「部下に日報を書かせる必要はない」伝説の営業マネジャーが結果を出すために実行した"最強の管理法"
2024年2月23日(金)6時15分 プレジデント社
※本稿は、川村和義『コミュニケーションを変えればチームが変わる』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
■パワハラまがいの上司を反面教師にしたマネジャー
森田さん(37歳)マネジャー歴7年
投資用不動産会社の営業マネジャーとして、12名のメンバーを持つ。
メンバー時代には、親分肌で豪快な上司のもとで、ときにパワハラとも感じるマネジメントを受けてきた。その上司を反面教師とし、つねに穏やか、メンバー思いでありたいと心がけている。チームは社内トップの業績を上げ続けていて、自分のマネジメントに、とくに疑問は感じていない。
ある日社長から、「伝説のマネジャーと言われる人を紹介したいから、時間をつくってほしい」と言われた。川村の簡単なプロフィールを渡されただけで、面談の理由を森田が尋ねても「とにかく会えばわかるから」としか社長は答えない。いったいなんなんだ……⁉と思いながら、オフィスで川村を待つことになった。
■営業は「自由であること」が大きな魅力の一つ
【森田】ところで、川村さんはマネジャー時代、メンバーの活動管理はどうされていたんでしょうか?
【川村和義(※本稿の著者。以下、川村と表記)】一言で言うなら、ざっくりかな。
【森田】と言いますと?
【川村】森田さんがマネジメントしているのは営業パーソンですよね。その営業という仕事の魅力って、なんだと思いますか?
【森田】いろいろありますけど、直接いろんなお客様とお会いして、価値を提供できるってことですかね。
【川村】はい。それも一つの魅力ですけど、かなり優等生的な答えですね。それだけでメンバーのみなさんは頑張れますか?
【森田】いえいえ、やればやっただけ、お金も稼げますし……。
【川村】はい、もちろん大事なことですね。でも、それだけですか?
【森田】いえ、結果さえしっかり出していれば、時間も営業のやり方も自分の自由になるっていうのも大きいですね。
【川村】同感です。僕自身も若い頃から好きにやらせてもらっていたんで、営業マンは自由であることが大きな魅力の一つだと思っています。
【森田】川村さん自身が自由にやらせてもらったから、メンバーたちにも自由にやらせてあげたと……。
【川村】はい。もちろん、自由があれば果たすべき義務や責任があるのは大前提ですけど。
【森田】それは、もちろんそうですね。
■メンバーには毎日必ず日報を提出させている
【川村】だから極力、ガチガチの管理はしてこなかったんです。
【森田】確かに、中堅やベテランのメンバーならそれでもいいかもしれませんけど、新人のうちはある程度の管理はしたほうがいいんじゃないですか?
【川村】そこは僕も賛成です。ところで森田さんって、新人に対してどんな活動管理をやっているんですか?
【森田】日々の活動や進捗(しんちょく)、結果の報告をまとめた日報を、必ず提出してから帰宅してもらっていますけど。
【川村】なるほど。ちなみに森田さん、メンバーから出てきた日報のフィードバックは、毎日欠かさずやれていますか?
【森田】極力やっていますけど、日によってチェックできたりできなかったりはあります。
【川村】そうなんですね。メンバーには毎日必ずやらせて、森田さんはやったりやらなかったりなんですね?
【森田】……。
【川村】ところで、メンバーが日報を書く目的って、なんでしたっけ?
写真=iStock.com/mapo
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【森田】それは、日々の業務連絡をしてもらうことが一番の目的だと。
【川村】えっ? それ、真面目に言ってます?
【森田】……。いや、メンバーが私のアドバイスを求めているからだと思います。
【川村】ですよね。つまり、森田さんとコミュニケーションをとるためですよね。
【森田】は、はい。
■「日報を提出すること」が仕事になっている
【川村】それがしっかりできていないのなら、日報なんて必要あります? いっそのこと、やめちゃったらどうですか?
【森田】えっ? まったくやめてしまえということですか。
【川村】だって、新人メンバーからすると、日報を森田さんに提出することが仕事になっちゃっていませんか? 自分のためじゃなくて、森田さんのために。
【森田】私のため……。
【川村】はい。しかも結果として、森田さんの良かれと思っている管理が、新人たちのモチベーションを下げているとしたら、どうですか?
【森田】私がメンバーのモチベーションを下げてるって、どういうことですか!?
【川村】えっ、じゃあ、上がってます?
【森田】なにをおっしゃるんですか! メンバーのモチベーションを下げてでも、やらなきゃいけないことってあるでしょ!?
【川村】ハハハ。そこまで声を荒げて自信満々に言われちゃうと、さも正解かのように錯覚しそうになりますね。
【森田】さ、錯覚って、どういうことですか?
【川村】だから、あなたの言い分が正しいんだと、勘違いしてしまいそうだということです。
【森田】私が間違ってるとでも言うんですか!?
■「日報」がメンバーの結果に直結しているのか
【川村】……。でも森田さん、ちょっと考えてほしいんですけど、あなたがもしあなたのメンバーだったら、あなたがいまやってる活動管理を受けたいと思いますか?
【森田】……。
【川村】その日報とやらを、疲れがピークの仕事終わりに、高いモチベーションで書いてる姿が思い浮かびますか?
