やっぱり「日経平均4万円」は"バブル"だったのか…絶好調だった日本株がさえない理由・これから伸びる注目株

2025年3月24日(月)7時15分 プレジデント社

下落幅が1000円を超えた日経平均株価を示すモニター=2025年3月11日午前、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■日経平均が調整相場入り


年明け以降、日本株が低調に推移している。日経平均株価は2月28日に終値ベースで約3カ月ぶりに3万8000円を下回り、そのわずか1週間後の3月7日には3万6000円台へ下落した。その後、日経平均株価は3万7000円台で推移しており、年初来高値(4万83円、1月7日終値)からは6%程度低い水準にとどまっている。


写真=時事通信フォト
下落幅が1000円を超えた日経平均株価を示すモニター=2025年3月11日午前、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

昨年7月に記録した史上最高値(4万2224円、終値)に比べると、現在は約11%の下落幅であり、いわゆる「調整相場」に入ったことになる。一方、日経平均株価と並ぶ代表的な株価指数であるTOPIX(東証株価指数)は、下落トレンドには転じていないものの、昨年夏場から始まった緩やかな上昇傾向が頭打ちとなっている。(図表1)


日経平均株価がTOPIXよりも軟調な理由は、ハイテク株の下落である。ハイテク株には、株価水準が相対的に高い銘柄(値がさ株)が多い。採用銘柄数が相対的に多く、かつ時価総額で加重平均したTOPIXとは異なり、代表的な225銘柄を平均して算出する日経平均株価はハイテク株などの値がさ株の影響を受けやすい。


ハイテク株については、1月に中国の新興企業DeepSeek社が、人工知能(AI)分野で先行する米ハイテク企業に匹敵する性能のAIを低コストで実現したことをきっかけに、AI分野の収益性に対する過度な期待感が剥落し、ハイテク銘柄全般が世界的に下落基調で推移している。ハイテク覇権を争う米国と中国の対立は、1月に発足した第2次トランプ米政権下で一段と激化するとみられることもあり、先行き不透明感は根強い。


■自動車・輸送、電機・精密が比較的軟調


もっとも、日本株の年初来騰落率を業種別にみると、上昇と下落のセクター数が概ね拮抗しており、株式市場が悲観一色というわけではない。特徴的なのは、時価総額が相対的に大きい「自動車・輸送」や「電機・精密」が、比較的軟調に推移している点である。(図表2)


日銀短観(2024年12月調査)によると、日本の大企業の年間売上高(2023年度)に占める輸出額の割合は17%程度だが、製造業に限ると35%が輸出である。なかでも自動車(49%)やはん用・生産用・業務用機械(49%)、電気機械(41%)の輸出割合が高い。


為替レートが円安水準で推移しているにもかかわらず、輸出依存度が高い業種の株価が軟調な背景には、トランプ政権による関税の引き上げ懸念がある。1月20日のトランプ大統領の就任以降、世界中の株式市場参加者は、次々と打ち出されるトランプ関税に身構えている。


2月4日、トランプ政権は中国やカナダ、メキシコからの全輸入品に追加関税を賦課すると発表。10日には鉄鋼・アルミ製品の輸入に対する関税賦課を公表した。さらに、貿易相手国と同水準の関税率に引き上げる「相互関税」(13日に大統領覚書に署名)や、自動車輸入への関税賦課(14日に発表、4月2日頃の賦課を検討)など、トランプ政権による様々な関税措置が2月中に相次いで公表されると、米国株の下落に連動するかたちで、日本株も下落基調を強めた。


3月13日には、トランプ大統領が日本からの自動車輸入の規模に言及、日本が米国製の自動車を受け入れないと批判した。ラトニック米商務長官も14日、日本を自動車関税の計画対象から除外しないとの見解を明らかにした。


写真=iStock.com/Tramino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tramino

