尼僧を強姦し14年間監禁・性加害…住職に蛮行を促し尼僧を「ロボット玩具」にした80代"生き仏"の地獄の所業

2024年3月5日(火)14時15分 プレジデント社

記者会見をする叡敦さん(中央右) - 撮影=鵜飼秀徳

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■天台宗の開祖・最澄も泣いている…大阿闍梨が性加害に“関与”


「日本仏教の母山」として知られる天台宗(総本山・比叡山延暦寺)が、高僧の性加害をめぐって揺れている。四国に住む住職が、尼僧を14年間にわたって監禁、性暴行、恫喝などを繰り返していたというのだ。そこに、後述する千日回峰行を達成した偉大な存在である「大阿闍梨」も関与していたという。尼僧は天台宗に対し、ふたりの僧侶の僧籍剝奪を求める申し立てを行った。天台宗はようやく事の重大さに気づき始めたようだが、今のところは沈黙を守っている。名門教団のガバナンス不全が、仏教界全体に及ぼす影響は計り知れない。


撮影=鵜飼秀徳
記者会見をする叡敦さん(中央右) - 撮影=鵜飼秀徳

叡敦(えいちょう)さんは14年間にわたって、香川県の天台宗寺院の住職A氏から性暴力や恫喝、監禁などを受けていた。この加害住職を紹介し、叡敦さんをマインドコントロールし続けていたのが、同宗の最高位「大僧正」の地位にある80代の僧侶(称号は大阿闍梨)B氏だという。B氏は千日回峰行を達成して「生き仏」とも称される存在だ。叡敦さんは大阿闍梨B氏に繰り返し相談するも、叡敦さんを助けるどころか、A氏を擁護し、事件を隠蔽(いんぺい)し続けた。


事の経緯を詳しくみていこう。叡敦さんは、天台宗僧侶を祖父にもつ家に生まれ、幼少期から仏心に篤(あつ)かった。大阿闍梨B氏とは、叡敦さんの母がいとこ同士で、親戚関係にある。叡敦さんが小学生の頃、B氏は比叡山の千日回峰行を達成した。叡敦さんにとって、B氏は尊崇の極みといえる存在となった。


千日回峰行とは、およそ1000日間、比叡山の山中を、真言を唱えながら歩き回る荒行のことである。回峰行の途中には、9日間の断食、断水、断眠、断臥を続ける四無行に入る。仮に行を断念という局面には、持参している脇差で自害しなければならない掟になっている。現代の仏教界では、もっとも厳しい修行といえる。


比叡山が開かれてから千日回峰行を達成した行者はわずか51人。戦後は14人しか満行者を出していない。達成者には「北嶺大行満大阿闍梨(ほくれいだいぎょうまんだいあじゃり)」の称号が与えられる。大阿闍梨は「生き仏」として崇拝の対象となり、全国から大勢の信者が集まる。大阿闍梨B氏は現在、比叡山の麓の寺院の住職の地位にあり、僧階も「大僧正」という最高位にある。


■仮病を使って呼び寄せると、力ずくで強姦


叡敦さんが2009年夏、母の法事で大阿闍梨B氏の寺を訪れた時のこと。大阿闍梨B氏は「(一番弟子である)Aの話し相手になってやってくれ。Aは誰よりも信用できる人間で、伝説の男だ。Aの言うことは私の言葉として聞くように」などと、執拗(しつよう)に叡敦さんを説得。叡敦さんは既婚であったが仕方なく、A氏の寺を訪れたという。


撮影=鵜飼秀徳
大阿闍梨Bが住職を務める寺 - 撮影=鵜飼秀徳

それをきっかけに、A氏の叡敦さんに対するストーカー行為が始まった。買い物先や自宅周辺に出没し、叡敦さんは困惑。そんな状況にも大阿闍梨B氏はA氏を庇い続け、叡敦さんをA氏の元に行くように強引に勧め続けたという。


同年秋、A氏から連絡が入った。「頭が痛くて倒れた。食事も取れない」などと仮病を使って叡敦さんを寺に呼び寄せると、力ずくで強姦。性行為の最中には、「オンアロリキャソワカと真言を唱えろ!」などと言ってきたという。A氏から強姦された後には、「家族の人間を薬でも飲ませて殺してこい」などと脅しも受けたという。


