「3つの変化」が直撃、大激変のアパレル業界に現れた「夢の新素材」とは?

2024年2月26日(月)5時55分 JBpress

 気候変動やコロナ禍、ウクライナ侵攻に起因するインフレの加速などにより、アパレル業界は激動の時代を迎えている。旧態依然とした企業の淘汰が進む中、環境に配慮した新たなビジネスモデルの構築やイノベーションが必要だと強調するのが、A.T. カーニー シニアパートナーの福田稔氏だ。2023年12月に書籍『2040年アパレルの未来:「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』(東洋経済新報社)を上梓した同氏に、アパレル業界の市況現状と求められる対応策、注目を集めるイノベーションの事例について話を聞いた。(前編/全2回)

■【前編】「3つの変化」が直撃、大激変のアパレル業界に現れた「夢の新素材」とは?(今回)
■【後編】急成長の日本発ラグジュアリーブランドが「ニット」で勝負する納得の理由
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成熟期のアパレル市場に起きている「3つの変化」


——著書『2040年アパレルの未来:「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』では、世界のアパレル市場に「3つの変化」が起きているとありました。具体的には何が起きているのでしょうか。

福田稔氏(以下敬称略) 1つ目の変化は、新品市場の成長停滞です。コロナ禍やインフレに伴い、不要不急の衣服が買われづらい状況になったことに加え、サステナビリティを意識する消費者が増えて新品の購入を控えられる傾向にあること、気候変動の影響による暖冬で重衣料が売れにくいことなどが要因です。

 今や先進国のアパレル市場は完全に成熟市場となり、一部では衰退期に入ったと見てよいでしょう。

 2つ目は、中古市場の伸長です。2021年に20兆円規模だった市場は、2025年には40兆円を超えると予測されています。その要因として、生活者が直接的にやり取りするCtoCアプリが市場に浸透したが大きいでしょう。

 CtoCアプリというと、日本ではメルカリが有名です。米国ではthredUPやPoshmark、欧州ではVintedといったCtoCプラットフォームが普及しています。

 二次流通市場に積極参入する大手アパレル企業も増えています。ZARAはイギリスで自社の中古品を新たにCtoCで売買するサービスを開始し、日本でもアパレル大手のアダストリアが販売員によるネットフリマサービスを始めています。

 3つ目は、ウェルネスが大きなトレンドになっている点です。コロナ禍を経て、「心身ともに健康で幸福であること」に価値を求める消費者が増えており、スポーツやアウトドアといったウェルネス関連市場は成長が続いています。


成長のみを追い求める時代は終焉し、「新たな指標」が重要視される

——サステナビリティを意識する消費者が増えているとのことですが、消費者の環境意識の高まりについて、日本と欧米の間で違いは見られるのでしょうか。

福田 日本でも環境に対する意識の高まりは見られますが、やはり欧米の方が顕著です。たとえば、欧米では物を購入する際、環境負荷やカーボンフットプリントを気にする消費者が増えています。

 グローバル大手小売業の一角である仏カルフールは、全食品に環境負荷のスコアをラベル表示して売るようになり、消費者もその情報を見ながら買い物をしています。そうしたトレンドが食品から生活雑貨、アパレルへと広がりつつあるのが現状です。

 日本でも環境負荷情報を開示するスーパーが出てきており、今後、欧米に追随する動きが広まるのではないかと考えています。

——3つ目の変化はウェルネスが大きなトレンドになっていることでした。その中でアパレル業界は何を目指すべきでしょうか。

福田 国連機関である持続可能な開発ソリューションネットワーク(以下、SDSN)が毎年発表している「世界の幸福度」という指数をみると、面白いことがわかります。日本の幸福度はコロナ禍前よりも上がっているのです。つまり、人々がウェルネスであることを求め、モノを買わずとも幸福度が上昇している現状が見て取れます。

 これからの時代、幸福度は企業のみならず、国全体で議論すべきではないでしょうか。たとえば、GDPのみをKPI(重要指標)に置いてしまうと、成長に偏りすぎた資本主義ドリブンの経済活動になってしまい、地球環境に悪影響を及ぼしかねません。そこで幸福度のような別の観点でKPIも設定し、バランスの取れた成長を目指すことが必要だと考えています。


環境負荷の低い新素材開発に挑むスタートアップ企業

——市場が激変するアパレル業界において、さまざまなイノベーションを生み出すスタートアップが登場しています。本書では、最も注目を浴びている分野として「素材のイノベーション」を挙げられていますが、具体的にどのような動きがあるのでしょうか。

福田 現在、アパレルでは多くの素材が使われていますが、圧倒的に消費量が多いのは「セルロース系のコットン」「ナイロンやポリエステル等のPET繊維」です。この2つは一長一短です。

 コットンは生分解性があるものの、生産段階で大量の水を使うため環境負荷が高い点が短所です。一方、PET繊維は環境負荷を抑えて効率よく生産できますが、生分解性がないためマイクロプラスチックゴミとして海洋生態系に悪影響を与える恐れがある、という課題があります。

 こうした前提を踏まえ、生分解性があり、かつ環境負荷が低い「バイオマテリアル繊維」が注目されています。バイオマテリアルは動物性・植物性由来の繊維を指し、環境負荷が相対的に低い「環境配慮型素材」として注目を浴びているのです。

 素材のイノベーションを生む企業としては、日本発のスタートアップ企業「スパイバー」が挙げられます。スパイバーは、世界初のバイオ合成による構造タンパク質「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)」の開発・製造・販売を行っています。欧米では、廃棄される花を原料にしたダウン製品「フラワーダウン(FLWRDWN)」を開発した「パンガイア(PANGAIA)」という企業も急成長を遂げています。

 ただし、こうした新素材はコスト面の課題を抱えています。現状では生産量と価格のバランスが取れていないため、今後、大量生産をするときにコットンやPET繊維と同等レベルの低価格を実現することが求められています。

——環境配慮型素材はアパレル分野に限らず、業界を越えて広がりを見せる可能性があるのでしょうか。

福田 スパイバーでは「ブリュード・プロテイン」をアパレルだけでなく、一般的な素材に応用したいと考えているようです。たとえば、スーパーのポリ袋やナイロンシートなど、CO2を排出する石油由来の素材を環境配慮型素材に置き換える、といった構想が挙げられます。

——環境配慮型素材の開発について、大手企業での動きは見られますか。

福田 大手企業も素材の研究を進めています。たとえば、すでに化学繊維をつくっている企業では、PET製の原料をバイオマスにすることで生分解性をもたせるなど、バイオポリエステルの研究に注力しています。

 欧米ではさまざまなタイプの企業が出てきており、キノコの菌から服をつくる研究を進める企業や、紙の原料となるパルプからセルロースを取り出して繊維に変える企業などもあります。新素材の研究開発は世界中でムーブメントとなっており、今後も目が離せません。

【後編に続く】急成長の日本発ラグジュアリーブランドが「ニット」で勝負する納得の理由

■【前編】「3つの変化」が直撃、大激変のアパレル業界に現れた「夢の新素材」とは?(今回)
■【後編】急成長の日本発ラグジュアリーブランドが「ニット」で勝負する納得の理由
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筆者:三上 佳大

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