だから窓を閉め切っても鼻水が止まらない…薬、マスク、メガネでは足りない「花粉症を悪化させないマナー」

2025年3月26日(水)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

花粉が猛威を振るっている。さまざまな薬があるが、症状を緩和させる方法はあるのか。医師の木村知さんは「最近花粉症になった人は、市販薬のCMに惑わされないでほしい。花粉症を根治するのは困難だが、悪化させない方法はある」という——。
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■市販薬も処方薬も成分は同じだが…


花粉が猛威をふるっている。外来にも、くしゃみ・鼻水・鼻づまり、目のかゆみといったつらい症状を主訴に、連日患者さんが訪れる。彼らの受診理由は、もちろん薬。これらの症状を抑えるための抗アレルギー剤の処方を希望しての受診である。


近年では、これらの抗アレルギー剤は対面販売を意味するOTC(Over The Counter)医薬品として、医師の処方箋がなくとも街のドラッグストアで購入することができるようになっていることをご存じの方もいるだろう。アレグラやクラリチン、アレジオンといった商品名をテレビCMで聞いたことがある人もいるだろうが、これらは、医療機関で処方されるものと成分は同じだ。


だがそれでも少なくない人たちが医療機関での処方を希望するのは、やはり金額の問題だろう。アレルゲンとなっている花粉の種類にもよるが、スギ花粉だけにしか反応しない人であっても2〜3カ月は症状に悩まされるから、薬剤費もバカにできない。


たとえばアレグラの場合、ドラッグストアで56錠(1カ月分)を購入すると約3850円だが、医療機関にてジェネリックで処方されれば、それが3分の1程度に抑えられることになる(別途診察料などはかかる)。


■ドラッグストアと病院の違いは何か


ドラッグストアで購入するのと、医療機関で処方される場合の違いは費用だけではない。医療機関で処方されるすべての抗アレルギー剤がOTCとなっているわけではないので、当然ながら薬剤の選択肢の幅は異なる。また薬剤の効果や副作用にかんする説明や、花粉症対策のコツについては、ドラッグストアでは十分にされるとはかぎらないし、アレルゲンの検索や薬の効果が不十分な場合の相談は、医療機関でしかおこなえない。


もちろん花粉症歴何十年というベテランで、毎年同じ薬を使ってさえいれば問題ないという人であれば、今さらアドバイスなど必要なかろう。対処法にも自分なりの流儀があって、余計なコツの伝授など不要、薬だけ手に入れられればよいと言うかもしれない。薬だけのために、わざわざ医療機関に行って待たされ、聞きたくもないアドバイスを聞いて時間を浪費するくらいなら、多少高くても、買いたいときに買えるドラッグストアのほうがいいという人もいるだろう。


だが、まだそういった花粉症のベテランではない人のなかで「薬を飲んでいるにもかかわらず症状がまったくコントロールできない」と悩んでいる人はいないだろうか。私は、昨今の花粉症の季節に流れるOTC医薬品のテレビCMを目にするたびに、そのような人たちの増加を懸念してしまうのである。


■CMは視聴者を誤解させる表現だらけ


今年1月の記事〈病院でもらう咳止め薬よりも断然効果が高い…医師の間では常識「ひどい咳がラクになるスーパーで買える食材」〉にも書いたが、市販の医薬品のテレビCMは、その商品の効能・効果を強調するあまり、視聴者をミスリーディングしかねない表現であふれている。総合感冒薬にはカゼを治す効果などまったくないのに、繰り返し“早く飲めば早く治せる”かのようなCMを見せられ続けていると、勘違いしてしまう人も出てきてしまうのだ。


花粉症の季節到来とともに流されはじめた抗アレルギー剤のCMも同様、視聴者の誤解を招きかねない表現・構成となっているから、花粉症デビュー間もない“初級者”の人こそ十分に注意が必要だ。なぜならこれらのCMでは、薬を飲みさえすれば一発で花粉に打ち勝てるかのような表現・構成が採用されているからである。それも、異なる製薬会社が皆、面白いくらいに横並びだ。


吉高由里子もマスクなしで花粉と戦う?


まずアレグラFX(久光製薬)のCM。これには人気お笑い芸人のチョコレートプラネットのおふたりと、俳優の吉高由里子さんが出演している。鼻をすする吉高さんの目の前に、朝と夕に現れるチョコプラ扮する「アレグラ兄弟」。彼らが手を振り動かすと吉高さんの症状は消えるらしい。そして「朝夕しっかり。対策ね」との言葉でCMは終わる。「対策」という言葉が使われているが、吉高さんは街なかでノーマスクであるにもかかわらず、症状から解放されたような笑顔になる。


つぎにクラリチンEX(大正製薬)のCMを見てみよう。これには櫻井翔さんが「日本の花粉をなんとかしたい……」という思いで日々研究を続ける花粉研究所の研究員役で出演。櫻井さんが商品を掲げると、人々がつけているフルフェイスマスクも花粉もものすごい風圧で吹き飛んでいってしまうという構成だ。CMの最後のカットでは、人々が吹きつける強風をノーマスクの笑顔で正面から受け止める映像が流される。


