X-Tech業界研究:EdTech

3月18日(月)6時0分 JBpress

テクノロジーで「教育」はどう変わる

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 FinTechやRetailTech等、テクノロジーの導入によって既存の業界に新たな価値を見出すX-Tech。中でもEducation(教育)とTechnology(技術)をかけあわせた「EdTech」は注目度の高い分野の一つだ。

 誰もが「創造的な課題発見・解決力」を育むことができる「学びの社会システム」を実現するため、文科省が進めている取り組み等も踏まえながら、政府も後押しするEdTechの最新事情を見ていこう。


STEAM教育をはじめクリエイティビティを育む教育が注目されている

 急速に情報化や技術革新が進む中、少子高齢化をはじめ複雑化する社会問題に対峙しなくてはならない昨今。求められる人材の変化に伴い、教育の在り方も変化してきているのは必然といえる。

 最も分かりやすい変化が、2020年以降に施行される新学習指導要領において、小学校でのプログラミング教育が必修化されることだろう。これにより、日本でも数年前からSTEAM(Science[科学]、Technology[技術]、Engineering[工学]、Art[芸術]、Mathematics[数学]の頭文字)教育が注目されており、幼少期の内からICT機器に慣れ親しみ、それらを使って課題解決を図る力を養うための取り組みが盛んに行われている。

 文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引き(第二版)」では、小学校にプログラミング教育を導入するねらいの一つとして、

「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」

である「プログラミング的思考」の育成を挙げている。同手引きでは、

「プログラミング教育を通じて、児童がおのずとプログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりすることは考えられるが、それ自体を、狙いとはしない」

とも明言されており、プログラミング教育といっても、重きを置いているのはあくまでも思考力や判断力の育成であることが分かる。

 今後ますます予測不可能となっていく未来において求められるのは、自らの力で課題を発見し、多くの情報を素早く精査して解決法を見付けだす力を持つ人材だ。そして、そうした人材を育てるために必要となるのが、EdTechなのだ。

 また日本の教育現場を語る上で無視できない問題として、教員の業務負担の大きさがある。これを解決しようと文部科学省は「学校における働き方改革」のための取り組みを進めており、統合型校務支援システム等のICTの活用を推進している。EdTechは生徒の学び方だけでなく、教員の働き方にも改革をもたらすものとしても、大きな期待を寄せられている。


EdTech領域のトレンド

 一口にEdTechといっても、「教育」へのアプローチの仕方はサービスによって異なる。事例を見ながら、教育業界が抱える課題や解決の仕方等、トレンドを探ってみよう。

●学習教材「Qubena」
 COMPASSが展開する、AI(人工知能)を搭載したタブレット教材。生徒一人ひとりの学習中の操作ログや計算過程、解答データを分析することで、つまずく原因となっているポイントを特定。その生徒が解くべき問題へと自動的に誘導し、効果的で効率的な学習を支援する。自社が運営する学習塾では中学校数学の1学年分の学習範囲を、従来の学校教育の7倍の速さで修了しているという。
 2019年2月18日には河合塾と共に中学校1年生から高校3年生の学習範囲を網羅した「英語4技能(リーディング、リスニング、ライティング、スピーキング)AI教材」を共同開発し、4月より一部の機能を先行リリースすることを発表。
 同3月5日には文部科学省より理科・数学教育に重きを置くスーパーサイエンスハイスクールに指定されている青翔開智中学校・高等学校への導入が決まったことも発表された。目的は生徒の学習意欲向上や基礎学力強化に加え、数学の教員不足解消や業務不可軽減が挙げられている。

●学習支援プラットフォーム「Classi」
 ICT化を多角的にサポートする教育プラットフォームで、小学校から専門学校まで対応する。Benesseホールディングスとソフトバンクの合弁会社Classiが運営。2014年の提供開始以来、2017年12月時点で全国の4割超となる2100校以上の高等学校に導入され、生徒800万人以上が利用している。
 生徒の学習記録を蓄積していくポートフォリオ機能や、動画やWebテスト等の義務教育から大学入試対策に対応するアダプティブラーニング(適応学習)機能、授業で使う指導教材や提出課題等をクラウド上で管理できるアクティブラーニング機能に加え、教師はもちろん、保護者を交えた双方向のコミュニケーションを活性化させるコミュニケーション機能を備える。
 2019年3月5日には、学校と保護者をつなげるスマートフォン・タブレット向けのアプリケーション「Classiホーム」の提供を開始。教員の負担軽減や保護者の安心につなげる狙いだ。

