応援自粛の東京マラソン「ナイキ超厚底で日本記録」と豪語する男の狙い

2月26日(水)16時15分 プレジデント社

「ラスト1枠」を目指す、設楽悠太選手

写真を拡大

代表枠は残り「1」。3月1日(土)の東京マラソンで五輪代表が決まりそうだ。スポーツライターの酒井政人氏は「いつもナイキの厚底シューズを履いていて、『2時間5分台なら五輪辞退する』と発言した設楽悠太選手の走りに注目が集まっている」という——。

■3月1日、設楽悠太が日本のマラソンを変える


東京五輪の男子マラソン日本代表は2019年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)で上位2位に入った中村匠吾(富士通)と服部勇馬(トヨタ自動車)が内定している。




「ラスト1枠」を目指す、設楽悠太選手

残りの代表枠は「1」。


3月上旬の2つのMGCファイナルチェレンジで、日本陸連の設定記録(2時間5分49秒以内)を突破して、最速タイムをマークした選手が3人目の代表資格をゲットすることができる。


ただ、3月8日に行われるびわ湖毎日マラソンは設定記録を上回るようなレースになる可能性は低く、3月1日の東京マラソンが事実上の“最終決戦”となる公算が大きい。


東京にはMGC3位で日本記録保持者の大迫傑(ナイキ)を筆頭に、井上大仁(MHPS)、佐藤悠基(日清食品グループ)、村山謙太(旭化成)らが出場予定。日本記録(2時間5分50秒)を上回る激突が期待されている。


■「2時間5分台なら五輪走る資格なし、辞退する」


そのなかで次々と“爆弾発言”を投下している注目ランナーがいる。前日本記録保持者の設楽悠太(Honda)だ。


「もし自分が東京五輪の代表資格を得たとしても、個人的には2時間4分台で走らないと、東京五輪を走る資格はないと思っています。2時間5分台なら辞退すると思います」


2020年1月23日に行われた宮崎合宿の囲み取材で放った言葉は、翌日スポーツ紙の一面を飾った。その5日後の東京マラソン選手発表会見でも強気の発言は止まらない。


「2時間5分台ではファンの皆さんの期待には応えられない。4分台を出せれば、少しは応援してくれる方の期待に応えられると思ったので、ああいう発言をしました。反響は凄(すご)かったですけど、自分の言葉にウソはつきたくないので気持ちとしては変わりません。いつまでも日本人と争っていても強くならないと感じたので、どんどん海外にチャレンジしていきたいなと思います」


設楽のぶっちゃけ発言について、Honda陸上競技部の小川智監督は、「(五輪代表の)辞退はなかなかできるものではないので、そこは本人と話をしてみます。彼は0か100かというタイプなので」と苦笑い。そして、「海外勢とどう戦うかというのは、本人と常に話をしていることです。ただ、記録を意識した練習というのはないんです。4分台を目指すトレーニングは私も分からないところがあります。やってきたことを積み上げてきた結果が前回の記録であり、今後の記録だと思います」と話している。



■独自のマラソン感覚「設楽悠太」をご存じか


埼玉県出身の設楽は双子の兄・啓太の影響を受けて小学校6年時に競技を開始すると、兄の背中を追いかけてきた。東洋大学では箱根駅伝に4年連続で出場して、3度の区間賞を獲得。大卒後、兄と別々のチームに進み、設楽悠太のポテンシャルが爆発する。


2015年北京世界選手権と2016年リオ五輪は1万mに出場。2017年2月の東京で初マラソンに挑み、関係者を驚かせる激走を見せている。


日本記録を上回るような“高速レース”を自ら仕掛けたのだ。ペースメーカーの力を借りることなく、中間点を1時間1分55秒で通過。終盤はペースダウンしたが、2時間9分27秒でフィニッシュした。


そして、翌年(2018年)の東京マラソンで「設楽悠太」の名前が広く知れ渡ることになる。16年ぶりに日本記録を更新する2時間6分11秒をマーク。日本実業団連合のマラソン特別強化策「プロジェクト・エクシード」の報奨金1億円も手にした。独自ともいえるマラソン練習も話題になった。


■ナイキ「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」を履く可能性大


「僕のなかではこれが限界だったので、課題も反省点もないですね。日本では40kmをベースにマラソン練習をする選手が多いですけど、僕は30〜35kmで十分です。最近の選手は走り込みが足らないという意見を聞きますけど、そんな時代ではありません。いいシューズを選び、効率よく練習することがマラソンで結果を残すための近道だと思っています」



写真提供=ナイキ

設楽はマラソンの2週間前までハーフマラソンなどのレースに数多く出場。その合間に30kmほどの距離走を入れて仕上げていくスタイルだ。そして、そんな設楽の走りを支えるているのがナイキの厚底シューズだ。


初マラソンの東京(2017年)はナイキの薄底タイプだったが、その後は歴代の厚底シューズを愛用。2年前の東京では『ズーム ヴェイパーフライ 4%』で日本記録(当時)を打ち立てている。3回目となる東京では、最新モデルとなる『エア ズーム アルファフライ ネクスト%』を履く可能性が高い。



