突然の「通勤快速の廃止」で大炎上…「京葉線のダイヤ改悪」をゴリ押しするJR東日本に抱く強烈な違和感

2024年2月26日(月)16時15分 プレジデント社

JR京葉線の各駅停車と快速(画像=MaedaAkihiko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

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京葉線のダイヤ改正がもめている。JR東日本は今年3月から朝夕のラッシュ時に1日4本ある通勤快速などを廃止する予定だった。ところが通勤時の所要時間が最大約20分延びることなどから、地元の反発が相次ぎ、早朝の上り快速2本だけは残すことになった。日本女子大学の細川幸一教授は「ダイヤ改正の狙いは速達電車の実質有料化で、許容できるものではない」という——。
JR京葉線の各駅停車と快速(画像=MaedaAkihiko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

■JR京葉線の「ダイヤ改正」が大炎上した


鉄道を利用して通勤・通学している人は多い。急行や快速が停車するか、目的地まで何分かかるか——。鉄道ダイヤは居住地を選ぶ上でも重要な基準になっている。しかし、それが鉄道会社の都合で簡単にひっくり返ることもある。


JR東日本千葉支社が昨年12月に発表した京葉線のダイヤ改正内容は、地域住民に激震をもたらした。発表資料によると、日中帯(10〜15時台)を除き、東京—蘇我駅(千葉市中央区)間のすべての通勤快速および快速を各駅停車に変更。これにより、朝・夕夜間帯に外房線、内房線と直通するすべての快速も京葉線区間は各駅停車に変更するという。


京葉線の停車駅(プレジデントオンライン編集部作成)

京葉線とは、東京駅と蘇我駅との間の43kmを結ぶJR東日本の通勤路線。東京ディズニーランドに直結する舞浜駅などがある。蘇我駅から内房線、外房線への直通電車も運行されている。


蘇我—東京駅間の停車駅は、通勤快速が新木場、八丁堀の2駅。朝のラッシュ時に蘇我から乗車すれば、新木場までノンストップとなり、42分ほどで東京駅に着く。快速の停車駅は9駅で、千葉みなと、稲毛海岸、検見川浜、海浜幕張の各駅に停車したあと、南船橋、新浦安、舞浜、新木場、八丁堀に停車する。これは43〜49分ほどで東京駅に到着する。


通勤快速・快速の廃止(各駅停車化)によって、同区間の所要時間は大きく伸びる。通勤快速が各駅停車になることによって55分程度かかり、朝は15分程度、夜間帯は20分程度長くなってしまう。遠距離利用者にとって大きな問題と映った。


■沿線自治体は「断じて受け入れがたい」と猛反発


この発表を受けて沿線の住民、自治体は猛反発した。


ダイヤ改正にいち早く反対表明したのは千葉市の神谷俊一市長、千葉県の熊谷俊人知事だ。外房線沿線の勝浦市、鴨川市、いすみ市、御宿町、大多喜町なども反発した。


参考:千葉市長ポスト

あまりに反響が大きかったことに驚いたのだろう。


JR東日本千葉支社は1月15日、朝時間帯に内房線、外房線から京葉線に直通する上り電車2本(6時12分君津発、6時3分上総一ノ宮発)に限り快速で運行すると発表した。ダイヤ改定公表後の修正は極めて異例だ。しかし、通勤快速の廃止など改定内容の大枠は変えておらず、千葉市など沿線の自治体側は反発姿勢を崩さなかった。


2月8日には、千葉県内の20の市町が連名で、JR東日本本社・千葉支社に対して再検討などを求める要望書を提出した。要望書では「断じて受け入れがたい」としつつ、今後は沿線の十分な理解を得たうえで慎重に進めることを求めた。


■JR東日本は3つの狙いを明かしているが…


そもそもなぜ、このようなダイヤ改正をJR東日本は目指したのか。土沢壇・千葉支社長は昨年12月22日の会見で、通勤時間帯の快速を各駅停車に置き換える狙いを3点挙げていた。


一つが「混雑の平準化」だ。現状、蘇我駅と新木場駅をノンストップで結ぶ通勤快速の利用者は、乗車率が約7割にとどまるという。混雑している各駅停車とのギャップを埋めるためというわけだ。


二つ目が「各駅停車の所要時間の短縮化」だ。ダイヤ改定によって、東京—蘇我駅間で最大で7分、平均でも2分短くなるとしていた。速達電車がなくなれば各駅停車の通過待ちのための時間ロスがなくなる。


