稼ぐ企業が意外に持っている「御用聞き」の資質

3月27日(金)6時0分 JBpress

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(篠原 信:農業研究者)

 突然ですが、ドリンクや製菓材料として使われるココアパウダーの輸出額世界一の国はどこでしょうか。

「ガーナチョコレート」というくらいだから、アフリカのどこかかな。インドネシアもかなりカカオ豆を生産していると聞いたことがあるぞ、と考える方もいらっしゃるかもしれません。

 答えは、オランダ。意外に思われる方も多いでしょう。なにせ、オランダは寒すぎてカカオの木が育たないのですから。興味深いことに、オランダは世界最大のカカオ豆の輸入国でもあります。

 チョコレートで有名なベルギーのメーカーも、アフリカの生産者と直接取引するのではなく、オランダで原材料を買い求めます。アフリカの生産者も、ヨーロッパに営業に行って顧客を探せば中間マージンを取られずに済みそうなのに、そうはしません。


貿易国オランダが得意な「御用聞きビジネス」

 オランダは、世界一の花の輸出国として有名です。これはなんとなく分かる気がします。オランダといえばチューリップのイメージがありますから。しかし狭いオランダ国内で生産する花だけでは、とても世界一の輸出国になれません。実はオランダは、世界で一、二を争う花の輸入国でもあります。例えば、アフリカのケニアで生産されるバラの51.9%がオランダ向けです(2017年、金額ベース)。

 なぜケニアの花卉生産者は、パリやローマなどに営業に行き、直接売り込まないのでしょう?

 これは、オランダ企業が「御用聞き」に徹しているからだと思われます。「簡単に溶けないハードなチョコレートを作りたい」という顧客の要望を聞いたら、それに適した品質のカカオを世界の産地から調達する。逆に口どけのよいチョコレートが欲しいメーカーには、口どけのよいカカオを。豪華な花がほしいという顧客にはそれを、可憐な花を求めている顧客にはその花を。

 オランダ企業が「御用聞き」として情報とモノのハブになっているので、アフリカの生産者はオランダに輸出さえすれば、顧客の開拓にかかるコストを負担せずにカカオ豆を売りさばくことができます。逆にチョコレートのメーカーは、オランダの市場で自分の望む品質と量のカカオを入手することができます。オランダにある世界最大の花卉市場、アールスメールにも同じことが言えます。


スマイルカーブに商機あり——鴻海

「御用聞き」に徹し電機業界で世界的メーカーに成長した企業があります。鴻海(ホンハイ)です。日本指折りの大企業、シャープを買収したことで私たちの耳目を驚かせたのは、記憶に新しいところです。

 鴻海が成長するきっかけとなったのは、まさに「御用聞き」といえるものでした。

 パソコンやスマホの製造では「スマイルカーブ」という言葉が知られています。バリューチェーンの真ん中に位置する製造と組立の付加価値が最も小さく、両端の研究・企画開発と販売が最も大きくなります。これをグラフにするとその曲線が笑っている口の形に見えることからスマイルカーブと名付けられています。

 工程の最上流に位置する企画・開発や、消費者に販売する営業部門(下流)は、比較的少ない人間でコスト負担も小さく、収益を上げやすいのですが、その中流に位置するパソコンやスマホの製造組立て部門は、たくさんの人を雇用し、設備投資も大きなものになります。景気が傾き不採算部門として整理したくても、作業員の解雇はたやすくはできません。工場を新設するのも巨額の投資となり、リスクを伴います。


御用聞きに徹して世界最大手EMS企業へ

 そこで鴻海が、収益を圧迫する製造部門を受託する製造受託(EMS)の「御用聞き」を始めたところ、組立てに要する雇用も設備投資もせずに済む!と世界中のメーカーが、鴻海に組み立てを依頼するようになりました。

 すると不思議なことに、儲からないはずの組立ての工程で、鴻海は儲けを出すことに成功しました。世界中のメーカーから組立てを受注し、部品を大量に購入することで価格交渉力がつき、部品を安く調達できるようになったためです。

 組立ての工程に関しては抜群の価格競争力を誇るようになり、電機メーカーは自社組立て製品については競争力を保てなくなりました。ますます、組立てに関しては鴻海に依存せざるを得なくなりました。


