女性社員が新しい洋服を着ていたら…同じ「かわいいね」でも好感度を上げる上司とセクハラ認定される上司の違い

2025年3月26日(水)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

ハラスメントで気を付けるべきことはなにか。公認心理師で産業カウンセラーの大野萌子さんは「例えば女性が新しい洋服やアクサリーを付けていて『似合ってるね』『かわいい』と言うのはハラスメントに当たらない。たいてい問題になるのは、その後の言動だ」という——。

※本稿は、大野萌子『Z世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/kokouu
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■権利ばかりを主張してくる困った部下


上司の多くは中間管理職の人も多くいらっしゃるでしょう。会社の上層部と部下たちとの板挟みにあったり、自分が若い頃はさんざん我慢と苦労を重ねてきたのに、(最近の若手社員は自由でいいなあ)などと思われたりすることはあるかもしれません。


上司のギモン①


権利ばかりを主張してきます。有給休暇や各種休暇は社員に与えられた権利ですから、行使するのはいいのですが、抑制的であってほしいと思うのは間違っているでしょうか。注意できないことなので困っています。


休みの希望など、当然の権利といわれているものが、どこまで本当の権利なのかとお困りになることもあるでしょう。


誰にも権利はあるでしょうが、基本的に権利を主張するためには、責務を全うしなければならない、というのがセットですから、与えられた仕事をきちんとやっていないのに、権利だけを主張するという場合は毅然と対応して問題ありません。


また、職種や業務によって、社員に休んでほしくない繁忙期があるでしょう。そんな時期に休み希望が出たとしたら、もちろん希望の理由にもよるでしょうが、「業務優先で、他の時期に休み希望を変更してくれないか」と話してみましょう。


■9時ギリギリに来る若手にどう伝えるべきか


そして、もちろん権利は権利であるものの、それは「仕事の責務と表裏一体としてあるものなんだよ」ときちんと説明することです。


そうしたときに日頃の信頼関係がカギになるかもしれません。


中にはそれでも引かず、「どうしてですか?」と屁理屈を言って食い下がってくる場合もあるでしょう。


休みの問題だけでなく、始業時間などに関しても同じです。たとえば9時始業なのに、いつもギリギリに来る。それでは困ると指摘すると、「ちゃんと9時には来ています。社屋の玄関にいます。それのどこが悪いんですか?」と言い返してきたりします。


そこで「9時に仕事ができるように席についているのは常識だろう」とか、「社会人なんだからとにかく早く来い!」というような言い方をしてしまったら、「ハラスメントだ!」と言われてしまう。屁理屈が返ってきたら、それには理路整然と理屈で返すことが必要です。


「9時に仕事をスタートできる状態で、自分の机に座っていることが始業とみなします」


……と知らしめ、もちろん事前に具体的な擦り合わせをしておくことも大切です。社屋にいたとか、タイムカードを押した時間ではないことをはっきり伝えるのです。


何分前に来いとは言わないけれど、5分で支度できるんだったら5分前でけっこう、だけど9時には席についていなければいけないと。


■屁理屈に対しては具体的なルールで


屁理屈を言う社員には、何をどこまで、どういうふうにしてほしいのかということをきっちり詰める必要があって、そこまでしないと注意になりません。


たとえそこでイラッとしても、けっして感情的にならず、「うちではこうしてほしい」と、かみ砕いてスモールステップで教えましょう。


休みの連絡も、会社ごとにどういう手順が必要なのかが決められていると思いますが、近年では、メールや社内LINEでポーンと送ってきて、その後連絡がつかなくなることもあるようです。問い詰めると、「だって、休むって言いましたよね」と悪びれもせずに言ってきたりします。


急に欠勤をしてしまうと、その日に予定していた仕事や担当している仕事に関して、取引先などから問い合わせが来るかもしれないし、不在の間に発生することの申し送りだったり、連絡事項の共有も必要なのに、あっさり連絡がつかなくなってしまったりします。


仕事の連絡なら、「返信があるまでは伝わったと思わないように」と事前に言葉で伝えておくことも大事です。Z世代に限らず、若手であっても驚くほど意識の高い社員もいれば、耳を疑うような言い訳や屁理屈を平気で並べる社員もいます。


上司世代には頭の痛いことかもしれませんが、現場で混乱することのないように、そして、ちゃんと出社してルールを守っている社員に不平等とならないようにする必要があります。


