1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?

2024年3月7日(木)4時0分 JBpress

 業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第3回は、価格以外で勝負でき、他社が模倣できない独自商品を作る発想と商品づくりの生産効率を劇的に高める仕組みに迫る。

<連載ラインアップ>
■第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?(本稿)
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?

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■賞味期限の長さが問題解決のカギ

 賞味期限を長くするには菌の増殖しづらい商品であること。これが欠かせません。

 詳しくは後ほどお話ししますが、私は食品メーカーを経営した経験もあります。だから、何をどう組み合わせれば日持ちするようになるのか、理論上の答えはすぐに浮かびます。この時は、「ゲル化剤などに代表される増粘多糖類を使い、凝固させた製品」という解が出ました。

 何やら難しい用語を並べてしまいましたが、言い換えるとスイーツです。そして、最初の商品として生まれたのが、水ようかんでした。なぜ水ようかんなのかというと、それは私の好みです(笑)。

 具体的にどういった工程で製造しているのかは企業秘密ですが、特に難しかったのは、こうした素材をうまく凝固させるための原材料の配合や充填の工程ですね。

 容器がペットボトルのように円形ならば、回転させることで熱伝導を均一にできます。でも、牛乳パックは四角いので円形の容器と同じような凝固の工程を踏めません。

 例えば、底の方が先に固まり、上側が遅れて凝固すると、味のばらつきが生まれます。こうした課題をクリアできないと製品化できません。牛乳パックにデザートを入れるのは、単なるアイデアの勝利と映るかもしれませんけれど、実は技術的にかなり難しいことなのです。

 こうして生まれたのが、1リットルの牛乳パックに入った水ようかんです。賞味期限は3カ月。製品化して約10年たちますが、いまだに他社から模倣されていません。当初は乳業メーカーの方々もこの商品にかなり興味を抱いていたと聞いています。

 なぜ類似品が世に出てこないのか。最大の特徴である賞味期限の長さは、製造技術も機械も自社で考案することで実現できたものだからです。「充填して冷やして固める」という工程を単純にまねしただけでは3カ月は持ちません。

 牛乳パックに水ようかんを入れる理由は、容器のコストが安いこと以外にもあります。

 まず、陳列の効率がいい。横幅と奥行きが短いので店頭で並べやすいのです。四角くて配送時の効率もいい。箱詰めしやすいですし、多少の振動ではびくともしません。

 業務スーパーを利用する飲食店のプロにとってもこの形状は扱いやすいし、ご家庭の冷蔵庫で保管する際も場所を取りません。店舗にも、ユーザーにとっても望ましい形状なのです。 

 価格以外で勝負できる「自分だけの商品」が欲しいのなら、自分で作る(もしくは技術を開発して独占する)のが一番確実です。牛乳パック入りスイーツは「自分のグループで作った、自分だけの商品を、自分のチェーンだけで売る」ことの一例です。

 商品に強い独自性があり、生産を自社で行っているのでまねされにくく、かつ「業務スーパー」という自社チェーンの特徴と噛み合っている。なので、作る方も売る方もお互いにメリットがあります。

■ポテトサラダを1キログラム単位で売るわけ

 この話をすると「でも、水ようかん8人分を一度に買うお客さんがそんなにいるのか」と思われる方が多いようです。

 スイーツに限らず、業務スーパーの店頭には大容量の商品がたくさん並んでいます。例えば、ポテトサラダは1キログラム単位の販売です。

 「誰がこんな商品を買うの?」というもっともな疑問、つまり「売り方」にはあとでしっかりお答えしますので、まずは「業務スーパーの主力商品は、自社で生産・輸入し、自社だけで販売している」ことを覚えておいてください。

 さて、大容量の商品は、当たり前の話ではありますが、生産効率がいいのです。「自分で作る」のですから、これは大きなポイントです。量が効率に効くのは普通に分かると思いますが、一例を挙げましょう。

 パッケージは大きくても小さくても、充填の手間として大きな違いはありません。そして、食品製造で最も手間のかかる工程がこの充填の部分です。1袋100〜200グラム程度の小さなパッケージでも、1キログラムのパッケージでも、1回充填する手間は同じです。

 そう考えると、200グラムと1キログラムを比べれば、1キログラム充填は200グラムに比べて5倍の生産効率を達成できるという計算になります。

<連載ラインアップ>
■第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?(本稿)
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?

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筆者:沼田 昭二,神田 啓晴

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