■「計算して走るのではなくどんどん攻めたい。MGCをぶっ壊します」


2019年9月15日のマラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)でも設楽は自らの意思を貫いた。「自分は最後まで計算して走るのではなく、前半からどんどん攻めていきたい。MGCをぶっ壊します」という言葉通り、序盤からひとりで切り込んでいく。15km地点では後続に2分14秒という大量リードを奪うも、気温28.8度の暑さには勝てず、14位に沈んだ。



写真=時事通信フォト
東京マラソンの記者会見で、男子マラソンの日本記録更新に向けて意気込む設楽悠太(ホンダ)=2020年1月28日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

過去を振り返らないタイプは、「自分はやるだけのことをやったので、レース後は普通に後輩たちと飲みに行きました。終わった後は、とくにかく休みたかった。マラソンは夏にやるもんじゃないと思っているので、正直、オリンピックはどうでもいいと思っています。自分よりも暑さに強い選手はたくさんいると思うので、僕は冬のマラソンで勝負していきたい」と話している。


そして、「MGCのレースを海外のトップ選手が見たら笑うと思うんですよ。2位以内を目指す争いをしていてもつまらないですし、日本のレベルはまだまだ低いなと感じました。そんなことをやっていても、日本のマラソンはどんどんレベルが落ちていくというか、成長はありません。だからこそ、自分は少しでも日本のマラソンを盛り上げたいと思っています」と自分にしかできないレースをすると決めている。


■「ここで勝たなきゃ次はない」


3月1日の東京マラソンに向けても、2月2日に丸亀国際ハーフ(1時間0分49秒)を走り、2月16日には熊日30キロロードレースに出場した。2年前は本番の2週間前に10マイルレース(約16km)を走ったが、「距離を延ばした意図は特にありません。気分です」と明かす。


その結果は1時間29分47秒で優勝。風雨のなか7km付近で独走態勢を築くと、中間点までは30kmの日本記録を上回るハイペースで攻め込んだ。設楽らしいアグレッシブな走りで、後続に大差をつけてフィニッシュした。


「ここで勝たなきゃ次はないと思っていました。勝ててホッとしています。あと2、3割は上がると思うので、日本中が興奮するような走りをしたいと思います」と東京マラソンを見据えていた。



■東京マラソン「目指すは2度目の1億円」


3月1日の東京マラソンには、世界歴代3位の2時間2分48秒を持つビルハヌ・レゲセ(エチオピア)を筆頭に、2時間3分台が2人、同4分台が5人と国内レースでは“過去最強”ともいえる海外勢が集結する。


大会側は男子のペースメーカーを2パターン準備する予定で、ファーストは「2時間2分台」、セカンドは「2時間4分40秒〜5分30秒くらい」のゴールをイメージしているという。中間点でいうと、ファーストは1時間1分30秒前後、セカンドは1時間2分20〜40秒くらいの通過になるだろう。


「自己ベストよりも2〜3分速い選手が相手ですけど、自信を持って海外の選手に挑んでいきたい」と設楽はトップ集団でレースを進めたい考えだ。


「皆がやらないだけで、日本人はもっとできるんじゃないかなという思いがあるんです。守りの走りをしていても、見ている人はつまらない。自分のことだけを考えて走れば、その先に結果がついてくる。自分のことに集中したいですね」


■東京マラソン後は「ハワイ豪遊」宣言


日本勢にとっては、東京五輪代表の最後の「1枠」をめぐる戦いとなるが、設楽はそんな争いに興味はない。


「東京五輪がかかっている大会とは深く考えずに、いつも通り、自分のレースができたらいいなと思っています。リオ五輪を走っても、名誉しかついてこなかった。いまは名誉のために走るつもりはないと思っていますし、たくさんお金を稼げるところがスポーツの魅力。マラソンを目指す子どもたちのためにも、これくらい稼げるんだよ、ということを伝えていきたい」



写真=iStock.com/lucky-photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lucky-photographer

目指すは日本記録(2時間5分50秒)を塗り替えて、日本実業団連合のマラソン特別強化策「プロジェクト・エクシード」の報奨金1億円を獲得することだ。そこには同学年のライバルである大迫傑を直接対決で下して、「日本記録保持者」の称号を取り返したいという気持ちもあるだろう。そして、日本記録の先には、「2時間4分台」があると考えている。


「5分台と4分台の差は、深く考えたことはありません。2年前は2時間9分台で走れればいいかなと思って、2時間6分11秒(当時・日本記録)が出たので、今回もタイムはあまり気にせず、自然体で走りたい。大学時代から守りのレースをするのではなく、攻めの走りをするのが自分のスタイル。今回の東京マラソンでも自分から揺さぶっていきたいですね。次の日から(バケーションの)ハワイが控えているので、理想は1億円をとって、ハワイで豪快に使うことです」


オブラートに包まない表現は時に誤解を招くこともある。


しかし、彼の走りは、言葉以上に“自己表現”に満ちている。今大会は新型コロナウイルスの感染拡大を考慮して、一般参加者(約3万7000人)は出場できず、沿道での応援も自粛が呼びかけられている。例年と比べて、寂しい雰囲気となるが、設楽悠太の走りがレースを熱くするだろう。



----------

酒井 政人(さかい・まさと)

スポーツライター

1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

----------




(スポーツライター 酒井 政人)

プレジデント社

「マラソン」をもっと詳しく

「マラソン」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