定年後に月20万円稼げて感謝される…精神科医・和田秀樹が「高齢者にイチオシ」と勧める仕事の種類
2025年2月22日(土)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MIKIphotography
■年金と月収10万円台で考える定年後の仕事選び
多くの人にとって、定年後も働き続ける場合、年収の激減は避けられない現実です。これは“シニアあるある”の一つなのですが……。「年収1000万円プレーヤーが定年延長(再雇用)で半額以下に減給されて怒り狂う」という話をよく見聞きします。
ですが、もし教育費やローンの支払いが残っていないのなら、怒ったり悲しんだりする必要ありませんよね。なんといっても年金があるのですから。それどころか、世間一般の常識に照らし合わせて考えると喜ぶべきかもしれません。「60代で年収500万円ももらえるなんてありがたい」「俺はすごい」ってね。
シビアに聞こえるかもしれませんが、自分の市場価値を冷静に見極めることが大切です。
そして、過大な期待をしないことです。定年延長を経て出世したり、役員に抜擢されたりということはほとんどない、とわきまえておきましょう。たんに長く勤めたからといって重用される時代は、とっくの昔に終焉しています。
定年後の給料は、全国的に名を知られた会社でも「年収300万円」という話はざらにあります。
私は、この「300万円」というのが、仕事探しの分水嶺になる気がしています。
今までの会社にしがみついても300万円なら、よりやりがいのある仕事、好きな仕事を求めて、転職、起業をしてもいいじゃないかと思うのです。つまり年収300万円以下でよいなら、探し方次第でもっとおもしろい仕事ができるのではないかと。どれだけ楽しく、どれだけ感謝され喜ばれるかを基準に考えれば、新たな道が見えてくるでしょう。
写真=iStock.com/MIKIphotography
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■「なんとしてもお金が必要な人」は我慢が得策
定年後の高齢者にとって、働き方は大きく2つのタイプに分かれます。
まずは、「子どもの教育費やローンの支払いがまだあるから、会社に残り(定年延長、再雇用)、少しでも年収を維持したい」という働き方です。そんな方は、できるだけストレスなく組織を軽やかに生き抜いてください。
たとえ年収が300万円に減ったとしても、十分ご立派です。そこで働くことが最適解なのですから、魂を売ってでも、そこにとどまるのが賢明です。職場を“監獄”と割り切って、お金のために担々と働くのは悪い考えではありません。下手に転職して不安定な仕事に挑むより、安定した収入を確保するほうが大事なのです。
ただし、教育費やローンは仕方がないとしても、自家用車を保有している場合、車は手放し、公共交通機関を利用することで支出を削減するなどの調整は必要かもしれません。
■高齢者の道路工事仕事の年収とは
一方で、今の職場を離れる手もありますが、年収を上げることはもちろん、維持することも簡単ではありません。
高齢者が新たに始められる年収の高い仕事として、たとえばコンビニの店長や道路工事などの肉体労働が考えられます。しかし、60代の方にとっては体力的に相当厳しいはず。ムリをすると健康を損なう危険もあります。
道路工事で試算してみましょう。仮に週5日、日給2万円で働くとします。
1年を365日、そのうち土曜・日曜を104日、祝日を16日としましょう。稼働できる日数は245日です(365日−104日−16日=245日)。そして年収を単純計算すると490万円になります(245日×日給20000円=490万円)。
「1日2万円」という高待遇なんて、そうそう見つからない破格の報酬です。皆さんはこの試算をどう捉えますか?
