70歳に5000円支給で年2000万円…東京・新宿区の「敬老祝い金一部廃止」で私が全国の地方議員に訴えたいこと

2024年3月21日(木)11時15分 プレジデント社

新宿区役所(写真=Asanagi/CC-Zero/Wikimedia Commons)

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■「高齢者偏重政治にNO」と主張したのは私だけ


「高齢者偏重政治にNO! 限りある税金の使い道を現役世代に」。私はこんなキャッチフレーズを掲げ、昨年4月、新宿区議会議員選挙に立候補しました。政治家の親族はおらず、国政政党や宗教団体などの推薦を受けない「完全無所属」という無謀な挑戦でしたが、定員38人中6位となる2633票をいただいて当選しました。


新宿区役所(写真=Asanagi/CC-Zero/Wikimedia Commons

今回の選挙には60人の立候補がありましたが、「高齢者偏重政治にNO」と主張したのは私だけでした。完全無所属で、選挙の3カ月前に突然立候補を決めた私が当選できたのは、過剰な高齢者向け予算を削減し、そのお金を子育て支援や若者支援に回すことを主張したからだと思われます。


「無所属の地方議員にどんな仕事ができるのか」と思われるかもしれません。たった1人でも、やれることはたくさんあります。そのひとつが「敬老祝い金(新宿区の名称はことぶき祝い金)」の廃止です。私が選挙公約に掲げていたもので、区議会での一般質問でも区長に対して廃止を迫りました。その結果、区は2024年度より一部の廃止を決めたのです。これは制度ができて初めてのことで、私の政治活動の成果ではないかと考えています。


写真=本人提供
新宿区議会議員で答弁に立つ渡辺やすし議員 - 写真=本人提供

■70歳、77歳、88歳、96〜99歳の節目に、5000円から3万円


新宿区の敬老祝い金は、1996年にスタートした制度で、70歳、77歳、88歳、96歳から99歳の長寿の節目を迎えた区民に対して、5000円から3万円を支給するものです。2023年度は8317万3000円の予算が計上されていました。


この制度は高齢者の社会保障ではなく、敬老事業として位置づけられています。長寿に限らず、人生には七五三、成人、結婚、出産などさまざまな節目があります。古希や卒寿を迎えて新たに生活に必要な費用が発生することは考えられず、それなのに長寿の節目においてのみ自治体として高齢者に「祝い金」をおくる合理的理由は不明です。当然、敬老祝い金を目標にして長生きしようとする人がいるとは考えられず、長寿に寄与することもありません。


新宿区ウェブサイトにある「ことぶき祝金」の説明文。

さらに、所得制限、資産制限もなく、一律ですべての高齢者に支給されるため、資産の少ない若者から資産の多い高齢者へ再分配が発生し、現役世代と高齢世代の世代間格差が拡大してしまう、という問題もあります。


敬老祝い金は新宿区だけでなく、東京23区全域や全国の多くの自治体で実施されています。ポイントは新宿区だけでなく多くの特別区では、敬老祝い金は名前から受けるイメージとは反対に伝統的に続いてきた慣習ではなく、高齢者への社会保障費が増加し、自治体の財政難が指摘され始めた1998年前後に新たにスタートしたり、規模を拡大したりしているということです。


■政策目的を欠いた「高齢者へのばらまき」だった


戦後一貫して、平均寿命は延び続け、新宿区で制度が始まった1996年の平均寿命は男性77歳、女性83歳で、祝い金支給開始年齢の70歳(古希)は平均寿命を大きく下回っています。過去には長寿をお祝いしていた節目は、制度がスタートしたときから、すでに社会通念にそぐわなくなっていたのです。敬老祝い金は最初から政策目的を欠いた、高齢者へのばらまきであることがよくわかります。高齢者偏重政治の象徴であり、少子高齢化に伴う財政難に多くの自治体が陥る中、一刻も早く見直すべきものです。


新宿区では2024年度の予算案では、敬老祝い金の70歳への支給を廃止するほか、96歳から99歳まで毎年の支給していたのを95歳だけに縮小、年間約2000万円を削減しました。予算案の審議をめぐって、予算特別委員会に参加したすべての区議から反対意見が出ることはありませんでした。それは、高齢者自身も、高齢者偏重政治を望んでいないからです。


