トヨタ「ハイエース」 いつまで愛されキャラでいられるか

2月27日(水)7時0分 NEWSポストセブン

自動ブレーキなどを標準搭載した現行ハイエース(写真/時事通信フォト)

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 商用バンの代表格といえるトヨタ自動車の「ハイエース」が、海外市場向けの新シリーズをフィリピンで初公開し、大きな話題を呼んでいる。日本でも誕生から50年以上、商用だけでなく乗用車として乗り継ぐファンも多いハイエース。なぜ、ここまで愛され続けているのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


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 ファミリーカーと言えばミニバンという文法が確立されて久しい日本において、特異な人気を誇っているモデルがある。トヨタ「ハイエース」だ。


 今日のミニバンがFWD(前輪駆動)全盛となっているのに対し、エンジンの上に前席を置くキャブオーバーと呼ばれるパッケージを守り続けている。2018年の販売台数は約6万台。1か月平均5000台という数字は、日本市場では立派なメジャーモデルと言える水準だ。


 だが、ハイエースの名を新車販売ランキングの上位で見かけることはない。新車販売データを発表している日本自動車販売協会連合会(自販連)は毎月、上位50位までの普通乗用車販売ランキングを発表しているが、ハイエースはその下位のほうで見かける程度だ。


 その理由は商用車の比率が高いから。2018年の販売台数のうち、乗用車およびマイクロバスが1万2000台で、4万8000台は商用バンモデルなのだ。


 ところが、ハイエースに限ってはこの比率がそのまま実態を反映しているとは言えないと、ハイエースのカスタマイズを得意としている改装ファクトリー関係者は言う。


「商用モデルのうち一定割合が、乗用車やキャンピングカーとして改装されています。また、中古車になった段階でカスタマイズされるケースもあります」


 なかには4ナンバーのまま、ビジネスとマイカーの両方に使っているケースもあり、乗用用途の実数はデータよりかなり多いとみられる。


 現行ハイエースが登場したのは2004年で、今年で丸15年になる。車両価格も上位グレードになると決して安くない。そのハイエースが乗用向けとしてもこれだけ長年にわたって商品寿命を保っているのは、驚異的と言えよう。



 新車販売ばかりではない。中古車市場でもハイエースは大人気だ。前出のファクトリー関係者によれば、古いモデルや走行距離の多いモデルでも高値がつき、しかも安定してすぐさばけるのだという。


「なぜハイエースが? と言われると、実は理由は明確ではないんです。信頼性や耐久性、室内の広さは最大の競合モデルである日産『キャラバン』や、消えていった多くのライバルも十分に持ち合わせていたからです。


 といって、わけもなくハイエースが他を圧倒したのかというと、そうでもない。ビジネスを手がけている自分自身、ハイエースには妙に惹かれる要素がある。いかにも強固で、かつ質実剛健を絵に描いたようなデザインのためかもしれません。


 もちろん使いやすさ、改装のしやすさなど、フリーダムを感じさせる点も魅力。キャブオーバー車のハイエースはニッチ商品ですが、そのニッチには案外たくさんのファンがいる。そういう世界でオンリーワンになったクルマは実に強く、本当に値崩れしませんね」


 実際、カスタムカーショーやキャンピングカーショーなど、趣味の世界の改造車のイベントを訪れると、ハイエースをベースにカスタマイズされたものを必ずと言っていいほど見かける。


 その世界ではまさに不動の人気モデルと言うべきだが、そんなハイエースファンに一石を投じる出来事があった。2月18日、トヨタが突如、フィリピンで海外向けの新型ハイエースを発表したのである。


 新型ハイエースは、これまでのハイエースとはガラリとイメージを変えてきた。新型ハイエースはフロントがストンと落ちた独特のワンボックスフォルムから一転、ボンネットつきのグローバル商用車へと衣替え。


 全幅は1950mmと小型トラックなみに広く、全長はノーマルボディでも5mをゆうに超え、ロングボディでは約6mに達する。現行ハイエースにも全幅1880mmの3ナンバーモデルはあるが、それと比べても格段に大きい。名前こそハイエースだが、今までのハイエースとはもはや別物になったと考えていい。


 トヨタは今のところ、新型ハイエースを投入する市場としてASEAN(東南アジア)、中東、中南米、オーストラリアを挙げており、日本はリストに入っていない。が、このモデルが登場したことで、日本向けハイエースもフルモデルチェンジされる公算がにわかに高まってきた。ハイエースファンにとっては、次のハイエースがどんなクルマになるか、大いに気になるところであろう。


 次期モデルについては具体的な情報はほとんど流れていないが、ヒントはある。



 トヨタは2017年の東京モーターショーに次世代商用バンのコンセプトカー「LCVコンセプト」を出品している。プロポーションは現行ハイエースと異なり、普通のミニバンと同様、ボンネットつきの1.5ボックススタイル。もちろん前面衝突安全性能を強化するためで、世界の商用車のトレンドに沿ったものだ。


 性能面では実に正しい進化と言えるが、世の中は正しいものが人々を魅了するとは限らない。もし、遠くない未来に登場するであろう次期ハイエースがボンネット型になったとき、今日のような“愛されキャラ”でいられるかどうかは実に興味深いところ。


 歴代ハイエースは前席の前方ではなく下にエンジンが搭載される、キャブオーバーと呼ばれるパッケージであった。前席を前に寄せることができるため、ボディをいたずらに長くしなくても室内を広大にすることができる。


 1965年にプリンス自動車(後に日産自動車に吸収合併)が世に送り出した「ホーミー」を先陣に、一気にバリエーションが増えた。今日、ミニバンは前輪駆動が主流だが、かつてはハイルーフミニバンと言えばすべてキャブオーバータイプだったのだ。


 衝突安全基準の強化にともない、ボンネットなしのキャブオーバーモデルは次々に姿を消した。現行ハイエースは技術陣の涙モノの努力によって衝突安全基準をクリアした、キャブオーバーミニバンの生き残りの1台。そのこと自体がハイエースをオンリーワンにしていることは確かだ。


「トヨタは以前、『グランドハイエース』という名でボンネットタイプのミニバンを発売したことがあります。日産『エルグランド』への対抗馬として登場した『グランビア』の兄弟モデルでした。


 グランビアがパッとしなかったため、強固なブランドであったハイエースの名前をつけたのでしょうが、ハイエースワゴンのお客様は見向きもしませんでした」(前出の改装ファクトリー関係者)


 衝突安全強化のためにもボンネットバン化は必須。しかし、ハイエースの顧客をつなぎとめられるかどうかは未知数。トヨタにとっても次期ハイエース作りが悩ましさ極まるものであることは想像に難くないが、それでも商用バンづくりの熱意では右に出る者のないトヨタのこと、不安を吹き飛ばす魅力的なモデルとなっての登場を期待したいところだ。

NEWSポストセブン

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