三つ目が、快速が停車しなかった駅の利便性を高めて、沿線各駅の均衡発展を図るということだ。


しかし、ダイヤ改正を評価する声は目立ってはいない。


写真=朝日新聞社/時事通信フォト
京葉線のダイヤ改定問題で記者会見するJR東日本千葉支社の土沢壇支社長(=2024年01月15日、千葉市役所) - 写真=朝日新聞社/時事通信フォト

■「電車の速達化」を進めてきた鉄道各社


過去にも鉄道のダイヤ改正をめぐる混乱はあった。しかし、その多くが今回のケースとは逆の停車駅の削減による「電車の速達化」目的だった。


JR東日本でいえば、中央本線を走る特急「あずさ」の停車駅削減ダイヤだ。2018年12月、JRが中央本線の特急「あずさ」の途中駅での停車本数を翌年3月実施のダイヤ改正で削減することを発表し、長野県内の沿線自治体や商工団体が反発した。


新宿—松本駅間の平均所要時間が上りで4分、下りで6分短縮される一方、上下で16本停車していた下諏訪駅が4本になるなど停車駅を大幅に減らす改正だった。地元へのダイヤ改正の連絡は発表の1〜2日前で、事前協議はなかったことも反発を招いた。


しかし、結局、改正内容は変更されることなく実施されたが、その翌年になってJRが折れた。2019年12月、JR東日本は翌年3月に実施するダイヤ改正を発表し、前ダイヤ改正で停車本数を減らした下諏訪、富士見、石和温泉などの各駅で停車本数をある程度戻した。


■ダイヤ改正の騒動は東京メトロでも


東京メトロ有楽町線のダイヤ改正でも反発が起きたことがある。副都心線が開業した2008年6月、有楽町線に準急が新設された。和光市—池袋駅間でのみ速達運転を行い、途中の7駅中、小竹向原駅以外の6駅を通過するものだ。


副都心線の開業による本数増にあわせて設けられ、1時間あたり最大3〜4本が準急に置き換えられた。しかし、通過となった駅の乗客の苦情が多く、2008年11月に運行本数が大幅に減らされた。「副都心線開通に伴って華々しく登場した準急だが、半年を待たずに方針転換を余儀なくされた」(朝日新聞)等の記事が踊った。


東京メトロ有楽町線の停車駅、2008年6月の副都心線開業時。(東京メトロホームページ、2008年3月27日のプレスリリースより)

その後も見直しが行われ、有楽町線の準急は2010年3月のダイヤ改正で廃止された。


■東海道新幹線の「名古屋飛ばし」問題


古くは東海道新幹線の「名古屋飛ばし」問題もある。現在、同新幹線で主流を占める「のぞみ」は1992年3月に初めて登場した。当初は1日わずか2往復で、下りの一番列車(のぞみ301号)で新横浜駅に停車して名古屋駅と京都駅を通過するダイヤが組まれた。


「のぞみ301号」は、東京都区内・横浜市周辺のビジネス・出張利用客が早朝に出発して、大阪市内近辺のオフィスへの出社時刻に間に合うように設定された。


しかし、当時は夜間の保線工事の後の地盤を固めるために、早朝の数本の列車については減速運転をしなければならない事情があった。そのため、「のぞみ301号」を名古屋・京都の各駅に停車させると、当時の「のぞみ」の売り文句であった「東京・新大阪間2時間半運転」が不可能となり、名古屋・京都両駅を通過させることで対応しようとしたのである。


名古屋はJR東海の本拠地であることもあり、「名古屋飛ばし」として話題になり地元から猛反発が起きた。


その後、路盤安定の技術の進歩によって保線工事の翌日の速度制限が不要となり、「のぞみ301号」は姿を消し、現在は名古屋駅と京都駅を通過する新幹線列車は存在していない。


初代「のぞみ」用車両の300系(画像=Sui-setz/PD-self/Wikimedia Commons

■京葉線のダイヤ改正が異例と言えるワケ


特急「あずさ」のほか、有楽町線の準急、東海道新幹線の「名古屋飛ばし」問題を見てきたが、ダイヤ改正で通常争点になるのは、「電車の速達化」であり、「停車駅の削減」だった。反発が起きるのは、速達化によって競合他社より優位な地位を得ようとする鉄道会社の方針によって一部利用者が犠牲になるからだ。


特急あずさは中央自動車道の高速バスと競合し、東京メトロはJR等と、東海道新幹線は航空機と競合関係にある。速達化が図られたが、代替手段を持たない途中駅利用者はそれにより犠牲を被りやすい。