■影響力が大きい日本の自動車産業


日本と米国は、第1次トランプ政権下の2019年に日米貿易協定を締結し、米国による自動車への追加関税の回避を確認していたが、2020年に第2段階の協議として、米国は日本の非関税障壁(安全基準、環境規制)を取り上げる予定だった(図表3)。


結局、コロナ禍の発生とトランプ大統領の退陣で協議は行われなかったが、今般のトランプ再選で、棚上げされていた日米自動車協議の第2弾が再開される可能性が出てきた。日本側も、米国の自動車関税(2.5%)の撤廃を目指しており、今後の交渉次第では日本が一方的に不利な状況に追い込まれる事態は回避可能だが、前述の米中ハイテク覇権の行方と同様、先行き不透明感は強い。


日本の自動車産業が他産業および日本経済全体に及ぼす影響は、際立って大きい。内閣府の分析(2022年SNA産業連関表)によると、自動車産業に相当する「輸送用機械」の需要が1単位変化した場合、他産業への波及効果を含めた一国全体の生産の変化は、需要の2.401倍に増幅される。


この生産波及の大きさは全29業種中で最も大きく、業種平均の1.746倍を大幅に上回る。今後、トランプ政権が日本の自動車産業に制裁関税を適用すれば、自動車の輸出減が国全体の生産減少に波及し、日本企業の業績全体に無視できない悪影響を及ぼすとみられる。現在の日本の株式相場は、こうしたトランプ関税の業績下振れリスクを一部先取りする形で推移しているとみられる。


■「トランプで日本株は売り」とは限らない


逆に、今後予想されるトランプ政権の政策を先取りして、積極的に買われている銘柄もありそうだ。例えば、年初来騰落率が2番目に高い「エネルギー資源」である。


トランプ大統領は、バイデン前政権が推進してきた脱炭素路線を転換し、米国内での石油・天然ガスの生産や開発を促進する方針を打ち出している。日本政府もトランプ政権の方針転換に足並みを揃える形で、米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすことで日米首脳が合意した。


さらにトランプ政権は、米北部アラスカのLNG開発事業に対する日本からの投資を要求している。日本企業が同事業にどの程度関与するのかについて現時点では明らかになっていないが、原油・天然ガス市況が軟調な中での資源関連株の上昇は、トランプ政権の政策転換を追い風とした将来のエネルギー需要の拡大を織り込んだ面もあるとみられる。


また、原油・天然ガス供給の増加に伴うエネルギー価格高の是正は、日本経済の回復の追い風になりうる。日本では雇用・所得環境の改善にもかかわらず、エネルギー価格の高騰による消費者心理の悪化が家計の購買意欲を冷え込ませてきた。今後、原油・天然ガス価格が下落すれば、株価の年初来パフォーマンスが冴えなかった小売や食品、サービスなどの消費関連銘柄にも、業績回復期待から買いが広がる可能性がある。


出所=The Alaska Gasline Development Corporation(AGDC)

■インフレと収益拡大の好循環をもたらす可能性


なお、年初来の株価パフォーマンスが際立っている銀行セクターは、デフレからインフレへの転換に伴う「金利の正常化」が、銀行の貸出し利ザヤの改善を通じて収益を押し上げる、として投資家の人気を集めてきた。


政策金利の引き上げ局面では、貸出金利よりも預金金利の引き上げペースが遅れる傾向があり、貸出金利と預金金利の差である利ザヤの拡大が続く。政策金利はインフレ率の基調的な上昇にあわせて引き上げられるため、銀行株はインフレに強い銘柄の代表格と位置付けられる。


そのほか、販売単価がインフレ加速時に上昇しやすい不動産や建設の株式もインフレに強いとされるが、資金調達コストが概ね政策金利で決まる銀行とは異なり、不動産会社や建設会社の調達コストは原材料やエネルギーの価格に大きく左右される。


