震災の教訓から発足する水陸両用部隊の残念な実力

3月15日(木)6時6分 JBpress

トモダチ作戦で被災地に上陸用舟艇で接近する海兵隊部隊(写真:米海兵隊)

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 東日本大震災から7年が経過した。その東日本大震災に際して「トモダチ作戦」(Operation Tomodachi:アメリカ軍による東日本大震災被災地救援支援活動の作戦名)に参加したアメリカ海兵隊将校の友人たちが、「もしも自衛隊に我々アメリカ海兵隊的な戦闘能力が備わっていたならば、少なくとも数千名の命を救うことができたに違いない」と残念がっていたことが思い出される。


海兵隊将校たちが残念がっていた理由

 海兵隊将校たちが残念がっていたのは無理からぬところであった。なぜならば、海兵隊や筆者らは、東日本大震災の発生よりもはるか以前から「自衛隊によるアメリカ海兵隊的戦闘能力を獲得する必要性」を指摘していたからだ(参照:2009年発刊の拙著『米軍が見た自衛隊の実力』宝島社、『アメリカ海兵隊のドクトリン』芙蓉書房出版)

 それだけではない。大震災発生の1年前にはアメリカ海兵隊太平洋海兵隊司令官シュタルダー中将はじめ幹部たちが、NHKのインタビューに対して「アメリカ海兵隊を特徴づけている戦闘能力は、大規模災害救援活動、とりわけ日本のような島国における救援活動には獅子奮迅の働きをする」と述べていた。日本防衛という主たる任務からだけでなく、災害救援という副次的任務の側面からも、自衛隊は可及的速やかにアメリカ海兵隊的戦闘能力を身につけるべきであると提言していたのだ(参照:拙著『写真で見るトモダチ作戦』並木書房)。

 そのため、「日本の防衛態勢や災害救援態勢などにアメリカ人がとやかく口を挟む権利はないが、もし自衛隊や日本政府がアメリカ海兵隊的戦闘能力を構築する努力を開始していたならば、数千人とまではいかなくとも少なくとも数百人の尊い命が救えたかもしれない」と残念がっていたわけである。


「水陸両用能力」と「緊急対応能力」

 本コラムで「アメリカ海兵隊的戦闘能力」と呼称しているのは、「水陸両用能力(amphibious capability)」と「緊急対応能力(rapid-reaction capability)」がミックスされた軍事能力である。

「水陸両用能力」というのは、「作戦目的地沖合洋上に展開した強襲揚陸艦などの艦艇から、陸上部隊が海上やその上空を経て陸地に到達して作戦行動を実施する」といった軍事能力を意味する。

 あくまで海兵隊は軍事組織である以上、水陸両用能力は戦闘に打ち勝つためのものであることは言うまでもない。とはいうものの、海岸線沿岸地域はもとより沿海地域それに内陸からよりも海洋からアクセスした方が都合が良い地域での各種災害救援活動や人道支援活動などにも、水陸両用能力は大幅に転用可能な軍事能力である。

「緊急対応能力」は、言葉通り緊急時に速やかに現場に駆け付ける能力である。アメリカがカナダとメキシコ以外の国々に軍隊を派遣するにあたっては、海洋を経由する必要がある。したがって、アメリカ軍の緊急対応部隊として派遣されるのは「海洋から海上やその上空を経て陸地に到達する」水陸両用能力を“お家芸”にしている海兵隊である。アメリカにとっての緊急対応部隊である以上、海兵隊は大統領により出動が下命されてから48〜72時間以内に世界中のあらゆる場所に先鋒部隊を到着させる能力、すなわち緊急対応能力を備えている。

 また、極めて規模の小さい特殊部隊などを除き、数百名単位以上のある程度の規模の部隊を緊急展開させるためには、水陸両用能力は欠かせない。そのため、水陸両用能力と緊急対応能力は表裏一体のものと考えることができる。

 そして、それらの能力を遺憾なく発揮するために欠かせないのが陸上部隊(海兵隊)と航空部隊(海兵隊、場合によっては海軍や空軍)、それに水上部隊(海軍)による密接な連携である。地上での作戦行動に従事する海兵隊陸上部隊と、その陸上部隊を作戦目的地沖合まで緊急に運搬し作戦中は支援する海軍部隊、それに艦艇から陸上部隊を地上まで運搬したり地上部隊の作戦中は空中から敵を攻撃したりする航空部隊が、密接に意思疎通をし連携して行動できるような「統合C4I(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報)能力」が確立されていることこそが、水陸両用能力と緊急対応能力の大前提となるのだ。


ようやく発足する「水陸機動団」

 海兵隊将校たちが悔しがっていたように、東日本大震災発生当時、残念ながら自衛隊には水陸両用能力は備わっておらず、当然ながらその水陸両用能力を生かして被災地に駆けつける緊急対応能力も備わっていなかった。

 陸上自衛隊は大震災以前より「三陸海岸で大規模災害が起きた場合には、遠野付近に前進拠点を設置して扇状に三陸海岸沿岸に点在する被災地に救援部隊を派遣する」といった計画を立案していた。だが、そもそも内陸部から遠野に部隊が到達することすら手間取ってしまったため、役には立たなかった。

 日本国防当局が、東日本大震災発生時に水陸両用能力が欠落していたことから深刻な教訓を得たのかどうかは定かではないが、東日本大震災後、自衛隊に水陸両用能力を構築する動きが生じた。スピードを重視する海兵隊から見れば、極めて緩やかな動きだったが、ようやく2018年3月下旬に、陸上自衛隊に水陸両用作戦に投入される「水陸機動団」が発足する運びとなっている。


依然として欠落している「統合C4I能力」

 とはいえ、現代戦における水陸両用能力とは、上記のように「作戦目的地沖合洋上に展開した強襲揚陸艦などの艦艇から、陸上部隊が海上やその上空を経て陸地に到達して作戦行動を実施する」能力であり、水陸機動団が発足しただけではとても本格的な水陸両用能力が誕生したとは見なせない。

 なによりも、水陸機動団と連携する海上自衛隊、陸自ヘリコプター部隊(新設されるオスプレイ部隊)それに航空自衛隊を連携させる「統合C4I能力」が確立されていないのでは、似非(えせ)水陸両用能力としかみなせない。

 それ以上に問題なのは、「水陸両用能力を、どのような目的で、どのようにして運用するのか?」という、いわゆるドクトリンが打ち出されないままに水陸両用部隊が編成されている点である。

 防衛白書(平成29年版)には「平成29年度末に新編される水陸機動団は、万が一島嶼を占拠された場合、速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦を行うことを主な任務とする陸自が初めて保有する本格的な水陸両用作戦部隊です。」との解説が明示されている。しかしながら、現代の水陸両用戦闘においては、敵が占領している島嶼に接近上陸する「強襲上陸作戦」などは不可能に近い作戦とされている。米海兵隊をはじめとする水陸両用作戦に従事する軍事組織は、強襲上陸作戦以外の水陸両用作戦や海洋を経由しての緊急展開作戦に対応するための組織編成と教育訓練それに装備調達を実施しているのが現状だ。

 東日本大震災から得た教訓を生かし、米海兵隊的能力を身につけていこうとするならば、自衛隊独自の水陸両用作戦に関するドクトリンを打ち出すとともに、「水陸両用能力」と「緊急対応能力」の出発点となる「統合C4I能力」(平たく言えば、陸自、海自、空自の密接な協力関係)を確立しなければならない。

筆者:北村 淳

JBpress

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