JR中央線を走る特急「あずさ」(画像=007 Tanuki/CC-BY-SA-2.1-JP/Wikimedia Commons

こうしてみると過去のダイヤ改正と比べて、今回の京葉線の速達電車の廃止・大幅削減という方針は異例であることが分かる。


京葉線と競合するのは同じJR東日本の総武線だ。近隣には京成電鉄もあるが、都内のターミナル駅は京成上野駅(日暮里駅でJRと接続)であり、JRを利用する房総半島付近の通勤客等の新たな選択肢になるとは思われない。


そうした中で、JR東日本の京葉線ダイヤ改正の本当の目的は通勤快速・快速の特急化だという指摘がある。現行ダイヤで蘇我駅を7時44分に発車する東京行の通勤快速はダイヤ改正で各駅停車となるが、この時間帯に7時39分発の有料の特急わかしお4号が新設されることに注目が集まっている。


これについて、「通勤快速の廃止は事実上の有料特急化ともいえる」という鉄道評論家などの意見がある。


■ダイヤ改正の狙いは「速達電車の特急化」


JR東日本は近年、首都圏を走る通勤時間帯の速達電車の特急化を目指している。


例えば、東海道線における湘南ライナーと呼ばれる座席定員制の快速電車は、2021年3月の春のダイヤ改正で特急「湘南」に変更。2019年3月のダイヤ改正では、中央線におけるホームライナーが特急「はちおうじ」、特急「おうめ」に変更されるなどした。


特急「湘南」(画像=MaedaAkihiko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「特急化」の内実は、速達電車の値上げである。従来のライナーでは速達料金ではなく、着席保証料金として510円を徴収していた。しかし、特急への格上げで50km以内は760円、100km以内は1020円の特急料金が必要となった。このように、利用者にとってみればかなりの値上げになった(ともに現在の事前購入料金。えきねっと予約では100円引き。運行初期はさらにキャンペーン割引を実施)。


今回取り上げる京葉線では有料のライナーの運行はなく、従来から特急「わかしお」が運行されている。これが3月のダイヤ改正で通勤快速等の廃止に合わせて増発される。また、わかしおを含む房総特急・成田エクスプレスは、このダイヤ改正にあわせて料金体系を変え、従来の指定席・自由席の区分をやめて、全席指定席として特急「湘南」などと同様にする。


この点からも、快速・通勤快速利用者の特急への移行を目指していることは明らかだろう。


特急「わかしお」(画像=Cassiopeia sweet/PD-self/Wikimedia Commons

■特急料金を払っても4分遅くなる


しかしながら、この「速達電車の特急化」で消費者にはどんなメリットがあるのだろうか。筆者が疑問視する理由の一つが「これらの特急はあまり速くない」ということだ。


特急とは特別急行のこと。すなわち、特急料金とは特別に速い速達性への対価である。しかし、首都圏を走るこれらJR東日本の特急は「名ばかりの特急」が多く、今回増発される「わかしお」も同様だ。


現行の通勤快速では、蘇我—東京駅間を42分で結んでいるのに対して、3月のダイヤ改正で増設される「わかしお4号」の所要時間は46分となる。いままで、普通運賃を支払うだけで42分で東京に到着できたのに、改正後は特急料金を払っても4分延びる。


そもそも運賃以外に料金不要の快速や通勤快速に比べて、急行(これも有料)より特別に速い速達性を有するはずの特急がそれより遅いということは、車内の快適性、座席保証の対価が含まれるとしても景品表示法上の不当表示(優良誤認)にあたるのではないだろうか。


そうした料金を支払っても従来の通勤快速以下の速達性しか享受できない消費者はどのような反応を見せるだろうか。


■沿線住民の声を経営に反映させる仕組みが必要だ


そもそもこの反発の要因はJR東日本がダイヤ改正に際して事前に利用者や自治体との協議等を行わなかったことにある。鉄道会社は日々利用者と接し、日銭を稼ぐビジネスであるにもかかわらず、私鉄も含めてダイヤ改正の際、事前に利用者の声を聞いたり、協議したりする姿勢に乏しいと感じる。


特にJR東日本をはじめ、JR各社は国鉄改革後の民営化による効率最優先で、鉄道の公共性が軽視されてきた。収益重視のため新幹線や特急が優先され、住民の足が犠牲になるなど地方では路線廃止や譲渡も相次ぐ。


筆者は従来より、鉄道の利用者本位の経営を促す仕組みづくりが急務であると指摘してきた。鉄道事業法を改正して利用者評議会をつくり、沿線住民の声を経営に反映する仕組みを各社に法的に義務付けてはどうだろうか。このような混乱は利用者、自治体そして鉄道会社にとっても避けるべきものだ。


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細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学家政学部 教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、現職。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律【第2版】』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線を嗜む。
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(日本女子大学家政学部 教授 細川 幸一)

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