今後、エネルギー価格が安定するなかでインフレが進行すれば、収益性は改善し、インフレに強い不動産株と建設株の魅力が一段と増すだろう。トランプ政権の石油・天然ガス増産計画は、インフレと収益拡大の好循環をもたらす可能性を秘めている。


■「内需株」が株式相場をけん引できるか


トランプ政権の政策は、これまでも唐突に発動・撤回されてきた。予見可能性の低さは、株式投資のリスクを高める要因であることは間違いない。


ただ総じて言える事は、日本株はトランプ政権の政策動向に大きく左右されており、関税引き上げ懸念が輸出関連銘柄の下落材料となる一方で、石油・天然ガスの増産方針に伴うエネルギー価格の安定化は日本株全般の押し上げ要因となる、ということである。


なかでもインフレに強い銘柄群は、トランプ政策によるプラスの恩恵を受けやすい。銀行や不動産、建設に小売などを加えると、総じて内需株と表現することができる。今後は内需株が日本の株式市場で注目を集めることになるだろう。


問題は、内需株が日本の株式相場全体をけん引することができるのか、である。高い生産波及効果を有する自動車産業とは対照的に、銀行や不動産、小売の生産波及効果は弱く、建設が全業種平均をわずかに上回る程度である。自動車や電機などの輸出関連銘柄が主導する相場上昇局面に比べ、上昇銘柄のすそ野の広がりにやや欠ける相場展開となるかもしれない。


しかし、他業種への波及効果は弱くとも、インフレ下でこそ利益が上振れしやすい業種や銘柄が、株式相場の上昇を主導する展開は起こりうる。


写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■日本株の上振れ余地は十分にある


売上高が恒常的に伸びなかったデフレ下の日本では、人件費や利払い費などの固定費を削減して、売上高の変動に利益が左右されにくい収益構造をもつ企業が、株式市場で評価されてきた。翻って現在は、深刻な人手不足や金利の正常化が続く中、いずれの企業も固定費の増加は避け難い。企業のコスト構造の中で固定費の割合が相対的に高まれば、売上高の変化に対する利益の感応度は高まり、インフレ下を前提とした収益環境では必然的に高い利益率をもたらしうる。


「売上高の変化に対する利益の感応度」は、一般に経営レバレッジと呼ばれ、経常利益(あるいは営業利益)に対する限界利益の比率として導出される。雇用や設備といった、固定費の発生を伴う経営資源を梃子にして高い利益率を実現しうる業種や銘柄は、インフレ下の株式市場で高く評価されることになろう。


財務省「法人企業統計」をもとに、業種の経営レバレッジを算出したところ、製造業では金属製品や石油・石炭、非製造業では電気業、運輸・郵便業、物品賃貸業、建設業が、相対的に高い経営レバレッジを有している(2024年暦年、大企業ベース)(図表4)。これらの業種は売上高の増加局面で利益率が改善しやすい半面、売上高が伸びない局面では赤字に転落するリスクも相対的に高い。高い経営レバレッジはハイリスク・ハイリターンな収益構造といえる。


予見可能性の低いトランプ政権に振り回される株式市場において、リスクの高い銘柄は敬遠されがちである。しかしトランプ政権が日本に及ぼすプラスの側面と、日本のインフレ定着が企業収益に及ぼす影響を踏まえると、今後の日本企業の業績および日本株には上振れ余地が十分にあるように思われる。


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宮嵜 浩(みやざき・ひろし)
伊藤忠総研マクロ経済センター長・主席研究員
1971年生まれ、兵庫県西宮市出身。94年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2001年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1994年、山一証券入社、その後は富士通総研コンサルタント、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)投資調査部研究員、しんきんアセットマネジメント投信チーフエコノミスト、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所シニアエコノミスト、みずほリサーチ&テクノロジーズ主席エコノミストなどを経て、2024年4月から現職。マクロ経済総括、日本経済(企業部門)、貿易動向、株式市場を担当している。
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(伊藤忠総研マクロ経済センター長・主席研究員 宮嵜 浩)

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