それがないと、物事が起こるたびに右往左往してしまいます。だからといって、あまりがんじがらめになると息苦しくなってしまいますから、ある程度の線引きは必要ですが、大切なのは過去にこういうことがあったとか、こういうことがありそうだということを盛り込んだマニュアルなり、社内規定を整備することです。


■ハラスメントが怖くて部下と話せない


パワハラ、セクハラ、モラハラなど、さまざまな状況でのハラスメントが取り沙汰されています。行為者にはそんなつもりがなくても、被害者がそう感じたら、ハラスメントが成立してしまうことを考えると、怖くて部下と話もできなくなったという声も聞かれます。


上司のギモン②


ハラスメント対策が広がるほど、異性の部下に外見やプライベートのことを話題にもしてはいけないのではないか、部下に強制だととられないように言わなければとか、怖くて部下と話せなくなってしまいました。業務のこともなんとなく話しづらくなってしまい、不安です。


パワハラ防止を義務づける法律が成立したのは2019年5月のことです。22年4月からは防止措置が全企業に義務化されました。


ハラスメント自体は当然許されるものではありません。被害に遭ったら、「止めてください」と意思を伝えることや、会社が整備した相談窓口に相談することが提唱されています。


私はこれまでさまざまな企業でハラスメント研修の講師をしてきましたが、パワハラひとつとっても、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、3つの要素をすべて満たすものをいう、というような定義があります。(出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました』)


■むしろフランクに関わったほうがいい


もちろんハラスメント対策には、「何を言ってはいけない」、「これをやってはいけない」と、禁止事項がとても多くあります。


でも、会社や上司も言ってはいけないことを意識しすぎて、疑問を挙げてくださった方のようにむしろ萎縮してしまい、業務に差し支えるように思える場合もあるほどです。


研修のやり方はいろいろありますが、最近私が担当している研修では、部下と関わらないのではなくて、むしろ「もっとフランクに関わることで関係性を作っていきましょう」という対策を教えるようにしています。


結局のところ、日頃から信頼関係ができているかが重要なのです。それができていないと、ちょっとしたことから過剰に反応して収まらなくなってしまうことが多いのです。ですから、まず関係性づくりをすることが、有効な対策になります。


具体的に言うと、「神経質になりすぎない」ことが大事です。気にしすぎてがんじがらめになっていたところを少しゆるめて寛容になること。そして関係を一方通行にしないことです。


通常、上司から部下への指導や注意は、「上から下へ」行くものです。業務を行う上で必要なものですから、むしろ毅然として行う必要がありますが、そうはいっても一方通行になってしまうとハラスメントだと言われかねません。


伝えるべきことは伝えながら、相手の話もしっかり聞き、受容する、受け止める。そうした姿勢で交流することが何よりの予防策になります。


写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■「4H」が職場のコミュニケーションを悪化させる


大切なのが、私は「4H」と呼んでいるのですが、すべてHで始まる言葉で「比較、否定、非難、批判」の4つに注意することです。


〈4Hの具体例〉
比較「○○さんはできたのに」と比べること。
否定「それじゃ全然ダメ!」と否定されること。
非難「あなたが悪いよね。どうしてできないの」とミスや欠点を責めること。
批判「いつもそうだよね。非常識じゃない?」と評価して、判定をくだすこと。

日常会話や部下から報告・連絡・相談を受けるときでも、これを避けることでハラスメント対策になります。


しかし実際には、「パワハラなんて言われちゃったら困るよなー」などと茶化しながら、無自覚にハラスメントの行為者になる場合もあれば、威圧的な態度を変えず、よそはよそ、という態度を変えない人もいます。職を失いたくなかったりとか、プロジェクトから外されたくなかったり、そこに力関係が存在するので、された側も黙認していたりします。


悪質なのはハラスメント対策の義務化を逆手にとって、「それってパワハラじゃないですか?」と脅すように「逆ハラスメント」をする人もいます。


そうした芽をいかにつんでいくか、それを管理する側がしっかり知識を備えているかが重要です。


■ハラスメントを怖がる必要はない


最近では、さまざまな誤解を解き、正しい知識をお伝えするために「そんなことはハラスメントではありません」という研修もあえて行っています。


プライベートの話は厳禁ではありませんし、「言わない」「言えない」ことでハラスメントに発展しますから、双方できちんと話すことが必要です。そうすると上司世代からは、「これは問題なかったのか」「もっと話してみよう」という声が上がったりもします。


