明るいデジタルモビリティ社会実現への3つの課題

3月15日(木)6時10分 JBpress

社会資本関係の予算の推移、及び今後想定される社会資本の維持更新費用

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米ラスベガスで開かれた家電見本市CESで、自動運転技術を活用したモビリティサービス専用電気自動車「イー・パレット」を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長。(2018年1月8日撮影、資料写真)(c)AFP PHOTO / MANDEL NGAN〔AFPBB News〕


デジタル化がモビリティを解き放つ

 デジタル化はヒトやモノの移動(モビリティ)を、より自由に、より多様にしていく。

 すなわち、第1にデジタル化はモビリティを定地性・定時制から解放する。鉄道やバスなどによるヒトの移動や、混載輸送や宅配便などのモノの移動は、出発・到着地点と出発・到着時間が決められたサービスであった。だが、ヒトやモノの移動のニーズと、移動手段の所有者・提供者のニーズが合致すれば、ヒトやモノはどこからどこにでも移動できるようになる。それらのマッチングはデジタル化によって可能性が広がり、時間も大幅に短縮されてきている。

 第2に、デジタル化は業法で定められた事業者からモビリティを解放する。これまでは鉄道・バス・タクシーやトラック・船舶・航空機など、定型的な輸送手段を持つ事業者がサービスを提供してきた。輸送手段の現在情報や供給能力がデジタル化で広く共有されるようになると、貨客混載のような移動手段の共有化も進む。業法が緩和されれば、ライドシェア(一般人による相乗り)やクラウドデリバリ(一般人によるモノの配達)も進む可能性がある。

 第3に、デジタル化は固定的な運賃(標準運賃、タリフ)を解き放つ。すでに航空運賃や貨物の貸切輸送などでは、ダイナミックプライシングのような、需給の状況に応じた、運賃になっている。今後はデジタル化によって運賃に関する規制緩和が進み、需給バランスを瞬時に反映した柔軟な価格でモビリティが提供されるようになるとされている。

 モビリティが自由で多様になると、生活行動(通勤・通学・通院・通所、買物、お出かけ、等)とのシームレス化が進む。事業者は、モビリティと生活サービスをいかに一体的に提供するかを競うことになる。それは、スマートシティ化(生活行動や移動の効率化・最適化)を加速させることにもつながる。


ビジネスが成り立つのは都市部だけ?

 以上のように、デジタル化によってより多様で柔軟に社会の移動ニーズが満たされるのが理想的な未来だが、果たしてそういった未来は本当にやって来るのだろうか。

 筆者は、そのためには様々な課題をクリアする必要があると考えている。

 そもそも、運輸も物流も公共財的な性質を持つサービスである。鉄道輸送や宅配便のように、サービスネットワークの構築には莫大な投資を必要とする資本集約的産業だ。同時に、ユニバーサルサービスを提供するために多くの人員を要する労働集約的産業でもあり、総じて固定費が重い。また、サービスネットワーク全体では収益が上がるかもしれないが、収益性は地域によって大きなばらつきがある。それゆえ業法で適度な規制が設けられ、安定的な経営環境を担保される一方、収益性はあまり高くないという特徴がある。

 そうした公共財的な性質を持ちつつ資本効率や労働効率を高めるためには、いかに需要密度を高めるかが重要になる。

 例えば、トラック事業者にとっては、トラックを稼働させている時間(稼働率)と、積荷を載せて運んだ回数(回転率)と、荷台の容量に対する積荷の割合(積載率)で収益性が決まる。運輸・物流事業者は、デジタル化を生かして輸送手段の稼働率・回転率・積載率を改善し、極力輸送密度が高まるようネットワークを再構築する渦中にある。トラックを擁する物流会社やタクシー会社など旧来のレガシー企業が配車アプリを活用するのはまさにこの流れである。

 他方で、多くの新興デジタルモビリティ事業者が急速に台頭してきているが、彼らも需要密度を高くすることが収益の鍵となる。UberやLyftのようなデジタルモビリティ事業者は、使いやすいアプリの開発や便利な決済の仕組み、需給のデジタルデータを効率的にマッチングするためのアルゴリズム開発に膨大な人員・投資を注ぎ込む。デジタルモビリティ事業者も、移動手段や運転手は持たないものの、巨大なITプラットフォームや大量のSEを抱える資本集約的かつ労働集約的産業であり、収益確保のためにはマッチングの成約数と成約単価を高める必要がある。

 つまり、レガシー企業もデジタルモビリティ事業者も、需要と供給の情報をデジタル化することで収益機会の獲得・増大を狙っている。しかし、必ずしもその機会(競争環境)は均一ではない。すなわち、モビリティビジネスで収益を上げられる市場は、需要と供給が多く、成約数を増やすことでコストを下げられる都市部に限定されるのだ。

 需要の密度が低く、供給の密度も低い地方の過疎地では、デジタルモビリティへの渇望が最も強い。しかし、レガシー企業さえ事業継続に苦しみ、サービスを低下させるか、オンデマンドモビリティ(バスやタクシーなど)のように、より需要に応じたサービスのあり方を模索している。デジタルモビリティ事業者も、自動運転バスや無人ドローン配達など、新しいコストモデルでのサービス提供を試みているが、現実的には需要密度の低さ、すなわち収益を確保することに苦しんでいる。


