昇格後も藤井六段が連勝を続けられる理由

3月18日(日)11時15分 プレジデント社

プロ棋士 藤井聡太 ややあどけない表情は12歳、奨励会二段に昇段した当時の写真。半年後には三段、その1年後には四段と、プロへの階段を一気に駆け上がった。

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破竹の29連勝──。昨年、日本中が棋士・藤井聡太の連勝記録に釘づけになった。そして今年。藤井氏は最年少の六段として「C級2組」に臨み、10戦全勝で「1期抜け」をはたした。15歳にしてプロの世界で渡り合える実力は、いかにして身についたのか。才能を育んだ背景に迫った——。

※本稿は、「プレジデント」(2017年10月2日号)の掲載記事を再編集したものです。藤井さんは2018年3月現在六段ですが、記事内では掲載当時のまま四段としています。


■短い時間で、効果を最大限に


「一流棋士の勉強法には共通した部分が見られます」と分析するのが、将棋ライターの鈴木宏彦氏だ。鈴木氏によれば、将棋の成功者はチャンピオンタイプとリーダータイプの2つに分かれる。チャンピオンタイプは、自分の能力向上に重点を置き、黙々と努力して結果を出すタイプだ。




プロ棋士 藤井聡太 

ややあどけない表情は12歳、奨励会二段に昇段した当時の写真。半年後には三段、その1年後には四段と、プロへの階段を一気に駆け上がった。

一方、先頭に立って大勢の人を引っ張っていくのが、リーダータイプ。典型は、将棋界を長年支えた大山康晴十五世名人や、羽生善治二冠。そして藤井聡太四段は(当時、現在は六段)もいずれはこちらに属する可能性が高いという。リーダータイプは社会的な立場を自分の実力の1つと認識しており、広報活動や関係者との付き合いなど、将棋以外に時間を割くことも苦にしない。そして将棋以外の時間も、自分の対局のエネルギーに変えていく。


「リーダータイプは忙しいため、短い時間で効果を最大限に発揮する勉強を心がけています。藤井四段は今やネームバリューで将棋界を引っ張る存在である一方、中学生なので授業に出なくてはいけない。リーダータイプのように限られた時間内で効率よく成長する方法を常に考えながら今に至ったわけで、その苦労は将来も必ず役に立ちます」(鈴木氏)



■横断歩道では、常に先頭に立て!


では、リーダータイプはどんな学びをしているのか。年間60〜70も公式戦がある羽生二冠は、「普通の棋士の3倍、ヒマな棋士の10倍忙しい」(鈴木氏)ため、なかなか勉強に時間を割けない。


「羽生二冠の勉強法の1例ですが、対局中の昼休みに他の対局を1通り見て回ります。そこで互いがどういう戦略でぶつかり、今に至ったのか、1局につき数分で情勢を解析する。そこから得たヒントを、後日の自分の対局に活かすのです。瞬時の判断を繰り返すことで情報と分析が蓄積されていきます」(同)


多忙だった大山十五世名人も、対局の翌朝、指した棋譜を並べ直して、手書きでノートに記すことを習慣にしていた。さらに晩年まで欠かさなかったのが、勝利への執着心を高める日常的なトレーニングである。


「横断歩道で先頭に立ち、信号が青になったら、3番以内に向こう側へ渡りきると決めていた。人の何倍も競争心があることを常に意識することで、『自分が負けるはずがない』という信念を強化していました」(同)


少ない時間の中で頻出する機会を最大限利用して、能力を高める。それがリーダータイプの勉強法なのだ。


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▼「絶対に勝つ」という信念の強化

○ 常に勝敗を意識

× 漫然と行動する



忙しければ、学びの時間を日常に見出す

社会的地位が高くなるほど人は忙しくなり、自分を磨いたり学習したりする時間は失われていく。さらにまとまった時間をつくるのが難しい場合、日常的な状況や頻出する機会を、トレーニングの時間に充ててみよう。朝の通勤中、車内の中吊り広告のキーワードから派生した企画を考える。エレベーターを待つ間、近くに立った人への営業をイメージしてみる。風呂の時間に今日の課題を反芻する……。日々の習慣にすれば蓄積は大きい。

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■自分で解決する意志こそが大事


藤井四段が通った幼稚園で採用されていたのが、イタリア発祥の教育法・モンテッソーリ教育である。登園した子どもたちは、はさみを使ったり、カードの絵をあわせたり、“お仕事”と呼ばれる日常生活の練習や教具を使った活動に取り組む。


特徴は、やりたい“お仕事”を自ら自由に選べること。この学年では何を習うといった固定的なプログラムが用意されているわけではない。


「大人には無意味に見えても、子どもがやりたいと思って取り組んでいることこそ、発達課題であることが多いものです。子どもには自ら育つ力が備わっている、というのが教育の前提です」と、日本モンテッソーリ教育綜合研究所・主任研究員の櫻井美砂氏は説明する。あくまで大人は成長するために援助する存在という位置づけ。誤っていても、あえてすぐには修正しないこともある。


