弁護士が伝授「ヤブ歯科医」への仕返し法

2月26日(火)11時15分 プレジデント社

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もし受診した歯科医院が“ヤブ医者”だったら……。弁護士・野澤隆氏は「患者が裁判を起こしても、医療過誤の立証は難しく、仮に患者が勝てても賠償額は数百万円程度。労力に対して報酬が割に合わないので、嫌がる弁護士も多い」という。しかし野澤氏は、訴訟以外の方法で、歯医者に「仕返し」することは可能だと指摘する。「プレジデント」(2019年3月18日号)の特集「歯医者のウラ側」より、記事の一部をお届けします——。

■医療ミスに自覚のない歯科医も


近年、医療の現場では患者と医師との双方が手術前のリスクを含めて、しっかり話し合いを行う“インフォームドコンセント”が求められるようになっている。だが、「歯科医師の場合、それが進めづらいのが現状」と語るのは城南中央法律事務所の野澤隆弁護士だ。




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「歯科医師の数は1980年代の6万人台から現在10万人以上にまで増えた結果、他の資格業同様、専門家に対する敬意は薄れ、歯科医師の言葉に耳を傾けない人も出てきました。『先生の話だから耳を傾けよう』という“パターナリズム”(父権主義)が機能しなくなったのです」


こうした社会背景に加え、歯科医師の場合は社会政策上の問題、つまり社会保障制度の問題も絡んでいる。


「保険診療で得られる歯科医師の報酬は医師に比べて明らかに安く、過半数を占める中小の開業医院がひしめく現状では“数”で稼ぐ必要があります。結果、回転率を上げることに終始する人が多くなってもおかしくありません」


また、技術革新の速度が速く、技術向上に追い付かない歯科医師が出てきたのも要因の1つだという。


「古い世代の先生ですと、昔学んだ技術から更新されていないことも少なくありません。医療ミスの立証は、ミス(事故)当時の一般的な技術水準をベースに手続きが進められる以上、技術向上のない歯科医師は自覚なく医療ミスを行っている可能性があるのです」


加えて、人材関連費用の高騰、競争過多の業界における広告費の増大なども大きな要因となっている。


野澤弁護士は、歯科医師の診療は健康保険が適用される低価格の保険診療ものか、インプラントで1回数十万円の費用が必要な高価格帯のもので二極化しているのではないかと指摘する。つまり、中間の市場がないのだ。


「結果、保険適用の診療ばかりを行う歯科医師はインフォームドコンセントが重視されている昨今でも、回転率を上げるために説明義務を怠るケースも多く、トラブルにつながりやすいのです」



■「弁護士に頼みます」と、本気度を伝える


このような状況もあり、歯科医師にまつわるトラブルは日々絶えない。今回は読者などから寄せられた歯科医師とのトラブルについて、野澤弁護士に法的観点から対処法を答えてもらった。


【相談1】先日、結婚し都内へ引っ越しました。慣れない土地で初めて入った歯科医院で、私が妊婦という理由で治療を拒否され、仕方なく歯科衛生士に診てもらいました。これは問題では?(31歳・女性・東京)



【回答】胎児への影響を考慮し、産婦人科との連携がうまく取れない場合には本格的な治療まではしないとの理屈も一理ありますが、法律的には「応召義務違反」の疑いがあります。医師や歯科医師は患者から治療を求められた場合、治療する義務が原則あるからです。なお、弁護士が、依頼を受けるかどうかは、最終的には努力義務です。極論を言えば、割に合う案件かどうかを判断したうえで受任することができるのです。

【相談2】2018年夏、東南アジアへの海外旅行中、突然歯に激痛が走りました。急いで現地の見知らぬ歯科医院に行ったところ、いきなり歯を抜かれ、痛い思いをしたので訴えたいのですが……。(44歳・男性・神奈川)



【回答】海外での治療は、高いリスクがあります。現地の法律が基本的に適用されるため、日本の法律で訴えることができません。対策としては、(情報提供等を含め)歯科治療まで対応している海外旅行保険に入ることが考えられます。一般のクレジットカードに付いている保険では歯科治療をカバーしていないことが多く、注意が必要です。

