すぐに「クソリプ」を返す残念な日本人が増えている

2月28日(金)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hocus-focus

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※本稿は、加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)の一部を再編集したものです。



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■グローバル化できない日本人「原因は英語力ではない」


学習というのは、専門知識を身に付けることだけを指しているわけではありません。文章を読んでその意味を理解し、自身も論理的な文章を書けるようトレーニングをすることも重要な学習のひとつです。


そして、こうした文章を介したコミュニケーション能力というのは、企業の生産性やひいては国全体の生産性に影響を及ぼしています。特に諸外国とのやり取りが必要となった場合、この影響が極めて大きくなってくるのです。


日本人は一般的に外国とのコミュニケーションが苦手であり、その理由は英語の能力が低いからだといわれています。こうした事情から日本では何十年も前から英語教育の重要性が叫ばれてきましたが、一向に外国とのコミュニケーションは上手になりません。


筆者は、日本人がグローバル化できないのは英語に原因があるという話は疑ってかかる必要があると考えています。一部の業種で高度な英語力が必要なのは事実ですが、現実問題として、多くのアジア人が、メチャクチャな英語のままで、英語圏の人と普通にビジネスをしており、語学の能力が大きな障壁になっているとは思えないからです。



■問題は日本人の思考回路にある


語学力ではないとすると、何が問題なのでしょうか。ひとつ考えられるのは日本人の思考回路です。論理的な思考回路が身に付いていれば、多少、言葉が不自由でもビジネス的な意思の疎通は可能です。ところが、思考回路そのものが非論理的である場合、どれだけ語学ができても、正確に相手に意思を伝えることができなくなってしまいます。


以前、ネット上のまとめサイトに文章の読解力に関する記事が投稿されたことがありました。「今週は暑かったのでうちの会社はサンダル出勤もOKだった」というツイッターのつぶやきに対して「なぜ今週だけはOKなんだ?」「サンダルない人は来るなって?」「暑いならともかく基本はNGだろ」といった反応が一定数返ってくるという内容でした。


この記事を投稿した人は、こんな簡単な文章なのに、意味を理解できない人があまりにも多いと嘆いていたわけですが、奇妙な反応を返した人は、「サンダル出勤がOK」というキーワードだけが目に入っていた可能性が高いと考えられます。つまり、文字は読んでいても、文章は頭に入っていないということになります。


■ツイッターのクソリプの大半は読解力不足


ニュースサイトのコメント欄を見ても、明らかに文章を読んでいない人のコメントや、ひとつのキーワードだけに反応し、文脈をまったく無視したコメントが無数にアップされているのが現実です。文章を読んでいない、あるいは読めていない人が一定数存在しているのは間違いないでしょう。


ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、ツイッターでのクソリプ(どうしようもない返信のことを指すネット上のスラング)の原因は大半が読解力の不足によるものではないか、と指摘しています。ツイッターは、瞬間的に反応して返信するという役割を持ったツールであり、勘違いによる返信が一定数存在することはやむを得ないことかもしれません。しかしながら、文章が読めていないという指摘はこれ以外にもあちこちに存在しています。


投資銀行家で「ぐっちーさん」の愛称でも知られる山口正洋氏は、ビジネス上のメールの内容をきちんと読めていない日本人が多すぎると自身のコラムで指摘していました。内容があいまいなまま物事が進むので、実際に会って内容を再確認しなければならず、これが仕事の効率を悪化させているそうです(山口氏は2019年9月、がんで亡くなられました)。



■高学歴でも読解力がない日本人


この話は、筆者にも思い当たるフシがあります。


筆者は10年間ほど、コンサルティング会社を経営してきた経験を持っているのですが、仕事でやり取りのあったビジネスパーソンの一部は、業務に関するメール上のやり取りについて、内容を十分に把握できていませんでした。


こうした状態を放置すると経営に支障を来すため、筆者は、可能な限り箇条書きにする、要件ごとにメールを分ける、確認のメールを送るといった対策を施し、案件を無事に処理できるよう工夫していました。


ちなみに、メールをやり取りしている相手というのは、いわゆる高学歴な人物ばかりであり、基礎学力という点では国内でもトップクラスに属しているはずです。山口氏のケースもおそらく同様でしょう。いわゆる高学歴な人であっても、基礎的な読解力に欠けることが多いというのは、由々しき事態です。たかがメールのやり取りではありますが、「チリも積もれば」の理屈で、社会全体の生産性を大きく引き下げている可能性があるのです。


