ドラッカーが語る「仕事で成果を出すために本当に大切なこと」

2024年2月29日(木)6時0分 ダイヤモンドオンライン

ドラッカーが語る「仕事で成果を出すために本当に大切なこと」

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ピーター・F・ドラッカーの著作の中でも、最も広く長く読み継がれてきた名著『経営者の条件』。タイトルには経営者とあるが、この本は「経営者にとって役立つ」だけの本ではない。それこそ普通のビジネスパーソンはもちろん、アーティスト、クリエイター、アスリート、学生、さらには家庭人としても多くの示唆をもらえる一冊なのだ。ドラッカーの入門編としても、ぴったりだ。さて、ドラッカーが教える「成果をあげるための考え方」とは?(文/上阪徹)

Photo: Adobe Stock

頭がよい人が成果をあげられない理由

 成果を出したい人、自らを成長させたい人、習慣を変えたい人、自分の強みを活かしたい人……。いろいろな人に、成果をあげるための多くの学びが得られるはずである。ドラッカーの『経営者の条件』は、経営者のためだけの本ではないからだ。

 原題は『The Effective Executive』。本書でドラッカーは、知識の時代においては一人ひとりがエグゼクティブである、と唱えている。1966年の発刊だが、いまだに世界中で多くの人々に読み継がれている超ベストセラーだ。

 本書は「成果をあげる」ための8つの習慣について記した序章に始まり、「成果をあげる能力は修得できる」「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定とは」の7章、さらに終章「成果をあげる能力を修得せよ」で展開される。

 テーマは「成果をあげるために自らをマネジメントする」。これはドラッカーの多くの本でもそうだが、マーカーを引いて、SNSでシェアしたり、同僚・部下に伝えたくなるようなハッとするフレーズが次々に現れる。

頭のよい者がしばしばあきれるほど成果をあげられない。彼らは頭のよさがそのまま成果に結びつくわけではないことを知らない。頭のよさが成果に結びつくのは体系的な作業を通じてのみであることを知らない。逆に、あらゆる組織に成果をあげる地道な人たちがいる。頭のよい者がしばしば創造性と混同する熱気と繁忙の中で駆け回っている間に、寓話の亀のように一歩一歩進み先に目標に達する。(P.18)

 これは、成果とは何か、が理解されていないところに起因している可能性がある。必要なのは頭のよさではなく、成果をあげるための能力なのだ。

 そしてもう一つ、鋭い指摘がある。

理由の一つは、成果をあげることが組織に働く知識労働者に特有の能力だからである。ごく最近まで、そのような立場にある知識労働者はわずかしかいなかった。(P.19)

 いわゆるホワイトカラーは、まだ歴史が浅いのだ。もともと、そんなに簡単な仕事ではないのである。

貢献の観点から自分の仕事が語れるか

 ドラッカーのいう成果とは、組織としての成果だ。したがって個人が成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。貢献に焦点を合わせることこそ、成果をあげる鍵なのである。

ところがほとんどの人が下に向かって焦点を合わせる。成果ではなく努力に焦点を合わせる。組織や上司が自分にしてくれるべきことを気にする。そして何よりも、自らがもつべき権限を気にする。その結果、本当の成果をあげられない。(P.78)

 貢献に焦点を合わせる人は、自分の仕事について語れる。「経理部長です」「販売の部長です」「部下が850人います」ではなく、「他の経営管理者たちが正しい決定を下せるよう情報を提供しています」「販売の責任者です」ではなく、「客が将来必要とする製品を考えています」「社長が行うことになる意思決定について考え、準備しています」と言える。だが、これができる人は稀だという。

貢献に焦点を合わせることによって、自らの狭い専門スキルや部門ではなく、組織全体の成果に注意を向けるようになる。成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける。自らの専門やスキルや部門と、組織全体の目的との関係について徹底的に考えざるをえなくなる。(中略)
その結果、仕事や仕事の仕方が大きく変わっていく。
(P.79)

 そして、なすべき貢献には、いくつかの種類があると説く。直接の成果、価値への取り組み、人材の育成である。

 さらに、組織で最も危険なことについて触れる。

ビジョンや能力や業績において、今日の水準を維持しているだけの組織は適応の能力を失ったというべきである。人間社会において唯一確実なものは変化である。自らを変革できない組織は明日の変化に生き残ることはできない。(P.83)

 最大の貢献は、組織を変化させ続けること、と言えるのかもしれない。

反対意見がないときは、意思決定してはいけない

 そして現代において急激に進化したコンピュータについても、すでに興味深い指摘がある。コンピュータは変化を知覚できないのだ。

外の世界における真に重要なことは趨勢ではない。趨勢の変化である。この外の変化が組織とその努力の成功と失敗を決定する。しかもそのような変化は知覚するものであって、定量化したり、定義したり、分類したりするものではない。分類によって数字は得られるが、そのような数字は現実の状況を反映していない。
コンピュータは論理の機械である。それが強みであり弱みである。外の重要なことは、コンピュータをはじめとする何らかのシステムが処理できるような形では把握できない。これに対し、人は論理的には優れていないが知覚的な存在である。まさにそれが強みである。
(P.36)

 また、日本で近年進んだ働き方改革を否定するわけではないが、ドラッカーが「短時間の労働についてのリスク」に関してメッセージを残していることにも注目したい。

 そもそも知識労働者が担う創造と変革は時間に対して膨大な要求を突きつける。短時間のうちに考えたり行ったりすることができるのは、すでに知っていることを考えるか、すでに行っていることを行うときだけだ、というのだ。

第二次世界大戦後のイギリス経済の不振についていろいろいわれているが、その原因の一つは、古い世代の企業人たちが肉体労働者と同じように楽をし、同じように短時間の労働ですまそうとしたことにある。そのようなことが可能なのは、企業にしても産業界全体にしても、既存の枠にしがみつき、創造と変革を避けることが許される場合だけである。(P.56-57)

 最後に、意思決定においてドラッカーが重視すべきだという極めて興味深い一節をご紹介しておきたい。

決定において最も重要なことは、意見の不一致が存在しないときには決定を行うべきではないということである。(P.198)

 アメリカでは優れた大統領や優れた経営者は、正しい決定の際には、適切な意見の不一致を必要としていた。反対意見がなければ、意思決定を先延ばししたというのだ。

成果をあげる者は意図的に意見の不一致をつくりあげる。(P.203)

 成果をあげることは簡単なことではないのだ。もっともっと学ばなければならない。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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