「わきまえる男女」ばかりの会社からは、いますぐ逃げ出したほうがいい

3月3日(水)8時15分 プレジデント社

15万7425筆を集めた、森前会長の女性蔑視発言への抗議の署名を東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に提出した後、記者会見する発起人の一人の能條桃子さん=2021年2月16、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

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東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言に非難の声が相次ぎ、メディアやSNSでも議論が続いている。発言の背後に潜む、日本社会の問題はどこにあるのか、働き方の視点から女性問題に取り組むジャーナリストの白河桃子さんと、ツイッターでこの問題について積極的に発信する広告関連の会社員、笛美さんが語った——。

※対談は、音声SNS「Clubhouse」(クラブハウス)で、公開取材として行われました。


写真=時事通信フォト
15万7425筆を集めた、森前会長の女性蔑視発言への抗議の署名を東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に提出した後、記者会見する発起人の一人の能條桃子さん=2021年2月16、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■Clubhouseで思いを吐き出す女性たち


【笛美】「もう、森さんが(組織委員会会長を)辞任したんだからいいじゃないか」という人もたくさんいますが、私たちはそういうことを言っているんじゃない。日本中あちこちにいる、「森さん的な存在・空気」をどう変えるのか、構造をどう変えるかという話をしているんですよね。


【白河】そうなんです。ただ、私は、その構造の話をする前に、一つやっておくべきことがあるんだなと感じました。


森前会長の発言のあと、私はClubhouseでいろんな部屋に顔を出しているんですが、あちこちで女性たちが、それぞれの体験や思いを語っています。みんなが自分の体験を言わないと、たぶん次に進めない。これまで抑圧して「ないもの」としてきた思いを、言語化して表現し合うというプロセスが必要なんじゃないかと。


【笛美】これまで吐き出せなかったんですよね。


笛美さんの自画像。森前会長発言の後、笛美さんはツイッターで、「わきまえない笛美」を名乗っている=笛美さん提供

【白河】知っている人同士で吐き出す場というのはあったと思うんですよ。でも、Clubhouseというのは不思議な場ですね。たまたまその部屋で一緒になっただけで、知らない人ばかりということもあるわけです。立場や環境、考え方も違っていて、必ずしも吐き出すものの内容がかみ合うことばかりではない。でも、特にモデレーターの人が上手だと、違うからといって攻撃し合うこともなく、いろんな思いを聞いて共感したり学び合ったりできる。


【笛美】そこはわかります。


私も今までずいぶんセクハラにあってきましたが、「#MeToo」のときは言えなかった。性被害について語るのって、すごく難しかったと思うんですよ。


でも時代が少しずつ変わってきたように思います。『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画が公開されたときには、「私だけじゃなかったんだ」と泣いた人がたくさんいた。そんなふうに、女性の悔しさや悲しみをシェアできるような世界が、ちょっと広がってきたのかなと思いますね。


【白河】そうですね。完全にみんなが同じ思いで一致するのは難しいけれど、変わってきました。


■「わきまえ」がイノベーションを阻む


【白河】今回はすごい勢いで抗議の署名が集まり、11日間で15万筆以上が集まりました。男性の署名も多かったようです。これからどうしたらいいのか、発言する男性も増えています。


その一方で、この問題については、何か発言すると「それは間違っている」と言われそうでこわいと言っている男性もいる。


森前会長の発言に抗議するオンライン署名は、15万筆以上を集めた(change.orgより)

【笛美】それはわかります。


【白河】じゃあ、せめてそういう(森前会長が女性蔑視発言をしたような)場では「同調しない」という抵抗だけでもしましょうと言いたいですね。周りと一緒になって、笑わなかったらいいんです。


