識高く活動する人たちのことを「あっち側の人たち」などと表現し、距離を取る傾向が以前からあった。彼らは自分たちとは違う世界の人たちであり、そんな人を上司や先輩に持つと、おのずと自分にも「圧」がかかる。それは「安定」した職場とは真逆に位置し、警戒すべき対象となる。



金間大介『静かに退職する若者たち』(PHP)

もう1つ、ぜひ注目してほしいポイントは、最下位となった「仕事を任せて見守る」だ。もともとの支持率が低いので大きな変化には見えないが、2020年以降では、これを理想の上司・先輩とする新人社員は100人に5人のみだ。


「丁寧な指導をする」上司の支持率が約70%、「任せて見守る」上司は約5%。もう「とにかく任せて、あとは口出しせず」なんていう職人気質的な上司は、絶滅危惧種なのかもしれない(正確には危惧されていないので、単純に絶滅種と言うべきか)。


その他、些細ではあるが、「褒め」の言葉が入る「仕事の結果に対するねぎらい・褒め言葉を忘れない」は、徐々に上昇していたが、直近の2022年では一転して低下傾向にあるのも興味深いところだ。


■「友達のような上司」は必要とされていない


次はSHIBUYA109エンタテイメント「Z世代の仕事に関する意識調査」のデータを見てみよう(図表3)。


質問自体はこれまでと変わらずシンプル。若手社員に対し理想の上司像を尋ねるもので、興味深いのは選択肢の方だ。よくぞ聞いてくれました、という選択肢が並ぶ。


あなたにとっての理想の上司とは?(出所=金間大介『静かに退職する若者たち』)

ツートップは、もうこれまで見てきた通りだ。「分かりやすい言葉で説明してくれる」、「丁寧に教えてくれる」となる。「リーダーシップがある」や「尊敬できる」が真ん中の方にあるが、調査結果を見る前にこの選択肢を見たら、「こんなストレートな選択肢があったら全員が選択する」と言っていたかもしれない(だって、尊敬できる、って最強だと思いませんか)。


さらに下位のほうに目を転じると、「友達のように接してくれる」や「食事に頻繁に誘ってくれる」がある。今このデータを見て、ドキッとした人、多いんじゃないでしょうか。


さて、以上をまとめると、もう今の新入社員にとっての「理想の上司・先輩像」には結論が出ている。


それは、①仕事について丁寧に教えてくれて、②若者の意見や要望に対し(聞いてくれるだけではなく)自ら動いてくれて、③いかなる場合でも叱るなんてとんでもなく、④仕事の結果に決して情熱など持たず、⑤仕事を振っておいて見守るだけなんてあり得ない、⑥ついでに、友だち感覚で「ご飯行こう」とかはなしでといったところか……(あくまでも、僕が言っていることではなく、データが言っていることです)。


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金間 大介(かなま・だいすけ)
金沢大学融合研究域融合科学系 教授
北海道札幌市生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学経営情報学部准教授、 東京農業大学国際食料情報学部准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。また「イノベーションのためのモチベーション」研究も遂行しており、教育や人材育成の業界との連携も多数。主な著書に『イノベーションの動機づけ——アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)。『静かに退職する若者たち』(PHP)などがある。
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(金沢大学融合研究域融合科学系 教授 金間 大介)

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