「人間は自主的に貯蓄できない」マネーフォワードのユーザーから学びたい資産づくりの極意

3月20日(水)6時0分 ダイヤモンドオンライン

瀧 俊雄(たき・としお)さん株式会社マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長1981年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。

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親世代と比べて給与は不安定なのに、スマホ代など新たなコストは膨らむ…でもSNSなどで派手な消費行動を披露する——貯蓄できない環境がそろっている現代において、どうすれば資産をつくれるのか? 日本におけるFintechベンチャーの先駆け的存在であるマネーフォワードの設立メンバーで取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄さんと、資産運用のロボアドバイザーサービスを展開するウェルスナビを創業した柴山和久さんの特別対談・後編。「起業するつもりはなかった」というお二人は、どんな問題意識に突き動かされてFintechベンチャーを立ち上げたのでしょうか。(構成:大西洋平、撮影:疋田千里)


婚約指輪を買ったら残高がほとんどなくなった



瀧俊雄さん(以下、瀧) (前編で)もっともらしく起業の背景などもお話しましたが、実はもともと僕には起業するつもりはまったくなかったんですよ。野村證券で、市場型の経済を拡げるロビイストになるのが僕の夢でしたから。その過程で、確定拠出年金の拡大や、NISA(少額投資非課税制度)の設立に向けてやっていた仕事は、私の中では生き甲斐ともいえるものでした。


柴山和久さん(以下、柴山) 私が財務省時代に、英国のISA(個人貯蓄口座。NISAの模範となった制度)について調査したことがありました。そもそもISAは英国人の貯蓄率の低さを改善するために導入されたはずなのに、どうして株式投資に関する制度の参考とするのが不思議に思ったものです。そうか! 裏で糸を引いていたのは、瀧さんだったわけですね(笑)。


私も起業するつもりはまったくなかったです。起業家教育で有名なINSEADで学んでいたときも、「世の中には起業する人がいるんだな」と思っていたくらいですから。瀧さんが「貯蓄から投資へ」を進めたいと思われたのは、ご自身の経験からですか?


 いえ、自分自身は、お金がほとんどありませんでした。貯蓄が30万円しかない状態で結婚を決めて、婚約指輪を買ったら残高がほとんどなくなってしまいました。僕はよくライフプランに関して婚姻届はタダで出せるから、結婚は相互意思の問題、と講演で話していますが、実はガチのネタなんですよ(笑)。その後もマネーフォワードがIPO(株式公開)を果たすまで、貯蓄が200万円に達したことがありませんでした。だから、資産運用に関してもっともらしいことを言える状況ではなかったわけです(笑)。


柴山 貯蓄から投資にお金が回らないことを、あくまでマクロの問題としてとらえていたということですね(笑)。拙著『これからの投資の思考法』の中でも「長期・積立・分散」の必要性について強く訴えていますが、ETF(上場投資信託)や投資信託が全金融資産に占める割合は数%にすぎないのが日本の実情です。しかも、その平均保有年数は3年程度にとどまっています。「長期・積立・分散」を実践している人は非常に限られており、米欧とは真逆の状況ですよね。そういった運用が日本で普及してこなかった原因について、瀧さんはどうお考えですか?


 おそらく日本では、今のリタイヤメント世代がまだ悲劇的とは言えない状況で踏みとどまれているからだと思います。米国のライフプランニングのサイトで将来を診断すると、「あなたの老後に必要なお金は月額7800ドル(約85万円)で、そのうちDCがカバーしてくれるのは4800ドル(約52万円)です」などといった数字が提示されてきます。



柴山 一般の人の危機感は大きいわけですね。米国では医療費を自己負担することが前提となっていますからね。


 米国では、資産運用をしないとそれだけのお金を工面できず、できないとトレーラーハウスに住むみたいな話が、ある種現実的なわけです。しかし、まだ日本ではそこまで身につまされていません。そういった悲惨な状況が目に見えるようになってから慌てても手遅れかもしれませんが、社会としてそういった経験の蓄積が足りないから、「老後に備えておかなきゃ!」とあまり思わないのでしょうね。


柴山 公的年金においては、デフレ局面におけるマクロ経済スライド(物価や賃金、労働人口、平均寿命の変動に伴う支給額の調整)が手控えられ、本当なら実施されるべき受給の減額が見送られてきました。言い換えれば、現役世代が受給世代を重い負担で支えていることを意味しています。その結果、今の受給世代はそれほど困っておらず、日本の社会全体にひっ迫感が広がらないのかもしれません。


 本当にそうですね。要は、賦課方式(現役世代の保険料がリタイア世代に充てられる仕組み)に代わる、現実的な社会保障制度を提唱できていないことに問題の本質があります。シンガポールのように(受給額分をみずから積み立てておく)積立方式の年金制度へ移行しない限り、モヤモヤとした状態が続きそうですね。