■メンタルな影響も無視できない


文章の読解力がどのように確立するのかというのは、実は非常に奥が深いテーマであり、簡単に答が出せるものではありません。単純に文章を読むテクニックに依存する部分もあるかもしれませんし、論理性の有無といった根本的な問題も関係しているはずです。


これに加えてメンタルな影響も無視できません。感情が先に立ってしまうと、自分の感情やイメージに沿ったキーワードだけを無意識的に抽出し、まったく異なる結論を導き出してしまうことがよくあるからです。


言語によって、脳内における情報処理のアルゴリズムが異なるという研究事例も存在していますから、そうなってくると、他の言語圏との比較も必要になってくるでしょう(ちなみに山口氏は米国人とのやり取りではそうした行き違いは生じにくいとも主張していました)。


ここまでくるとテーマが壮大になりすぎてしまいますが、実務的には2つのアプローチがあると筆者は考えています。



■日本でテレワークが進まない理由


ひとつは可能な限り、口頭ではなく文書でのコミュニケーションを実施するよう心がけ、このやり方に社会全体として慣れていくという方法。もうひとつは、表現や表記の方法を体系化し、可能な限り分かりやすくするという方法です。


日本では以前からテレワークなど、遠隔で勤務できる環境整備が必要と指摘されてきましたが、一向に導入が進んでおらず、これが企業の生産性に悪影響を与えています。日本でテレワークが実現できないのは技術的な問題ではなく、メンタルなものである可能性が高いと考えられます。


日本の職場では、業務の指示や責任の範囲が不明瞭なことが多く、チーム全員が顔を合わせて、状況を逐一確認していかないと仕事が進みません。確かに、表情やしぐさ、声など、ビジュアルな情報があれば、言語が不明瞭でもおおよその意思の疎通は可能でしょう。しかしながら、こうしたスタイルにばかり慣れてしまうと、文書を読み書きする能力が高まらないのは当然のことです。


外国人に対しては、いわゆる「あうん」の呼吸が通用しませんから、これがグローバルなコミュニケーションを阻害していると考えられます。


業務の指示や責任の範囲が、文書で論理的に行われるようになれば、文章の読解力は確実に向上しますし、テレワークやグローバル活動も進むという好循環となるでしょう。


■日本のサイトは情報がまったく整理されてない


これと同時に情報を体系化するトレーニングも必要です。


筆者は職業柄、日米の経済統計をウェブサイトで閲覧することが多いのですが、両国のウェブサイトには驚くべき差があります。


米国のサイトの方が英語という外国語であるにもかかわらず、内容が直感的に理解しやすいのです(参考までに、筆者には外国留学や外資系企業の就労経験はなく、ごく一般的な英語力しかありません。英語の基礎力が高いことで内容が容易に理解できているわけではないことに留意してください)。


日本のサイトは、統計データに関連するおびただしい注記事項が羅列してあるだけというケースが多く、情報がまったく整理されていません。つまり、様々な立場の人が読むことをまったく想定していないのです(あるいは想定していても、体系立てて表記できないのかもしれません)。


困ったことに、こうした分かりにくい情報に対して改善の要求が出されるのではなく、詳細を知っている人が、分かりにくさを利用して、分からない人に対して優越的な立場に立つという(俺は知っているぞという、いわゆるマウンティングをする)、本末転倒な現象も散見されます。あなたの職場にも、分かりにくい情報しか提示できないにもかかわらず、「こんなことも知らないのか」と悦に入る同僚がいないでしょうか。



■専門的な内容を専門外の人に適切に説明できるか


多くの人にとって分かりにくい情報しか出せない人は、マイナス評価になるという土壌が出来上がれば、読解力不足の問題もかなり改善するはずです。




加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)

分かりやすい表現を重視すると、薄っぺらな議論になってしまうと批判する人もいますが、筆者はそうは思いません。


難しい話を難しく説明することなど、専門家であれば誰でもできることです。


現代社会はオープン化が進んでおり、異なる分野の知見をうまくミックスしていかなければ新しいビジネス領域を開拓することはできません。専門的な内容を専門外の人に適切に説明する能力に欠ける人は、むしろ専門家としての能力が不足していると評価するぐらいの意識改革が必要だと筆者は考えます。


こうした努力の積み上げこそが利益を生み出す源泉であり、やがては大きな生産性の違いとなって顕在化してくるわけです。



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加谷 珪一(かや・けいいち)

経済評論家

1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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