カウンセラーも友人も必要ない…4週間の実験から分かった孤独から抜け出すために必要な"会話の頻度"

2024年2月26日(月)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stock_colors

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孤独から抜け出すにはどうすればよいのか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「他の人と連帯を感じるたびに脳が「幸せな気分」というごほうびをくれる。ひとり暮らしの人を対象とした実験から、週に何度かの会話が孤独感を20%減少させたことが分かった」という——。(第5回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮社)の一部を再編集したものです。


■他の人と連携すると幸せな気分になる理由


人類の歴史のほとんどずっと、「他の人と連帯すること」が危険だらけの世界で生きのびるために欠かせないことでした。あなたがこの文章を読んでいるということは、祖先全員が周りの人と助け合い、互いを守り合ってきたはずです。社会的な絆を結んでそれを維持した人は命をつなげる可能性が高かったので、当然その遺伝子が子孫にも受け継がれています。


何度も書いた通り、脳にとってはその人を生きのびさせ遺伝子を子孫に残すことがすべてでした。そして私たちもその遺伝子を受け継いでいます。そうでなければ存在していません。ですから他の人と連帯を感じるたびに脳が「幸せな気分」というごほうびをくれるのです。


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■人間の肌は優しくなでられると反応する


人間の肌には、優しくなでられた時にだけ反応する受容体があります。その受容体は痛みや温度には反応せず、肌を押されても反応しませんが、軽くなでられた時には反応します。その反応が最も良いのが秒速2.5センチの速さで触れられた時で、それはまさに誰かに優しくなでられる時の速さです。


そこには何か意味があるはずです。でなければ身体にこの受容体が組み込まれるように進化したはずがありません。


肌が受け取ったシグナルをたどって脳まで行くと、その答えがわかります。肌を優しくなでられると、「脳下垂体」という脳の下部分にある内分泌腺(ないぶんぴつせん)で「エンドルフィン」が放出されます。エンドルフィンというのは脳内伝達物質で、痛みを和らげたり幸福感という強い感情をつくったりします。


小さい頃、ケガをしてなぐさめてもらったことがあると思います。信頼している大人に頰をなでてもらったり、優しい声で落ち着かせてもらったりしたでしょう。


するとすぐにエンドルフィンが出て痛みが和らぎ、気分が良くなったはずです。逆に、友人が悲しんでいる時や助けが必要な時に、自分もそんな風にしようと思ったことはないでしょうか。とっさに相手の腕をなでたり「ここにいるよ」「一緒にいるからね」と伝えたりしたかもしれません。


■「集団毛づくろい」は親密な感情が生まれる


面白いのは、この受容体が人間に1番近い親戚、ゴリラやチンパンジーにもあることです。彼らは起きている時間の実に20%近く、お互いの毛づくろいをしています。毛づくろいする方もされる方もエンドルフィンが放出されていて、親密な感情が生まれるのです。そうやって群れの1頭1頭がお互いに毛づくろいをすることで1つのグループとしてまとまっています。このように人間もサルも相手を優しくなでるわけですが、それが重要な社会機能を担っているのです。


ゴリラやチンパンジーは通常20〜30頭の群れで暮らし、お互いに毛づくろいをして絆を強めますが、人間の祖先はそれよりも大きな人数のグループでまとまらなくてはいけませんでした。規模にして150人くらいが普通だったようで、他の動物よりも大きなグループで協力し合えるのが強みでした。しかし毎日グループの全員をなでていては、食べ物を集めたりする時間がなくなってしまいます。


つまり人間には2人を超える人数で、エンドルフィンが放出されるような「集団毛づくろい」が必要だったのです。


写真=iStock.com/Phillip Wittke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Phillip Wittke

■一緒に笑うことは集団毛づくろいと同じ


人間にとってちょうど良い群れのサイズが150人程度だということを算出したのは、イギリスの人類学者ロビン・ダンバーでした。そのことから、安定した社会的関係を築ける150人という数は「ダンバー数」と呼ばれています。人間にとっての集団毛づくろいは「笑うこと」だと最初に考えたのもダンバーでした。


