あなたの会社に「シェア」する習慣が定着しない理由

3月13日(水)6時12分 JBpress

 こんにちは、人事戦略コンサルタントの松本利明です。PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手のコンサルティング会社などで24年以上、人事と働き方の改革を行ってくる中で「おやっ!?」と思えることが実は多く発生してきました。

 実は、世間で言われる「セオリー」の9割が間違っているのです。思ったような効果が出ないのは、計算ミスより計算式そのものが間違っているのです。うすうす、あなたも気づいているのではないでしょうか?

 今回も「働き方改革」のセオリーの落とし穴と、代わりの速くラクに成功するコツについて解説していきます。


シェアできないから「働き方改革」も躓いてしまう

 働き方改革を成功させるためには「シェア」の要素は必須と考えられています。

 そこで、「ナレッジシェア」をはじめ、企業はシェアの施策をぐいぐい推し進めてきましたが、胸を張って「成功している」とは言い切れないのが現状ではないでしょうか。共有できているのはフリーアドレスのワークスペースくらい、というのがせいぜいなのでは?

 では、なぜシェアは重要だとみんなが思っているのに、実現できないのでしょう? カーシェア、ルームシェアなど他人とはシェアできるのに、より人間関係が近い会社の仲間とシェアできないのはなぜなのか?

 それはツールやテクニックの問題ではありません。人の本質を見落としているからです。早速解説しましょう。


シェアできない本当の理由は「信頼の薄さ」

 100円のペットボトルの水を高く売りたいなら、砂漠のど真ん中で売るのが一番でしょう。気温50度を超える環境で、喉がカラカラになった人はすぐ飛びついてくれるでしょうし、命が危ない状況になれば1万円の値が付いていても買ってくれる可能性があります。

 しかし、ここに落とし穴があります。

 売り手が初対面の相手の場合、買い手はそのペットボトルの中身が何なのかを知りません。仮に水だと分かっていても「飲んでも腹を壊さないか」といったような、品質面での信頼が置けないと買ってはくれません。「安心して飲める水」という情報が正しく伝わらないと、買ってくれないのです。

 逆に言えば、お互いに「信頼」がないとまともな商売は成り立たないのが普通なのです。私たちがふだん何気なくさまざまな商品やサービスを購入しているのは、売り手や作り手、サービスの提供者に対して無意識の信頼を置いているからなのです。

 この関係は、あなたが勤務する企業の中でも一緒です。知識や情報、ノウハウのシェアが進まないのは、社内の「信頼」が足りないからです。

 信頼が足りない要因はいくつか考えられます。例えば、

・有益や情報をシェアしたら手柄を横取りされた
・「ありがとう」と言われただけで、評価では全く報われなかった
・自分が苦労して築いたノウハウなのでシェアしたくない
・仕事が忙しいのでシェアする時間がもったいない

 などです。何となく思い当たるようなものもあるのではないでしょうか。

 こうした思いはなかなか払拭できません。それは、組織内にこびりついた過去の記憶があるからです。例えばこんな記憶です。——自分の知識・ノウハウを同僚にシェアしても、その場限りの賞賛だけで、人事評定では全く評価はされなかった。それどころか、「もっとくれくれ君」が現れ、断ると今度はネガティブな噂を流され、結局自分が悪者にされてしまった——シェアにまつわるこんな黒歴史の記憶が、当人、そしてそれを傍観していた組織の中にも染み付いてしまっているのです。これを拭い去るのは容易ではありません。

 さらに、世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことが分かりました。これは米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスだったのです。

 果たしてあなたは、今、心の底から、会社や職場のメンバーを100%信用しきれていますか? このご時世、自分の人生の命運を会社に100%預けっぱなしという人はごく少数でしょうが、それも含め、会社への信頼感の乏しさが職場でシェアの広まらない大きな原因の一つなのです。

 ゼロではないといえ、同僚との間にわずかな信頼感しかないようでは熱中した仕事もできないでしょう。チームビルディングの研修をしても、盛り上がるのは一瞬だけ。明日はいつもの毎日が待っているだけです。そんな、味気ない日常を変えるヒントを紹介しましょう。


テクノロジーが組織の中の信頼感を取り戻す

 シェアについて解説した話題のベストセラー『シェアライフ——新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)で、著者の石山アンジュさんは「シェアにおけるやり取りを行うには『信頼する・信頼される』スキルが欠かせません」と、サービスを提供する側、提供される側の双方に、「信頼」を得るための働きかけが必要であると指摘しています。

 では「信頼」とは何なのでしょうか? 石山さんは、シェア研究の第一人者レイチェル・ボッツマンの著書『Who Can You Trust?』から、「信頼は歴史の中で変化しており、その転換を大きく3つにフェイーズを分類できる」という彼の分析を引用しています。

 それによれば信頼とは、「ローカルな信頼」から「制度への信頼」、そして現代は「分散された信頼」に変遷してきたというのです。

「ローカルな信頼」とは、例えばこういうことです。砂漠の中でペットボトルの中身が信用できるかどうかは、相手への信頼があるかどうか。そう、お互いの素性がよくわかり、顔見知り、友達、特定の人の間との信頼関係がローカルな信頼です。日本も戦前までは、このローカルな信頼が中心でした。