【森田】……。
【川村】しかも翌日、なんのフィードバックもなかったら、どうですか?
【森田】そ、それは……。
【川村】森田さん、営業って、結果を出してナンボでしょ?
【森田】はい、それはもちろん……。
【川村】あなたのいまやってるマネジメントが、メンバーの結果に直結しているのなら、どうぞそのまま続けてください。僕に言えることはそれだけです。
【森田】……。
【川村】……。
【森田】川村さんは、新人メンバーがどんな活動をしているのか、把握しておく必要がないと言うんですか。
【川村】いいえ。僕も最低限、メンバーの活動を把握しておく必要があるとは思っていましたよ。
【森田】だったら、私と一緒じゃないですか。
■メンバーの手帳やスケジューラを見れば活動は把握できる
【川村】ただし、日報なんて細かく見ていませんよ。だって、メンバーの手帳やパソコンのスケジューラを見れば一目瞭然じゃないですか。僕の管理といえば、いえ、これが管理と言えるかどうかわかりませんが、毎日メンバーたちが座っている島をぐるりと回っていくんです。
【森田】それで、なにをするんですか?
【川村】一人一人の手帳をめくりながら、今週、来週の予定をチェックして、「あらま、今週もお忙しそうねー」とチクッと言ったり、「おっ、さすがトップセールスの○○君。すごいね、拍手!」と、みんなにその真っ黒な手帳を見せて鼓舞したり。まったく予定の入っていないメンバーには「○○君、おつかれさまでした。短い付き合いだったね」と言うと、メンバーたちからドッと笑いが起こったり。
そんなことを毎日やっていました。さすがに手帳にまで、ウソの予定を書くメンバーはいませんからね。ハハハ。
写真=iStock.com/miya227
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【森田】……。確かに、管理って言葉は当てはまらないと思いますが……。メンバーからすると微妙な緊張感があったり、ほめられたり、笑いがあったり、チームの一体感は感じますね。
■毎日の大きなストレスを一つなくせる
【川村】そんな一体感ということまで考えて始めたことじゃないですよ。ただ、僕にはそんなやり方しかできなかっただけです。
【森田】そのやり方で、本当にうまくいったらいいんですけど……。
【川村】はい。うまくいくかどうかは、わかりません。でも、少なくとも、森田さんがいま悩んでいる、事実とは違う報告をされたり、メンバーのモチベーションを下げてしまったりすることは解消できるんじゃないですか。
【森田】確かに……。
【川村】それに、なによりラクになりませんか?
【森田】ラクってどういうことですか?
【川村】メンバーたちも、森田さんも、毎日の業務の中での大きなストレスが一つなくなりませんか。
【森田】まあ、そう言われれば、そうですが……。
【川村】ですよね。じゃあ、やっぱり、日報はやめましょう。
【森田】は、はい。一度、試してみたいと思いますが……。
【川村】森田さん、きっと不安ですよね。
【森田】はい。
■空いた時間で対面のコミュニケーションをとるのが大切
【川村】大丈夫です。ちょっとラクになった分、森田さんもメンバーも時間が空きますよね。その分、毎日5分でも10分でもメンバーと向き合ってください。「今日はどうだった?」と対面のコミュニケーションをとる時間を増やしていくってことは、決して忘れないでくださいね。
【森田】なるほど。形は違いますけど、そもそもの日報の目的だったメンバーとのコミュニケーションを、対面でとっていくっていうことですね。
川村和義『コミュニケーションを変えればチームが変わる』(CCCメディアハウス)
【川村】大事なことに気が付いていただけて良かったです。
【森田】ありがとうございます。私なりにやってみます!
【川村】森田さん、念のために断っておきますが、いまお伝えした日報をなくすマネジメントは、あくまでメンバーのモチベーションが下がるのが、止まるだけですからね。
【森田】モチベーションが下がるのが止まるだけ?
【川村】たぶん、「日報をやめる」と言った瞬間、メンバーから歓声がわくくらい喜んでくれると思いますよ。ただ、それも束の間。1、2週間も経てば、これまでとなにも変わらない、しんどい営業活動の日々に戻りますから。
【森田】確かに、それはすぐそうなりますよね……。じゃあ、そのメンバーのモチベーションを上げるためには、いったいどうやっていけばいいんでしょうか?
【川村】ハハハ。そう焦らないでください。そのあたりは、おいおい気付いてもらうことになりますから。
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川村 和義(かわむら・かずよし)
オールイズウェル代表取締役社長
1963年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。求人広告営業としてトップセールスとなった後、川崎営業所を事業部No.1へと導く。94年プルデンシャル生命保険株式会社入社。ライフプランナーとして活躍した後、営業所長として2001年に年間営業成績でトップを獲得。2008年、2009年 支社部門でも2連覇。本部長を経て、執行役員常務。社内初のティーチングフェロー(学び・教育の専門職)となり、ゼロからオンライントレーニングを使った教育の仕組みを構築。2015年オールイズウェルを設立し、現職。「夢と勇気と笑いと感動あふれる組織づくり」を支援するため、営業コンサルティング、リーダー研修、セミナーなどの活動を行う。
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(オールイズウェル代表取締役社長 川村 和義)