●プログラミング教育(STEAM教育)「Springin'」
 しくみデザインが展開する、「つくる楽しさ」にフォーカスした直感型ビジュアルプログラミングアプリ。プログラミングの知識が無くとも、直感的な操作でゲームやアプリの作成が可能。指を使ってタブレット端末に絵を描き、簡単なアイコン操作で動きや能力等を決定。動作の確認も簡単に行えるため、納得がいくまで何度も試しながら徐々に完成させていくことができる。
 また、マーケットから他ユーザーの作品をダウンロードして遊んだり、自分が作りあげた作品をマーケットに出品することも可能。自分の作品がダウンロードされると評価として、作品をやりとりするためのコインを得ることができる。
 子どもだけでなく、親子共に遊びながらプログラミング的思考や想像力を身に付けることができる仕組みで、ワークショップや学習塾、小学校の公開授業等に導入されている。

●幼児教育「ワオっち!」
 乳児、幼児から小学校低学年までの子どもがいる家庭をはじめ、幼稚園・保育園・塾・幼児教室等で使用されている、子供向けの知育・教育アプリシリーズ。個別指導塾アクシスを展開するワオ・コーポレーションが手掛ける。
 楽しみながら幼児期に必要な「文字・会話」「数・計算」等の能力や、ICT機器の操作を身に付けることができる。
 また、企業・団体向けサービスとして、タブレット上を動くロボット「TABO」のプログラミング体験ができる「おはなしプログラミング」を用意。コードを使わず命令ブロックを並べるだけで幼児でもプログラミング体験ができるワークショップとして様々なイベントで採択されている。

●校務支援ツール「SchoolEngine」
 システム ディが展開する、クラウド、センター集中型の校務支援サービス。小・中学校、高等学校、特別支援学校に対応。児童生徒情報の管理から出欠・成績処理、保健や進路管理から通知表や指導要録作成に至るまで、一貫して処理することが可能。その他、教員勤務管理や徴収金管理、教育委員会集計機能といった自治体業務の視点も備える。
 校務事務を効率化し、保護者との情報の共有を促進。学校と教育委員会の連携を強化する仕組みを備え、2018年10月時点で全国約1800校で利用されている。

●リカレント教育(生涯教育)「ストアカ」
 ストリートアカデミーが運営する国内最大級のスキルシェアサービスで、学びたい人と教えたい人とを結ぶ「大人の学びのマーケット」。ビジネススキルから趣味に自分磨きなど、講座のジャンルは170以上に及ぶ。日程や地域、キーワードで受講したい講座を絞り込み、気軽に参加することができる。
 同サービスの講座はオンライン学習ではなく、実際に集い対面で学ぶことを特徴としており、東京メトロと協業して地下鉄の駅構内を活用した新しい「学び」の場を提供する等の取り組みも行っている。
 また、コンセプトの一つに「誰でも先生になれる」を掲げており、定期的に先生になりたい人向けのワークショップも開催している。
 2018年11月22日には総額3億8000万円の資金調達を実施したことを発表した。


今後の展開

 2018年6月1日に野村総合研究所が発表したレポート「EdTech市場の現状と課題」によれば、2016年度におけるEdTech市場規模は約1700億円と推計され、市場拡大の余地はまだまだ大きいと見込まれる。特に今後は、公教育における情報端末の整備が進む2020年前後にかけては、児童・生徒向けの教科学習コンテンツが市場を先導し、2023年にはEdTech市場全体で約3000億円に達する見込みだという。

 また、今回具体的なサービス名は取り上げていないが、EdTechは社内教育や研修の場での活用も進んでいる。労働人口が減少する一方で顧客ニーズの複雑化が進む昨今、企業における人材教育の重要性はますます高まっているためだ。野村総合研究所のレポートでは客室乗務員の訓練・教育にスタディストのマニュアル作成・共有プラットフォーム「Teacheme Biz」を活用する日本航空の事例が挙げられている。タブレット端末を社員一人ひとりに貸与し、同プラットフォームを活用することで、社員教育の品質が向上しただけでなく、マニュアルや教材作成に要する時間の短縮に成功し、間接部門の業務効率化にもつながった。

 今後はAIが指導役や教員の役割の一部を担うともいわれているが、それは人間の教員が不要になるということではない。ベネッセホールディングスが2018年7月5日に発表した「Classi」導入校の学習記録データの分析結果では、同サービスのメッセージ機能を利用する等、教員側から生徒への働きかけが行われている学校ほど、成績が向上する傾向にあるという結果が明らかにされた。生徒の学習意欲が低下してしまった際、その生徒が再び意欲を取り戻し、主体的に自らの能力を伸ばしていけるよう、直接手を差し伸べることができるのは生身の教員だ。

 決められた単位や時間数、指導要綱に従って各科目を詰め込んでいく既存の「教育」の在り方は終わりを迎えようとしている。今後は教科の枠に囚われず、自らの力で社会課題を発見し、解決していける人材を育成していくために、様々な場面でテクノロジーが導入されていくだろう。

 加えて、今以上に少子高齢化が進んでいけば、生涯教育領域も今まで以上に注目を集めるようになっていくはずだ。日本が「課題“解決”先進国」になれるかどうかは、EdTechを活用できるか否かにかかっているのかもしれない。

筆者:松ヶ枝 優佳

JBpress

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