お金の心配をせず、気分よく生きていくために…余命3カ月の山崎元さんが大学生の息子に書き残したこと

2024年2月26日(月)14時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn

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お金の心配をせず、自由に気分よく生きていくためには、どうすればいいのか。2024年1月に65歳で亡くなった経済評論家・山崎元さんは、余命3カ月のときに、大学生の息子さんに向けてメッセージを残していた。最後の書き下ろし作品『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』(Gakken)より、一部を紹介する——。(第1回/全2回)
写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
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■運用の3原則は「長期」「分散」「低コスト」


お金の運用は、「長期(投資)」、「分散(投資)」、「低コスト(=安い手数料)」の3つを守ることでうまくいく。


何かしようとする前に、「長期、分散、低コスト」、「長期、分散、低コスト」……と何遍か唱えて、自分の行動がこれに合致するかどうかをチェックするといい。


大事なのは、経済の状況や相場の情報を見て「売り・買い」をしないことだ。投資額を、株価が下がりそうな時に減らし、上がりそうな時に増やすような操作はうまくいかない。プロでも、その種の操作を長期的に成功させている有名な運用会社はない。そして、プロでも「いつがいい投資タイミングなのか?」は判断できない。


■大きな利益を得るには「持ちっぱなし」がいい


投資とは、リスクを取って資本を提供して利益を得ようとする行為だが、大きな利益を得るためには、長い期間資本を提供し続けることが必要だ。途中で売却して税金や手数料を払うことなしに、複利運用を継続するためにも「持ちっぱなし」(金融用語で「バイ・アンド・ホールド」と呼ぶ)がいい。


「長期的にはリスクに見合うリターンが期待できるのだろう」と「いつがいい時なのかは分からない」とを論理的に組み合わせると、「自分に適切なリスクの大きさだけ投資して、じっとしている」ことが最善の答えになる。運用期間が長くても短くても結論は同じだ。論理を信じて、売り買いしたいと思う衝動を抑えよ。


各種の投資・運用のプロや金融界は、経済や相場を分析してコメントを出し続けているが、これは仕事の都合上そうしているだけだ。運用の役には立たない。父もコメントすることがあるが、信じてはいけない。


■お金はシンプルに管理して、おおらかに使う


収入や支出をどの程度管理するかは個人の趣味の問題でもあるが、将来に向けて毎月必要だと思う貯蓄(実際にはインデックスファンドへの投資だ)ができていれば、細かな収支は気にしない方針をお勧めする。


稼いだお金はおおらかに使うといい。特に自分への投資を絞ると将来の自分が貧相になってしまう。自己投資の中身は、①知識、②スキル、③経験、④人間関係、⑤時間、だ。


そして、人生の途中でお金が足りないと思ったなら、節約よりも先に「もっと稼ぐ方法はないか」と考えるようであってほしい。


君の人生はその方が圧倒的に面白くなるはずだ。


■安全で無難な「個人向け国債変動金利型10年満期」


本当は教えたくないのだが、「絶対に損をしないお金」を別途確保しておきたい場合は、「個人向け国債変動金利型10年満期」にお金を置くと、低利回りだが安全で無難だ。


商品の詳細は財務省のホームページで調べろ。銀行、証券会社、ゆうちょ銀行などの窓口で買える。十中八九、他の商品を勧められるだろうが、売る側が手数料の高い商品を買わせたいだけなので、窓口でのセールストークはすべて無視せよ。


運用に使う金融機関は大手のネット証券がいい。現時点では、SBI証券か楽天証券の二択だ。どちらでも良い。取り扱い商品が豊富で手数料が安いことが長所だが、それ以上に人間のセールスマンと接触せずに済む点がいい。


父は長年世話になったので、これぐらいは言っておこうか。「楽天証券は悪くないはずだよ」。


君が、まだ小学校の低学年の時だった。一緒に風呂に入っていたら、「応援しているプロ野球チームがある」と言う。「どこだ?」と聞いたら、「楽天。父ちゃんが楽天だから」と答えた。何と素朴な。涙が出そうになるくらい可愛かったことを思い出した。