【笛美】確かにそうですね。でもああいう場面で、男性が笑わないでいることができるのかな。「わきまえよ」という圧力が……。


【白河】でも、わきまえる男性が多いから、今、日本は大変なことになっているわけです。


日本の企業ではさかんに「イノベーションを起こそう」と言っていますが、わきまえていたらイノベーションなんて絶対に起きないですよ。


【笛美】本当にそうなんですよね。ホモソーシャルな世界にいる限り、革新的なことなんて起こせるわけがない。突き抜けられない。


【白河】でも、これだけ報道されて話題になれば、もしも「ホモソーシャル」という言葉を知らなかったとしても、「なるほど、これまで自分が抱えていたモヤモヤは、これだったんだ」とわかる。言葉がつくと、男性も女性も言語化できるようになりますよね。


【笛美】今回の一件で、「わきまえる」という言葉が脚光を浴びたのって、よかったと思います。これまで自分は、わきまえさせられていたんだ、そしてそれは自分だけじゃなかったんだ、というのがわかって、ほっとした人って多いと思います。森さんのおかげでいい言葉がついた(笑)。


■「女性活躍」「ダイバーシティ」の誤認


【白河】日本がずっと使ってきた「女性活躍」という言葉がありますが、これだと「女性だけ頑張れ」ということになってしまいます。一方、「男女平等」「ジェンダー平等」は、女性だけが頑張るのではなく、周りも変わらないといけません。やっぱり、女性だけが頑張っても、女性管理職は増えないんですよね。


【笛美】それを言っていただけて、すごくうれしいです。


私は「女性活躍」が盛んに言われるようになった頃に20代を過ごしたんですが、そのときの圧ってすごかったんですよ。結婚しなさい、子どもも産みなさい、キャリアアップもしなさい、と。人生でやるべきとされることが積み重なっていくのに、時間はどんどん過ぎていく。それを自分一人で受け止めなきゃいけないというのが、本当に苦痛で……。


「女性だけが頑張り、追い詰められるのではなく、社会全体が変わりましょう」と、全体のモードが変わるといいと思います。


【白河】ところが企業の人事の方とお話しすると、「ダイバーシティ」というとLGBTQの方たちだけの話になっていて、女性についてはもう終わってしまったかのような誤解もあって……。女性も含めてのダイバーシティなんですけど。


【笛美】勝手に終わらせないで〜。


■なぜ「30%以上」なのか


【白河】確かに、今管理職や組織のリーダー層にいらっしゃる女性の中には、「実力で頑張ってきたのに、女性だから登用されたとみられるのはイヤ」「女性を積極的に登用しようというのは抵抗がある」という方もいらっしゃいます。でも、(2018年に明るみ出た)医学部入試の男女差別事件では、女性は男性よりも20点余計に取らないと合格できなかったケースもあった。スタート地点から女性が不利になっている場面はまだたくさんあります。


少なくとも女性の管理職が30%以上になるまで、「女性を積極的に登用するというのは抵抗がある」とは言わないでほしいなと思います。やっぱり数って重要なので。30%って何かを変えるんです。


この間、大阪国際大学の谷口真由美准教授が、すごくいいたとえをされてたんです。10人で何を食べるか相談しているとき、9人がお寿司で1人が焼肉がいいと言っていたら、焼肉の人は黙って我慢することになる。焼肉が2人でも、おそらく我慢するでしょう。でも3人になると初めて、「そうか、焼肉に行きたい人もいるんだね」と意見として認識される。


■今までやってきたことはムダじゃなかった


【白河】私が今回、15万筆を集めた署名活動で素晴らしいと思ったのは、「森さんを辞めさせろ」という話ではなく、処遇をちゃんと考えましょう、再発防止のために委員会の4割は女性にしましょうという提案が入っていたことです。単に気に入らないから辞めさせろと言っているわけじゃない。構造にも言及しています。


そして、それがちゃんと報道され続けているのはよかった。やっぱり報道って、すごく影響があるんですよ。「また失言」と報じられ、辞任で幕引きにさせず、メディアもちゃんと「女性蔑視」「女性差別」という言葉を使ってくれた。これは大きな変化です。


