「完全非合法」タイのストリップバーに出演した日本人踊り子の思い

3月26日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kwhisky

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日本のストリップには“花電車”と呼ばれる特別な芸がある。だが、いま披露できるのは10人もいない。その芸をタイ・バンコクで披露しようとした現役花電車芸人の挑戦を、ノンフィクション作家・八木澤高明氏が追う——。(第2回/全3回)

※本稿は、八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/Kwhisky
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■芸の説明に厳しい顔をするタイ人ママ


私は別の取材を終えた後、パッポンストリートを歩いてバーへと戻ることにした。時刻は午後10時を回ろうとしていたが、先ほど以上に人があふれている。通りの露店では、偽物のロレックスやルイヴィトンのバッグなどが、堂々と売られている。


バーに戻ってから私がやらなければならないのは、経営者との交渉である。すでに、バンコク在住の友人にこのバーを何度か訪ねてもらい、内諾は得ていた。今日は最終確認をして、明日にはヨーコがバンコクに来る段取りになっていた。


先ほどよりは客が入っていたバーでしばし待っていると、ママだという40代と思しき女性が現れた。彼女に、明日には日本のストリッパーが来て芸を披露するからよろしく頼みます、と告げた。


「問題はありませんが、どんなことをやるんですか?」

「すでに聞いていたと思いますが、女性器から火を噴く芸をやらせてもらいたいです」


すると、なぜかママの表情がにわかに厳しくなった。「ちょっと待ってください」と言うと、携帯電話を片手に店の奥へと消えた。



■「警察沙汰になるとやっかいなので逃げましょう」


数分してママが戻って来ると、「ウチでは無理です」と言い出した。それからは、何を言っても「無理」の一点張りだった。明日にはヨーコも到着する。意外な展開に、正直困惑する。




八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)

「安請け合いをしても、直前になって内容を確認してから急に態度を変えるのは、よくあることです」


この店を紹介してくれた友人が、バンコクでは珍しいことではないと、諭すように言った。


途方に暮れる私に、ママはほかの店を紹介すると言い出した。体良く追っ払いたかったのだろう。その店は、通りを挟んで向かいにある、薄暗いビルの中にあった。


そこで話をしてみると、芸の披露は可能だが、写真は絶対駄目だと言う。それではここまで私が来た意味がない。私はなんとか写真撮影も大丈夫になるように交渉することにした。ところが、交渉をはじめてすぐに店の客である白人と従業員が金の支払いでトラブルとなり、喧嘩がはじまってしまった。店の中は蜂の巣を突ついたような大騒ぎとなってしまい、交渉どころではない。


「警察沙汰になるとやっかいなので、ここは逃げましょう」


友人の忠告に従い、私たちは店を後にすることにした。


■タイではどんな媒体でもストリップを紹介しない


2軒の店で断られ、企画の先行きがまったく見えなくなった。原因は、タイにおけるストリップの現状にもあった。日本でもストリップは非合法扱い(公然わいせつ罪を適用される)であるが、スポーツ新聞や雑誌で取り上げられるなど、黙認、半ば合法のようなものになっている。


一方、タイではストリップに関することは、どんな媒体であっても紹介されることはないという。言ってみれば、完全に非合法なのだ。そのため、経営者やストリッパーも、劇場の存在が公になることを極端に嫌がる。日本では、少なからず芸という空気をストリップはまとっているが、ここ、バンコクでは観光客向けの余興でしかないのだ。



■ヨーコの名刺に初めて笑顔を見せたママ


翌日、ホテルのロビーで日本から到着したばかりのヨーコに、状況が変わってバンコクでステージを行うのは難しくなったことと、新たな案として、バンコク以上にバーが乱立しているパタヤに行ったほうがいいかもしれないと伝えた。すると、ヨーコは動じることもなく言った。


「明日、もう一度最初の店に行ってみましょうよ」


昨日の店の様子だと、いくら彼女が行っても厳しいのではないかと思ったが、私は彼女の言葉に従った。


翌日、私はヨーコとバーへ向かった。心の中は、断られるという思いで占められていた。


店内に入ると、すでに営業ははじまっていて、2組ほどの白人男性がいた。私たちの姿を見かけると、昨日駄目だと言ったママが席へとやって来た。すぐに嫌な顔をされて追い払われるかと思ったら、どうも雰囲気が違う。再び交渉に応じてくれた。実際に芸を行うヨーコの姿を眼の当たりにしたことで、簡単には追い払えなかったのかもしれない。