■投資家や資本家が稼げるのはリスクを取っているから


息子よ。君が採るべき稼ぎ方の戦略についてまとめておこう。


社会を構成する個々のメンバーの経済力の格差はどこから生じるのか。


一つには、人的資本までを含めた自分の資産でどれだけリスクを取るのかだ。リスクを回避したがる者が提供する価値を、リスクを取ってもいいと思う者が吸い上げるのが経済循環の仕組みだ。


私有財産たる資本でリスク・テイクの対価を吸収し、これに株式投資を通じて参加することができるのが、現在の資本主義の仕組みだ。


投資家、資本家は、リスクを取っているのだから、少しも悪いことをしている訳ではない。全体は契約の合意の上に成り立っている。そこで、資本の収益力が働く。


現実にはもう一つ収益力の源泉がある。それは、リーダーシップだ。


■リーダーシップが得る「権力リターン」


形は会社とは限らないが、会社的な人の集まりでは、そもそも集まる目的を考案し、集まり全体の戦略を考え、人の集まりをコントロールするリーダーが1人ないし少数必要だ。人の集まりでは、彼らがより大きな経済的対価を取ることが納得されやすい。


会社なら、社長が少々多い社長らしい報酬を受け取り、社長室や秘書を持つくらいのことは納得されるだろう。軍政のような社会の軍のトップなら彼(彼女)には大きな権力と共に富も配分されるだろう。リーダーシップが得る「権力リターン」だ。国によっては、書記長や主席などと名乗りつつ実質的には「王」のような人物が君臨し、その周囲に富が集中する。


こうした様子を図解することを試みたのが、図表1だ。「資本主義ポジショニング・マップ」と名付ける。


出所=『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて

経済的な価値を集める力を矢印で示し、個々のメンバーの経済力の大きさを丸の大きさで示した。この世界の経済力のチャンピオンは、主に創業者で株式をたっぷり持っているオーナー社長であり、圧倒的だ。


■「代替可能な労働者」にとどまってはいけない


実際の経済では、図の中で「サラリーマンの群れ」と記した場所に入る丸(「点」に見えるかも知れないが)の数が圧倒的で、彼(彼女)らが提供する価値が養分となって経済を循環している。ここのエリアには、似たもの同士の労働者タイプAが集まっている。彼らには、安く買い叩かれやすいことも含めて、「経済的に不利な重力」が働いている。ここにだけとどまる人生を全力で回避せよ。


若い人が早く気が付いてくれるといいのだが、自分の不利を認めることは時に精神的に難しい。安く働く仲間同士で群れて「人生はこんなものだ」と諦めるようなケースが少なくない。将来の君がそうならないために、今の君に対して、父はこの本を書いている。


さて、人生では、必ずしもお金持ちを目指す必要はないのだが、経済的に不利なコースは歩んでほしくない。たとえば、これから世に出て一旗揚げようと思う若者はどのようなコースを目指すといいのか。


答えは、「狙い筋A」のコースだ。すなわち、自分で起業する、起業の初期に参加する、ストックオプションをたくさんもらえる条件で働くなどで、株式性のリターンを求めるのだ。この場合、リスクにさらす賭け金は自らの「人的資本」だ。使えるものは、惜しみなく、早く使え。


■投資は「チキン」だが、何もしないより随分いい


会社が失敗したら、あるいはクビになったら、またやり直すといいし、現在はかつてと違ってそれが可能だ。不動産投資のようなものと異なり、失敗しても借金無しだ。



山崎元『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』(Gakken)

株式性の報酬にアクセスする働き方の機会がなかなか得られない時、あるいはもっとありそうな場合として、リスクを取るには気が小さい時、せめて自分が持っている金融資産にだけでもリスクを取る役割を担わせようとするのが、投資だ。図では「狙い筋B」として示した。


率直に言って、いかにも「チキンな(臆病な)」選択肢だ。「狙い筋A」の人生よりも退屈だし、経済力を作るまでにはひどく時間が掛かる。それでも、何もしないよりは随分いい。


もちろん、「狙い筋A」と「狙い筋B」を併用して構わないし、そうするのが合理的だ。これからを生きる君には、適切なリスクを取って、効率良く稼いで、機嫌のいい人生を送ってほしい。


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山崎 元(やまさき・はじめ)
経済評論家
専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。以降、野村投信ほか12回の転職を経て、現職。『山崎先生、将来、お金に困らない方法を教えてください!』(プレジデント社)など著書多数。
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(経済評論家 山崎 元)

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