ホンダはどこへ?2つのクルマが映す大きな転換期

3月25日(木)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 走りを徹底的に追求したホンダの名車が、またひとつ姿を消す。

 軽スポーツカー「S660」が2022年3月に生産中止となる。専用カスタマイズを施したコンプリートカー「S660 Modulo X」(モデューロエックス)の2021年3月12日発売とあわせて、ホンダが発表した。

 S660は2015年4月に発売され、累計販売台数は約3万台。排気量660㏄という軽自動車規格ながら、走りはホンダ最上級スポーツカー「NSX」に勝るとも劣らない、ホンダのレーシングスピリッツが集約されたスポーツカーだ。


カーボンニュートラルへの対応を迫られる自動車業界

 生産中止の理由についてホンダ広報部に問い合わせたところ、「今後も継続的に販売するため法規制への対応を検討したが、残念ながら生産終了という判断に至った」との回答だった。2022年から順次始まるとされる騒音規制、燃料蒸発ガスの排出規制、安全関連などに関する各種法規制への対応が難しいという理由らしい。

 むろん、こうした法規制に加えて電動化への対応も考慮しての判断であろう。

 ホンダは2020年10月、八郷隆弘社長が2021年シーズンでF1から撤退することを発表した。その理由としては、「2050年カーボンニュートラルを目指すため、ホンダが持つ技術を量産車の電動化などに集約するため」と説明している。

 カーボンニュートラルとは、産業界が排出する二酸化炭素(CO2)の総量が、森林など自然界が吸収するにCO2総量と実質的に相殺されることを指す。つまり温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることである。

 菅義偉首相は2020年10月の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」(2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)を宣言した。それに伴い経済産業省は各省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、2020年12月に公表。自動車については「遅くとも2035年までに軽自動車を含めて100%電動化を目指す」との達成目標を掲げた。さらに、2021年1月の通常国会・施政方針演説で菅首相は「2035年までに」と達成年次を明確に示し、日本におけるクルマの電動化実現に向けた強い意志を示している。

 そうした流れに対して自動車メーカー各社が加盟する業界団体「日本自動車工業会」は、“電動化”とは「ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)燃料電池車など、様々な電動化技術を搭載したクルマ全体への対応策である」という定義を示して、一部に「電動化イコールEV」という偏った報道があることに対して懸念を表明している。

 ホンダとしては、S660について、例えばエンジンを補助するモーターと発電機を備えた、いわゆるマイルドハイブリッドにしたり、エンジンの排気系の改良によって騒音規制をクリアするなど、モデル存続に向けた対応策は考えられたはずである。だが、結果的に生産中止を決めた。

 筆者はこれまで、ホンダ本社や本田技術研究所の社員、エンジニアたちと定常的に意見交換してきた。そうした意見交換を踏まえて、筆者は、今回、S660生産中止を判断した最大の理由は、本田技術研究所のエンジニアたちがS660の開発理念を貫くことが難しくなったからではないかとみている。つまり、今後の開発において自分たちの気持ちをごまかすような真似をしたくないという気持ちが強かったのだろうと推測する。


「レベル3」自動運転を実現した新型レジェンド

 S660が姿を消すことが決まったのと入れ替わるように、ホンダは新しい技術を世の中に送り出した。

 ホンダは上級セダン「レジェンド」に安全運転支援システム「Honda SENSING Elite(ホンダセンシング・エリート)」を搭載した量産車を公開し、日本国内で限定100台のリース販売を開始した。

 ホンダセンシング・エリートの中で注目すべきは「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」だ。高速道路渋滞時など一定の条件下で、システムがドライバーに代わって運転操作を行う機能である。この機能によって新型「レジェンド」は、国交省による「自動運転レベル3」(運転の主体をシステムが担うレベル)の型式認定を取得した。自動運転レベル3の型式認定は世界で初めてである。

 筆者はこれまで、ホンダの自動運転技術開発の進捗状況について、研究開発拠点での技術説明会や、自動運転等の技術開発を話し合う海外の国際会議の場などで取材を進めてきた。それらの取材を振り返ると、ホンダが世界に先駆けて「レベル3」という高度な自動運転の量産技術を確立したことに正直なところ驚きを禁じ得ない。

 この気持ちはホンダ側も同じだったようだ。自動運転の開発責任者は、新型「レジェンド」のオンライン記者発表会で、筆者の質問に対して童話「ウサギとカメ」を引き合いに出し、「一時、ホンダは自動運転技術で出遅れていると言われたが、ホンダの技術開発の哲学とも言える徹底的な安全性の追求を愚直に進めてきたら、結果的にウサギを抜いていた」と表現した。


ホンダはどこに進んでいくのか

 S660やF1と入れ替わるようにして自動運転レベル3の量産車を発売したホンダ。今後、ホンダはどのような道を歩んでいくのだろうか?

 2021年2月19日、ホンダは、ホンダ本社の専務取締役で本田技術研究所社長の三部敏宏(みべ・としひろ)氏が次期社長に就任すると発表した。オンライン会見で記者からの質問に答える三部氏を見ている限り、ホンダは未来に向けて暗中模索しているように筆者には思えた。

 創業者・本田宗一郎氏が掲げた企業理念「技術は人のために」はもちろん今後も継承していくが、どのような技術が人や社会に求められるのか、その需要をホンダがどのように創出していくのか、道筋はまだはっきりとは見えてこない。ホンダで働く人々、そして4輪、2輪、マリン、パワープロダクツなど各種ホンダ製品のユーザーも同じ思いを抱いているのではないだろうか。

 ホンダは今、大きな転換期を迎えている。

筆者:桃田 健史

JBpress

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