撮影=八木澤高明
花電車芸を披露するファイヤーヨーコさん。『花電車芸人 色街を彩った女たち』より。 - 撮影=八木澤高明

ママに、彼女が芸を行うヨーコだと伝え、性器から火を噴く芸がやりたいこと、短い時間で終えることなどを伝えた。ヨーコが性器から火を噴いているイラストが入った名刺をママに渡すと、昨日まで無表情だった彼女が初めて笑った。


「私には判断ができないので、社長に電話をします」


■「営業中は駄目だ、スタッフも撮らないでくれ」


ママは店の奥に消えることはなく、私たちの目の前で電話をかけた。すぐに電話が社長に繋がったようだ。何やら説明している。すると今度は電話を私に渡した。この時、私は昨日とは違う空気の変化を感じていた。


電話口から男の声がする。


「あなた方のやりたいことはわかったけれど、営業中は駄目だ。それと、ステージにいるスタッフの写真は絶対に撮っちゃ駄目だよ。店の中の写真は撮ってもいいけど、ステージにいるのはその火を噴く女性だけにしてくれ」


私は店の営業前にやること、バーのステージの様子も撮らないことを約束した。何度か社長が同じことを繰り返し、念押しをした後、今度は直接バーに来て私たちと話す、と言い出した。わざわざ出向いて来るということは、ステージができる可能性は高いと思った。


しばらくして、醤油で煮染めたようなTシャツを着た、風采の上がらない初老の男が現れた。てっきり店の従業員かと思ったら、この店の社長だという。顔つきは中国系だから、間違いなく華人だろう。



■「いくら払えるんだ」と金銭を要求されたが…


社長も、私たちがどんな人間なのか確認したかったのだろう。そして、電話で話したことを改めて繰り返す。しつこいほどに、「営業中は駄目だ、ステージをやっている店の踊り子は撮れない」と言う。私たちが「それでもオッケーだ」と何度も言うと、営業前ならステージをやってもいいとようやく折れた。


一応、ステージは許可された。ほっとするのも束の間、社長は「いくら払えるんだ」と金銭を要求してくる。


当たり前だが、あまりに高額だと、こちらも断念せざるを得ない。このような場合は、こちらから金額の提示をせず、まずは向こう側から金額を言わせたほうが良い。


社長が言った金額はこちらの許容範囲であったが、できることなら値切りたかった。ケチくさい話だが、撒き餌のつもりで友人と私で3回もこの店に通い、少なくない飲み代も落としているのだ。


あまりに値切りすぎて相手の気持ちを害しても良くない。結果、言い値の3分の1の額で交渉が成立した。ステージは開店前の約30分。観客は社長の友人たちや店のストリッパーたち。これでなんとか、ヨーコの芸をバンコクで披露するところまで漕ぎ着けた。


■ヨーコが感心した「技巧派」ストリッパー


ほっとした気持ちでステージを見ると、昨日と同じようにストリッパーが相も変わらず、ピンポン玉を性器から飛ばしていた。その芸を目にしたヨーコが「すごい」と言った。私には言葉の意味がわからなかった。


「ヨーコさん。どこにすごさがあるんですか?」


「私にピンポン芸をやれと言われても無理ですよ。彼女の芸はピンポン玉をひとつずつ飛ばすために、ひとつ飛ばしたらすぐに性器を閉めなければいけない。私の芸と違い、技巧派なんです」


寒々としていたバーの光景が、ヨーコの説得力ある解説ひとつで、違ったものに見えてきた。だが、ヨーコがすごいと認める芸を行っているストリッパーは、バーの客に請われれば、体を売ることもしなければならない。彼女の芸は、体を売ることを前提としたものであり、日本のように芸として認められているわけではない。売春なくしては、存在しえないのだ。そこに哀しさを感じずにはいられなかった。(続く)



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八木澤 高明(やぎさわ・たかあき)

ノンフィクション作家

1972年、神奈川県横浜市生まれ。写真週刊誌「フライデー」専属カメラマンを経て、2004年よりフリーランス。01年から12年まで取材した『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』が第19回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。15年以上にわたり、日本各地の夜の街と女たち、世界の戦場で生きる娼婦たちを取材してきた。著書に『娼婦たちから見た日本 黄金町、渡鹿野島、沖縄、秋葉原、タイ、チリ』(角川文庫)、『ストリップの帝王』(KADOKAWA)などがある。

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(ノンフィクション作家 八木澤 高明)

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