なぜローソンとKDDIの「異例の提携」が実現したのか…業界トップを追う「似た者同士の握手」の本当の狙い

2024年2月26日(月)15時15分 プレジデント社

業務資本提携を発表した三菱商事の中西勝也社長(左)、ローソンの竹増貞信社長(中央)、KDDIの高橋誠社長=2024年2月6日午後、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

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KDDIによるローソンへのTOB(株式公開買い付け)が発表された。成立すれば、ローソンの親会社の三菱商事とともに共同経営を行うことになる。企業アナリストの大関暁夫さんは「絶対的な業界トップ企業を追いかける似た者同士の握手だ。この背景には、伸び悩むローソンの経営を立て直したい三菱商事の思惑が見てとれる」という——。
写真=時事通信フォト
業務資本提携を発表した三菱商事の中西勝也社長(左)、ローソンの竹増貞信社長(中央)、KDDIの高橋誠社長=2024年2月6日午後、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■3社の共同会見を見て、筆者が感じたこと


通信大手のKDDIが、50%の大株主としてコンビニエンス・ストア大手のローソンのTOBに参画すると発表しました。異業種の大手企業同士による資本業務提携は異例です。現状ローソンは東証プライム上場ですが、三菱商事が50.1%の株式を持つその子会社であり、TOB成立後に上場は廃止され、三菱商事とKDDIが50%ずつの株式を持ち合い共同経営体制に移行する計画といいます。


3社社長が顔をそろえた記者会見で強調されたのは、「新しい未来のコンビニの創造」でした。ローソンの竹増貞信社長はこれを、「グローバル・リアルテック・コンビニ」という言葉で象徴的に表現したのですが、会見からはその具体的な姿は見えませんでした。大手3社による大型資本提携会見の割にはあまりに内容が薄い、そう感じたのは私だけでしょうか。むしろこの「3社共同戦線」には、なぜか具体策は詰めずに合意した、という印象を持ちました。


気になるのは、この「3社共同戦線」、一体誰が仕掛けたものなのかという点です。


会見で明らかにされたのは、2023年5月に三菱商事がKDDIにローソンの共同経営を持ちかけたということ。会見席上で三菱商事の中西勝也社長は、「ローソンの価値向上に悩んでおり、新しい価値の提供が必要との認識に至った」と話しています。すなわちこの資本業務提携は、ローソン、KDDIの「現場の想い」から発せられたものではなく、あくまで三菱商事の「ローソンをなんとかしたい」という想いから資本家の立場で動いたものだったのです。


■「業界3位」が指定席になりつつある


ローソンはもともと、1975年にスーパー大手のダイエーがコンビニチェーンとしてスタートさせ、その後ダイエーの業績不振を受けて2001年に三菱商事の持分法適用会社になっています。02年に就任した三菱商事出身の新浪剛史社長(現サントリーHD社長)の下で業績を回復させます。


14年に新浪氏がサントリーに転じると、元ユニクロの玉塚元一氏が後任に就きました。玉塚氏は成城石井の買収などを推し進めたものの、大きな進展が見られぬまま業績は停滞状態になります。この状況に業を煮やした三菱商事は、2017年にローソンを子会社化して、玉塚氏に代わる社長として竹増氏を送り込んだのです。


その後コロナ禍でコンビニ業界全体が大きなダメージを被ったここ3年ほどでしたが、直近24年2月期の業績予想では、コロナ明けの消費回復の恩恵もあり、純利益で前期比68%増の約500億円という過去最高益を見込むほどに大幅な回復基調にはあります。


しかし業界トップであるセブン‐イレブンの背中は遠く、23年3〜11月での1店舗あたりの平均日販は54万9000円で、セブン‐イレブンの69万8000円はおろかファミリーマートの55万3000円にも届かず、業界3位が指定席になりつつあるという危機感が三菱商事を覆っていたのです。


■「共同戦線」を仕掛けた三菱商事の思惑


そもそも総合商社は物量の大きさで収益を上げるバルク商法であり、国内外からの良質な商材の調達には長けてはいるものの、あくまでBtoB領域をメインの市場としているがゆえに、BtoCのマーケティングは得意領域ではないという弱点を併せ持っています。


そのため、セブン‐イレブンがマーケティングに長けたカリスマ経営者・鈴木敏文氏の下で、消費者ニーズを先取りし次々と新商品、新サービスを開発して業績を伸ばしたのに対して、ローソンやファミリーマートは後追いでおこぼれを拾っていくのが常という歴史があるのです。


