破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
2024年3月14日(木)4時0分 JBpress
業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第4回は、商品を大幅値下げしてももうかるユニークかつ合理的な仕組みと、業務スーパーの「経営の3大原則」を解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(本稿)
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■値上げの相談に値下げ要求
ポテサラの次は、食パンに行きましょうか。業務スーパーの主力商品は自社(グループ)で作っている、という前提をもう一度頭に置いて読んでください。
業務スーパーの人気商品に「天然酵母食パン」という商品があります。09年に神戸物産にグループ入りした麦パン工房(岐阜県瑞穂市)が製造しています。
普通、スーパーで売っている食パンというと5枚切り、6枚切りにスライスされたものが主流ですが、天然酵母食パンはふっくらした食感が売りですから「手で割いて食べること」をオススメしており、1本をそのままパッケージしています。大きさは1.8斤とかなりのものですが、値段は284円(23年10月時点)とリーズナブルです。10年前はさらに安くて1本が198円でした。
グループ入りする前からお話ししましょう。神戸物産に、麦パン工房の工場長さんからせっぱ詰まった様子でコンタクトがありました。同社は地元の小売店向けの菓子パンなどを製造していて、以前から神戸物産とも少量ですが取引がありました。
当社では麦パン工房のつくった一斤の食パンを売っていたのですが、値段が安いだけのパン、という印象で実際お店でもあまり売れていませんでした。
麦パン工房さんは地元では比較的大きな規模だったのですが、「利益率の低い商品を多品種少量生産している」メーカーで、破綻寸前に追い込まれているようでした。
工場長さんに会うと、予想通り「神戸物産にスポンサーになってほしい。そして、うちが開発した新商品のパンを売ってほしい」と言うのです。まずは、味を見ないと話が始まりません。そこで実物を試食しました。味は文句の付けようがないおいしさでした。問題は価格です。
値段を聞くと「298円で売っているが、それだと赤字なので398円にしたい」と工場長さんは言いました。そこで私は逆に「分かりました、198円にしましょう」と提案しました。
どういう答えなんだ! と感じる方もいるでしょう。工場長さんも最初は「無理です」と困惑した様子でしたが、「神戸物産がスポンサーとなるには、これを受け入れてもらうしかありませんよ」と伝えると最終的には理解をしていただけました。
強引だと思われるかもしれません。私は途中をすっ飛ばして結論を言ってしまうよくない癖があるのです。この値下げ提案にも私なりの明確な根拠が2つありました。おそらく、この時の工場長さんはこう思っていたはずです。「パンの値段が安いから赤字になったのだ」と。
私の見立ては逆でした。「パンを値下げすればたちまち黒字化できる」。そう考えていました。
まずは、この時の工場長さんの言い分を検証してみましょう。
そもそも値上げをすれば、工場は黒字になるのでしょうか。高くなれば当然、お客さんが離れる可能性が出てきます。売れなければ工場の稼働率は下がります。
そして、原材料の仕入れ量が減れば、原材料の仕入れコストは上昇します。売り上げ減と原価アップのダブルパンチ、なんて惨事を引き起こす可能性だってありますよね。
結果からいうと、麦パン工房は神戸物産にグループ入りして天然酵母食パンを100円値下げしました。そして、パンは飛ぶように売れ、わずか1カ月で単月黒字を達成したのです。
■品数を絞って量を増やすのがメーカーの基本
私がこの時に考えていた「パンを値下げできると考えた2つの根拠」ですが、1つ目は単純で、原価率から見る限り、値下げの余地があったことです。当時、この食パンの原材料比率は約40%でした。食品工場では原材料比率が65%を超えると利益の確保が厳しくなります。逆に言うと60%までなら、コスト管理を徹底して、販路を確保すれば利益は得られます。
価格が下がれば、お客様も増えるでしょうから薄利多売で成り立ちます。そして、他店の追随を許さないレベルの低価格を達成できれば、単独の商品だけでなくお客様の来店動機にもなり得ます。
2つ目は、生産品を絞り込むことでスケールメリットの追求が可能、と見たことです。
当時、麦パン工房は80種類ものパンを製造していました。そこで神戸物産にグループ入りするにあたって、生産品目を2種類に減らしてもらいました。実は食品の多品種少量生産は大手メーカーでさえ難しいのです。中小食品メーカーならば、いうまでもありません。
私は大手の製パン会社を視察したことがあります。日に何十種類ものパンを作っていて、何度もラインを切り替えて、時には発酵に失敗してトン単位のロスを出していました。
加えて、製造ラインで作る製品を切り替えるたびに、機械の洗浄や材料の入れ替えなどでデッドタイムが生まれます。その時間は製造が止まりますから、もうけはありません。工場は稼働率を上げてなんぼの世界ですから、極めて非効率的です。
生産品目を絞ることには、2つのメリットがあります。まず、ラインの切り替えによるロスタイムがないので生産量を飛躍的に伸ばせます。また、同じ商品を作り続けることは、失敗によるロス発生のリスクを低くします。
商品点数を極限まで絞り込めば、中小メーカーの工場でもスケールメリットが生まれます。生産効率アップと、値下げによる競争力の向上で、販売量が一気に伸びて値下げ分を取り返す利益が楽に生まれた、というわけです。
以上、2つの事例でご理解いただけたと思います。業務スーパーの経営は、まず、工場の生産効率向上を起点にしています。
①品数を減らして、②同じものを作り続け、③付加価値(例えば長い賞味期限など)を創出する。
この3つが大原則だと考えています。これによって、高い価格競争力と、ユニークな商品力が両立でき、それが来店動機につながります。
<連載ラインアップ>
■第1回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(本稿)
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筆者:沼田 昭二,神田 啓晴