もう一つ、なけなしの蓄えをリスク資産に回されないことの影響もありそうですね。日本の場合、目を向けられるリスク資産と言えばせいぜい株式でしょうが、30年前の株価水準が記憶に残っている人は手を出しづらいでしょう。


柴山 しかも、2008年のリーマンショックを乗り越えて海外の株価が上昇している中でも、日経平均株価は下がっていましたからね。


人間は自主的に貯蓄できない


 みずからの意思決定で貯蓄をする、というのが身近ではなかったのも、日本の特徴的課題と言えるのではないでしょうか。戦後の経済成長の中での定番は、金融資産の蓄積を考えるというよりは、企業年金や年功序列型賃金という社内貯蓄、貯蓄性の高い保険への加入、住宅ローンの返済を通じた不動産への蓄積。これら3つは、受け身で始める色彩が強く、自己決定による資産蓄積のマインドとは離れた性質のものです。しかし、こうした意思決定でどうにかなってきたというのも実情でしょう。「多くの人間は自主的に貯蓄できない」ことは、家計簿のサービスを展開する中でも、痛感するものです。


柴山 人間は自主的に貯蓄できない。それは、どのようなことから実感するわけですか?



 ユーザーさんとお話ししていても「自動引き落としの積立」など、完全に仕組み化しないと貯蓄できない傾向が顕著だからです。今の20代、30代は、昔と比べて給与も安定していないでしょうし、スマートフォンの通信費といった新たなコストも発生しています。一方で、SNSでは自分が最も派手に注ぎ込んだ消費行動がアップされがちです。そういった環境では、昔と比べて貯蓄に回す余裕も意識も生まれづらいでしょう。


マネーフォワードのような自動家計簿サービスを利用されるお客様は、世の中でもお金に関する学習意欲が高めで、貯蓄意欲も高いのだろうと思います。貯蓄しづらい環境に問題を感じて、手間はかけたくないけど、貯蓄もして家計もきちんと守りたいと考えていらっしゃるわけですから。


柴山 実際のところ、将来に不安を感じて貯蓄を行っている人と、何も手を打っていない人とに、二極化しているのかもしれません。総務省の家計調査によれば、30代の17%、40代の34%が「1000万円以上の蓄えがある」と答えています。1000万円以上を蓄えていても、それを運用に回していないケースが多いことは奇妙です。


 貯蓄していても投資をしない人がまだ大半というわけですね。やはり、複利運用が将来もたらす大きな差をきちんと示してあげるしかなさそうです。


かねて柴山さんは、預貯金と保険だけだったご自分の両親と、株式や投資信託で運用した義理のご両親との資産状況の違いを引き合いに出し、強く訴えかけてきましたよね。これまでの日本では、大企業が終身雇用型の社会保障システムを提供してきました。それに取って代わるのは、世界の資本市場であるべきだと僕は思っています。世界経済の発展に期待を寄せて投資を行い、その成果を享受していくというのが資産運用の本質だと思うのです。だからこそ、「自分の代わりにお金を働かせる」とも表現するわけです。


柴山 ピケティは『21世紀の資本』「r>g」、つまり資本のリターン(r)は経済成長率(g)を上回るということを実証しましたね。「r>g」となる理由は、リスク・プレミアム(リスクを取ることへの見返り)や税制上の優遇です。世界経済が中長期的に成長するなら、投資によるリターンは経済成長率を上回るということを意味しますね。


 ピケティのそのロジックは、全世界の誰もが株式を保有するようになったら数学的には破たんするのでしょう。ただ、世界の資本市場に目を向けるのは至って真っ当なことです。


マネーフォワードを利用してから経済紙を読み始めた!?


柴山 マネーフォワードを利用されるのはどんな方なのでしょうか?


 マネーフォワードでは「お金のEXPO」というイベントを開催していますが、資産運用がテーマなのに若い人がたくさん集まります。カップルで参加されるケースも目立ちます。スポンサーからも驚かれるほどです。


そのような中、“1月効果”で「今年の私は貯められる」と思うだけで実現できなかった人も、マネーフォワードの自動貯金アプリを使えば目標が叶うわけです。「マネーフォワードを始めてから日経新聞を読むようになった」というような声を頂戴できるのも嬉しいことです。だから、僕たちもそういった“併用”の展開を非常に重視していますね。


柴山 ウェルスナビを利用されるのも若い方が多いですね。最近驚かれるのは、女性のご利用者の伸び率が高いことです。瀧さんのお話を聞いていても、資産運用が日本に広がる機運を今、私たちが作っていかなければならないと強く感じました。


今日はありがとうございました!

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