なぜ日経平均は史上最高値を更新したのか…景気後退中の日本株に投資家が熱狂する"ナゾ現象"の理由

2024年2月26日(月)9時15分 プレジデント社

終値の史上最高値を上回った日経平均株価を示すモニター=2024年2月22日午前、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

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■先進国の中でなぜ日本株が強いのか?


2023年7月〜9月期、10月〜12月期、2期連続でわが国の経済成長率はマイナスだった。主な要因は、給与の上昇が物価上昇に追いつかず個人消費が振るわないことだ。2四半期連続のGDPマイナス成長は一般的に景気後退といわれる。


日本経済が後退に陥ったのであれば、本来、株価は下落してもおかしくない。ところが、日本株はしっかりした展開で、22日にはバブル期につけた史上最高値である3万8915円87銭を上回った。最高値の更新は約34年ぶりだ。


写真=時事通信フォト
終値の史上最高値を上回った日経平均株価を示すモニター=2024年2月22日午前、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

景気の状況が良好ではないにもかかわらず、株価がしっかりしているのは主要先進国もみられるのだが、中でも日本株が強い。その背景には、世界的に“金余り”の状況が続いていることがある。


昨年来、割安感の高まった日本株を買う欧米の主要投資家は増えた。1月、米国で前のめり気味に利下げ期待が高まり米欧の金利は低下した。生成AI関連の成長期待は追加的に高まり米国株の過熱感は高まった。それにつられて、日本株の上昇も鮮明化した。


■企業は賃上げと収益力を上げることが不可欠


新型NISAによる個人投資資金の流入もあり、上昇速度が加速した。また、中国経済の低迷懸念の高まりにより、中国株を売り、日本やインドの株を買う投資家も増えたことも見逃せない。中東のオイルマネーの流入も目立っている。


ただ、足許、日本株の割安感はほとんどなくなった。目先、日本株が一段高を試す可能性はあるが、いつ、高値から数パーセントの調整があってもおかしくない。特に、米国株の調整リスクは上昇したと考えられる。それに引っ張られる形で日本株が調整する可能性は高いだろう。


中長期的に、日本株がさらに上昇するには企業収益力の一段の上昇が必要だ。春闘で予想を上回る賃上げが進み、半導体関連を中心に設備投資が増加し機械受注の増加傾向も明確になれば、日本株の上昇余地は増えるだろう。逆に、それが明確にならないと、米株の調整や日経平均株価の高値近辺への上昇で、いったん、相場に達成感が出るかもしれない。


■背景にあるのは「米国の金利政策」


2024年の年初から2月19日までの間、日経平均株価は15%程度上昇した。世界的にみても、日本株の上昇率は高い。世界の投資家が日本株に注目し始めていることがよくわかる。


ただ、2023年7月〜9月期の実質GDP成長率は、前期比年率3.3%のマイナスだった。10月〜12月期も同0.4%のマイナス成長だった(第1次速報値)。2期連続のマイナス成長の主因は、個人消費の減少である。


円安進行で、国内企業のコストプッシュ圧力は高まった。エネルギー資源や食料品などの販売価格は上昇した。物価上昇ペースは名目賃金の上昇率を上回り、個人消費は圧迫された。中国経済の減速鮮明化で、国内の設備投資の足踏み感も強まった。景気先行き不透明感は高まり、昨年7月から12月にかけて日本株の上値は抑えられた。


転換点になったのは、昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。経済見通しサマリーで連邦準備制度理事会(FRB)は、2024年に3回程度の利下げ実施の可能性を示した。主要投資家は物価安定が視野に入る中、FRBは景気減速リスクに配慮すると楽観姿勢を強め、年6回程度の利下げを前のめり気味に期待した。


■中国・香港から日本・インドシフトが加速


それに伴い、一時、米金利は低下した。成長期待の高い米国の生成AI関連銘柄に投資資金が流れ込んだ。年初以降、割安、かつ、業績期待の高まる半導体製造装置など、わが国の大型株を買う欧米の主要投資家は急速に増えた。


世界の投資資金の移動も加速した。デフレ圧力が高まり企業業績の悪化懸念が高まり、中国や香港株を売却する投資家は増えた。多くは、日本株やインド株に資金を振り向けた。中国では日本株連動の上場投信(ETF)が、個人投資家の間で人気になった。また、わが国で“新NISA”がスタートしたことも、国内株の上昇を支えた。