「大事なのは、答えへの最短距離を覚えることではなく、自分で解決しようとする意志力や思考力を育むこと。すぐに介入すると、判断する前に大人を頼り、自分で考える姿勢が失われてしまいます」(櫻井氏)


藤井四段の両親は、将棋に関してほとんど口出ししなかったという。


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▼困ったとき、すぐに介入しない

○ 見守られることで自立

× 叱られることで萎縮



押さえつけず、見守る姿勢が自立を促す

子どもに大人が過度な介入をすると、「判断する前に大人を頼って、自分で考える姿勢が失われてしまいます」(櫻井氏)。そうならないため、モンテッソーリ教育では、子どもには子どもの価値観があり、大人とは別の人間と認識するように心がけている。「同じことが上司・部下の関係にも言えるでしょう。部下だからといって何でも言っていいわけではなく、考えは尊重する。見守り、最終的な責任を取ってあげると、成長が促されます。」(同)

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■実は間違いだった「AIの申し子」


今、プロ棋士や棋士を目指す者に必須の学習ツールがある。それがソフトウエア(AI)だ。実際にソフトを相手に対戦することもあるが、最近では自分の指した手が正しかったかどうかソフトの判断を聞くのが一般的。プロ棋士もソフトを使って学ぶ手法がここ数年で完全に定着し、将棋を勉強する小学生が対局後にスマホで検証する光景も珍しくない。


「プロを目指す機関である奨励会の会員や、強くなることに敏感なアマチュアの強豪たちは、数年前からソフトを使って勉強しています。でも、ソフトを使った全員が強くなったわけではない。一方、AIの申し子のように言われることもある藤井四段は、ソフトをほとんど使わずに強くなりました」(前出・鈴木氏)


師匠の方針もあって藤井四段はプロレベルの実力を身につけるまで、ソフトにふれなかった。それまでの勉強法は江戸時代から続いてきた「詰将棋を解く」「実戦を指す」「棋譜を並べる」(記録された対局を将棋盤で再現する)の3つ。中でものめりこんだのが、詰将棋だ。


「詰将棋は強くなるためには欠かせません。しかしそれだけでプロレベルになったケースはほとんどない。詰将棋を解くのは筋トレのようなもので、基礎体力の補強にはなるけど、筋トレだけをしている野球チームが強くならないように、必ずしも勝敗には直結しない。『詰将棋に時間を費やす間、ライバルたちは自分に勝つための戦略を練っているかもしれない。地道に基礎体力づくりしている場合じゃないぞ』というのが多くの棋士の実感です」(同)


ところが、藤井四段の場合は生まれつき詰将棋が大好きで、ひたすら基礎体力を育んでいった。


「詰将棋で身につけた力を土台にして、さらに自分を成長させる勉強法を藤井四段はいろいろ考えました。ネットで対局し、研究会を続け、ソフトもプロ三段になってから使い始めた。他の棋士よりも基礎的な実力がついていたから、より急激に伸びることができたんです」(同)



■藤井四段が天才と呼ばれる理由


若者離れした基礎能力という点では、語彙の豊富さも注目を浴びている。「僥倖としか言いようがない」「望外の結果」……。これらは藤井四段が報道陣に対して使った表現だ。


読書家であることは有名で、家族が所有する本を手に取る機会が多く、村上春樹『遠い太鼓』などの旅行記を愛読し、新聞にもよく目を通すという。奨励会当時から藤井四段を密着取材していたジャーナリストのタカ大丸氏は、こう振り返った。


「藤井家の本棚には将棋の本が並んでいましたが、専門書が溢れんばかりに並んでいる印象ではなかった。藤井四段は小学校低学年で、分厚い定跡の本を丸々1冊暗記したそうです。また江戸時代に作られた難解な詰将棋が200問載っている問題集を、小学生の時点で9割方解いた。いろいろな本を読み漁るというよりは、厳選した古典をバイブルとして、何度も読むスタイルなのです」


大丸氏が見たところによれば、漫画はほとんどなく、同世代が時間を費やすテレビゲームもやらなければ、テレビもほとんど見ない。「将棋が唯一の趣味で、ほとんどの時間を将棋に費やしていた」という。


「奨励会を勝ち抜くと四段に昇格し、賃金が発生するプロ棋士になれます。だからそこまでは友達をつくる余裕はなく、全員が敵という世界。よって四段になると安心して気が緩んでしまい、昇格時が実力のピークになってしまう棋士も少なくありません。それが藤井四段は、奨励会で誰よりも長く深く勉強していたし、昇格後もいちばん勉強している。よく天才と称されますが、それは努力を続けられるという才能の持ち主だからではないでしょうか」(大丸氏)


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藤井聡太(ふじい・そうた)

2002年、愛知県生まれ。5歳で将棋と出合い、すぐに頭角を現し、7歳でアマ初段に。16年、史上最年少の14歳2カ月で四段に昇格。プロ棋士になる。プロ初対局から公式戦29連勝を記録し、中学3年生にして世間の注目を集める。18年2月1日に五段、さらに2月17日に六段に昇段した。師匠は杉本昌隆七段。

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(プレジデント編集部 撮影=岡村智明)

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