以前はこうした問題は、「女・子供のニュース」という感じで、扱いも小さかったんです。メディアも女性が少なくて、特に責任ある地位は男性ばかり。同質性の高い男性たちが、「重要なニュースとはどれか」を決めることになります。でも、今回の報道を見ていると、メディアも変わってきているようです。


あるメディアの男性に理由を聞いたら、やはり#MeToo運動の影響が大きいと言われました。今回の報道が途絶えないのも、#MeTooのみなさんが、身を削るようにやってきてくださったからだと私はとても感謝しています。


【笛美】今までやってきたことは、ちゃんと意味があったんですね。


【白河】遅いけど、ちょっとずつ変わってきている。ただ遅すぎるよね。


【笛美】でも森前会長発言のあとも、政治家や財界人の女性蔑視発言が、モグラたたきみたいに次から次へとあふれ出ています。どうしたらそういう人たちにわかってもらえるのかなと思います。


■女性のためだけではない


【白河】先日、台湾のIT担当大臣のオードリー・タンさんの本を書いた近藤弥生子さんに、台湾のダイバーシティ&インクルージョンはどうやってできたのかと質問したんです。すると、それは学校の校長先生、政治家の海外使節団、政策に関わる委員会など、「公」に関わるあらゆる分野の男女比をウェブサイトで公開するようにしたことが理由だと言うんです。そうすれば、政治家や官僚が何かする場合、必ず男女比を気にするようになるんですって。


私は、どうやったらこういうことが日本でもできるのか、いろいろな人に相談してまわっているところです。やっぱり「見える化」していかないといけない。


【笛美】安易に女性の数を増やしたくないという人もいるので、まず見える化して、なぜ女性を増やすことが必要なのかを説明しなくてはいけないでしょうね。


【白河】何かを変えるためには、やはり数が必要です。ですから日本オリンピック委員会の理事の女性比率は、4割を死守してほしいですね。女性が4割いると「女性代表」ではなくなるんです。4割の中に、いろいろな意見が出てきます。そうすると、その場全体が活性化して、これまでわきまえていた男性からもいろんな意見が出てくるようになる。ですから女性を増やすことは、女性のためというよりは、みんなにとってよりよく物事を決めるためなんです。


【笛美】今、白河さんが言ってくださったことは、まだちゃんと理解していない人がいる気がするので、この機会にもっと広まるといいですね。


■頑張りすぎないで、『逃げ恥』でいこう


【白河】女性活躍の話をするのは、私も苦しいんですよね。これ以上女性に「頑張れ」と言うことになるので。


【笛美】今生きている女性は、みんな本当に偉いと思います。本当によくやっている。会社の中でも、こんなにつらいのに一生懸命ニコニコ頑張ってくれていて、本当にありがとうといつも思います。


【白河】そうですよね。でも、あまりに頑張りすぎると、つらくて壊れてしまう。そこまでしなくてもいいからと思います。そこはドラマの名言が。『逃げるは恥だが役に立つ』。今は女性人材が求められているので、本当にこれはもうダメだと思ったら、どんどん転職してもいい。ひどい会社はもう見捨てて、「いずれ滅びるから」ぐらいに思っていただきたいですね。


【笛美】「いずれ滅びるから、もう見捨てよう」って思えるまでに、時間がかかるんです。そこにいると、「この環境が自分のすべてだから、もっと頑張らないと」と思ってしまう。この組織が滅びるなんて想像もできない。でも客観的に見たら、白河さんがおっしゃる通りなんですよね。


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白河 桃子(しらかわ・とうこ)
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院 特任教授、ジャーナリスト
慶應義塾大学卒、中央大学ビジネススクールでMBA取得。住友商事、外資系などを経て、取材執筆講演活動。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを歴任。著書に『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)、『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。
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笛美(ふえみ)
会社員
ツイッターでフェミニズムについて発信する、広告関連の仕事をする会社員。「#検察庁法改正案に抗議します」タグが1000万ツイートを超える大規模なオンラインデモになった。
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(昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院 特任教授、ジャーナリスト 白河 桃子、会社員 笛美 構成=池田 純子)

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