■マスクなしで深呼吸までさせるなんて…


そしてアレジオン(エスエス製薬)。これには俳優の伊藤沙莉さんが出演。鼻水をすすりつつ翌日の旅行を心配しながら夜に服薬。すると翌朝にはすっかり症状が消え、「春を楽しめるっていいわー」と屋外でも花粉に悩まされずに旅行を満喫できるという構成だ。伊藤さんには屋外でマスクを着けさせないだけでなく、ご丁寧にも満開の桜の下で、鼻腔から胸いっぱいの深呼吸までさせている。


さて、これでもう皆さんは私が何を言いたいのかおわかりだろう。これらのCMには、自社製品の効能・効果を強調すべく、あたかも薬さえ飲めばノーマスクでも花粉症状に悩まされずに生活できると視聴者に思わせかねない表現・構成が採用されているのである。


もっともこの私の指摘は、花粉症のベテランからすれば「CMでわざわざ言われなくとも花粉症にマスク必須は常識」、「演出にいちいち目くじらを立てるなんてくだらない」と、取るに足らないものかもしれない。せっかく起用した有名俳優の顔の下半分をマスクで隠してしまうなど、広告業界の常識からいってもあり得ないという意見もあるだろう。


■コロナより断然大きい「花粉の粒子」をガードする


だがひと言、「花粉症対策は薬だけでなく、マスクの適切な使用をはじめとした花粉を体内に取り込まない工夫も重要」といった文言を、出演している俳優に言わせてもいいのではなかろうか。むしろそういった対策を視聴者に講じてもらったほうが、より症状を緩和させ、薬の恩恵を感じてもらうことにもつながるのではなかろうか。


こうした抗アレルギー剤以外の花粉対策については、すでに多くのサイトや動画チャンネルから発信されているから、この場であらためて私が言うことでもない。しかし外来診療をやっているなかで「薬を飲んでもなかなか症状が改善しない」という人に、よくよく話をきいてみると、花粉を取り込まない対策を徹底していない人が少なくないことに気づくのだ。


写真=iStock.com/Charday Penn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Charday Penn

たとえばマスク。着用してはいるものの、プリーツ型のマスクで顔に密着しておらず、隙間から花粉が侵入していることが明白に疑われる人。もちろん花粉の粒子は、インフルエンザや新型コロナウイルスとは比較にならないほど大きいから、まったく着けないよりも一定の効果は期待できようが、より顔面に密着するタイプのマスクのほうが、さらに取り込む量を半減させることが知られている。


■伊達メガネでも目のかゆみは4割減る


症状をより楽にすることを目的に、少しでも花粉を体内に取り込まないことを徹底するならウイルス対策と同等の意識でマスクを着けたほうがいいだろう。(もっとも、プリーツ型マスクをゆるゆるに着けている人は、おそらくコロナ禍で着けていたマスクもほぼ無意味であったに違いない)


目のかゆみに悩まされている人は、結膜に花粉が付着しないよう細心の注意を払うべきだ。ゴーグル型のものはたしかにおしゃれとは言えないが、裸眼でいるよりも6割以上、結膜上の花粉量を低減させうる。見た目が気になるなら、伊達メガネでもしないよりはマシだ。4割ほどは減らせるという。


そして意外と盲点なのは、屋外で着用したマスクの扱いだ。マスクの外表には花粉が付着していると思わねばならない。屋内に入っても取り替えずに着けたままだったり、外す際に外表を触り、その手で目をこすったりなどすれば、花粉から逃れたはずの屋内でもアレルギー症状が出るだろう。


■部屋に入ったらアウターから花粉を落とそう


さらに服装。まだ寒い日も多かったからか、外来に訪れる花粉症の患者さんのなかには、むくむくに起毛加工がほどこされたセーターや首周りにファーがついたコートを着てくる人が、案外いる。こういったアウターの着用は、「花粉をわざわざ引き寄せ身にまとっている」との認識が必要だ。


写真=iStock.com/blackred
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/blackred

衣類同様、髪の毛にも花粉はまとわりついていると思わねばならない。これも案外、見落とされがちだ。花粉の付着がしにくい素材の帽子をかぶったり、長い髪の毛はまとめたり、室内に入る前に払い落したりといった基本的な対策はもちろんのこと、帰宅して洗髪する前にソファやベッドに寝転ぶのもNGだ。自分自身が自宅で気をつけるだけでなく、友人宅に遊びに行った際にも配慮したい“花粉症シーズンのマナー”といってもいいだろう。


■「薬が効かない」と嘆く前に見直すべきこと


おそらく、もっとさまざまなノウハウをお持ちの方は大勢おられるに違いない。だが「薬を飲んでもまったく効かない」と思うまえに、今一度、自分のおこなっているセルフケアを見直してみることが大切だ。それで症状が緩和できれば、それこそムダに医療機関に行かずともすむはずだからだ。


政府は医療費抑制のため、OTC医薬品を拡充しセルフメディケーションをはじめとした自己責任社会をわが国に構築していきたいようだが、製薬会社や広告会社がセルフケアを無視したあまりにも現実ばなれしたCMを流しつづけていれば、「市販薬を飲んでもまったく効かない」という人たちを増やし、彼らを再び医療機関に誘導し、政府肝いりのセルフメディケーション政策自体が、むざんな失敗に導かれることになるだろう。


----------
木村 知(きむら・とも)
医師
1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
----------


(医師 木村 知)

プレジデント社

「花粉」をもっと詳しく

「花粉」のニュース

「花粉」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