「制度への信頼」は、「ペットボトルの水は日本製だから信頼できる」といったように、国、企業、業界団体など、仕組や制度をとした信頼がこれです。戦後の日本はまさにこれで、製造元の企業やJASなど品質規格基準に基づく信頼を中心にしてきました。

 そして3つ目の「分散された信頼」は、われわれの社会に浸透している、テクノロジーを通した信頼です。例えば「食べログ」のように、個人からの評価の集合に私たちは信頼を置き、食事に使うお店を選んだりします。このように、たくさんのレビューの評価をもとにお店を選ぶのと同じように、相手方を直接知らなくとも、テクノロジーを通して得られる情報を担保に、信頼を置くのです。

 組織の中での信頼関係も、「ローカルな信頼」から「制度への信頼」を経て、「分散された信頼」へと移行していくはずです。

 上司に手柄を横取りされた等の過去があれば、人事異動で上司が変わっても、「今度ももしかして・・・」という心理は働くのが人間です。職場というローカルの信頼は一度落ちると完全に修復するのは、なかなか難しいものなのです。

「仕事で貢献したのに評価されない」等、人事制度面への不平不満は多くの人が持っています。人事考課の世界で一番重視されてきたのが年次評価です。実はこれ、部門や人事が全体のバランスをみて評価を調整しています。直属の上司が「S」の評価をつけてくれたので「これで昇進やボーナスアップは間違いないぞ」と期待していたら、人事の年次評価で調整されて「A」となり、昇進は見送りなんていうことも珍しくありません。「どうすればS評価になりますか?」と尋ねても、社内政治も影響する序列調整に明確なロジックはありません。上司のとりつくろった説明に、部下の心は冷めていくものです。

 このような「ローカルな信頼」「制度への信頼」は、現代の職場では効果を発揮しません。期待し、模索すべきは、「分散された信頼」(テクノロジーを通した信頼)です。


人の進化を待つより、テクノロジーの活用を模索する

 そもそも、人が人をマネジメントすることに限界があるという見方もできます。マネジメントが得意だったり、その資質を持っていたりする人もいれば、持っていない人もいます。産業・組織心理学分野の研究者でありコンサルタントのブラッド・フォードの調査結果によると「個人の資質」のうち「変わりにくいもの」として、知能、創造性、情熱、野心などと並んで、「部下の鼓舞」が挙げられているくらいですから、マネジメント能力は少しばかりの研修を積んだくらいでは引き上げられないのかもしれません。ましてや現在は、「ローカルな信頼」「制度への信頼」揺らいでいるのが時代ですので、「部下を信頼する」「上司を信頼する」というのはますます難しくなっていると言えそうです。

 となれば、テクノロジーをしようした「分散された信頼」へと軸が移っていくのかもしれません。石山さんの『シェアライフ』でも紹介されていますが、インドネシアではライドシェアサービスが急成長しているそうです。それは、通常のタクシーが、料金をぼったくったり、わざと遠回りしたりするなどして信用できないのに対し、ライドシェアアプリを使えばスマートフォン上の地図に沿って正しく移動し、料金も自動で計算してくれるし、過去に乗った人のドライバーの評価が分かるので、ライドシェアの方がはるかに信頼が置けるからなのだそうです。

 いずれは社内の信頼関係も、テクノロジーが介在する形で、あちらこちらからの無数の評価によって構築される時代が来るのかもしれませんが、今はまだ過渡期です。個々のサービスではその手法で信頼が生まれているかもしれませんが、まだ会社組織はそこまで進んでいるとは言えません。


美意識や価値観で信頼を担保する

 今すぐ取り入れられる、社内の信頼関係を構築する方法が一つあります。それは、共通の美意識なり、価値観を持っている人が集まるようにすることです。

 ここ数年のうちに起業され、急速に業績を伸ばしている会社の多くに共通するのは、採用時に「共通の価値観」を持っている人を採用しているということです。違う言い方をすれば、その企業が掲げる価値感に共感する人材だけを選んで採用し、そこにそぐわない人が入社することを避けているのです。

 そうすることにより、ルールで社員の行動を規定することなく、共通の価値観に従って社員が自由に仕事をすることを促しています。

 もちろん、共通の価値観を持っている社員同士ですから、互いに信頼も置けるので、ノウハウや知識のシェアも、伝統的な企業に比べて圧倒的に進み、効率的な経営も可能になっています。

 こうした仕組みがない従来型の企業の場合は、様々な価値観、方向性を持った人が混在しています。もちろん多様性は否定すべきことではありませんが、組織の中にあまりにも正反対の考えを持った人がいると、信頼を醸成するのは容易ではありません。

 こういう会社、組織の場合には、改めて会社のミッション、理念、価値観などを全員で確認してみるとよいでしょう。もちろんそれで全員が全く同じ方向を見るようになることはありませんが、根底の部分の共通認識は一致させられるはずです。

 会社の価値観に共感する人が集まっている組織では、「評価」や「報酬」以外にも「やりがい」や「同僚の存在」が組織への信頼性を高める大きな要素になってきます。しかし多様な価値観の人が混在する会社においては、個々の社員が感じるKPIはやはり「評価」と「報酬」です。そうした中でも、ミッション、価値観の再共有などを通じて、互いの信頼関係を構築する道を模索することが現実的で効果的な組織の強化法ではないでしょうか。

筆者:松本 利明

JBpress

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