また部下のほうは、言えないまま我慢して爆発してしまったり、全部放り出してしまって退職に至る、という事態につながったりします。


そこで必要なのはやはり「話すこと」で、自分の考えを適切に伝える能力とされる「アサーション」のスキルを身につけることをお伝えしています。アサーションとは、自分も相手も同時に大切にするコミュニケーションスキルのことであるのは、ご存じのことと思います。


日本人は言わないことを美徳だと思いがちですが、不満なり言うべきことはきちんと言葉にして伝えるのがよく、「察してほしい」「わかるだろう」と安易に期待しないこと、そして話すときには感情的になりすぎないことが必要です。


■「褒め言葉」と「踏み込みすぎ」をわきまえる


また、上司世代からは「服装や外見を会話のきっかけとしてもいいものでしょうか」ということをよく聞かれますが、それを話題にしても問題ありません。


セクハラを拡大解釈し、敏感になりすぎる風潮もありますが、「髪、切ったんだ」「似合ってるね」などの会話がすべてアウトということはありません。


これまでのハラスメント教育では、「○○はダメ」「○○してはいけない」と言い過ぎて、それが行動制限のようになって、それを言ったらアウトと縛り付けるようなところがありました。業務の話と天気の話しかできないことになって、雑談もできなくなるのは職場としてどうなのかと思うほどです。


実際のところ、雑談のできない職場はトラブルが起こりやすくなります。


ハラスメント研修も当たり前になり、いろいろな教え方があるようですが、受けた方の話を聞くと部下から声をかけられたときの動作や言葉まで厳密に「こうしましょう」と規定している場合もあったりして、あまりに極端なことはさらに首を絞めてしまうことになりかねません。


先ほど、外見を話題にしてもかまわないと述べましたが、「似合ってるね」「かわいいね」は褒め言葉ですし、発言自体は問題ありませんが、セクハラになるのは多くの場合、踏み込みすぎるからです。


■「今日デートなの?」と聞くから嫌われる


たとえば女性が新しい洋服やアクサリーなどをほめられて、「昨日買ったんですよ」などと返答するならほほえましい話ですみますが、重ねて「どこで買ったの?」とか、「今日デートなの?」みたいな聞き方になると、それは踏み込みすぎの可能性がありますし、やはりちょっと失礼ですよね。


男性に対しても、「そのネクタイ素敵ですね」ならほめ言葉の範疇ですし、言われたらうれしく感じるでしょう。でも「昨日と同じじゃない?」「家に帰ってないの?」みたいな話になると、ハラスメントだと受け止められかねません。


ですから服装や外見を話題にすること自体はまったく問題ありませんし、人間関係を作るためには、対面の機会で会話を重ねることで「単純接触効果」といって親近感が高まり、好意にもつながっていきます。


■「見てほしい」と内心思っている場合もある


とある会社のカウンセリングルームに、新入社員の1人が「新しいスーツを新調したんだ」とうれしそうに見せに来てくれたことがあります。


話を聞くと、「職場では誰もほめてくれなかったから」と言うのです。



大野萌子『Z世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)

「みんなは気づかなかったんじゃなくて、言うタイミングがなかったのかもしれないね」みたいな話をしましたが、当人としては社会人らしくスーツを新調して、一言でもいいから「素敵だね」「がんばってるね」と言ってほしかったと残念な気持ちだったようです。


ハラスメントに発展することを恐れすぎて、人間らしい関わりを持たなくなってしまっているのは本末転倒です。威圧的な言動や人格をふみにじるのがダメなのは人として当然のことですが、間違った認識で、交流の機会を逃したり、心の窓を閉ざしてしまうことなく、豊かな関わりを持つことが、働きやすい職場にもつながるでしょう。


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大野 萌子(おおの・もえこ)
公認心理師、2級キャリアコンサルティング技能士
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー。法政大学卒。企業内カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで講演・研修を行う。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)、『好かれる人の神対応 嫌われる人の塩対応』(幻冬舎)『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)、『電話恐怖症』(朝日新書)などがある。
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(公認心理師、2級キャリアコンサルティング技能士 大野 萌子)

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