心療内科で処方された抗うつ薬・抗不安薬を飲んだら症状が悪化…「うつ病」と間違いやすい病気の名前

2024年3月2日(土)13時15分 プレジデント社

抗うつ薬・抗不安薬で、余計に症状が悪化……(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

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「うつ病」と間違いやすい病気がある。医師の中村有吾さんは「たとえば、男性更年期障害では、『気分の落ち込み』といったうつ病特有の症状が出る。抗うつ薬・抗不安薬を飲み続けて、症状が悪化するケースもある」という——。

■治療を続けているのに余計に症状が悪化…


食品メーカーに勤める千葉県在住の50代の男性(Aさん)は、やる気の低下、気分の落ち込みに悩まされ、心療内科を受診し、「うつ病」と診断されました。


治療が始まり、抗うつ薬・抗不安薬などを服用していましたが、回復するどころか、記憶力や集中力の低下さえ感じるようになりました。


仕事のミスが増え、上司に怒られることもしばしば。イライラがつのり、部下や奥さんにも怒りをぶつけてしまったりと、以前のAさんとはほど遠い状態に、自分でも困惑するほどでした。


写真=iStock.com/Prostock-Studio
抗うつ薬・抗不安薬で、余計に症状が悪化……(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

■産業医との面談で告げられたこと


うつ病と診断されてから1年が経過。とうとう出社も困難になったため、Aさんは辞表を提出することになりました。


退職する直前、会社の産業医と面談する機会がありました。その時、産業医が言い放った一言に、Aさんは衝撃を受けたのです。


「Aさんはうつ病ではないかもしれません。一度くわしく調べてみるといいでしょう」。


Aさんは心療内科の診断を信じていました。また、「気分の落ち込み」といったうつ病特有の症状が続いていため、うつ病という診断を疑ったことはありませんでした。


■血液検査の結果、診断が確定


退職後、Aさんは派遣社員として再就職しました。勤務時間が短くなって症状が改善することを期待していましたが、一向に改善しないまま、とうとう2年が経過してしまいました。


Aさんはようやく重い腰をあげて、私のクリニックを受診します。


私のクリニックは男性更年期障害専門のクリニックです。実は、前述の産業医が、Aさんとの面談で、うつ病以外に可能性がある病名として「男性更年期障害」をあげていました。Aさんはそのことを覚えていたのです。


結局、問診と血液検査の結果により、Aさんは加齢によって男性ホルモンであるテストステロンが減少することで発症する「男性更年期障害」と診断されました。


写真=iStock.com/FluxFactory
血液検査の結果、診断が確定(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FluxFactory

■うつ病と診断されやすい


このAさんのケースは決して他人事ではありません。


男性更年期障害では、「気分の落ち込み」「記憶力、集中力の低下」「イライラ」「疲労感」といった症状が見られます。


このほか「気分の変動」「エネルギーの低下」「睡眠障害」「悲しみの感情」「性欲減退」「活動への興味減退」なども特有の症状です。


これらはうつ病の症状と非常に似ており、症状が改善されないことも珍しくありません。そもそも血液検査でテストステロンレベルを測定しない限り、男性更年期障害と確定するのは難しいからです。


実際、私のクリニックを受診する方の約10%が、過去にうつ病と診断された経験があります。


男性更年期障害がうつ病と診断された場合、Aさんのケースのように抗うつ薬や抗不安薬が処方されるケースもあります。ただ、一部の抗うつ薬や抗不安薬にはテストステロンを減少させるものがあるため、男性更年期障害が悪化してしまう恐れがあるのです。


そうならないよう、うつ病の症状が良くならない状態が1年以上続くのであれば、専門医を受診することをおすすめします。


■「更年期障害は女性のもの」ではない


更年期障害は女性のもの、というイメージが強く、男性の更年期障害はまだあまり認知されていないようです。そのため受診する人が少ないことも、うつ病と勘違いしやすい一因だと考えられます。


さらに、一般的な健康診断での血液検査には、テストステロンを検査する項目がないため、会社の定期健診などで発見されないことも原因だと考えられます。


■40代から崩れやすくなる


一般的にホルモンバランスは40代から崩れやすくなると言われています。


私のクリニックを訪れる患者さんの年齢層は30〜60代と幅広く、最も多いのは50代です。


写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
40代から崩れやすくなる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

