社外取締役の発言力が高まる取締役会をどう運営? ソニーCEOが冒頭20分で「必ず行うこと」

2025年2月21日(金)6時0分 JBpress

 日本の上場企業のコーポレート・ガバナンス改革が再加速する昨今、取締役会の「過半数が社外取締役」となる企業が増加している。社外取締役の発言力が高まる中、企業は取締役会をどのように位置付けるべきなのか。2024年11月に著書『ミニ株主総会化する取締役会 令和に問われる新しいスタンダード』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の澤口実氏に、取締役会のあるべき姿や、社外取締役が過半数の取締役会を早期から運営してきたソニーの事例について、話を聞いた。


社外取締役が一致さえすれば「経営者の交代」も可能に

──著書『ミニ株主総会化する取締役会 令和に問われる新しいスタンダード』では、日本の上場企業の取締役会のあり方が変わろうとする中、多くの企業が「共通の壁」に直面していると述べています。

澤口 昨今、多くの企業が社外取締役、ひいては「取締役会の役割」を再整理する必要性に迫られています。取締役における社外取締役の比率が上昇し、取締役の「過半数が社外取締役」となる企業が増える現在、取締役会は「ミニ株主総会」と言える状況にあるためです。

 過半数を超えた社外取締役が「自らを選任した株主の代表」としての目線で発言することになれば、取締役会に臨む経営者にも相応の準備や労力が求められます。予測可能性の低い真剣勝負の場になることを考えると、経営者は株主総会と同じ意識を持って取締役会に臨む必要が出てくるでしょう。

 さらに、社外取締役が過半数ということは、社外取締役が一致しさえすれば経営者の交代も可能、ということを意味します。社外取締役が発言する時間や、その対応に要する時間も増えると予想されます。こうした背景を考えると、これまでは経営者や事務局の工夫で何とか折り合いをつけ、議論を先送りしていた企業でも、取締役会の役割を再検討するタイミングを迎えていると言えます。

──上場企業が考え得る「取締役会の役割」には、どのようなものがあるのでしょうか。

澤口 米国の上場企業の取締役会のスタイルでありグローバルスタンダードともいえる「モニタリング・モデル」を参考にするか、それ以外を検討するか、という論点があります。モニタリング・モデルでは、「取締役会が経営の意思決定・業務執行機能を果たす」とする従来のスタイルとは異なる考え方を用いています。


社外取締役が経営者を評価する「モニタリング・モデル」とは?

──モニタリング・モデルとは、どのような考え方を指すのでしょうか。

澤口 モニタリング・モデルは、社外取締役中心の取締役会のスタイルの一つです。この考え方では、取締役会を「経営者の業務執行を監督する場」として位置付けています。ここでのポイントは、取締役会の役割の中核を「決定」ではなく「監督」としている点です。

 例えば、中期経営計画について、経営者からその策定理由や前提となる経営方針について説明を受けた上で、「株主が容認できない内容になっていないか」といったことを確認する、といったことが求められます。その上で、社外取締役は「現在の経営者を評価し、能力の高い経営者であれば経営を継続させ、そうでなければ経営者を交代させる判断を行う」という役割を担います。

 加えて、モニタリング・モデルでは取締役会の経営者からの独立性を高めるために、取締役会の過半数を社外取締役にすることが求められています。経営者は社外取締役を中心とした取締役会によりその経営を評価され、場合によっては退任が求められる、という意味では、経営者は高い緊張を持って取締役会に臨むことになるでしょう。

──モニタリング・モデルを採用することで、社長やCEOの業務の重荷は増えるのでしょうか。

澤口 その通りです。モニタリング・モデルにおいて、経営の意思決定権は経営トップの社長やCEO側にあります。経営トップの責任は重大ですから、優れた人物を選任することは一層重要になります。その代わり、能力の高い人物を経営トップに据えて、経営意思決定権を与えることができれば、企業価値を高めやすくなります。


ソニーが取締役会の冒頭20分で行う「あること」

──著書では、社外取締役が過半数を占める取締役会を早期から運営していた事例として、ソニーグループ専務の神戸氏により、ソニーグループについて紹介されています。日本の上場企業は、同社の取締役会から何を学ぶべきでしょうか。

澤口 ソニーは、モニタリング・モデルがうまく機能している会社の好事例です。同社の事例では「経営者と取締役会の信頼関係が十分に構築されていること」こそが大きなポイントだと感じました。

 例えば、取締役会の中心を担う社外取締役が「経営者は何かネガティブな情報を隠しているのではないか」と疑いを持ち始めると、そのことばかりに気を取られ、重要な経営戦略の議論にフォーカスできません。そうした懸念を与えないように、ネガティブな情報も包み隠さず提供することが、信頼関係の構築に寄与すると考えています。

──モニタリング・モデルを機能させるためにも、信頼関係の構築が重要になりそうですね。実際の取締役会について、ソニーではどのように会議を進行しているのでしょうか。

澤口 神戸氏によれば、ソニーの場合、毎回の取締役会の冒頭に「CEOコメント」というセッションを設けています。20分くらいでCEOが「その日の議案に関わることについて、経営トップとしてのハイレベルな見解を述べる」、あるいは「CEO自身が注力していることを話す」ということをしています。これは他の会社ではあまり見られない光景でしょう。

 社外取締役の立場からすると、CEOが自らの言葉で話す機会があることで「経営トップが今、何を重要視し、何に悩んでいるのか」を理解できるため、信頼関係の構築にも非常に有効だと思います。これから社外取締役を過半数としようとする企業としても、参考になるのではないでしょうか。

筆者:三上 佳大

JBpress

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