御用聞きに集まるヒト・情報・カネ——グーグル

「御用聞き」で世界を制覇した大企業といえば、グーグルもそのひとつです。グーグルが登場する前は、ネット検索といえばヤフーが担っていました。

 しかし当時のヤフーは、サイトをカテゴリー別に整理しており、カテゴリーの階層を掘り下げても望みのサイトを見つけにくいものでした。検索も可能でしたが、一文字でも違っていれば検索結果には表示されません。「売り上げ」が「売上」になっていたらもう検索結果に出ない、というように。

 隔靴掻痒、まさに靴の上からかゆいところをかいてもかゆみが取れないように、利用者にはじれったい面がありました。

 ここで、グーグルが登場。いくつかのキーワードで検索すれば望みのサイトを発見することが容易になりました。しかも、グーグルは似たような意味の言葉を含むサイトも検索結果として表示する、まさに「かゆいところに手が届く」サービスでした。

 こうして、インターネット上の情報にアクセスするには、まず「ググる(グーグル検索する)」ことが一般的になりました。利用者が爆発的に増えると、企業が注目します。そこに広告を出せば、人の目に触れる機会が多くなるわけですから。サービスを改良・拡充し続け、グーグルは広告料収入で莫大な収益を上げるようになり、4大IT企業「GAFA」の一角を占めるまで成長しました。


「無料で不便を解決」して月間5400万人が利用——クックパッド

「御用聞き」で成功した日本企業もあります。クックパッドです。クックパッド以前にも、料理本が巷に溢れていましたし、インターネット上にレシピを公開している人はたくさんいましたから、「ググれ」ばそうした情報にアクセスできました。

 しかし、料理本は執筆者の料理しか載っていません。インターネット上に分散する料理のレシピは、様式もバラバラ、写真もあったりなかったり。いまひとつ、情報を網羅的に手軽に調べるというのには不便でした。


人と情報が集まる結節点はビジネスを生む

 クックパッドは、「ありとあらゆるレシピを手軽に調べたい」という利用者の「御用聞き」に徹しました。その結果毎月5400万人*が日々の食卓づくりに利用するサイトになりました。「なす」で検索するだけで、10万件近いレシピを一覧できます。「手軽」「簡単」といったキーワードを加えることで、より目的に合致したレシピを呼び出すこともできます。

「つくレポ」という、レシピを参考にして自分も作ってみた人のレビュー欄も設け、そのレシピを検証できるようにもなっています。レシピの様式が揃っているし、写真もあるので比較もしやすい。利用者にとても便利なサイトになっています。

*クックパッド媒体資料より

 膨大な利用者が集まる「結節点」になることで、多くの食品メーカーが広告を出したり、クックパッドと共同で企画をしたりするようになりました。人が集まるところには企業も集まる。クックパッドは、レシピを簡単に調べたい利用者の「御用聞き」に徹することで、結節点を創出することに成功しました。


御用聞きから見つけるビジネスのヒント

 結節点を握るには、ある法則があります。「誰も見向きもしないことに着目する」ということです。ニーズはあるが収益性に疑問があるという分野で、一所懸命に御用聞きとなることです。

 この商品をどう売るか、という売り手の悩み。どこに相談したらよいのだろう、という買い手の悩み。もうちょっと手軽に調べることはできないだろうか、という消費者の悩み。こうした悩みに応える御用聞き。

 グーグルが登場した頃「検索システムは優秀で便利だけれど、どうやって儲けを出す気だろう?」と不思議に思った人は多いのではないでしょうか。グーグルに限らず、本文で紹介した事例はどれも、そのサービスが登場する前は「あれば便利だけれど、それでどうやって儲けを出すの?」と不思議がられるようなものだったように思われてなりません。


結節点には人も情報もカネも集まる

 しかし、御用聞きに徹してサービスに改良を加え、多くの人の役に立つようになると、自然と「結節点」になれます。そうなれば、自然とビジネスとして成立するようになる、ということを、これらの事例は示しています。これも立派なイノベーションです。

 誰もビジネスになると思わない。けれど、あれば確かに便利、という御用聞き。それこそ、世界中のメーカーが頼りにする「結節点」になりえます。そうした結節点になることも、イノベーションの手法の一つです。

 新著『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』(実務教育出版)では、こうしたイノベーションのコツを33個紹介しています。よろしければ手にとってごらんいただければ幸いです。

筆者:篠原 信

JBpress

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