「正月の餅」と同じくらいヤバい…"高齢者の窒息死"を簡単に引き起こす「朝ごはんの定番食材」の名前
2025年3月27日(木)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki
※本稿は、高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
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■年を取ると「むせる」機能が衰える
厚生労働省の統計によると、日本で食べ物をのどに詰まらせて亡くなる人の数は、年間3500人以上。そのうち、なんと2500人以上が80歳以上とされています。
そもそも人体の構造上、食べ物を胃に通す「食道」の入り口と、呼吸のために空気を肺に通す「気道」の入り口はお隣同士。食べ物が気道に向かわない理由は、見た目や匂いから「食べ物である」と脳が認識し、舌やのどの動きで食べ物を食道に運んでくれるからです。
さらに、のどの奥にある「喉頭蓋(こうとうがい)」は、食べ物と空気を分ける役割を持っています。このように、私たちの身体は誤嚥させまいとする対策がバッチリなわけですが、それなら、なぜ人はむせるのでしょうか?
実は「むせる」のは、脳の認識不足や咀嚼が不十分なときに、気道に食べ物が侵入するのを防止する正常な反射なのです。医学的には「咳嗽(がいそう)反射」といい、人はむせることによって誤嚥を防いでいます。
ところが、高齢者は「むせ」が起こらず、食べ物をのどに詰まらせて死んでしまうことがあるのです。歳を重ねると噛む力が低下し、人によっては歯周病などで歯の本数も減ります。そのため、食べ物を小さくしにくくなり、のどに詰まりやすくなります。
また、加齢による動脈の硬化症も問題です。脳血流量の低下によって微細な脳梗塞を起こすことがあり、これは命に関わるほど重篤なものでなくても、咀嚼や飲みこみの機能を悪化させ、咳嗽反射も低下させることがわかっています。
このように、食べ物が気道に向かってしまっても、さまざまな要因で防御反応である「むせ」が起きず、食べ物が気道を塞いで窒息に至ってしまうのです。
消費者庁 ニュースリリースより
■「お餅」と同じくらい窒息しやすい食べ物
日本人がのどに詰まらせる代表的な食べ物と言えば「お餅」です。お年寄りがお餅をのどに詰まらせて……というニュースを新年早々に見かけることは珍しくありません。なんと、海外では「ニューイヤー・サイレントキラー(新年の静かなる殺し屋)」などと揶揄されています。
たしかに、お餅はモチモチしていて、咀嚼によって細かくしにくいですよね。
しかし、実はお餅と同じくらい、窒息しやすい食べ物があります。それは「パン」です。
写真=iStock.com/key05
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一見詰まらせにくいように思えますが、パンは繊維質なので、噛む力が低下した高齢者にとっては細かくしにくい食べ物になります。また、スポンジ状のため、ひとたび気道のほうに留まるとかなり危険です。水分を吸いこんで膨らみ、気道の入り口を完全に塞いで窒息させます。
高齢になればなるほど、どんな食べ物でも油断できません。ちなみに、気道に食べ物が入っていくときには、「ギュッ」という独特の飲みこむ音がします。一緒に食事をしているときに相手からこのような音が聞こえたら、口の中をすぐに確認して、呼吸が変わっていないかを確かめてください。
△このような危険を避けるには……
・詰まらせやすい食べ物は、あらかじめ細かく刻んでおく。
・周囲の人が見守っているところで食事をする。
・飲みこむときの「音」に注意する。
■「熱すぎる飲み物」を飲むと食道がんになりやすい
おばあちゃんが熱々の緑茶を持ってきて、ふーふーしながら口をつけたら「猫舌だね」なんて笑われて……。
日本によくある、ほのぼのとした光景の一つですね。ただし、おばあちゃんの愛情たっぷりとはいえ、急須から注がれた直後の熱々のお茶を飲むのは、死ぬ危険性を高めてしまいますので注意が必要です。
その理由の一つとして、熱い飲食物は「食道がん」になる危険性を高めるという研究結果が数多く報告されています。日常的に熱い飲食物を摂取していると、食道が刺激を受け、食道粘膜の細胞が変異して、がん化する可能性があるのです。特に高齢者は、熱さを感じる神経が鈍くなっているので、熱すぎるものをあまり抵抗なく飲みこむことができてしまいます。
以前、私が麻酔科医として病院に勤務していたとき、食道がんの手術を受けるご高齢の男性を担当しました。幸い手術は無事に終わり退院されたのですが、その半年後、今度はその男性の妻が、同じく食道がんとの診断を受け、手術することになったのです。
ご夫婦ですから、遺伝的要因によるものとは考えられません。詳しく話を聞いてみると、夫婦で熱いお茶を飲むのを日課にされていることがわかりました。
もちろん、一概にそれだけが原因とは言えないものの、家庭内の習慣という環境的要因による発がんとも考えられ、医師としてとても驚いたことを覚えています。
■熱い飲み物は「誤嚥性肺炎」を引き起こす
熱いお茶を飲むことのもう一つの危険性は「誤嚥性肺炎」です。
日本人の死因ランキングは長年、1位「がん」、2位「心疾患」と変動がないのですが、近年になって3位に「老衰」、4位に「脳血管疾患」、5位に「肺炎」、6位に「誤嚥性肺炎」といった病名がランクインするようになりました。