ただ、価格の急速な上昇によって日本株の割安感はほぼなくなった。2月16日時点で、日経平均の予想ベースのPERは16.27倍だった。昨年9月後半、予想PERが16倍を超えたあたりから日経平均の上値は重くなった。


■「日本株買い」は一巡しつつある


世界的な金余りから、アジアや中東のオイルマネーの日本株買いが続いているとの見方もあるが、欧米の主要投資家の日本株買いは一巡しつつあるようだ。また、国内の景気動向に加え、米国株の動向にも注意が必要だ。12月のFOMC以降の株価上昇で、米国株の割高感は高まった。


1月、米国の消費者物価指数(CPI)は予想を上回った。米国の金融市場で、2024年にFRBが6回の利下げを行うとの期待は消えつつある。2月中旬、2024年末の政策金利は4.50〜4.75%(3回程度の利下げ)になるとの見方は増えた。物価、労働市場のタイトさから、利下げはないと予想する投資家もいる。


利下げ期待の後退で、米国の国債流通利回り(金利)は全年限で上昇した。金利が上昇すると、長期に企業が生み出すキャッシュフローの現在価値は減少する。理論的に、株価の下押し圧力は高まる。


■AI関連銘柄「スーパー・マイクロ」の株は250%も上昇


足許、米国の生成AI関連銘柄の一部で成長期待は過剰になりつつある。年初から2月15日まで、AIサーバーの冷却装置を提供する“スーパー・マイクロ・コンピューター”の株価は250%程度上昇した。エヌビディアの上昇率(約46%)を上回った。生成AIの成長期待は高いが、ごく短期間で収益が株価と同じペースで増えるとは考えづらい。


翌16日、スーパー・マイクロ株は前日比20%程度下落した。過熱感を警戒した投資家が売りに回り、価格の変動性は急上昇した。すべてではないにしろ、米IT先端銘柄の上昇は行き過ぎだ。株価が高値を更新すると利益確定の売りが増加し、相場が調整する可能性は高い。5〜7%程度の調整はいつあってもおかしくない。


写真=iStock.com/kasto80
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kasto80

商業用不動産関連のリスクも懸念材料だ。ムーディーズによると、2023年第4四半期末の米国のオフィス空室率は19.6%、1980年代以降で最高だ。テレワークの増加によりオフィス需要が減少した。資金繰り悪化を食い止めるために、海外物件を投げ売る中国の企業も増えた。商業用不動産関連の貸倒引当金が増加して中堅銀行の業績懸念が高まり、米国株が調整する可能性もある。


■日本株がさらに上昇するために何が必要か


この先、日本株がさらに上昇するためには、企業の収益力の一段上昇が必要だ。期待が高まる分野の一つは半導体だ。


2月、世界最大の半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本第2工場の建設を発表した。TSMCを呼び水に、半導体、製造装置、関連部材の工場建設など設備投資を増やす企業は増えた。販売拠点を設けたり、研究施設を開設したりする海外企業も多い。それは、先端分野での人材獲得・育成の強化に直結する。


2025年前半までに、ラピダスは北海道で回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の試作ラインを構築する計画だ。ラピダスは、現時点の最先端のチップから数えて3世代先に相当する1ナノレベルのチップ製造も目指す。政府が政策面から民間企業のリスクテイクを支え、半導体関連分野を中心に設備投資が増えれば、半導体産業の成長期待は高まる。


■史上最高値を更新したのち急落する可能性も


わが国の賃上げ動向も重要だ。2024年春闘で連合は5%以上の賃上げを目指す。成長を実現できる人材を増やし、事業運営の効率性を高めるために、より高い賃金を提示する企業経営者も増えた。物価上昇率を上回る賃金上昇が実現すれば、個人消費の増勢は強まる。


半導体など成長期待の高い分野で設備投資が増加すると、労働者に対する給与の上昇期待は高まる。それは、個人消費を中心にわが国経済の本格的な回復を支える。理論的に、経済成長率に株価は連動する。半導体関連を中心とした設備投資の持続的な盛り上がり、大幅な賃上げの明確化は、中長期的な株価上昇余地の拡大を支えるだろう。


そうした変化が明確にならないと、ここから先、一段の株価上昇の絵は描きにくい。史上最高値の更新などで、いったん、達成感が出るかもしれない。そのタイミングで米国株が調整すると、わが国の株式市場に調整圧力がかかり、波乱含みの展開となることも想定される。


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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