ダンバーは、お互いに知り合いではない人たちに映画館で映画を観てもらう実験を行いました。あるグループには面白いコメディーを、同じ人数の比較グループには長くて退屈なドキュメンタリーを観てもらうという実験で、ダンバーの推測が正しければ、一緒に笑った人たちは比較グループよりも多くのエンドルフィンが放出されているはずです。それを確かめるため、映画を観た後に氷水の入ったバケツに手を入れてもらいました。エンドルフィンには痛みを和らげる効果がありますから、笑ったグループの方が長いこと水の冷たさを我慢出来るはずです。結果、その通りになりました。


■笑うこと以外でもエンドルフィンは出る


一緒に笑うことにはサルの毛づくろいと同じ効果があるようです。しかし1度に2人を超える人数の絆を強められるのが大きな違いです。よく考えてみると、「笑う」ことはグループ活動の1つだと言えます。独りで面白い映画を観ていても、他の人と観ている時ほどは笑わないのですから。


その後、笑うこと以外でもエンドルフィンが出ることがわかりました。悲しい映画にも同じ効果がありますし、グループで踊ったり歌ったり、一緒にトレーニングをすることでもエンドルフィンが出ることが判明しています。


写真=iStock.com/JackF
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JackF

■群れから追い出されることは「死」となる


歴史上、群れから追い出されることは確実に死を意味しました。人間にとってグループはそれほど大事なので、なぜ脳が孤独を大きな危険だとみなすのかも理解出来ます。


長期間孤独でいると、脳は「何かあった時に誰も助けてくれない」と受け取ります。そのため普段以上にその人を警戒させ、常に最悪の事態に備えさせるので、深く眠れなくなります。また「闘争か逃走か」の状態に入るので、脳に「他の人は自分に敵意を持っているかもしれない」というシグナルが送られてしまいます。誰も助けてくれないのですから、油断するよりも警戒しておいた方が良いのです。狩猟採集民ならそれで命が助かったかもしれませんが、現代の私たちには悪い影響の方が大きくなります。周りから見ると、その人はとげとげしく、疑ぐり深く、思い切り嫌な人に見えてしまうことがあるからです。


■他人をネガティブに捉えると引きこもるように


他人をネガティブに捉えるようになると、長期的には引きこもってしまう恐れもあります。「みんなで集まる時にも私には来てほしくないんだろうな。だったら行かないでおこう」そんな風に考えてしまうので、簡単に負のサイクルに陥ります。


その結果誰からも誘われなくなり、それを脳は「やっぱりそうだった」と解釈するのです。「ほらやっぱり、私には来てほしくなかったんだ──」そうしてますます引きこもるようになっていきます。


大切な友人が連絡を取りたくなさそうだったり、誘っても興味がなさそうだったりした場合でも、その人が本当に人付き合いを避けたいのではなく、孤独のせいかもしれないということを知っておくといいかもしれません。それでも根気よく連絡を取り続け、集まる時には誘いましょう。楽しいことをする時に誘わないと、「あなたはもうグループに属していない」というシグナルになってしまいます。


写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

■孤独度を減らす方法


コロナ禍の間、多くの人が孤独な生活を強いられました。「孤独から抜け出すためには何が必要なのか」を調べた研究があります。様々な年代の独り暮らしをする240人に、「どんな風に孤独を感じているか」という質問に答えてもらい、「孤独度ポイント」を算出しました。



アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)

その後、被験者には週に何度か電話がかかってきて、会話の内容は何でも良かったのですが、数分間会話をしました。そして4週間後にまた同じ質問に答えてもらい、孤独度ポイントを再び算出したところ、なんと20%も下がっていました。


電話をかけた人たちはカウンセラーや会話のプロというわけでもありませんでした。ごく平凡な17歳〜23歳の若者で、事前に講習を受けたときに教わったのは次の3点でした。


・相手の話を聞く
・相手の話に興味を示す
・相手に話題を決めさせる


私たちも覚えておくと良いかもしれません。親戚のお年寄りなど、若い人と時々話すだけで元気になれる人が周りにいる場合がありますから。


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アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医
ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。
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(精神科医 アンデシュ・ハンセン)

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