私は選挙中、多くの高齢者から「税金は、使って消えるお金ではなく、子育て支援など未来に向かって投資してほしい。応援しています」という声をいただきました。これは新宿区に特有のことではありません。


■「高齢者に忖度しなければ選挙に勝てない」という思い込み


2014年に静岡市が実施した市民意識調査では、「敬老事業の個人に対する贈呈を縮小し、市全体への高齢者施策への充実を検討すること」に対し、70歳以上の高齢者の71.2%が「賛成」「どちらかといえば賛成」であると回答しています。市民全体での賛成率は73.5%だったので、高齢者もそうでない人もほとんど同じ意見であることがわかります。多くの高齢者は限りある税金を先がないバラマキではなくきちんとした目的のために使うべきだと考えているのです。


写真=iStock.com/zepp1969
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zepp1969

高齢者自身も望まない敬老祝い金が、長年続いてきたのは、政治家が「高齢者はバラマキを求めているはず」と思い込み、一方的な忖度(そんたく)があったからです。さらには、高齢者の票がなければ選挙で当選できない(と思っている)からに他なりません。


新宿区にもまだまだ多くの、政策目的を欠いた高齢者偏重予算が残されています。芸能人を呼んで歌謡ショー行う敬老会(約2000万)、60歳以上の高齢者が年間銭湯に無料で48回入浴できるふれあい入浴(約2億4500万)などです。政治家の忖度を打ち破るためには、さまざまな事業継続の前提として、市民意識調査を行うことが必要です。


■一人の無所属議員でも、政治はちゃんと変えられる


新宿区議会議員は38人。一人、新たな政策を掲げる議員が当選したところで、何も変わらない。だから全国的な潮流である高齢者偏重政治を何も変えることはできない。選挙の時からこのような声が私のもとに寄せられました。


ですが、実際に敬老祝い金の廃止を公約に掲げて当選し、議会で区長に廃止を要求すると、1996年の制度スタート以来、初めて敬老祝い金の一部廃止が決まりました。1845億円の一般会計歳出に対し、わずか2000万円ですが、確実な前進です。一人の地方議員が自治体の税金の使い道を抜本的に変えることは不可能かもしれませんが、少しの変化を生むことができます。


日本の大きな政策を決める衆議院選挙では、当選者の多くは選挙区で一人しか当選しない小選挙区で勝ちあがった政治家です。新宿区のような基礎自治体の税金の使い方に対し、強い権限を持つ首長も当然ながら、一つの基礎自治体で一人だけです。そのため、衆議院議員や首長への当選を目指すと、どうしても幅広い有権者に受け入れられる政策を掲げなくてはならず、今までの制度の受益者の多くを敵に回すことが困難です。


しかし、地方議員選挙は、一つの選挙区で複数の候補者が当選する大選挙区制です。そのため、私が掲げた「高齢者偏重政治にNO」のような従来の制度を大きく変える主張でも、一部の有権者に共感を集めれば、当選して議員活動をスタートさせ、実際に社会を変えることができるのです。


■地元自治体の「お金の使い方」に関心を持つこと


人の生涯にわたる税金や社会保障の受益と負担を見る「世代間会計」の格差が日本全体で問題となり、医療費の高齢者負担を1割から3割に引き上げるなどの社会保障改革が一部国会議員から提案されるものの、高齢者偏重政治の厚い壁に跳ね返されているという現状があります。


まずは、新宿区の敬老祝い金の一部廃止のように、「高齢者偏重政治の是正」を掲げる地方議員が一人、また一人と各地で小さな変化を基礎自治体で勝ち取り続けることで、結果として、国全体の高齢者偏重政治を変える大きな潮流が生まれると、私は信じています。


皆様もまずは自分が住む自治体の身近のお金の使い道に関心を持って、自治体を動かしてみてはいかがでしょうか。地方政治では、一人が動けば、案外、身近な税金の使い道は変わります。


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渡辺 やすし(わたなべ・やすし)
新宿区議会議員
​1985年生まれ。早稲田大学法学部を経て、同大学院公共経営研究科修了。産経新聞記者を経て、東京ニュース通信社で編集者として勤務する。2023年、新宿区議会議員に初当選。一人会派「現役世代に優しい新宿」を結成し、幹事長を務める。X(旧Twitter)のアカウント(@nabe_yas1985)で、日々、活動を発信中。
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(新宿区議会議員 渡辺 やすし)

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