「花粉の大量飛散」が景気に悪影響なワケ

3月29日(金)9時15分 プレジデント社

経済が成熟・低成長となった日本では花粉の飛散量が成長率に大きな影響を与える。※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

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「花粉の大量飛散」が日本経済に大きなダメージを与えそうだ。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは「花粉の大量飛散は1〜3月の個人消費を約5691億円も押し下げる可能性がある」という。影響があるのは、どんな業種なのか——。


経済が成熟・低成長となった日本では花粉の飛散量が成長率に大きな影響を与える。※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

■記録的猛暑で「2013年以来の大量飛散」か


昨夏は記録的な猛暑に見舞われた。特に7〜9月期の全国平均気温は平年を+1.0℃上回り、2003年以来の高温となった。この影響により、今春は花粉が大量に飛散しており、今春の花粉は6年ぶりの大量飛散の恐れとの予測もある。特に、スギ花粉の飛散は5月上旬まで続くと予想とされている。この花粉が日本経済に大きなダメージを与えそうだ。


一般的に、花粉の飛散量に関係する統計として、前年夏の平均気温や日照時間がある。昨夏の記録的猛暑の影響で、今春の花粉飛散量が2013年以来の大量飛散になる可能性も指摘されているが、実際に2018年夏の平均気温と日照時間の程度を見ると、2013年以来の高水準だったことがわかる(図表1)。


花粉症は日本人の3人に1人が患者とも言われ、今や「国民病」と呼べる存在であり、花粉の大量飛散が現実のものとなれば、経済全般にも影響を及ぼすことは避けられない。


■レジャー、小売、外食が不調になる


花粉の大量飛散は、主に以下の経路を通じて日本経済に影響を及ぼす。まず、花粉が大量に飛散すれば、花粉症患者を中心に外出が控えられ、個人消費に悪影響を及ぼすことである。具体的にはレジャーや小売、外食関連等の売れ行きが不調になると見られる。実際、前年夏の気温と年明けの家計消費支出には関係がある。1〜3月期の家計消費(前年比)と前年7〜9月期の気温(前年差)の関係を時系列で見ると、夏場の気温が前年を上回った翌春の消費はおおむね減少する関係があり、前年の猛暑は翌春の個人消費にとってマイナスであることが示唆される(図表2)。





そして、1〜3月期の家計消費水準指数の前年比と前年7〜9月期の平均気温(全国平均の前年差)の相関を品目ごとに見てみると、2000年代以降では外食を含む「食料」や、レジャー関連を含む「教養娯楽」、外出頻度が増えれば支出されやすくなる「被服及び履物」などの支出で前年夏の平均気温と強い負の相関関係が表れていることがわかる(図表3)。つまり、花粉の飛散量が増えると、「食料」や「教養娯楽」「被服及び履物」の支出が減ることが示唆される。


一方、外出頻度が減れば支出が増えやすくなる「光熱・水道」や、薬やマスク・医療費などを含む「保健医療」や空気清浄機などを含む「家具・家事用品」等の支出で正の相関関係がある。つまり、花粉の飛散量が増えると、「光熱・水道」や「保健医療」「家具・家事用品」などの支出が増えることが示唆される。


■「外出控え」の影響で、デパートの売り上げも落ちる


また、店舗形態別の売り上げとの関係を見てみると、「百貨店」では花粉の大量飛散による負の相関が観測される一方で、「スーパー」で正の相関が観測される。この背景としては、花粉症になると「百貨店」に遠出して買い物する頻度が少なくなることや、外出が控えられることで売り上げが落ちやすい「被服履物」の売り上げ割合が高いことが上げられる。一方で「スーパー」は、比較的近場にあることで買い物の頻度が高くなることや、薬やマスク等の「保健医療」関連の商品を多く扱っているためと推測される。


経済の平均成長率が4%程度あり、なおかつ花粉症患者が少なかった80年代までなら、こうした要因が個人消費に悪影響をもたらすことは想定しにくかっただろう。しかし、90年代以降になるとバブル崩壊により、経済の平均成長率が1%程度に低下する一方、花粉症患者も増加しているため、花粉の大量飛散が個人消費に悪影響を及ぼしやすくなっていると考えられる。つまり、今年の花粉の大量飛散が、日本経済に悪影響を及ぼす可能性は否定できないだろう。


なお、過去の経験によれば、花粉の飛散量で業績が大きく左右される代表的な業界としては、製薬関連やドラッグストア関連がある。また、カーテンやメガネ関連のほか、乳酸菌食品関連等も過去の花粉大量飛散時には売り上げが大きく伸びている。



■昨夏の猛暑により1〜3月期の家計消費は平年比で▲1.0%減少


では、昨年の猛暑による花粉の大量飛散によって、日本経済全体にはどの程度の影響が生じるだろうか。そこで、気象庁の気象データと内閣府の「国民経済計算」を用いて、過去のデータから前年7〜9月の平均気温と1〜3月の個人消費の関係式を作成し試算を行ってみた。すると、1996年からのデータで見れば、前年7−9月の平均気温が1℃上昇すると、翌1−3月の実質家計消費支出が▲0.9%押し下げられる関係があることがわかる。



したがって、昨年夏の平均気温が「平年」より1.0℃上昇したので、今年1〜3月の実質家計消費は平年に比べ▲0.9%×1.0℃=▲1.0%程度、金額にして▲5691億円も押し下げられる可能性があることがわかった。


ただし、個人消費が減れば輸入も減ることから、GDP全体では個人消費の落ち込みほどは減らないが、それでも同時期の実質GDPは同▲0.3%(▲3464億円)程度押し下げる計算になる。


なお、「前年比」での影響を見れば、昨年夏の平均気温が前年より+0.4℃しか上昇していないため、今年1〜3月期の実質家計消費は前年比で▲0.9%×0.4℃=▲0.3%(▲1930億円)程度、実質GDPの押し下げが同▲0.1%(▲1175億円)程度にとどまる計算になる。


■大量飛散と値上げラッシュのダブルパンチ


データ数が十分でないため、推計結果は幅を持ってみる必要があろう。しかし、花粉の大量飛散はわれわれの身体だけでなく、日本経済にもダメージを与える可能性があるといえよう。また、今春の花粉大量飛散により新規の花粉症患者が増加すれば、悪影響がさらに拡大する可能性もある。


以上を勘案すれば、花粉の飛散動向次第では、景気後退の瀬戸際といわれている日本経済に、花粉の大量飛散が思わぬダメージを与える可能性も否定できない。特に足元の消費動向については、値上げラッシュ等による消費者心理の悪化等マイナスの材料が目立っている。したがって、今後の個人消費の動向を見通す上では、花粉の大量飛散といった思わぬリスク要因が潜んでいることには注意が必要だろう。


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永濱 利廣(ながはま・としひろ)

第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

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(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣 写真=iStock.com)

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