生まれつきテストステロンが少ない、若年性の男性更年期障害もありますが、多くは加齢とともに発症します。


もし、中年の男性で以下のような症状がある方や、うつ病の治療中で1年以上改善しない場合は、ぜひ専門医を受診してください。


【男性更年期障害の症状】
1 エネルギーの低下:一般的な疲労感や活力の欠如。
2 気分の変動:気分の落ち込み、不安、イライラ感。
3 睡眠障害:睡眠の質の低下、不眠症、または過度に眠い。
4 性欲の減退:性的興味の減少や性的活動に対する意欲の低下。
5 勃起機能の問題:勃起を維持するのが難しくなる、勃起の質が低下する。
6 筋肉量と体力の低下:筋肉が減少し、以前よりも体力が落ちる。
7 体重増加:特に腹部周囲の脂肪が増加する。
8 骨密度の低下:骨がもろくなり、骨折しやすくなる。
9 集中力の低下:作業に集中するのが難しくなり、仕事や日常活動に影響が出る。
10 記憶力の問題:記憶力が低下し、物忘れが増える。


■筋トレがテストステロンの分泌を促進


男性更年期障害の原因は、加齢によってテストステロンレベルが低下することです。


そのため、男性更年期障害を完全に防ぐことは難しいですが、予防策を講じることはできます。


まず第1に、適度な運動があげられます。


テストステロンは筋肉、骨をつくるのに必要です。減少すると心臓病や骨粗鬆症などのリスクが高まる可能性があります。


週に数回の運動はホルモンバランスの安定によい影響を与え、心血管の健康や筋肉量と骨密度の維持にもつながります。


特に筋トレはテストステロンの分泌を促進します。ただ、筋トレのやりすぎは逆効果になることもあるので注意が必要です。


■「牡蠣」「赤身肉」を食べる


第2に、バランスの良い食事はホルモンレベルを安定させます。


特に亜鉛の摂取は、テストステロンの生成を助けます。また、筋肉量や骨の健康維持のために、良質なタンパク質やビタミンD、カルシウムの摂取も重要です。


男性更年期障害対策におすすめの食材としては「牡蠣」や「赤身肉」があります。


また、食事とあわせて、ビタミンDやミネラルのサプリメントを適切に使用するのも、男性更年期障害の対策になります。


写真=iStock.com/hoyaboy
亜鉛の摂取がテストステロンの生成を助ける(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/hoyaboy

■喫煙は避けたほうがいい


ホルモンバランスに悪影響を及ぼす習慣を避けることも重要です。


「ストレス」「不眠」「喫煙」「過度のアルコール摂取」は、ホルモンバランスの乱れをもたらし、男性更年期障害のリスクを高めます。


特に喫煙は避けたほうがいいと思います。私のクリニックを訪れる男性更年期障害の患者さんのうち、約20%が喫煙者です。


また、「ストレス」の悪影響も見逃せません。


クリニックに訪れる患者さんには、心配性や神経質な性格の方が比較的多いと感じます。


精神的な健康を保つため、ポジティブな考え方や、家族・友人と良好な関係を築くこと、社会的なつながりを持つことを心掛けてください。


■症状が劇的に良くなった


前述のAさんは、不調の原因がうつ病ではなく、男性更年期障害だと判明してから、テストステロン補充療法(ホルモン補充療法)を開始しました。減少したテストステロンを注射によって補充する治療です。


また、Aさんは食事や睡眠など生活習慣の改善に取り組みました。ジムに通い、筋トレに励みました。


こうした努力の結果、治療を開始してわずか2カ月で、Aさんの症状は劇的に改善しました。うつ病に悩まされている特に50代以上の男性は、ぜひ以上のことを参考にしていただけたらと思います。


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中村 有吾(なかむら・ゆうご)
医師、オトコノクリニック院長
1989年埼玉県生まれ。筑波大学医学類を卒業し初期研修を終了後、大学病院で医師になるも過酷な労働環境のため体調を崩す。その経験から「健康的に働くことの難しさや大切さ」を再認識するようになり、働く人の健康をサポートする産業医へ転向し、2018年になかむら産業医療コンサルティング事務所を立ち上げる。また産業医として更年期障害に悩む男性の多さに気付き、抗加齢医学認定医とテストステロン治療認定医を取得。2023年10月に日本初の男性更年期障害専門クリニック「オトコノクリニック」を開業。
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(医師、オトコノクリニック院長 中村 有吾)

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