「誤嚥性肺炎」とは、飲食物や唾液などが、細菌とともに継続的に気道内へ流入した結果として起こる肺炎のこと。原因は先ほども説明したように、歯の本数の減少や咀嚼力の低下、そして微細な脳梗塞にもとづく咳嗽反射の低下が関与しています。
さらに、実は、この咳嗽反射の低下は「飲食物の温度」によっても生じやすいことがわかっています。もともと高い温度の飲料水は、身体にとって「飲みこみやすいもの」と判断されるため、誤嚥しやすいのです。そのうえ歳を重ねると、微細な脳梗塞によって、「むせ」症状が出ることなく、簡単に気道内に流入してしまいます。
本来、気道は無菌状態でなくてはなりませんが、誤嚥した飲食物は細菌などの微生物が混ざった不潔なもの。加えて高齢者は、歯周病や入れ歯などで、口腔内環境が不潔な状態に陥っている可能性も高いでしょう。そのため、熱いお茶ばかりを飲んでいると、誤嚥による気管支炎から肺炎を起こしてしまう可能性があるのです。そして、その肺炎が重篤化すれば、呼吸困難や敗血症に至って死んでしまいます。
△このような危険を避けるには……
・お茶は60度程度に冷ましてから飲む。
・こまめな歯磨き、入れ歯の手入れで口腔内をきれいに保つ。
・定期的に歯科医に通い、虫歯や歯周病のトラブルを早期に解決しておく。
■実は危ない「2日目のカレー」
高齢者にとって「食中毒」は、死の危険性が高い病気です。
食中毒は、微生物や毒物が入った飲食物を口にすることで起こります。飲食店で発生した食中毒が定期的にニュースで報じられますが、その原因は「黄色ブドウ球菌」「サルモネラ菌」「カンピロバクター」などの微生物によるものです。
なかでも、病原性大腸菌と呼ばれる「腸管出血性大腸菌」による食中毒は、腎不全を併発して死ぬこともあります。2012年から日本国内で牛レバーの生食が禁止されたのは、これが原因です。
いずれの食中毒も、不衛生な環境や調理法によって発生することが多いのですが、実は、一般家庭でも食中毒が起こる可能性があるのです。
カレーやシチューなどスープ状の煮こみ料理を作ったとき、一度では食べ切れないこともあるでしょう。その際、余った分を冷蔵庫に鍋ごと入れていませんか? そして翌日、冷蔵庫から出してそのまま温め直し、「2日目のカレー」として食べていませんか? この保存方法と再調理法は、食中毒を引き起こすことがあります。
写真=iStock.com/kazoka30
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■火にかけても死滅しない細菌が食中毒を引き起こす
再度火にかけることで消毒作用が働くと思うかもしれません。しかし、食中毒を引き起こす「ウェルシュ菌」という細菌は、火にかけても死滅しないのです。
高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
細菌の中には、増殖するのに不適切な環境になると、「芽胞」というサナギのような状態になる性質を持つものがあります。芽胞は、温度などの物理的刺激に対して耐久性が高く、増殖できる環境になるまでジッと息を潜めています。そして、いざ増殖に適した環境になると、芽胞から「発芽」してみるみる増えていくのです。
このような性質を持つ細菌の代表としては「ウェルシュ菌」のほかに、「ボツリヌス菌」や「破傷風菌」が有名です。これらに共通しているのは、酸素の存在するところでは増殖せず芽胞となり、酸素の存在しないところで増殖して人に害を及ぼすこと。そして、いずれの細菌も、増殖する際に人体に有害な毒素を遊離するのです。
■再調理の際は空気が入るようによく混ぜる
「ウェルシュ菌」は、普段は土や水の中、動物の腸の中など、自然界に幅広く生息している細菌で、特に牛や鶏、魚が持っています。たとえ芽胞状態の「ウェルシュ菌」を持った肉や魚を使っても、煮こみ料理は作る際によくかき混ぜるので、その日のうちに食べきるのであれば特に問題はありません。
ところが、余らせたものをそのまま保存すると、スープの中には酸素が存在しないので発芽して増殖し、その際に「エンテロトキシン」という毒素を遊離します。そのため、翌日に食べると食中毒を引き起こす可能性があるのです。
体調に万全な若い世代の人であっても、腹痛や嘔吐、下痢症状を引き起こします。高齢者であれば脱水症状などから致命的な結果につながることもあるので、十分な注意が必要だということを覚えておきましょう。
△このような危険を避けるには……
・肉や魚が触れた調理器具はこまめに洗浄する。
・一回で食べ切れる量だけ調理し、スープ状の料理は小分けにして保存する。
・保存したものを再調理する際は、空気が入るようによく混ぜる。
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高木 徹也(たかぎ・てつや)
法医学者、東北医科薬科大学教授
1967年東京都生まれ。杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本で一、二を争う。大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズなど、法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。著書に『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』(メディアファクトリー)などがある。
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(法医学者、東北医科薬科大学教授 高木 徹也)