明るいデジタルモビリティ社会にするための3つの課題

 デジタル化などの技術革新は、モビリティに多様なサービスを生み出す。一方で、モビリティの公共インフラ的性質や需給のまばらさゆえに、経済合理性の壁も立ちはだかる。

 では、明るいデジタルモビリティ社会を実現するにはどうすればいいのか。必要なのは、3つの社会課題を解決することである。それぞれについて見ていこう。

(1)モビリティインフラのエコ体系を作り変える

 第1に、モビリティインフラのエコ体系をデジタル時代に合わせ変革する必要がある。モビリティインフラは、鉄道・道路やトンネル・橋梁のようなハードインフラ、電線・信号設備やGPS・情報掲示板のようなコミュニケーションインフラ、ガソリンスタンドや修理工場のような関連インフラが相互に補完し合いながら、移動手段(血液)のための血管網となってモビリティを担保している。移動需要の減少により、こうしたモビリティインフラのエコ体系は末端から痛み始めている。

 自動車によるモビリティを例に取ると、今後ますます「CASE」が進んでいく。CASEとは、接続(Connected)、自動運転(Autonomous)、共有(Shared)、電動化(Electric)である。つまり、ヒトからAI操作へ、所有から利用へ、ガソリンから電気へと転換が進んでいくのだ。

 現在の道路や道路構造物は、自動車の所有や、ガソリン税制を前提に組み立てられている。しかし今後は、利用や電気自動車の普及に合わせ、Connectedを活用したPay as you go(インフラを使い、移動した分に課金する)体系に変化させていく必要がある。道路や道路構造物に係る予算が細る一方、ハードインフラの老朽化が加速しているので、変革は待ったなしだ(下のフラフ)。

(注)2015年度以降の予算は2010年度水準と仮定

 コミュニケーションインフラについても、完全自動運転の鍵となるダイナミックマップ(静的情報と動的情報が組み合わせられた高精度な3次元地図)や、車間通信や路車間通信を支えるインフラを運営する仕組みが新たに求められる。ガソリンスタンドのような関連インフラは、集約と業態変革が必要になってくる。

(2)産業と雇用を維持し新たに創出する

 モビリティのエコ体系の大転換が進む中では、産業や雇用をどう維持・創出していくかが課題となる。

 現在は、モビリティサービスを提供する運輸・物流企業、インフラを支える関連企業が産業をつくり、雇用を生み出している。しかし現状のモビリティサービスにおいてもCASEが進むとすれば、移動手段の運転は自動化・省力化され、雇用が縮小する可能性がある。

 また、モビリティ関連の設備投資が減り、周辺産業への波及効果も縮減していく。例えば日本経済新聞(2017年10月29日付)によると「輸送用機械の設備投資は2016年度に2.7兆円にのぼり、関連する裾野を含め5.6兆円の波及効果を生んだ。一方、ITを含む情報サービスの設備投資は0.8兆円にすぎない」という。

 一方、デジタル化により資本・労働効率的にモビリティサービスが提供されることでコストは安くなり、利用者の利便性は高まる。産業・雇用の維持と、利用者の利便性向上は、デジタル時代のトレードオフとして避けられないのかもしれない。

 では、新たな産業と雇用はどうすれば生み出せるのか。

 モビリティサービスそのものが資本・労働効率的に提供される時代においては、ヒトが提供する付加価値を高める必要がある。

 第1に、デジタルへの対応能力を高めることに、ヒトが付加価値を発揮しなければならない。移動の需給データの収集・蓄積が進む中で、顧客や地域の特性を踏まえた分析をして業務改善を行なったり、デジタルマーケティングのような新しい収益源を作っていくことが求められる。

 第2に、利用者一人ひとりの生活に密着したリアルなサービスを拡大する必要がある。ヒトやモノの移動は、必ず目的や関連する行動を伴う。例えば中国のデジタルプラットフォーマーのテンセントは、下の図のように利用者の生活に深く着目し、移動サービスだけでなく、行政サービスや生活サービスなどをワンストップで提供し、決済に誘導することで収益を確保している。こうしたサービスを参考にしつつ、行政申請代行や買い物代行、問診やマッサージ等の、地域特性も踏まえ利用者にリアルに必要な生活サービスの提供に踏み込んでいくことも必要だろう。

(出所:テンセント資料よりNRI作成)

(3)公平な競争環境を築くための法規制を

 モビリティに関する政府と市場(企業)の境界線のせめぎ合いも、より活発になる。人口減少下でも都市化・都市人口集積は加速する。大都市では、渋滞や宅配貨物の再配達などのモビリティに係る課題解決に、ますますモビリティサービスが活用されることになる(≒“市場”の役割の拡大)。一方、過疎地では、補助金の拡大やインフラ整備・維持の支援など、行政の関与が拡大することが見込まれる(≒“政府”の役割の拡大)。

 モビリティのユニバーサルサービス性や公平な競争環境の再定義も議論になる。レガシー企業は、都市部の収益で地方部のサービスネットワークを維持している(プール制)。それに対し、デジタルモビリティ事業者は収益確保可能なエリアにのみ集中する可能性がある。過度な規制緩和が進めば、プール性に基づくユニバーサルサービスは維持できなくなる。

 国民生活水準を高める上では、利用者の利便性向上が最重要になる。それを念頭に置き、モビリティのエコ体系や産業・雇用構造、地域間の差違を見据えつつ、公平な競争となるよう法規制の再整備を進める必要があるだろう。

筆者:若菜 高博

JBpress

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