【相談3】歯に金属を被せる治療をしてもらったが、半年あまりで膿が出た。何とかして訴えたいが、割に合うのか。(50歳・男性・大阪)



【回答】医療ミスの可能性が高いです。治療経緯の資料等を取り寄せ、粘り強く説明を求めてください。対応がひどい場合には、本格的な訴訟の開始前に裁判所での民事調停や各種団体のADR(裁判外紛争解決手続き)といった選択肢をまずは考えることになります。

【相談4】半年前、親知らずを抜くために手術をしましたが、術後の痛みが治まりません。歯医者に電話しても「そのうち治まります」の一点張り。しかし、経過検診に行った際、私の口の中を見て、その歯医者は「あー、はいはい」と言いながら何やら診療を開始しました。なんと、歯茎から骨が露出していたことが判明しました。(39歳・男性・兵庫)



【回答】術後ケアの内容にもよりますが、医療機関側のミスの可能性が相当程度ありますので、数万から数十万円の損害賠償請求が可能でしょう。入通院慰謝料および休業損害等については、書籍やネットで相場を知ることができますので、弁護士などから簡単なアドバイスを受けつつ、そうした情報を元に請求するのをおすすめします。ただ、最初は医療機関側も抵抗してくるでしょうから、「揉めた場合には弁護士に頼みます」とはっきり伝え、こちらが本気であることを示す必要があります。

■とっておきの仕返し“歯科医院前でデモ”


以上、歯科医師に関するトラブルの対処法について答えてもらったが、医療ミスに関する相談等を受けてきた野澤弁護士曰く「多くは泣き寝入りするしかないのが現状」だという。だが、患者側も黙ってばかりではいられない。何か効果的な“仕返し”ができる方法はないのだろうか。


「本音を言えば、弁護士は歯科医師とのトラブル案件をあまり手掛けようとは思っていません。立証が難しく、手間取る割に弁護士報酬は全部で30万円程度ということもザラだからです。医師との比較で言えば、例えば医療ミスで親が亡くなったので病院を訴えた場合、賠償額が3000万円程度になることはよくありますが、歯科医師を訴えてもせいぜい数百万円であることが多いのです」


では、対策はないのか?


「資格を前提とした医療機関が最も嫌がるのは、診療費の請求ミスの指摘。当局が動けば、営業自体が危ぶまれるので何としてでも避けたいところです。そのため、過去の領収書やカルテを洗いざらい調べて、不正な診療費が請求されていないかチェックするのは1つの手です。特に経営難の歯科医院の場合、悪質な水増し請求で当局と揉めていることがよくありますので、そういった事情を早く把握し交渉材料とするのです」


もし、請求ミスが見つかったら、事実上の賠償目的の治療費返還等の交渉を開始する。だが、こうした対処法で簡単に歯科医師側が対応するとは限らず、治療費自体は少額の場合も多い。


こうした方法でうまくいかない場合に備え、野澤弁護士はとっておきの秘策を教えてくれた。


「歯科医院の近くでデモ活動をするのも法的に認められた権利として場合によってはアリです。数十分程度なら表現の自由の範囲で許されますし、効果は思ったより大きい。競争が厳しい業界で最も怖いのは風評被害です。明らかな医療ミスの場合、施術前と施術後の歯の写真を印刷したプラカードを掲げ、ビフォー・アフターがわかる抗議活動をするのも有効な策の1つでしょう」


デモ活動をする場合のコツがある。


「主張内容をはっきりさせる、つまり『○○歯科医師は謝罪しろ!』といった抽象的な内容だけでなく、『X月X日の●●治療について』などと具体的に示すのです。名誉毀損にならないよう配慮すべきですが、言いがかりでないことを対外的にも示すことになります」


歯に衣着せぬ行動が結果にコミットすることもある。泣き寝入りとは今日でおさらばだ。


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野澤 隆(のざわ・たかし)

弁護士

1975年、東京都大田区生まれ。東京都立日比谷高等学校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。弁護士秘書などを経て、2003年、司法試験第2次試験合格。08年、城南中央法律事務所を開設。

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(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=小原孝博 写真=PIXTA)

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