その後、A氏からの脅迫と性加害が繰り返される。それを拒否できず、訴えることもできなかったのは、絶対的存在である大阿闍梨Bから「私の言葉が仏の言葉であるように、Aの言葉は仏の言葉だ」などと、諭され続けたからという。


また、A氏が野良犬にコンクリートブロックを打ち付けて殺したり、猫に爆竹を投げつけたりするなどの残虐な行為を見せつけられるなどし、「A氏に逆らうことなど恐ろしくてできなかった」(叡敦さん)という。


その後、軟禁状態にさせられた叡敦さんは、A氏と大阿闍梨B氏による恫喝と脅迫が繰り返され、また、無理やり剃髪させられて、逃げ出すこともできない状態に。洗脳状態になった叡敦さんは、人としての感情すら失い、「ロボット玩具」のようになっていったという。


叡敦さんが親族や女性センターなどへのSOSを発して、ようやく寺から逃げ出すことができたのは2017年秋のこと。重度の複雑性PTSDとの診断を受けた。


2019年には、警察に被害届と告訴状を提出。ところが、結果的に嫌疑不十分で不起訴になったことで、むしろ大阿闍梨B氏の逆鱗(げきりん)に触れ、あろうことか無理やりA氏の元に連れ戻されてしまった。


■「(旧統一教会信者のように)マインドコントロールを受けている」


折しも、旧統一教会問題で世間が賑わっていた2023年冬、親族が「(叡敦さんも旧統一教会信者のように)マインドコントロールを受けているに違いない」と気づいて、叡敦さんに脱出するよう説得。叡敦さんは救出され、ようやくA氏の元から離れることができたという。


マインドコントロールから解き放たれた叡敦さんは、「(A氏とB氏の)してきたことは、僧侶として決して許されない。(両氏が所属する)天台宗において、これらの行状を詳らかにして、二人の僧籍を剝奪してくださることを切に願います」などと、A氏とB大阿闍梨の懲戒を求めて天台宗宗務総長宛に陳情書と、証拠書類を提出した。


撮影=鵜飼秀徳
天台宗務庁の聴取に向かう叡敦さん(左)と弁護士 - 撮影=鵜飼秀徳

そして3月4日、叡敦さんは初めて、比叡山の麓にある天台宗宗務庁で聴取を受けることができた。聞き取り調査を終えた叡敦さんは同日午後、弁護士らと共に滋賀県大津市内で記者会見を開き、心境を吐露した。


「(信頼する大阿闍梨B氏に対しては)とても大きくて優しい存在だった”仏様”が、怖い仏様に変わった。仏様に見捨てられるという気持ちで、何も考えられない状態だった。生きているのがつらかった。天台宗には二人の(僧籍剝奪)処分を望んでいます。それだけです」


叡敦さんは、こう涙ながらに語った。


実は天台宗では2015年ごろ、長野の善光寺のトップである大勧進貫主がセクハラやパワハラ問題が浮上。天台宗は2018年に貫主を解任する騒ぎになっている。


それに続いて二度目の醜聞となる今回。天台宗務庁は取材に対し「今のところは何もいえない」とだけ話した。組織内で、思考停止状態に陥っていると思われる。


撮影=鵜飼秀徳
報道陣をシャットアウトする張り紙 - 撮影=鵜飼秀徳

だが、今回は善光寺のスキャンダルとは比べ物にならないほど、極めて重大な問題に発展する可能性を秘めている。旧ジャニーズ事務所の性加害問題、あるいはお笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏の性加害報道など、社会が性加害に対して、厳しい目を向けている。しかも、今回の加害者は、ただの僧侶ではなく、天台宗のアイデンティティそのものといえる千日回峰行者と、その一番弟子だ。


今後は天台宗内部の調査と懲戒の判断、再発防止策の提示などを待つことになる。だが、対応の仕方を誤れば、天台宗は空中分解してしまうことも十分あり得るだろう。


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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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