半導体産業で今後も有望な企業は? エヌビディア、クアルコム、TSMCがファブレスとファウンドリで成長し続ける理由

2025年2月27日(木)4時0分 JBpress

 かつて最先端の半導体技術を誇っていた日本。だが、今や半導体市場の勢力図は大きく塗り替えられ、日本企業は外国企業に大きく水をあけられている。AI(人工知能)の「頭脳」であり、経済安全保障の「重要物資」とされる半導体製造において、日本は再び輝きを取り戻すことができるのか? 本連載では『半導体ニッポン』(津田建二著/フォレスト出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。日本と世界の半導体産業の「今」を概観しながら、世界市場の今後を展望する。

 今回は、これからの半導体産業をリードするファブレス、ファウンドリのキープレーヤーについて解説する。


半導体企業(ファブレス、ファウンドリ、IDM)

 半導体企業や半導体関連企業でこれから有望な企業はどこだろうか。それを探す手がかりとして、成長産業になっているかどうかという目で見てみたい。半導体そのものはもちろん成長産業であるが、さらに有望な技術を持っているか、あるいは成長分野に踏み込んでいるか、という観点から見てみる。

■ 今後の成長が見込めるファブレス企業群

 半導体企業には、設計から製造まで携わるIDM(垂直統合型の半導体メーカー)と、設計だけを受け持つファブレス半導体、製造だけを受け持つファウンドリという形態の中で、これまで大きく成長してきたのは一般にファブレスだった

 それもファブレスの成長期では、FPGAや通信モデム、CPUプロセッサなどいろいろな特長的な企業が多かった。FPGAではザイリンクスやアルテラ、通信モデムではクアルコム、CPUではAMD、サイリックスなどいろいろな分野にバラけていた。

 今とは事情が違うかもしれないが、あえて述べるのならAI、無線通信、自動車、ロボットなどが有望な成長産業であるし、有望分野であろう。そこでこれらを中心に見てみよう。

 AIで急成長したエヌビディアは、少なくとも今後10年は成長するだろう。もともと、ゲーム用のグラフィックスICに特化してきた企業だが、グラフィックスだけではなく数値計算専用に使うチップとしての用途も見つけた。

 その後、2012年にカナダのトロント大学のヒントン教授らがニューラルネットワークのモデル(AlexNet)を使って、画像認識してみたところ、誤認識率が圧倒的に低くなることを見出したが、この時に使ったチップがエヌビディアのGPU(グラフィックプロセッサ)と並列演算向けのソフトウェアCUDAであった。エヌビディアはこれ以来AIに急速に会社の方向を切り替えた。

 GPUがディープラーニングに有効であることを示すためにさまざまなAIライブラリを揃え、AIを充実させた。

 そして、膨大なデータを学習させるのに新しい自然言語処理技術であるトランスフォーマーを使ったチャットGPTをオープンAIが公開したのは、AlexNetの10年後の2022年だった。ここでもやはりエヌビディアのGPUを数千個使って学習させるのに300日程度かけたといわれるくらい膨大な学習データであった。

 この時のGPUよりもさらに処理性能の高いGPUを次々と開発することで学習時間の短縮を図ってきた。エヌビディアは、A100、H100、H200、B200などと高性能なGPUを次々と開発するとともに、AIライブラリを充実させ、また最適な規模の生成AI向けのAIソフトウェアを充実させるなど、単なるファブレス半導体企業の域を超えていた。

 ジェンスン・フアンCEOは2024年になって、自らをAIファウンドリと称し、どんなAIも作り込むことができるという自信を見せている。

 もう一つ有望なファブレス半導体はクアルコムだろう。元々携帯電話用のモデムCDMA(符号分割多重アクセス)を開発したが、携帯電話事業を京セラに売り払い、ファブレスに特化した。モデムチップから出発し、携帯電話に写真やメール機能などが搭載されるようになると、モデムだけではなくアプリケーションプロセッサ「Snapdragon」に手を広げ、スマートフォンが登場した後はSnapdragonの製品ポートフォリオを拡大した。

 最近ではマイクロソフトとともにAIパソコンと定義されるコパイロットプラス仕様のSnapdragonを開発、AI PC分野に乗り出した。

 パソコンもスマホも行き詰まっていると思われがちだが、中古市場が拡大するとともに1台に搭載される機能が拡大してきたため、出荷台数は増えていないが中に搭載される半導体の中身が次々と変わっており、半導体の大きな市場を構成している。

 この産業構造は自動車とそっくりで、自動車の新車出荷台数は2000年以降先進国では全く増えていないが、その中の機能は拡充し半導体が次々と新しいものに変わってきている。パソコンもスマホも出荷数量は毎年ほぼ変わらなくなっており、減少傾向は見られない。

 半導体メーカーの最新の順位は図7-1のようになる。

■ファウンドリはTSMCが絶対王者

 ファウンドリでは、TSMCの優位は当面変わらないだろう。

 図7-2に示した最新のファウンドリトップ10ランキングでは、2位以下を圧倒的に引き離しているからだ。2位のサムスンは先端的なロジックプロセスに投資を続けてきた結果、アップルを逃がしてもクアルコムなどの顧客も使ってみるようになり、2位の座をキープしている。第3位になったSMICは、米中対立の結果、中国内のファブレスICメーカーがSMICに依頼するようになり、少しずつだが着実に成長を遂げている。

 第5位のグローバルファウンドリーズは必要な投資が遅れることが多く、TSMCのような継続的な成長ができていない。米国が半導体工場への投資を支援するようなCHIPS法案を通過させた後は、積極的に米国に投資するようになった。名前の通り米国以外にもドイツのドレスデンやシンガポールにも工場を持っており世界的にビジネスを展開している。

 今後もTSMCの天下が続くだろうが、ラピダスがどこまで食い込めるか。まずはトップ5社までに入れるような応用の顧客を摑まえることができるかどうかが勝負となるだろう。今のところ、2nmプロセスという新しいGAA(ゲートオールアラウンド)3次元構造のトランジスタを使う製造手法だが、すでにTSMCやサムスンは試作から量産検討を進めており、ラピダスよりも一歩先を行く。

 ラピダスは、米国のスタートアップ2社を顧客として表明しているが、スタートアップだけに心もとない。技術がどんなに優れていても、使いにくいICであれば顧客は離れていく。

 10年先も恐らくTSMCの天下は変わらないだろうが、唯一の心配は、中国の台湾侵略である。これがないという仮定ではTSMCがトップであることは変わらないだろう。

<連載ラインアップ>
■第1回ソニー、ルネサス、キオクシア…日本の3大半導体企業は世界売上高トップ10圏外から巻き返せるか?
■第2回 世界一のファウンドリTSMC誘致、国策会社ラピダス設立は、日本の半導体産業に何をもたらしたか?
■第3回ルネサス、ソシオネクスト、ソニー、キオクシア、東京エレクトロン…成長を続ける半導体企業に共通する稼ぎ方とは?
■第4回 なぜエヌビディアCEOは社長室を持たず、シリコンバレーのエンジニアはファミレスで議論するのか?
■第5回 半導体産業で今後も有望な企業は? エヌビディア、クアルコム、TSMCがファブレスとファウンドリで成長し続ける理由(本稿)

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筆者:津田 建二

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