■イチオシしたい月収20万円台の安定職
そして、学費もローンも全部払い終えた方にお勧めしたいのが、年収100万〜200万円、月収換算で10万〜15万円というライン。「年金に担保される生活なのだから、好きな仕事で稼ごう」という働き方です。
たとえば、自宅を少し改装して小さな喫茶店を開いたり、趣味を生かしたライター業などで収入を得る道です。
在宅ワークなど、体力に負担の少ない仕事も多数あります。得意なことを極めれば、年収100万〜200万円のラインなんて軽々と超えられる可能性もありますよ。私がお勧めする具体的な仕事については、本書の3章で詳しく紹介しましょう。
「自営業や起業もいいけれど、やっぱり安定した職に就きたい」
そんな方への私のイチオシは介護職です。
介護業界は人手不足が深刻ですし、力仕事に強い男性の介護職員は重宝されます。月収は20万円台で、年収300万〜400万円台。社会貢献ができて、「感謝される」仕事ですから、精神的な喜びが大きいのです。
写真=iStock.com/Chatchai Limjareon
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■なんとなく「定年延長」「再雇用」は危険
「今の組織から離れても、経済的にやっていける自分」を一刻も早くイメージしておくことが大切です。
私の知人に元官僚がいます。彼は優秀だったのでしょう、定年後、特殊法人にいわゆる“天下り”をしたのですが「来年(65歳)で定年なのだ」と明かしてくれました。
よくよく聞いてみると、彼は天下り先でもうまくやっていたようです。むしろ成功を収めたと言ってもよいレベルのようですが、ルールはルール。
「お前はいいよな、医者というのは定年がないから」と羨ましがられてしまいました。たしかに医者や弁護士のような有資格者は、定年に関係なく働き続けられます。
また、肩書がなくなったらどうするか、早くから考えることをお勧めします。
欧米では会社のなかでもファーストネームで呼び合う文化があります。スティーブ・ジョブズも組織のなかでは「スティーブ」と呼ばれていましたし、部長であっても「トム」だったりするわけです。肩書がなくなっても呼び名は変わりません。
しかし日本では、「課長」「部長」といった肩書で呼ばれることが多いので、定年を迎えて肩書がなくなった途端に「おじいちゃん」「おばあちゃん」になってしまうのです。つまり肩書がなくなった途端に“名無しの権兵衛”状態になるわけです。
日本では下の名前で呼び合う文化がない以上、肩書がある間にしっかり自分の未来を設計しておくことが大切です。
つまり官僚や大企業などで華々しく活躍していても、そこには“定年の壁”があって、結局そのキャリアは終わってしまうんです。たとえ天下りできたとしても、それだって、いつかは切られる運命ですからね。よしんば定年のない取締役になれたとしても、任期は1〜2年。万一嫌われでもしたら、解任されてお役御免です。
■今あなたが50代なら、仕事の手を抜きなさい
もしあなたが50代なら、あがくことはまだ可能です。むしろ、今がチャンス! 第二の人生を最優先に考え、仕事の手を抜きながら、“本当の人生”を設計しましょう。
写真=iStock.com/BrianAJackson
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最後まで手を抜かず、今の職場で一生懸命頑張ろうという考え方ではなく、退職後の自分の人生を第一に考えるべきです。なぜなら、人生100年時代、定年後の第二の人生はまだまだ長く続くのですから。
和田秀樹『定年後の超・働き方改革 「楽しい仕事」が長寿に導く!』(光文社)
わかりやすく言うと、職場にいるときのあなたには“頑張らないおじさん”を目指してほしいのです。多くの人は“頑張らない”とは見られたくないでしょうが、人目など気にしないでください。
そもそも若い頃から安い給料で会社に尽くしてきたのですから、今はその「貸し」を回収しているだけ。働きの割に給料が高くても問題はありません。むしろ、“頑張らないおじさん”を貫くことでプラスマイナス相殺されて、ちょうどよいのです。
やるべき仕事はソツなくこなしつつ、余計な仕事は他人にまかせましょう。残業なんてせず、さっさと帰ることです。そして、残りの10年間はそこそこの給料をもらいながら、自分の時間をつくり、その時間や体力、好奇心を自分自身に投資していくことです。50代からは、会社ではなく自分自身にリソースを費やすべきです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)