ファミリーマートはローソンと同じく大手商社の伊藤忠商事の子会社ですが、2020年にTOBによる100%子会社化により上場を廃止しています。異業種提携による業務拡大、24時間営業の見直し、店舗網飽和状態と今後の人口減少を踏まえた新たな戦略策定など、多くの課題を抱える今後のコンビニ経営を考える時、戦略の柔軟性とスピード化を優先した結果としての上場廃止であったわけです。


三菱商事も当然、何らかの形でのローソンの上場廃止を視野に入れていたのでしょう。さらに子会社から持分法適用会社への移行ができるなら自社の資産効率化もはかれるという狙いもあり、他社との共同経営化を目論む中でKDDIとの持ち合いによる資本業務提携に落ち着いたものと思われるのです。


■当初、参画する予定だった「もう1社」


しかしこの共同経営体制、実は当初は三菱商事、KDDIともう1社の3社による共同経営が予定されていたことが、会見当日のKDDIの適時開示資料で明らかになっていたのです。資料では、もう1社を「当初パートナー候補者」と表現して、「当初パートナー候補者は、2023年12月25日付で、対象者に対して本取引(当初案)に関する提案辞退の申し入れを正式に提出した」とあります。開示資料では具体的企業名には言及されていませんでしたが、2月15日、日本経済新聞が石油元売り最大手のENEOSホールディングス(HD)であったと報道しました


日経新聞によると、ENEOSホールディングスも共同経営に参画する予定だった(写真=円周率3パーセント/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

ENEOSと言えば昨年、齊藤猛社長(当時)が懇親会の席で女性に抱きついて解任に追い込まれています。それが12月19日のこと。日経新聞によると、ENEOSは「経営トップが不在となり枠組みから離脱した」ということです。前年の22年には会長兼CEOだった杉森務氏も、飲食店店員に対して、性的に不適切な行為を行ったとして辞任に追い込まれています。二代続けての経営トップによる破廉恥な不祥事に、さすがに共同経営どころではなくってしまった、というところでしょう。


■「従来の業務提携」のままでも対応可能だが…


巨人ドコモを追いかけつつも携帯事業に行き詰まり感が募るKDDIと、EV化の荒波を前に新たなる手だてを模索中のENEOS。この悩める2社を引き込むことで、なんとしても3位低迷状態を打破したいローソン活性化に向け3社連合で「独自経済圏」を確立しようというのが、主導した三菱商事の思惑だったのではないでしょうか。しかしこの思惑は、思いがけないENEOSの離脱によってもろくも崩れ去ってしまったように見えます。


先のローソン、KDDI、三菱商事3社の共同会見が、中身の薄いものになってしまったのは、このような事情も影響したのでしょう。連名のニュースリリースに記載された提携検討業務は、ローソン・KDDIリアル店舗での相互サービス提供の促進、両社顧客データ基盤の有効活用によるサービス向上、KDDIのDX知見を活用したローソン店舗オペレーションの最適化等々、従来の業務提携のままでも対応可能な内容ばかりであり、「新しい未来のコンビニの創造」の芽は感じられません。もっと言えば、KDDIがなぜ50%の出資をしてローソンを共同経営する必要があったのかが、現時点でははっきり見えてこないのです。


写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■「共通の課題」に対する解を導き出せるか


ENEOSが脱落してもローソンへのテコ入れ機会を逸したくない三菱商事がKDDIに対して、3社経営から2社経営になることでコンビニ事業への関与が強まり、脱携帯事業の足掛かりをつかむチャンスが大きくなると説き伏せた。折衝のプロである大手商社が、とりあえず相手の気持ちが冷めないうちに成約に持ち込んだ、というのが実情のようにも思えます。


持株比率は50%を維持することで取り込む利益は従来通りでありながら、KDDIの出資により自社の資産効率化を手にする三菱商事は、合意の段階で既に果実を得ているわけです。さすが百戦錬磨の大手商社、といったところではないでしょうか。


コンビニ業界も携帯電話業界も、マーケットの飽和状態と人口減少という共通の課題に対する解を導き出すことが、今後の発展のカギを握っていることは間違いありません。しかしながら、それぞれに巨人が存在する業界にあるローソンとKDDIが、独自戦略を編み出しその巨人を脅かす存在になるのは至難の業でもあります。


“物言う共同経営者”となる三菱商事を含めた3社の意思統一がはかれるか否かが、重要なポイントになるでしょう。三菱商事の思惑から生まれた資本業務提携だけに、「未来形ローソン」が形を整えるまでには、越えるべきハードルが意外に多いのではないでしょうか。


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大関 暁夫(おおぜき・あけお)
企業アナリスト
スタジオ02代表取締役。1959年東京生まれ。東北大学経済学部卒。1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門のほか、出向による新聞記者経験も含めプレス、マーケティング畑を歴任。支店長を務めた後、2006年に独立。金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。
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(企業アナリスト 大関 暁夫)

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